歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜

珠宮さくら

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『隠された皇女』

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皇城の外からは、リーシーを呼ぶ声がし始めた。リーシーが、ここに来たとわかって集まってきたようだ。

中には、皇女様と呼ぶ声もし始めていた。


「私が、私たちが幸せになることを望んでくれる?」
「もちろんだ!」


ハオランの言葉に兄と父親が頷いた。そこにジュンユーもいた。


「当たり前だ。あなたは、もう1人の私の大事な妹皇女だ」
「「「「「「っ!?」」」」」」


皇太子の言葉にみんなが驚いた。

リーシーは、それにあまり興味ない顔をしていた。


「な、何を言うんだ!」
「皇太子殿下。それは、本当なのですか?」
「本当だ。調べた。ジンリー側妃が産んだ。同じ日に生まれた双子のような皇女だ。そして、我々が待ち望んだ皇女は、彼女だ」


それに息をのんだ。そこにジンリーが夫と共にやって来た。ジンリーを片腕に抱いて現れた姿は、凄い絵面だった。

何人かは、ジンリーが誰だかわかった。やはり、リーシーは似ていると思っただけはあると内心で思っていた。

ただ皇帝は、名前も、顔を見てもわからなかった。
 

リーシーは、母を見て義父を見て、微笑んでいた。


「皇太子のおっしゃる皇女のお1人に間違いありません。なれど、訂正をお願いいたします。どちらも、待ち望んだ皇女様にございます」
「……」
「少なくとも私は、どちらの皇女様の幸せを願っております。だからこそ、あなたを後宮から連れ出した。争わせまいとしたからです。どちらかが、滅ぼした者として、あの歴史の改ざんによって命を落とすことにならないようにしたかっただけです。ですが、そのせいで、後宮に残ることになった皇女様が、このようなことになったのは、私のせいです。申し訳ございません」
「俺も、妻と同じく、皇女殿下、お2人の幸せを望んでおります。妻を罰するなら、私にも罰を」
「……あなたたちを罰することなどできません。私を守るために隠した。それに嘘はない。2人のおかげで、私はとても幸せでした」
「っ、もったいなきお言葉」


2人は膝をついて最敬礼をした。


「あなたの思うままになさってください」
「……」
「それで、お2人が幸せになれるのなら、それが私の幸せです」
「同じく、あなた方の幸せを願います。どうか、なさりたいようになさってください」


ジンリーと夫は、そう言った。


「……それで、この国が滅んでも良いと?」
「この国をあなた方は守り続けて来られた。誤解されようとも、それをやめようとはなさらない。私は、それで生き延びたいとは思いません。何より、皇女様たちの重荷になるのなら、ここで死にます」
「っ、!」
「ジンリー」
「申し訳ございません。ですが、本心です」


ハオランやその兄、それに皇太子やジュンユー、そこにいる多くの者たちがリーシーとディェリンに向かって最敬礼をして、思う通りにしていいと口を揃えた。

悔しそうに立ち尽くしていたのは、皇帝と護衛長のもう1人の子息だけだった。そんな皇帝たちに目もくれず、リーシーは花影の側に近づいた。


「あなたは、彼女の幸せを望んでくれる?」


花影は、ディェリンを抱きしめながら頷いた。力が抜けきって顔色の悪いディェリンは、それでも花影の服を離すまいとしていた。


「私との約束を守ろうとして、この国を守るためにも自分のことを閉じ込めてしまった。代わり映えのしない世界で、生き続けることになっても、彼女の側にいてくれる?」
「彼女の側にいられるのなら、何でもします。どうか、彼女を助けてください。彼女は、ずっと認められようと頑張っておられました。誰よりも、みんなの期待に応えようとして、求められる皇女となろうとしていた。でも、本来の彼女は……」


そこまで言って花影は涙した。


「……ありがとう。あなただけよ。あなたへの想いに溢れている。ずっと側にいてほしいのにそれを断ち切ってまで、約束を守ろうとしてくれた。歴史から消された皇女となっても、この国を守ることをやめれば、私に負担がかかり過ぎてしまう。……あなただけ、ずっと幸せを願ってくれていた。心から礼を言います」


そう言ってリーシーは、花影に最敬礼をした。


「お母様、お義父様。今までありがとうございました。私も、彼女と同じものを選びます。ここまでして、守ろうとする国を滅ぼせない。それに彼女を見捨てられない。彼女の幸せを終わらせられない。……ごめんなさい。あなたたちに選ばれる者になれそうもない」


そう言ったリーシーは、最後にハオランとその兄を見て微笑んで目を閉じるとそのまま倒れた。

それは、すなわち自分の幸せよりも、ディェリンたちの幸せのためとこの国を守るために命を使うこと。リーシーが選んだ瞬間だった。


「「っ!?」」


ハオランとその兄は、すぐさま駆け寄ったが、リーシーの意識は既になかった。

その後ろで、ディェリンを抱えていた花影も倒れていた。

リーシーは、そのまま眠り続け、ディェリンと花影は眠るように息を引き取った。

こうして、ディェリンはお気に入りの花影と共に居続ける世界に囚われることになった。

それでも、ディェリンは、ずっとそこにいることを望むことはなかった。

それをしたら、リーシーの負担になることを知っていたからだ。だから、ずっと一緒にいることは望まなかった。

生まれ変わっても、お互いすれ違い続けて話すことも、現実世界ではできなかったが、何もかもを思い出した2人は束の間、はるか昔から変わることのない仲の良い姉妹のような関係を崩すことはなかった。

前世のディェリンも滅ぼしたくて、滅ぼそうとしたのではない。優しすぎてみんなの期待する皇女になろうとして、なれないことに失望されて悲しみのあまり暴走してしまい、守りの手がおろそかになってしまっただけなのだ。

それを前世のリーシーが、そんな彼女を救おうとして国をも救った姿を人々が誤解してしまっただけなのだ。

そもそも、ディェリンを1人で逝かせたくなかったのと彼女のせいで、国が滅んだと言われるのが嫌だったからにほかならない。

つまり、1人が犠牲になったのではない。2人が、犠牲になっているのだ。

それを最初から解釈違いで片方に思い入れのある者から見たせいで、歪んでしまったのは、2人の母親が物凄く仲が悪かったからだ。

歴史の登場人物の片方を消す、消さない以前の問題が、そこにあったことを誰も知らなかったのだ。

歴史を歪めて見ていたことと生まれ変わって、幸せになってほしいと言いながら、いざとなったらどうにかしてもらおうとしている面々が多かった。

そんな思惑に翻弄されることになった2人の皇女は、今回は片方が本当に想いを通わせる者と巡り会えたこともあり、それをリーシーがどうにかして叶えるためにその命を使うことにした。

でも、ディェリンたちにとっては幸せな終わりを迎えたことを知らない者が多いせいで、再び現実世界では後味の悪いものとなっていた。


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