歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜

珠宮さくら

文字の大きさ
47 / 50
『隠された皇女』

23

しおりを挟む

「退屈そうですね」
「え?」


それは、何の前触れもなかった。ハオランが、リーシーの眠る部屋の前で護衛をしていた。

まだ、婚約者ではないのだ。恋仲でもないのだ。護衛をすることしかできなかった。

そのため、突然、懐かしいと思う声の方を見ると……。


「リーシー……?」
「おはようございます。いい天気ですね」
「っ、」


まるで、いつもと同じ朝を迎えたかのように極々普通にハオランに微笑んで挨拶したが、リーシーがそこに立っていた。

それを見て、泣きそうになりながら、抱きしめたくなったが、ハオランはぐっと堪えた。


「っ、おはようございます。皇女殿下」
「皇女じゃありませんよ。私は、リーシー」
「ですが」
「ただのリーシー。もう、力なんてないから、天変地異が起こっても、何もできません」
「……」
「なので、母さんたちのところに帰ります」
「え?」


リーシーは、さも当たり前のように言った。街で料理屋を手伝っていた頃の彼女がそこにいた。


「あ、その前にうっかりさんに挨拶して戻らなきゃ。……この場合、皇帝陛下に会いに行ってもいいんですかね?」
「え、いや、その前に侍医に見て頂く方が……」
「リーシー!」


そこにハオランの兄が、様子を見に来ようとしているところだった。


「わっ、」
「兄上!」


ハオランが、堪えたことを兄は容易くした。それをリーシーは受け入れたのだ。

何をしたかといえば、リーシーを抱きしめたのだ。しかも、皇女の名前を呼び捨てにして。


「よかった。どこも、何ともないのか?」
「はい。この通り、寝すぎただけです。ふふっ、体力付きましたね。もう、息切れしてないじゃないですか」
「あぁ、ここに通い詰めていたからな」
「そうですか」
「心配して気が変になりそうだった」
「……」


リーシーは、それを聞いて黙っていたが、次の言葉に驚いたのは、リーシーだけではなかった。


「あの2人は、幸せになれたんだな?」
「っ、はい。なれたからと先に逝きました。私は、後から逝くのに戻って来ました」
「そうか。2人の墓は、隣り合わせに建てられてる。後で一緒に行こう」


それにリーシーは、たまらず泣き出した。


「よく、戻って来てくれた」
「っ、」


この兄は、ディェリンと逝きたかった気持ちが痛いほどわかっていた。

それを見て、ハオランは兄には叶わないと思ってしまった。そのせいで、歩き出した2人に置いて行かれていた。


「おい、ハオラン。何してるんだ。置いてくぞ」
「……いや、俺がいても邪魔だろ」


兄に何を言ってるんだとばかりの顔をした。もう、見せつけられるのは勘弁だとハオランは思っていた。

その横のリーシーは、泣き腫らした目をして、きょとんとしている。


「そうか。お前は選ばないんだな」
「は?」
「リーシー。陛下のところに行こう」
「そうですね」


そこから、2人はハオランを放置して歩き出した。
 

「それから、ご両親に挨拶させてくれ」
「……あの」
「なんだ?」
「挨拶って何の挨拶ですか?」


リーシーの言葉に彼女を見た。さも、何のことかわからないという顔をわざとしているリーシーがいた。


「すまない。一番肝心なのを忘れていた。結婚してくれ」
「……」
「選んだら、選んでくれるんだろ?」
「……確かにそう言いました。でも、私は……」
「あの2人と同じで構わない。追いかけたいのだろ?」
「っ、!?」


リーシーは、彼が何でもお見通しなことに驚く表情を隠した。すぐに追いかけたら、怒られるからちょっとしたら、追いかけようとしていたのがバレていたのだ。

ディェリンと花影のように想い合う相手などいなかったのだ。


「束の間でも、妻でいてくれ」
「っ、」


何もかも理解してくれる人と肝心要のところで、身を引くようなことになったハオランが、そこにいた。

ハオランはわかっていなかった。彼女を留め置くために想いを伝えなくてはならなかったのに。大事な場面で、文官の兄に負けたのだ。

こうして、リーシーはディェリンに負けず劣らずの幸せな時間を過ごした。

いつ見かけても仲睦まじくしていて、誰もが2人を見て微笑ましそうにしていた。

でも、リーシーの寿命はとても短いものだった。周りからしたら、まだまだこれからだと言われる寿命だったが、リーシー本人と夫となった文官にとっては、十分な時間だった。そうなるのを2人はわかっていたから、覚悟はできていた。


「ありがとう。幸せな時間を過ごせたわ」
「戻って来てくれて、妻になってくれて、ありがとう」
「あなたとは、来世でも逢いたいわ」
「わかった。必ず、あなたを探す。安心して、待っていろ」
「えぇ。あの子たちをお願いね」
「あぁ、任せてくれ」
「愛しているわ。永久に」
「私もだ。必ず見つけるから、他に目移りするなよ」
「えぇ、あなたを待っているわ」


リーシーは、それを聞いて満足そうに微笑んで旅立った。

妻にそっくりな男の子と女の子を残して、ただ眠っているかのようにしていた。

また昔のように待っていれば目を覚ましてくれるのではないかと言うくらい安らかな顔をしていたが、夫には前のように戻って来ることはないことを一番理解していた。

端から見たら僅かな期間でも、彼にはその気のなかったリーシーが妻となり、子供を産んだだけでも、予定とは違っていることだと理解していた。

彼女は、残された彼に子供を託したのだ。それで、すぐには追いかけて来ないでほしいと言葉にせずに伝えたのだが、それをわかったのは彼だけだった。

こうして、隠された皇女は、本人が幸せだと思う人生を謳歌することができた。

それが、周りから見て、幸せとは思えないと言われようとも、彼女が幸せだったことに嘘偽りはない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

傾国の王女は孤独な第一王子を溺愛したい

あねもね
恋愛
傾国の王女と評判のオルディアレス王国の第一王女フィオリーナが、ラキメニア王国の第一王子、クロードに嫁ぐことになった。 しかし初夜にクロードから愛も華やかな結婚生活も期待しないでくれと言われる。第一王子でありながら王太子ではないクロードも訳ありのようで……。 少々口達者で、少々居丈高なフィオリーナが義母である王妃や使用人の嫌がらせ、貴族らの好奇な目を蹴散らしながら、クロードの心をもぎ取っていく物語。

置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも
恋愛
「好きです。付き合ってください!」  大きな桜の木に花が咲き始めた頃、その木の下で、彼は真っ赤な顔をして告げてきた。  嬉しさに胸が熱くなり、なかなか返事ができなかった。その間、彼はまっすぐ緊張した面持ちで私を見ていた。そして、私が「はい」と答えると、お互い花が咲いたような笑顔で笑い合った。  中学校の卒業式の日だった……。  あ~……。くだらない。  脳味噌花畑の学生の恋愛ごっこだったわ。  全ての情熱を学生時代に置いてきた立花美咲(24)の前に、突然音信不通になった元カレ橘蓮(24)が現れた。  なぜ何も言わずに姿を消したのか。  蓮に起こったことを知り、美咲はあの頃に置き去りにした心を徐々に取り戻していく。 ──────────────────── 現時点でプロローグ+20話まで執筆ができていますが、まだ完結していません。 20話以降は不定期になると思います。 初の現代版の恋愛ストーリーなので、遅い執筆がさらに遅くなっていますが、必ず最後まで書き上げます! 少しでも楽しんでいただければ幸いです。

【完結】エリーの純愛~薬草を愛でる令嬢は拗らせた初恋を手放したい~

青依香伽
恋愛
伯爵令嬢のエリーは公爵令嬢である従姉のもとで侍女として働いている。 そんなエリーは、幼い頃からの想い人を忘れることができずに初恋を拗らせていた。 この想いが報われないことなど昔からわかっていたのに。 どんなに好きでも、叶わぬ恋は苦しいだけ。そんな思いから、エリーはついに初恋を手放す決心をした。 そんな矢先、離れて暮らす祖母が体調を崩したとの報せが届く。従姉からの後押しもあり、エリーは大好きな祖母のいる領地へと急いで向かった。 傷ついた心を癒しながらも、今は祖母と領地のために前に進もうと決意するが、長年持ち続けた想いはなかなか手放せるものではなくて......。 ※【完結】『ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~』のスピンオフです。本編の女学院卒業後の話になります。 ※単独でもご覧いただけるように書いています。 ※他サイトでも公開中

聖なる森と月の乙女

小春日和
恋愛
ティアリーゼは皇太子であるアルフレッドの幼馴染で婚約者候補の1人。趣味である薬草を愛でつつ、アルフレッドを幸せにしてくれる、アルフレッドの唯一の人を探して、令嬢方の人間観察に励むことを趣味としている。 これは皇太子殿下の幸せ至上主義である公爵令嬢と、そんな公爵令嬢の手綱を握る皇太子殿下の恋物語。

婚約者を喪った私が、二度目の恋に落ちるまで。

緋田鞠
恋愛
【完結】若き公爵ジークムントは、結婚直前の婚約者を亡くしてから八年、独身を貫いていた。だが、公爵家存続の為、王命により、結婚する事になる。相手は、侯爵令嬢であるレニ。彼女もまた、婚約者を喪っていた。互いに亡くした婚約者を想いながら、形ばかりの夫婦になればいいと考えていたジークムント。しかし、レニと言葉を交わした事をきっかけに、彼女の過去に疑問を抱くようになり、次第に自分自身の過去と向き合っていく。亡くした恋人を慕い続ける事が、愛なのか?他の人と幸せになるのは、裏切りなのか?孤独な二人が、希望を持つまでの物語。

【完結】君を迎えに行く

とっくり
恋愛
 顔だけは完璧、中身はちょっぴり残念な侯爵子息カインと、 ふんわり掴みどころのない伯爵令嬢サナ。  幼い頃に婚約したふたりは、静かに関係を深めていくはずだった。 けれど、すれ違いと策略により、婚約は解消されてしまう。 その別れが、恋に鈍いカインを少しずつ変えていく。 やがて彼は気づく。 あの笑顔の奥に、サナが隠していた“本当の想い”に――。 これは、不器用なふたりが、 遠回りの先で見つけた“本当の気持ち”を迎えに行く物語

【完結】祈りの果て、君を想う

とっくり
恋愛
華やかな美貌を持つ妹・ミレイア。 静かに咲く野花のような癒しを湛える姉・リリエル。 騎士の青年・ラズは、二人の姉妹の間で揺れる心に気づかぬまま、運命の選択を迫られていく。 そして、修道院に身を置いたリリエルの前に現れたのは、 ひょうひょうとした元軍人の旅人──実は王族の血を引く男・ユリアン。 愛するとは、選ばれることか。選ぶことか。 沈黙と祈りの果てに、誰の想いが届くのか。 運命ではなく、想いで人を愛するとき。 その愛は、誰のもとに届くのか── ※短編から長編に変更いたしました。

王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。 ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。 クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は 否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは 困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。

処理中です...