見た目だけしか取り柄のない残念な犬好きの幼なじみと仲違いしたので、私は猫好き仲間との恋に邁進します

珠宮さくら

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ちなみに一希の母親は、見頃なものを見た次の日は、花粉症の症状が酷いことから外には出たくないと一希に言ったようだ。それこそ、朝から散々なまでに調子が悪いと息子に愚痴りまくっていたらしく、一希が朝の散歩をしたようだ。

その話を千沙都は一希にされていた。幼なじみが散歩したと言っていても、愛犬と一緒にいたかは定かではないが、それよりも息子に代わってもらっておきながら、幼なじみの母親は喫茶店でランチがしたくなって出かけることにしたようだ。

それを聞いたら、は?と思うところだろう。千沙都も、一番最初の時から、今回も同じことを思った。

本人が花粉症より、食べたい物を優先したのなら、花粉症の酷さは本人の自己責任でしかないが、それでも色々と言うのが幼なじみの母親だ。

そんな幼なじみの母親に千沙都は、お互いが夕食の買い出しをして帰るところで、ばったりと遭遇することになったのだ。それは、本当に偶然だった。そんな偶然なくてもいいのだが、千沙都はこういう偶然がよくあった。


(あれ? 何で、出かけてるの?? 家にいるんじゃないの?)


まず、一希の母親を見て、千沙都はそんなことを思ってしまった。花粉症うんねんの話が頭に残っていたから、ここで会うはずがないと思ってしまった。色々とまともなことを考えてしまったが、そういうことをしない人だというのに千沙都も、毎回無駄なことを考えてしまっている。

千沙都から話しかけられたわけではない。一希の母親の方が話しかけて来たのだ。気づかないふりでもしていればいいものを気さくに向こうから声をかけられてしまったのだ。それを千沙都が無視できるわけがない。


「千沙都ちゃんじゃない。奇遇ね」
「こんにちは」
「こんにちは。今帰り? 偉いわね。買い物して帰るなんて。一希に頼んでも、いっつも忘れて帰って来るのよね」
「……」


(それは、親に似たのでは?)



そんなことを内心で思ったが、言葉にしないで愛想笑いを浮かべておいた。それ以外にどんな顔をすればいいというのだ。さっさとその場を立ち去りたかったが、おばさんはそんな千沙都の態度などお構いなしに話を始めたのだ。


(ここから、世間話するんだ。……そうだよね。そういう人だった)


どうやら、ランチの話をしたかったようだが、千沙都の頭の中は混乱したままだった。それでも、会話はできていた。一希に毎日のようにその辺を鍛えられているせいか。こういう場面で、当たり障りないことを話せるようになっていた。変な鍛えられ方をしてしまったものだ。


「あー、あそこのランチ、美味しいですもんね」
「物凄く食べたくなって行ったんだけど、全然味がわからなかったのよね」
「……」


千沙都は、その言葉を聞いて頬が引きつりそうになってしまいながら、こんなことを思ってしまった。


(えっと、なら何で行ったりしたの? そもそも、家で大人しくしたいって言って朝の散歩を代わってもらったって猿渡は言ってたのに。何で、普通に出かけてるのよ。花粉症対策は?)


だが、幼なじみの母親に深く突っ込むことはしなかった。したところで、会話が成り立つ気がしないのもあった。知りたくもなかったとも言う。本当に毎回知りたくないことをベラベラと話して聞かせてくれるからまいってしまう。

これ以上、長話をすることにならないようにしようと千沙都は適当に相槌を打つことにした。これも、毎回のことだ。


(学校帰りのお腹空いてる時に会いたくなかったな。こういう時にお腹が鳴ったら、帰れるかも知れないけど、こういう時に限ってお腹なんて鳴らないものよね)


そんな空気を一希の母親は読んではくれなかった。くれたこともなかったが。


「オムライスが無性に食べたくなって行ったんだけど、日替りメニューが気になっちゃって、ついそっちを食べちゃったのが、悪かったのよね。オムライスを食べそこねたから、夕食にオムライスにすることにしたのよ」
「……」


一希の母親の言い分に千沙都の表情は、愛想笑いのままとなって固まっていた。頬は引きつってはいなかったはずだ。もはや、何言ってるんだと目は物語っていたはずだが、そんなことに気づくような人ではない。


「そうなんですね」


(うちもオムライスだと言うのはやめておこう。どうせ、長くなる方向にしかならないし。猿渡の家の夕食事情より、我が家の夕食が私が帰らないと作れないんですけど)


その日、卵の特売日だったこともあり、千沙都の家ではオムライスでもしようと決められていた。

これで、千沙都が卵を買いそびれたり、売り切れて買えなかったら、夕飯は別のものになっていたことだろう。

だが、千沙都が同じタイミングで幼なじみの母親と会計を終えていたことから、肝心の卵を買ってはいないなんてことには気づいていなかった。千沙都が卵を購入しようとした時にまだたくさんあったこともあり、マイバッグの中まで覗くことをしなかったことで、幼なじみの夕食がオムライスではなくなるとは思ってもいなかった。


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