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しおりを挟む王宮の一室にジャスミンが住むことになったのは、王太子と婚約して、すぐだった。
まぁ、婚約を受けなければ、すぐさま戻って来いと言う父親に帰りたくなかったジャスミンは、しばらくは帰らなくて済むだろうと婚約を選んだだけなのだが、そんな選択をして選んだことを周りが知ることはなかった。
部屋は、元から用意されていたようだが、調度品はジャスミンがこっちに来て花嫁修行ができるようにとすぐに戻らずとも良いように持って来た物が多くあるため、何ともミスマッチな部屋になっていた。
更には王宮の女官たちとジャスミンの女官たちが一触即発となっていた。習わしやらしきたりの違いで、双方が引かないため、大変なことになっているようだ。
それをジャスミンは、放置していた。いや、ジャスミンはそれどころではなかった。目の前に山積みとなっているものに頭がいっぱいとなっていたせいで、気にかける余裕がなかったのだ。
(この量を明日までにやり終えるなんて、わかりやすい意地悪だわ。……こんなものをやらせて、使うことはなさそうなのに)
王太子妃になるのだからと王太子の母である王妃に何かとジャスミンは課題を渡されていた。その中身を王妃はチェックしているのかと思っていた。
他にも、先生が何人もジャスミンについていたが、みんな王妃のご機嫌をそこねたくない人たちらしく、ジャスミンのように出来の悪い生徒を見たことがないとまで言っているようで、課題の量が増える一方になっていた。
それを見ながら、ジャスミンはこんなことを思っていた。
(王太子妃になりたかったわけじゃないのよね。姫はやめたかったけど)
王族のどろどろした世界から脱出したと思ったら、抜けきったわけではなかったのだ。
王太子は、とてもいい人だ。見た目も、世の女性なら、自分の婚約が彼になったとなれば、鼻を高くして自慢して回りたくなるだろう。
でも、ジャスミンは彼のことを未だに好きだとは思えなかった。初恋の人を呆気なくミアに取られ、婚約者までもが彼女の魔の手によって、あっさりと取られたのだ。
違う世界のことだろうとも男なんて、そんなものだと思ってしまっていた。
(ミアみたいなのが現れたら、みんな、あぁいうのにコロッと騙されてしまいそうに見えてしまうのよね。王太子も、インパクト強い出会い方をしたせいで、勘違いしてる気もするのよね)
そんな風に思い始めていた。王太子が、ジャスミンのことを本心でどう思ってくれているかすら、ジャスミンは疑ってしまっていたのだ。失礼すぎるが、この時のジャスミンは、そう思うことで己を守っていたのだ。
「ジャスミン」
「王太子殿下」
「……名前は、まだ呼びにくいか?」
「あ、いえ、すみません。ディミトリウス様」
王太子は、忙しいだろうに何かとジャスミンに会いに来てくれていた。それは、怪我をしてから見舞いに通いつめていた時よりも近い場所に居るから、頻度は以前より増えていた。
「殿下。ジャスミン様は、これから勉強のお時間ですので」
「今、終わったところだろう?」
「ジャスミン様は、まだこの国に不慣れなので勉強時間を増やさなくては、先生方の授業についていけないんです」
「は? 何を言っているんだ? ジャスミンは、先生が認めた女性だ。この国に不慣れで授業についていけないなどありえない」
「で、ですが」
王太子は、浮かない顔をしているジャスミンに思うことがあったようだ。
「なら、私が教える」
「そんな、なりません。お妃教育を殿下自らがジャスミン様になさるなど……」
「授業自体ではなくて、この国の不慣れな部分を教えるのだろう? それならば、問題ないはずだ」
王太子が、そんなことを言い争っているのを見ても、ジャスミンは他人事のようにしていた。
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