75 / 112
第2章
25
しおりを挟むお茶会の日が来てしまった。
「ウィスタリア様、とてもお似合いです」
「ありがとう」
女官長が、それ相応のものを用意してくれた。
(あの女が、王太子殿下と婚約した後に着ていたものも良いものだった。婚約したばかりなのにこれ見よがしに着ていたっけ)
それをあの女は、わざとウィスタリアに見せていたのだ。そのわざとに気づくまでは、あの女のことを本当に親友だと思っていた。
だからこそ、婚約したことをお祝いした。でも、王太子の顔を見ることはできなかった。だから、勘違いしたままだった。ちゃんと見ていたら、こんな風にこじれなかったのに。
そんなことを思い出してしまうようなものだった。
「あの、ウィスタリア様?」
「少し緊張してしまっているようです」
女官長は、震えるウィスタリアの手を見て、そんなに緊張することはないと言ってくれた。
(よく言うわ。代わってって言ったら、全力で拒否するくせに)
それ相応の格好をしたウィスタリアは、ちょっとした腹いせに女官長に色々言ってやった。
そこから、感情を消し去ってジュニパーのところにやって来た。
(凄くいいところね。まだ、どちらが本物か決まっていないのに。これは、格差がありすぎてるわね。女官たちが、決めつけていたのは、このせいもあるみたいね)
そんなことを思ってしまうようなところにもう1人の天姫は、当たり前のようにいた。
でも、その見た目が知っているジュニパーという名前のあの女にそっくりなことにウィスタリアは、頬が引きつりそうになってしまうのを隠すのに苦労させられるとは思いもしなかった。
(神様。どうしてですか? どうして、一番会いたくない顔を再び見ることになるのですか? 私が、何をしたというのですか?)
思わず、心の中でそう神に問いかけずにはいられなかった。
だが、相手はウィスタリアの心情などわかってくれるわけがなかった。向こうは、ウィスタリアに見覚えがないようだ。とても良く似て見えるが、ただの他人の空似なのだろう。
「初めまして、ジュニパーです。こうして、お会いできる日を心待ちにしておりました」
「ウィスタリアと申します。お招きありがとうございます」
ジュニパーがお茶に招いてくれて、ウィスタリアは出向くことになったのだが、顔を合わせた瞬間から帰りたくなってしまった。早く帰らなければ、この顔を見ているだけで、血迷ったことをしでかしそうだった。
(落ち着かなきゃ。元婚約者が自分が何をやらかしたかもわからないまま、命を狙われながらも交渉もした。腹の探り合いもした。どんなに憎い相手と同じ顔をしていようとも、たとえ本人だろうとも、この相手にも、ここにいる人たちにも気取られたら負けよ。そんなの絶対にしたくない。私は、ウィスタリア。ただのウィスタリア。もう、子爵家の令嬢でも何でもないし、目の前の彼女も私が知ってる伯爵令嬢じゃない。しっかりしなきゃ)
ここで勝ち負けに拘るのは変だが、それでもウィスタリアは二度と目の前の女とかつて負けることになった女とが重なって見えて仕方がなかった。
今度こそ負けたくないと心のどこかでウィスタリアは思ってしまって仕方がなかった。
26
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる