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しおりを挟むアデラインが、人間不信になりかけていたところに声をかけて来た令嬢がいた。
「アデライン様。これ、休んで居られた間のものです」
「……」
なんだろうとアデラインは、ノートを手にとった。それは休んでいる間の授業のものだった。
何冊もあったのは、アデラインが受けていた授業分を書いてくれていたようだ。それに驚いていた。
「みんなで、写したんです。その、アデライン様には必要ないかも、しれませんが」
「その、写させてもらったんですが、私たちが受けていないのもあって、間違えてるのもあるかも……」
勉強がわからなくて先生たちからも、付き合いきれないと放置されていた令嬢たちが、そこにいた。
そんな彼女たちに勉強でわからないところを根気強く教えていたのは、アデラインだけだった。
「……ありがとう。とても、嬉しいわ」
「「「「っ、」」」」
アデラインは、この学園で人一倍、授業を選択していた。だから、写すのも大変だったはずだ。
人間不信になりかけていたアデラインは、そのノートがまばゆく見えた。以前のアデラインならば、受け取る資格があっただろうが、今のアデラインにはなくなってしまった気がして、まばゆく見えるノートが自分が触れただけでどす黒くなる気がしてならなかった。
こんなに思いのこもったことをされる資格は、もうアデラインにはないと思う自分がいて、仮面の下で複雑な顔をしていたが、誰も気づくことはなかった。
「あー、アデライン嬢。その、わからないところあったら、聞いてくれ」
「……」
すると子息が遠慮がちに声をかけて来た。
私は、写すのを手伝えるほど、その字があまり上手くないんだ。貸して写してもらっていたが……、間違えていたなら、私の字がまずかったと思う。授業はちゃんと聞いていたから、聞かれても答えられる……と思う」
「ありがとう。……この授業、教科書にない雑談をするでしょ? 何か面白い話をしていなかった?」
「あぁ、そうだな。私も、あの先生の雑談が好きで選択してるんだ」
そう言って、子息は嬉しそうにした。彼は本当によく覚えていた。選択していない令嬢たちも、その話を面白がっていたくらいだ。
「あの先生、そんな話をなさるんですね」
「そうなんだ。授業も、わからないところがあれば、わかるまで教えてくれる」
「まぁ、怖い顔をなさっているから、授業も怖い感じかと思っていたけど、何だか面白そう」
そんな話をして、盛り上がっていた。その和やかさにアデラインは、仮面の下で久しぶりに微笑んでいた。
「……私は、授業にはついていけそうもないから選択しても落第してしまうだけだわ。ただですら、他の授業の勉強もしないと置いていかれてしまうくらいだし」
その中でも、勉強についていけそうもないと落ち込む令嬢に話をしていた子息が……。
「なら、雑談の話だけ教えようか?」
「え? いいんですか!?」
何やらいい雰囲気になっていて、アデラインはそれを他の令嬢たちのように目を輝かせて見ていられなかった。
前なら、にこにこと微笑ましそうに見ていられたが、今のアデラインは仮面の下で複雑な気分になってしまっている。いい出会いだ。
この学園では、姿形で判断する者が多すぎる。それも偏っていて、女性陣が特に酷かった。それで、婚約を破棄したり、解消したりしているのだが、それらをみんなアデラインが誘惑したせいだと思っているのだ。
そして、簡単に騙されて心変わりした子息のことも恨んでいる者も多くいた。だから、アデラインの顔が醜くなったことを喜ぶ者は多くいても、こんな風に心配してくれる人はそんなにいないと思っていた。
授業に出れないアデラインのことを思ってノートに写してくれたものを貰っても、アデラインの中で燃え上がった復讐の火が鎮火することはなかった。
その頃には、あまりにも淡々といつも通りに生活しているように周りには見えていた。仮面を付けているから、以前より隠すのが容易になったのも大きかった。
そのため、父も執事や使用人や医者もアデラインは顔の怪我をしていないことを知っているものと思っていた。
とっくに父親から何があったのかを話されていて、どうなるかを傍観しているものとマルティネス公爵家の執事たちは思っていた。
あまりにもアデラインが普通にいつも通りにしていたからだ。
だけど、そんなことはなかった。父親も、知っていて仮面で隠しているのは、妹たちがどうするか。自分と同じく観察していると思い込んでいた。
でも、アデラインはそもそも己の顔を見る勇気をどうしても持てずにいた。それこそ、もう元には戻らないと父や医者に言われたことが耳に残ってしまっていて、確認をわざわざすることをしなかった。
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