異世界ダンジョン総合学園へようこそ!

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~にがっき!~赤色の新星

38話目:5月■日エヴェドの忘備録①

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 ≪レギオズ≫という人種は、見た目で区別することがちょっと難しい。
 知り合いだと思って声をかけたら別人だったということも珍しくない。
 別人なのにそのまま一緒に出掛けて、翌日に別人だったって指摘されることがあるって冗談があるくらいだ。

 それくらい≪レギオズ≫はみんな似ていて、個に対して執着が薄いんだ。
 だから群体、群れのモノとして≪レギオズ≫って言われるようになったんだろうね。

 だけどちょっと違う個体だっている。
 見た目だったり、声だったり、考え方だったり。
 それは他の種族でもそうだろって?

 そうだね。
 そして他の種族は違う人のことを追い出したり、憧れたり、嫉妬したり、尊敬したりする。

 でも≪レギオズ≫はそんなことしない。
 ただただ、無関心でいるだけ。
 個に執着していないからだろうって言われてる。

 僕は違う。
 ≪レギオズ≫だけど同じにはなりたくない。
 違う何かに……英雄になりたかった!

 黒色の術の全てを修め、<黒の獣>という独自の術まで編み出した<漆喰>のケシェット!
 歴史上、恐らく初めて外部からダンジョンを破壊したという<破砕>のバラガン!

 そして、今もなお生きた伝説である<不朽の英雄>エトルリア!

 だから僕は<探索者>になろうとした。
 <探索者>になれば何か変わると思って!
 いや……自分で変える為に、この学園に入ったんだ!

 ダンジョンでは死んでも生き返る。
 何度死を迎えようとも、強大な敵に立ち向かい、必ずや打倒して見せると信じていた。

 ―――――そして、そんな決意はたったの一日で虫食いの野菜のようになってしまった。

 痛みや苦痛も嫌だったけど、それは問題じゃなかった……むしろある方が良かった。

 徐々に失われていく自分の感覚……薄れていく自我……小さくなっていき、消失していく自分という存在……。

 自分というモノが消えることが……考えるという意識すら消えていくことが、あんなにも恐ろしいものだとは思わなかった。

 ≪レギオズ≫の<探索者>にとっては理解できないだろう。
 だってその人達は、最初から集団という中の一欠けらなんだから。

 でも僕は違う。
 誰とも違う存在になりたかった、特別になりたかった。
 だからこそ、自我が消えていく感覚が何よりも怖かった。

 それでも僕はまだ学園にいる。
 死を克服する勇気もなければ、逃げる勇気もない。

 きっとこのまま、無我の集団に埋もれて、生きながら死んでいくんだろう。

 こんなことになるなら、特別になんて憧れるべきじゃなかった。

 ―――――いいや、まだ特別になれるんじゃないか?

 右手を取れば不便になる。
 それは個性になる。

 右足を取れば遅くなる。
 それは特別になる。

 全てが完成しているから≪レギオズ≫はみんな同じになってしまうんだ。
 なら欠ければ、劣れば、僕だって特別になれるんだ!

 どうしてこんな簡単なことに気付けなかったんだろう!

 嗚呼、どこからか鐘の音が聞こえる。
 いや……ラッパの音? それとも笛の音?

 分からないけれど、とってもいい気分だ。
 まるで本当のボクを見つけたような――――――

「エヴェドくん! 大丈夫!?」

 あと少しで何かにナレそうだったのに、彼女の声で引き戻された。

「――――あれ……僕、何を考えていたんだっけ」
「なんだかボーっとしてたけど、少し休む?」
「まったくもう、ダンジョンで気を抜くだなんて信じられませんわ」

 結局、アカネさんがちょっと疲れたって言ってくれたおかげで休憩になった。
 ため息をつきながら、さっきまで何を考えていたのか思い出そうとしていたら、隣に座っていたアカネさんが声をかけてくれた。

「エヴェドくん、もしかして悩みとかある?」
「……わかっちゃいましたか? ≪レギオズ≫ってそういうの、顔に出ない人種なんだけどな」
「ふふ、ごめんね。実はこれって誘導尋問みたいなものなの。悩みのない人なんていないもの」

 そうなのか……みんな、誰しも悩んでいるものなんだ。
 全然そうは見えないし、自分のことばっかり考えてたから分からなかった。

「良かったらさ、アタシに話してみない? 力にはなれないかもしれないけど、一緒に悩んであげることとはできるかもしれないよ」

 そう言って、彼女は僕の手を優しく包み込んでくれた。
 その温かい手は、死んだ時に感じる消失感とはまったく逆の……僕という個がここに存在しているということが実感できる確かなものだった。

 それから彼女に胸の内を吐露した。
 特別になりたいこと、英雄に憧れていること。
 だからこそ死ぬことが怖いこと、自我が消えることが何よりも恐れていることを。

「そっか……うん、分かるよ。死ぬのって怖いよね。アタシだって同じだよ」
「でも、アカネさんはダンジョンに入っても怖がる様子がないよ。どうやって克服したの?」
「克服したわけじゃないよ。ただ、前を見てるだけ。エヴェドくんは、きっと死を真正面から見据えてるから怖いんだと思う」

 死から目を逸らす?
 あんなにも強烈なモノから、どうやって逃れればいいのか分からない。
 そう聞いたら、彼女は一つの例え話をしてくれた。

 ある時、死を怖がる一人の男がいました。
 男は死から逃れる為に走り続けました。

 日が昇っても、沈んでも、男は逃げ続けました。

 いつしか男は逃げられなくなり、死に追いつかれました。
 そこでようやく男は気付きました。

 雨の中でも、雪の中でも、走っている間、死は何もしてこなかったことを。
 どんな苦痛や不幸があろうとも、死だけは常に寄り添ってくれました。

 そうして男は、ようやく死を受け入れました。
 生まれて初めてで、最後の平穏が、男に訪れました。

「――――ってお話。死は大きくもないし、怖いものでもない。理解できないものでもないし、誰にでも必ず訪れる答え……結末ってこと、かな?」
「必ず訪れる……結末……」

 死ぬのは怖い。
 自分が無くなるのが怖い。

 けど、怖がったところで死はいずれ訪れる。
 なら死を受け入れて、走る……生きた方が良いと。

 そう考えると、少しだけだが心が軽くなった気がした。

「アカネさん、とってもいい話だと思う。でも……そう言われても、死から目を逸らすのは難しいですよ」
「うん、だから前を向く為の目標を持つの。エヴェドくんなら英雄になること……特別になることだね」

 結局のところ、そこへ行きつくのだ。
 学園に入ってみた分かったが、みんな僕よりも優秀だ。

 死を恐れず一気呵成に戦う勇気だけはあると思っていたけれど、それも挫けてしまった。
 もう僕の中には、特別になる為の何かが無かった。

「う~ん……そうだ! 明日ちょっとだけ付き合ってくれない?」

 彼女は異世界人というだけで有名だ。
 そしてダンジョンの中でも、授業でも優秀な成績を修めており、誰もが認めるほどに特別な存在だ。

 僕とは対極にいる、遠い遠い存在だ。
 そんな彼女が、僕を誘ってくれている。

 ほんの少しだけ自分が特別になったような気がして、彼女を信じたくなってしまった。

「うん、いいよ。でも、どうして? 何の理由が?」
「クラスメイトが困ってたら、助けてあげるのが当たり前でしょ?」
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