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しおりを挟むアデラインは、顔に薬品をかぶった感覚を覚えていた。忘れたくてもできなかった。
今もその時の夢を見て、飛び起きる程にトラウマになっている。
だから、己の顔が何ともないとはとても思えなかった。それが、安全なものに変えられているなんて、思えなかったこともあり、感覚からして見るに堪えない顔になっていることを楽観視できなかった。
いつもなら、己の目で見たものしか信じないアデラインだが、一番大事な確認を怠るようなことはなかったのだが、それだけ見たくなかったのだ。見たら、今すぐにでも、王太子と妹と自分のことしか考えていない母と暴走するのを止められなかった無能な父に何をするかがわからなかったからもあった。
そもそも、父が妹がそんなことを画策していることに気づくとは思っていなかったのだ。この調子の父だ。頼りにならないのだ。これで、マルティネス公爵家の当主なのだから、この家に相応しい人物を養子にして跡継ぎにすることは、前から決まっていたがこの両親を養父母にするのに難色を示す者は多くいた。
それでも、養子になるのに乗り気な者はアデラインがいるからと言う者だけだったが、それがディアドラが王太子と婚約したことで、再び考えさせてほしいと言い始めているようだ。
マルティネス公爵家の今後は前途多難だが、この家の将来のことなんてアデラインは、どうでもよくなっていた。
アデラインが、妹のやろうとしていた残酷なことに気づくことができなかったのど。何気に抜けている父が、気づけるはずがない。そんなことができるわけがない。できていたら、こんなことをしておいて、話さないのかと思うところだ。
その辺が、おっちょこちょいというか。仕事がこんなんでちゃんとできるとは思えないようやヘマをするのが、父だったことをすっかりアデラインは失念していた。そんなヘマをどれだけアデラインがフォローしていたかをすっかり忘れていた。
更にディアドラにあんなことができるとも思っていなかった。王太子が入れ知恵したにしても、無理があるとも思ってもいた。王太子は、顔と自分より使えても面倒なことを押し付けてやってくれる令嬢と婚約したかったはずだ。それをせずにディアドラを選ぶ理由なんて、アデラインは思いつかなかった。
黒幕がいるに決まっている。その相手が、誰なのかをアデラインは密かに探っていた。全員に復讐する気で色々と算段しながら、何でもないようにいつも通りの生活を送っていた。
そんな中で、父が……。
「アデライン。何か変わったことはあったか?」
「いえ、特には」
「そうか」
「……」
そんなことを聞かれたのは、初めてではなかった。アデラインは、それに首を傾げたくなった。
変わったことにアデラインは、どれのことなのかがわからなかった。
父が残念なのを知っていたはずなのに。復讐する相手の1人として見ていたせいでフォローをするのも前までは、どうということもなく自然とできていたことも、復讐相手をフォローするのに複雑なものを感じているせいで、すっかりアデラインの目は曇ってしまっていたようだ。
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