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しおりを挟むあれから、あの家の物など嫌なことを思い出すことになりそうで、遠い親戚の養子になってから一切合切を新調することになったユルシュルは、前までとは打って変わって、いきいきと暮らしていた。
養父母たちが、実の両親やベアトリスと全然違っていたのだ。それに隣国の人たちも違っていた。清々しい気分になった。変なのはユルシュルだと思うようなことはすっかりなくなっていた。
それはそうだ。ベアトリスのことで謝りに回ることもなく、両親に妹の邪魔をする意地悪い姉と思われることもなく、王太子にからかわれることもなく、王女や王妃、側妃と利用されることは、ここではない。
誰も、ベアトリスのやることなすことを咎めず、そのままにしている危うさなんて気にもしなくていいのだ。
もう、ユルシュルのことをわかってくれない血の繋がった家族なんて必要ない。
遠い親戚は、隣国に住んでいて両親や妹は、それだけ離せば邪魔できないと思ったようだ。それがわかって、むしろユルシュルの方がありがたいと思ってしまった。
どこを見てもユルシュルのことをあのベアトリスの姉とは見なさないのだ。それが良かった。
暴露されたことで、どちらかが不誠実なことをしていることが、婚約者と周りにバレることになるのだ。そんなことをする令嬢の姉。
あんな風にしてくれたことで、とんでもないのと婚約し続けて果ては結婚しなくてよくなったと思う面々に感謝され、妹に礼を代わりに言ってくれと言われることもない。
それによって、ユルシュルは本来の彼女らしく優秀で、心から笑えなくなっていた反動もあって、何をしても楽しそうで、幸せそうにしていた。
「あの令嬢は?」
「あぁ、最近、この国のアルベール侯爵家の養子になられた方です」
「……」
「婚約者は、まだいないようで子息たちが狙ってるんですよ」
狙っていると聞いて、眉を顰めたのを聞かれた方が面白そうに見ていたが、彼はユルシュルの幸せそうに笑う姿に見惚れていた。
ユルシュルの笑顔を見ていたとある人物が、婚約してほしいと言い出したのは、ユルシュルが養子となって、数ヶ月後のことだった。
相手は、この国の王太子だった。幼なじみのマクシミリアンとは全然違っていた。彼は自分の生誕祭のパーティーで、大勢の前で熱烈に愛の告白をして、婚約者になってほしいと真っ直ぐな目を見てユルシュルと言ったのだ。それは、令嬢なら誰しも憧れるものだった。でも、いざ言われるとユルシュルは、たじろいでしまった。
マクシミリアンはからかっていただけで、本気ではなかったのは明らかだった。あの日以降、正式に求婚されることはなかったし、きちんと告白すらされなかったのだ。
だが、今目の前にいる王太子からはひしひしと感じる。ユルシュルのことを妻にしたいのだとその目だけでも物語っていた。
すると跪いている王太子が、切なそうな声を発した。
「ユルシュル。私が、嫌いか?」
「いえ、ですが、その、私でよいのでしょうか? 他に相応しい方がいるのではないかと……」
「それをユルシュルが決めるのか?」
「っ、」
「私は、私に相応しいかで選んでいるのではない。私の隣に居てほしいと思える女性が君しかいないから、こうして結婚してほしいと言っているだけだ。だが、君が私が君に相応しくないと思うなら、断ってくれ」
「そんな! あなたが相応しくないなんてありえません!」
「なら、婚約者になってくれるか?」
「はい」
王太子は心からホッとして、ユルシュルの指に誓いの指輪を付けて立ち上がると会場に集まっていた者たちが歓声をあげた。
「っ、」
そこで、ユルシュルはようやくここがどこだったかを思い出したようで恥ずかしそうにしていたが、王太子が喜びを爆発させるような顔をしていて、ユルシュルもつられて笑顔になった。
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