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『隠された皇女』
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しおりを挟む「退屈そうですね」
「え?」
それは、何の前触れもなかった。ハオランが、リーシーの眠る部屋の前で護衛をしていた。
まだ、婚約者ではないのだ。恋仲でもないのだ。護衛をすることしかできなかった。
そのため、突然、懐かしいと思う声の方を見ると……。
「リーシー……?」
「おはようございます。いい天気ですね」
「っ、」
まるで、いつもと同じ朝を迎えたかのように極々普通にハオランに微笑んで挨拶したが、リーシーがそこに立っていた。
それを見て、泣きそうになりながら、抱きしめたくなったが、ハオランはぐっと堪えた。
「っ、おはようございます。皇女殿下」
「皇女じゃありませんよ。私は、リーシー」
「ですが」
「ただのリーシー。もう、力なんてないから、天変地異が起こっても、何もできません」
「……」
「なので、母さんたちのところに帰ります」
「え?」
リーシーは、さも当たり前のように言った。街で料理屋を手伝っていた頃の彼女がそこにいた。
「あ、その前にうっかりさんに挨拶して戻らなきゃ。……この場合、皇帝陛下に会いに行ってもいいんですかね?」
「え、いや、その前に侍医に見て頂く方が……」
「リーシー!」
そこにハオランの兄が、様子を見に来ようとしているところだった。
「わっ、」
「兄上!」
ハオランが、堪えたことを兄は容易くした。それをリーシーは受け入れたのだ。
何をしたかといえば、リーシーを抱きしめたのだ。しかも、皇女の名前を呼び捨てにして。
「よかった。どこも、何ともないのか?」
「はい。この通り、寝すぎただけです。ふふっ、体力付きましたね。もう、息切れしてないじゃないですか」
「あぁ、ここに通い詰めていたからな」
「そうですか」
「心配して気が変になりそうだった」
「……」
リーシーは、それを聞いて黙っていたが、次の言葉に驚いたのは、リーシーだけではなかった。
「あの2人は、幸せになれたんだな?」
「っ、はい。なれたからと先に逝きました。私は、後から逝くのに戻って来ました」
「そうか。2人の墓は、隣り合わせに建てられてる。後で一緒に行こう」
それにリーシーは、たまらず泣き出した。
「よく、戻って来てくれた」
「っ、」
この兄は、ディェリンと逝きたかった気持ちが痛いほどわかっていた。
それを見て、ハオランは兄には叶わないと思ってしまった。そのせいで、歩き出した2人に置いて行かれていた。
「おい、ハオラン。何してるんだ。置いてくぞ」
「……いや、俺がいても邪魔だろ」
兄に何を言ってるんだとばかりの顔をした。もう、見せつけられるのは勘弁だとハオランは思っていた。
その横のリーシーは、泣き腫らした目をして、きょとんとしている。
「そうか。お前は選ばないんだな」
「は?」
「リーシー。陛下のところに行こう」
「そうですね」
そこから、2人はハオランを放置して歩き出した。
「それから、ご両親に挨拶させてくれ」
「……あの」
「なんだ?」
「挨拶って何の挨拶ですか?」
リーシーの言葉に彼女を見た。さも、何のことかわからないという顔をわざとしているリーシーがいた。
「すまない。一番肝心なのを忘れていた。結婚してくれ」
「……」
「選んだら、選んでくれるんだろ?」
「……確かにそう言いました。でも、私は……」
「あの2人と同じで構わない。追いかけたいのだろ?」
「っ、!?」
リーシーは、彼が何でもお見通しなことに驚く表情を隠した。すぐに追いかけたら、怒られるからちょっとしたら、追いかけようとしていたのがバレていたのだ。
ディェリンと花影のように想い合う相手などいなかったのだ。
「束の間でも、妻でいてくれ」
「っ、」
何もかも理解してくれる人と肝心要のところで、身を引くようなことになったハオランが、そこにいた。
ハオランはわかっていなかった。彼女を留め置くために想いを伝えなくてはならなかったのに。大事な場面で、文官の兄に負けたのだ。
こうして、リーシーはディェリンに負けず劣らずの幸せな時間を過ごした。
いつ見かけても仲睦まじくしていて、誰もが2人を見て微笑ましそうにしていた。
でも、リーシーの寿命はとても短いものだった。周りからしたら、まだまだこれからだと言われる寿命だったが、リーシー本人と夫となった文官にとっては、十分な時間だった。そうなるのを2人はわかっていたから、覚悟はできていた。
「ありがとう。幸せな時間を過ごせたわ」
「戻って来てくれて、妻になってくれて、ありがとう」
「あなたとは、来世でも逢いたいわ」
「わかった。必ず、あなたを探す。安心して、待っていろ」
「えぇ。あの子たちをお願いね」
「あぁ、任せてくれ」
「愛しているわ。永久に」
「私もだ。必ず見つけるから、他に目移りするなよ」
「えぇ、あなたを待っているわ」
リーシーは、それを聞いて満足そうに微笑んで旅立った。
妻にそっくりな男の子と女の子を残して、ただ眠っているかのようにしていた。
また昔のように待っていれば目を覚ましてくれるのではないかと言うくらい安らかな顔をしていたが、夫には前のように戻って来ることはないことを一番理解していた。
端から見たら僅かな期間でも、彼にはその気のなかったリーシーが妻となり、子供を産んだだけでも、予定とは違っていることだと理解していた。
彼女は、残された彼に子供を託したのだ。それで、すぐには追いかけて来ないでほしいと言葉にせずに伝えたのだが、それをわかったのは彼だけだった。
こうして、隠された皇女は、本人が幸せだと思う人生を謳歌することができた。
それが、周りから見て、幸せとは思えないと言われようとも、彼女が幸せだったことに嘘偽りはない。
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