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gulu

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~いちがっき!~厳冬のキリギリス

25話目:羽化のクインテット

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「くあぁっ……!?」

 レジーナ先輩が痛みで苦悶の表情を浮かべる。
 もちろん俺だってめっちゃ痛いさ。
 でもアナタと違って、俺は一人で何度も死んでいた。
 もう慣れたんだ、これくらい。

「ぅ、ぁ……な、なんで……裏切ったの……!?」
「裏切る? あぁ、俺の事も仲間だって思ってくれてたんですね。嬉しいっす」

 レジーナさん、アナタは良い人だ。
 例えみずからダンジョンに飲まれようとしていたとしても、友達の為にそこまで出来る人なんていない。
 ただ……善人の行動が、必ずしも良い結果に繋がるとは限らないが。

「とりあえず、アナタは今正気じゃない。お薬飲んで、治療しましょう。なに、まだやり直せるんですから」
「はぁっ……ぐぅ……! ダメ……ミゼリアちゃんを、見捨てたりなんか……!」
「別に見捨てろだなんて言いません。ただ、今のやり方は皆が幸せになる方法じゃない……不幸に堕ちてくだけです。俺だって、レジーナさん達を見捨てたくないんですよ」

 仲間を見捨てたくないと言うのであれば、俺だって同じ理論を振りかざしてやる。
 いや、同じではないか。
 俺のことは、もう仲間だとは思ってくれてないだろうし。

「はぁっ……はぁっ……ヒビキくんが仲間になってくれないなら、それは仕方ないよ……でも、それなら……何も言わずに見逃してくれても良かったんじゃない……?」
「んなことしたら、アナタ別の人で同じことするでしょ? アナタを止めるなら、ここしかなかった」

 レジーナさんは脂汗をたらしながら、俺を見る。
 その瞳からどういう感情を向けられているのか、俺には読み取れない。
 それでも―――――。

「ねぇレジーナさん。一度だけ……一度だけ立ち止まって考えてみませんか? どうやったら、皆で笑ってハッピーエンドを迎えられるかを」

 俺は、俺のことが好きな人のことが好きだ。
 その人が幸せになってくれたら、俺だって嬉しい。
 例えその過程で―――――俺が一生憎まれたとしても。

「はぁ……ぅ、ぐ…………残念だよ……キミなら、一緒に隣を歩いてくれるって思ったのに……!」

 何かすることを察知して、テーブルの脇にあったナイフを取りもう一度突き刺そうとする。
 しかしそれよりも早くレジーナさんはナイフを強引に抜き、大声で叫ぶ。

「イヤァ! 誰か助けて! 急に刺され――――――」
「俺もこのナイフで殺す気だったんですか!? ミゼリア先輩のように!!」
「ッ!?」

 機先を制されて、レジーナさんの動きが止まった。
 俺がなんの為に自分の手ごと刺したと思う?
 アンタと同じ被害者に見えるようにする為だよ。

 食堂中の視線を一斉に集めたが、全員が困惑して動けていない。
 それでいい、味方にならずとも敵にならなければいい。
 少なくとも、これで女の武器を使われて俺だけ取り押さえられるってことはない。

 まぁ事情説明の為に捕まるだろうけど、それは仕方がない。
 今ここで逃げられるくらいなら、尋問を受けた方がマシだ。

「レジーナッ!」
「パッチェムちゃんに、アングスも!?」

 しまった、他の先輩が隠れていることを考えるべきだった!
 見れば他のパーティーメンバーも続々と集まってきている。

 対してこちらに味方はいない、いるはずもない。

「君たち! 何をしているんだッ!!」

 だが、一人だけいる。
 この場において、あまりにも強すぎる善人が。

「ヨーゼフパイセン! 助けてください!」
「ヒビキくん! どういうことなのか説明してくれないか!?」
「話します! だから何も聞かずにあの人達を止めてください!」
「どうしてッ!?」
「今だけは……俺を信じてください!」
「ッ!? 分かった! 信じよう!」

 本当に、心配になるくらいのお人好しだ。
 あの人は紳士的である、善人である。
 しかし、容赦があるかどうかは別だ。

「ウオオオオオォォォ!!」

 一歩目から最高速の突進は、まるでボーリングのピンのようにレジーナさん達を吹き飛ばした。
 最初はどうなるかと思ったが、これで形勢は逆転だ。

「いや、まだだ!」

 その言葉にハッとした時には遅かった。
 跳ね飛ばされた時、レジーナさんは懐に手を入れていた。
 楽器か何かを取り出すのかと思っていたが、それは<ダンジョンの挿枝>であり、音楽隊の皆はダンジョンの中に逃げてしまった。

「ムゥ、逃げられてしまったか……!」
「ヨーゼフ先輩、追えませんか!?」
「残念だが、僕のレベルでは入れそうにない。君と同じレベルなら―――――」
「分かりました、行ってきます! ヨーゼフ先輩はここで待ち構えておいて、誰か出てきたら捕まえてください!」
「え……っ!?」

 返事を聞く間もなく、俺はすぐさまダンジョンへと足を踏み入れた。

 中は薄暗い森の中。
 足元は水はけが悪く、ピチャピチャと音を立てている。

 足跡は残っていないが、後を追う方法はある。

 ♪:*:・・~♪・:*:・・:*:・♪―――・・:*:・♪・:*:・♪

 聞き耳を立てると、その場に相応しくない旋律が聞こえる。

 あの人達は音楽隊だ。
 何をするにも演奏をしなければならない。

 そうして音を追った先で、音楽隊の皆が寂しく演奏をしていた。

「……皆さん、外はもうヨーゼフ先輩が待ち構えています。時間が経てば、先生たちも来るでしょう。…………終わりです」
「グッ……まだだ! まだ、終わってない!」

 努めて諭すような口調で語り掛けるも、ペッカータさんがナイフを持ってこちらに切りかかる。
 初撃は避けられても、そのあとはレベル差で刺殺されるだろう。
 だが、俺はあえて正面に見据えて手を叩いた。

≪ザシュッ≫

「あっ……!」
「……これじゃあ、虫くらいっしか殺せねぇっすよ」

 ペッカータさんのナイフは、俺に軽く刺さったところで止まってしまった。
 装備は持ってこれなかったので、指輪の効果ではない。

 これは彼女たちの演奏によるものだ。
 即興の拍手だろうと、合唱に加わりさえすればその恩恵を受けられる。

 ままならないものだ。
 殺したい相手だろうと、音楽でつながった相手は殺せないだなんて。

「それじゃあ……これなら、どうかな……っ!」

 レジーナさんが曲調を変えて、他の人達もそれに追従する。
 俺の知らない曲。
 恐らく、これが合唱による<奏術>で意図的に<羽化>させる曲なのだろう。
 だが、この演奏にはなんの意味もない。

 レジーナさんは怪我を治さないまま演奏をしているせいで、玉汗が浮かんでいる。
 …………自分で言ってたじゃないですか、あと一歩というところで途切れてしまうって。
 その状態で、あと一歩に届くはずがないがないじゃないですか。
 だから俺みたいな奴にすら、すがりついたんじゃないですか。

 まるで祈るように、すがりつくように楽器を奏でている皆が痛々しい。

 蠱惑的で引き込まれるような音色が響き渡るが、何かが足りない。
 そしてその足りない音色は……ここにいる限り、絶対に埋まらないものだろう。

 そう思っていた。

 :・♪・:*:―――♪:*:・・~♪・・:*:・♪・:*:・♪・・:*

 不可思議な音色と共に、俺の腹にドでかい穴が開いた。

「ぐ……がっ……あぁ!?」

 俺の腹に穴を開けたモノの先へと視線を辿らせる。
 そこには、わずかに異形と化した人が……大きな蜘蛛脚を背中に生やした誰がいた。

 その顔は懐かしい誰かを見るような優しさを帯びており、その手には糸の弦で音を奏でていた。

「ミゼリアちゃん……!?」

 先輩達を見て、その異形の人はニッコリとほほ笑んだ。

 これが、この人が……ダンジョンに飲まれ、<羽化>してしまったミゼリアさん……!?
 ミゼリアと呼ばれた人が、力強く曲調を加速させていく。
 まるで導かれるかのように、他の人達もそれに合わせていく。

 レジーナさんが、失くしてしまった人形を見つけた少女のような表情を浮かべながら演奏する。
 他の人達も思い思いの喜びを胸に曲を奏でている。
 まるで滅びに向かうハーメルンの笛の音色に惹かれているかのように。

「ご……はぁっ……!」

 対して俺はまだ生きているのが奇跡のような状態でもがいている。

 そう……俺だけだ。
 この場において、俺だけが異物だ。

 それでいい。
 異物であるからこそ、この調和によって奏でられる演奏を止められる。

 大きく手を叩き、パァンという音と共に皆の視線がこちらに向いた。

「き……きいて、ください……! 俺、は――――――」

 アナタ達みたいな人こそ、幸せになってほしい―――――そう言おうとした。
 しかし視界が暗転したかと思えば、次の瞬間にはヨーゼフ先輩の腕の中にいた。
 どうやら死亡し、ダンジョンの外に出されてしまったようだ。

「大丈夫かい、ヒビキくん!?」
「待ってください! まだ終わってません!」

 もう一度ダンジョンに入ろうと手を伸ばす。
 しかしその手は届かず、ダンジョンの光は消え……あとには<ダンジョンの挿枝>だけが残るだけであった。

「ど、どうして……」
「ダンジョンが消えたということは、中にもう人はいないということ……ヒビキくん、いったい中で何があったんだい……?」

 それは、音楽隊の皆はダンジョンに飲みこまれ、人ではなくなったということ。
 つまり……俺は間に合わなかったということだ。

 それからしばらくして、騒ぎを聞きつけた教師陣がやってきた。
 俺が音楽隊の人の名前と、ミゼリアさんの名前を出したことでおおむね察してくれた。

 それでも詳しい事情を聞かせてほしいということで、エトルリア先生の私室へと通された。

「はぁ……なるほどのぅ。魔に魅入られてしまったか……残念でならん」

 淡々と事情を説明し終えて、一息つく。
 なのに重苦しい何かが腹の底にある感じがしてならない。

「ところでエトルリア先生。この<ダンジョンの挿枝>を使ったら、もう一度会えたりしますかね?」
「いいや。ダンジョンに飲まれたものは、可能性と共にダンジョンを彷徨うことになる。逆に言えば……いつかどこかのダンジョンで、出会うかもしれんな」
「あぁ、じゃあいつかまた会えるかもしれないんすね」

 その言葉を聞き、エトルリア先生は諭すように言う。

「悪いことは言わん、忘れよ。もしかしたら元に戻せると思っとるのかもしれんが、完全に飲まれてはどうしようもない。せめて<羽化>してからすぐに殺せば無理やりダンジョンから引き剥がせたかもしれんが……」
「はぁ? 元に戻す? なに言ってんすか」
「………なぬ?」

 俺は大きく息を吸い、腹から力を込めて言い放った。

「俺がそんな聖人だと思いますか!? 腹にドでかい穴を開けられたんすよ!? こっちも腹をブチ抜かないと気がすまねえ!!」
「お……おぅ……」
「元に戻すとか! 戻さないとか! それはそのあと! やられたら倍返し! それが日本式!!」

 ちょっと主語が大きいかもしれないが、まぁ異世界にいる日本人の割合を考えれば俺が日本といっても過言ではないかもしれない。
 一人で国家とか、俺の器がデカすぎてヤバイな!

「ク……ククッ、ハハハハ! ワハハハハ! お前は……お前はホントーに面白いなァ! 元に戻すかどうかはそのあと……あとか……次の可能性があると信じておるのだな!」
「逆に聞きますけどォ! 信じなかったら起きないんですか!? 関係ないでしょ! 信じようが信じまいが起きるもんは起きる! だから起きた時の為に今からぶっ殺しの準備をすんですよ!」
「ハハハハハ! ワァーッハハハ! ウヒヒヒ、ヒーッヒッヒッヒ!」

 エトルリア先生が笑い転げてしまって、話にならない。
 まぁ下着モロ出しになってる人はどうでもいいので置いといて……。

 待ってろよ、異形の音楽隊め!
 お前らの腹をブチ抜いて!
 そのあと元に戻せそうなら戻して!
 あんなことやこんなことをしてやる!

 だって約束したからなァ!
 なんでもしてくれるって!
 俺から逃げられると思うなよ!!
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