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第3章
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しおりを挟むリーリエの親が、そこに以前仕えていたとしても、世代交代していたら、面倒見てやるなんて口約束と手紙だけでは雇うなんてことをしてくれない。ウィスタリアからしたら無理もないことだ。
ウィスタリアには、そちらもよくわかった。そんなのを面倒みていたら、やっていけなくなる。だから、線引きが必要になるのだ。
でも、リーリエには両親が言っていたのを信じて上京してきた。今更、戻ってもどうしようもないと思っているようなギリギリなものがあったのだ。
彼女からしたら貴族が情け容赦ない存在に見えてしまったことも、ウィスタリアはわかった。可哀想なんて言葉を使うのは、失礼だろう。運がなかったなんて言葉で終わらせるのも失礼すぎる。
そんな状況で、身体を乗っ取るような形になったウィスタリアではなくて、リーリエはしらみつぶしではなくて、働き手を探しているところに声をかけて回った。
それでも、田舎から出て来たばかりの世間しらずを雇ってくれるところは中々なかった。中身が変わっても、身なりからバレバレだったのだ。
へとへとになって、これまで感じたことのない空腹感に路地裏で丸まってやり過ごしていたら、声をかけられた。
「あんた、大丈夫? 具合でも悪いのかい?」
「いえ、あの……」
するとリーリエのお腹が盛大に鳴った。とても正直だ。リーリエは言葉を話すことすらままならなくなって頭がぼんやりしていた。
そこまでの空腹なんて初めてすぎた。お腹が鳴っても恥ずかしいと思う余裕すらなかった。
(あれは、今思い返すと物凄く恥ずかいけど、あの時は、まだ生きているって思ったのよね)
リーリエとなるまで、お腹があんな風に鳴ったことは、それまで一度もなかった。お腹が空きすぎて、動けなくなったことも初めてだった。
働きすぎて頭がクラクラしたことはあったが、食べるのを忘れて没頭しても、水で何食も食いつなぐなんてことはしたことがなかった。
それでも、お腹が鳴るのを聞いて、リーリエはまだ生きていると思えて、そんなことを考えている自分が面白くもあった。
「お腹空いてるなら、店に賄いあるからおいで」
「え……?」
そんな風に声をかけられ、立ち上がるのもままならないリーリエに手を貸してくれた。支えてくれながら、軽くなりすぎた身体に何日食べていないのかなんて聞くことはなかった。
もうちょっとだからと歩くのを励ましてくれた。それこそ、置いて戻って来たら息をしていないんじゃないかと必死になってくれているのすら感じていた。
やっとの思いでたどり着いた店で、賄いだから大したものじゃないと出された料理は、胃に優しいものだった。それが、物凄く美味しかった。
その美味しさに涙した。あまりに泣きながら食べたせいで、何があったのかを聞かれて、リーリエは全部を話していた。
それこそ、ウィスタリアの記憶ではないのに。あの時には、私の記憶のように溢れ出ていた。
それを黙って聞いていてくれたのだ。
「そうかい。そりゃ、大変だったね。うちでよければ、働かないかい? 大した給料は出せないけど、賄いはあるし、住むところが見つかるまで、あたしらのとこで一緒に住めばいい」
「え? でも……」
その女性は息子夫妻と暮らしていたが、他に雇われて、仕事先に近いところに引っ越してしまったようだ。
息子だけが、単身でそっちに行くと浮気が心配でならないからと嫁と孫娘が見張る必要があるとなり、この人もそれに頷いたらしい。
お腹がいっぱいになって、そんな話を聞いて頭が働いていた。
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