初恋の人への想いが断ち切れず、溺愛していた妹に無邪気な殺意を向けられ、ようやく夢見た幸せに気づきましたが、手遅れだったのでしょうか?

珠宮さくら

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第3章

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ウィスタリア・レルヒェンフェルトは、今度こそ死んだと思っていた。己でナイフを突き立てたのだ。無事でいられるはずがない。

そうしたことを前回のように後悔することは決してなかった。死んで地獄に逝くことになっても悔いはなかった。

ただ、妹にそっくりな彼女が生き返って、心優しい人たちが幸せになってくれることだけが望みだった。

だから、自分の行き先がどこになろうとも良かった。何なら、100%地獄だと思っていたのにそうはならなかったことに驚いた。気づいたら、元いた世界に戻っていたのだ。ただ、戻っていたというのも少し違うかも知れないが。

侯爵家のウィスタリアとしてではなくて、全く別の女性となって、そこに存在していた。

そこでは、ウィスタリアという侯爵家の令嬢は体面を保つために事故で亡くなったとされていた。そこから、それなりに月日が過ぎていたようだ。どのくらいの月日が経っているかは、正確にはわからなかった。ただ、そこに何事もなく気づいた時には存在していた。

周りも、当たり前のようにそこにいることを認めてくれていたというか。奇妙だと思うことはなかった。


(変な気分だわ。私は、ううん。ウィスタリアが死んだ後の世界で、全くの別人として、中身だけがウィスタリアのまま、身体を借りて存在しているなんて……。まぁ、死んだ人間が生きてるわけないのよね。いや、そもそも、私みたいに記憶があるまま、うろちょろしている事自体、変なのよね。……どうしてまたここにこんな形で戻って来てしまったんだろ??)


そんなことを思って考えたところで、消えてなくなるわけでもなく、生活しなければ貴族でもないのだ。生活できない。

いや、貧乏貴族だったら、働かなきゃいけないだろうが、ウィスタリアはそこまで働かねば生きていけない貴族を知らなかった。

リーリエ・アルノルトという名前となった自分には、頼れる両親も親戚もいない。それは、この身体で目が覚めてからわかってしまった。

リーリエはとりあえずあれこれ悩むよりも、生きるために働くしかなかった。


(この身体の本来の持ち主は、生き方がわからなかったみたいね)


数ヶ月、必死に働いて何とか1人でも大丈夫になった。

元々のリーリエは、田舎で両親が亡くなり、あてにして上京して来たのにその親戚も亡くなっていたことで、途方に暮れていた。

もう死ぬしかないと思っていた。ここまでくれば何とかなる。その一心で来たのだ。それが、頼れる人がいないことで、道標を失ってしまい、ただですら絶望しているギリギリとなっていた彼女には耐えられなかったようだ。

そこにウィスタリアの意識がリーリエの身体を乗っ取ってしまったようになってしまったのが、真相のようだ。

全部ではないが、以前のこの身体の本当の持ち主の記憶が残っていて、涙なくしては語れないような壮絶な人生を歩んでいた。

あまりにも壮絶で、絶望という言葉をたくさん使いたくなるほどだった。


(若くして苦労して来たのよね。でも、上京したら、親戚がどうにかしてくれると思って期待し過ぎていたのも大きかった。だから、そこで一気に無理していたのもあって、絶望に飲み込まれてしまった。余裕がある時なら、よかったのに。そうしたら、こんな風にならなかったのに)


そうなっていれば、リーリエとはなれなかったが、ウィスタリアはそう思わずにはいられなかった。幸せになってほしかった。

ウィスタリアの時に出会っていたら、迷わず手を貸していた。そんな女の子だった。ずっとずっと頑張ってきた。頑張ってきたのに報われることがないまま、終わってしまったのだ。それが、辛くて仕方がなかった。


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