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「僕とのデートが嫌なら、はっきりと断ればいいだろ」
「……」


ヴェロニカの婚約者のゼインは、ヴェロニカの従妹のポリアンサを連れ立ってやって来た。


(今度は何を言ったのかしら?)


この従妹は、父の姉の子供だが、彼女の両親が不慮の事故で亡くなり、行く宛がなかったことを不憫に思い、父がポリアンサが成人するまで後見人となることにしたのだ。

それが、わかっているのか。成人したら、この家を追い出されると思っていて、勉強そっちのけで男あさりをしていた。

どうやら○○の婚約者にロックオンしたらしく、そこからえげつない争奪戦を一方的に仕掛けてきていたりする。正直なところ、面倒くさくて仕方がなかったりする。


「毎回、毎回、都合が悪くなったとポリアンサを寄越すなんて、彼女が可哀想ではないか」
「そんな、私は別にいいんですよ。……ゼイン様と出かけられて、とても嬉しいですし」


はにかんだ笑顔で照れたように言うポリアンサにゼインは、まんざらでもない顔をしていた。


(騙されているのよ。そいつに)


「僕も楽しいよ。だが、そんなことで許すわけにはいかないこともあるんだ。ヴェロニカ、君との婚約は破棄させてもらう。僕は、ポリアンサと婚約することにする。こんな非常識な従姉を持っているのにとても健気で、優しくて、僕の理想の女性そのものだ」


(理想……? 私を毎回、外に出られないようにして、無理やり彼との約束の場所に行っている、この女が……?)


だが、破棄したいと格上の家から言われたら、断るわけにはいかない。

ましてや今回は従妹が盛った痺れ薬のせいで、ヴェロニカはろくに喋れないことをいいことに言われ放題となっていたのだ。

それをわかっているからこそ、ポリアンサは勝ち誇った顔をヴェロニカにしていたのをゼインだけが気づいていなかった。





数日して、ヴェロニカとゼインのお互いの両親をまじえて正式に婚約者を替えるべく集まることになったのだ。


「……本当にヴェロニカから、ポリアンサに婚約者を代えられるのですか? 言っては何ですが、ポリアンサは勉強もいまいちですし……」
「勉強なら、家庭教師をつければいい。約束を違えて、それを従妹にフォローさせてばかりの令嬢よりは、マシだろう」
「はぁ、そう、おっしゃるなら、必要なことは書類に記載してあるので、きちんと確認してください」
「どうせ、慰謝料の金額についてだろ? くだらん。さっさと終わらせてくれ。私は忙しいんだ」


息子が息子なら、父親も父親だ。ぞんざいな物言いをして、ろくに確認することなく、書類にサインをしていた。こちらとしては、ありがたい。成人したら、赤の他人となるとも添えてあるから戻って来ても、これで安心だ。

ポリアンサは、早速、彼の家族にごますりに言っているすきに父がヴェロニカに小さな声で尋ねた。


「あちらが、ポリアンサが、お前のフォローをしていたと言っていたが、何があったんだ?」
「私を軟禁して、私の代わりにゼイン様のところに行っていたのよ。破棄された日は、痺れ薬まで盛られたわ」
「それでか。……そういう知恵は回るのに成績は、酷いんだがな。家庭教師をつけたところで、変わるとは思えないが……。まぁ、嫁げることになったなら、いいが」


父は、問題児が先に片付いたのを喜んでいた。

あちらの家で、花嫁修業をやるのだと意気揚々と出て行ったポリアンサを両親とヴェロニカの3人で見送った。


(あと数日で、成人するのに気づいているのかしらね?)


もう戻って来ることはないと思って見送っていたとは思っていなかったのではなかろうか。


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