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gulu

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~にがっき!~赤色の新星

57話目:か細きハッピーエンドの道

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 昔、とても傲慢な男と、そんな男とパーティーを組む者達がいた。

 どんなダンジョンであろうとも踏破していき、自分たちの実力があれば、思い通りにならないことなどないと思い込むほどであった。
 遂には世のため人の為という理由で、高レベルな<忌み枝>のダンジョンにすら挑むようになった。

 そうして多くの危険なダンジョンを無害化させ、多くの人々に称えられるようになる。
 いつしか、自分達の為ではなく、他人を理由にして命をかけるようになっていった。

 そして前人未到の、遥かなる地下に埋没した星のダンジョンにて、その代償を支払うことになった。
 大勢での大規模攻略。

 これが成功したならば、歴史に残ると皆が確信していた。

 待ち受けていたソレは、あまりにも強大であった。
 諦めた者から次々と命を散らす。

 顔を知る者、名前を知る者、何も知らない者。
 己の愚行という車輪に巻き込まれ、あらゆる命が千切れ果てていった。

 そんな時、たった一人の英雄が来た。
 その英雄は強大なるモノを打倒し、男を救ってみせた。

 心配するその英雄に、男は言ってしまった。

「もっと早く来れば、皆は死なずにすんだというのに……」

 思わず出てしまった言葉に、男は口を塞ぐ。
 英雄は怒るでもなく、呆れるでもなく……ただただ、もの悲しく微笑むだけであった。

 かくして地の底に封じられたダンジョンは踏破された。
 多くの種族が褒め称えた。

 英雄は道中の脅威を全て排除されたおかげとして、それを固辞。
 結果……ただ独り生き残った男に<星堕>の二つ名が与えられた。

 皆が称えるその名で呼ばれる度に、過去を共にした者達の顔がよぎる。
 男にとってその名は、栄誉ではなく戒めとなる名になった。

 それから男は死に場所を求めるかのように危険なダンジョンを巡り歩いた。
 しかし男は死ななかった。
 朽ち果てることさえ許されなかったのだ。

 どれだけ感謝され、喜ばれたとしても、男の失った穴を埋めるモノにはならなかった。
 いつしか男は全てが虚しくなり、隠居した。

 かの英雄が教師になったと聞いた時も、何の感情も湧かなかった。
 もはやただ惰性で生きているだけの人形にすぎないと己をわらう。

 ある日、男に教師になってくれと頼む者がいた。
 無論、男は自分が教鞭を取れるような者ではないと断った。

「これ以上、吾輩のような愚かな者を生み出してどうしようと言うのだ」
「いいえ……いいえ、違います。あなただからこそ、手を引いて正しい道へと導けるのです」

 さらに頭を下げられ頼まれた。
 頭を下げた者は、かつて失った仲間の子孫であった。

 男はしばらくの沈黙のあと、引き受けた。

 教師になってからは初めての試みばかりで、何もかもが予定通りにいかない。
 その都度予定を調節し、一学期の終わりには少しばかり満足のいく結果となった。

 しかし、夏休みの入った際に異常を察知した。
 男の教え子が、かつての己の愚行を真似したことに頭が痛む。
 どうしてこう、いらぬ所ばかり似てしまうのかと。

 関係者の口を無理やり割らせ、異世界に介入し、引き留める者を無視して今ここにやってきた。
 否……たとえ間に合わずとも、教師として来ざるを得なかった。

 それでも誰一人欠けていないことから、己の授業が血肉となっていたことに小さな満足感を覚える。
 あの日と同じようで、まったく違う状況。

 二度とあの愚かしい結果を迎えるわけにはいかぬと、傲慢な男は決意を固めた。

「それにしてもアカネ生徒、虚言に惑わされ愚かな選択をしたな。こちらについては入学前の出来事だ、減点はしないでおこう」
「え……ご、ごめんなさい……?」

 あらゆる人を騙し、<時間簒奪者>の言いなりになろうとしていたのだ。
 もっと厳しい言葉や叱責がくると思っていたアカネだが、あまりにもあっけない扱いに動揺してしまった。

「あははは、虚言だなんてヒドいなぁ。ぼくの力があれば、本当にアカネちゃんの大切な人を元に戻せるのに」
「そしてそれを人質にし、言うことを聞かせる。<消失時代>よりも前の者らしく、古臭い手段であるな」
「最初はそのつもりだったけどね? でも、今は違うよ。本当に気に入っちゃったんだ、アカネちゃんのこと。だから絶対にモノにしてみせるよ♪」

 まるで親しい友人のように手を振る<時間簒奪者>を見て、アカネは顔を引きつらせる。

 その両者の間に、まったくの場違いな男が間に入った。

「ハーッハッハッハ! そうか、そうだよなぁ! 時間を操れるわけないよなぁ!!」

 今まで完全に存在を忘れ去られていたヒビキが、突如としてこの混沌の渦の中へと身を投げ出した。

「あくまで時間を戻してるように見せかけてるだけなんだ! 時間なんて操れるわけないんだ!」

 少し眉をひそめながらも、<時間簒奪者>がその間違った答えに返答する。

「君も見ただろう、獣の時間が戻って復元されるのを。ぼくは時間を操れるのさ。だからウラヌスの奴も怖くなって、ぼくを追放したんだから」
「はぁ~? あんなの治癒の範囲で可能なことでしょ~? 神様に追放された? ただのフカシにしか聞こえねぇっすけどねぇ~~!!」

 わざとらしい挑発だが、ヒビキの顔と声色、そして雰囲気は完全に馬鹿のソレであった。
 演技ではなく本当に馬鹿で無知な人間となり、道化のように踊る。
 ただし……一歩踏み外せば返り血で染まった杭の上に落ちるような狂気的な場所であるが。

「っていうかさぁ~、時間を操れるなら俺らが来ない時間まで戻せばいいじゃ~ん? そしたらアカネちんと二人っきりになれるのにしないじゃ~ん?」

 その言葉を聞き、疑いが広がる。
 確かにヒビキのいうとおり、時間を自由自在に操れるなら都合のいい時間まで戻すなり、止めるなりすればいい。

 なのに目の前の<時間簒奪者>はそれをしない。
 遊んでいるように見せかけて、実はそれが精一杯の抵抗……そういった疑念の目が<時間簒奪者>へと向けられた。

「アカネちん、キミの目は正しかった! あいつはできもしないことを言ってキミを騙してこまそうとしてたんだ! いやぁ~、危ないところだったね! ヤリ捨てされるところだったよ!」

 <時間簒奪者>にとって大体数の者は取るに足らない矮小な虫にすぎない。
 だから銃で頭に風穴を開けられようとも気にしない、ただ羽虫が飛んでいるだけにすぎないのだから。

 そんな<時間簒奪者>でも無視できないものがあった。
 "できる"ことを"できない"と断じられることだ。

 例えばその専門分野のトップがいたとしよう
 そんな者が、明らかに馬鹿で生意気なガキに「あいつは素人だ! 俺の方が知ってる!」と指をさされて馬鹿されたようなものだ。

 社会理念や道徳から黙る者もいるだろう。
 面倒だからと無視する者もいるだろう。

 間違った知識だとして反論する者もいるだろうし、感情から激しく非難する者もいるだろう。

 現代社会の枠組みにおいてもその反応は様々である。
 だが<時間簒奪者>は今まで現代社会の枠組みの中にいなかった。

 いわば極まった個人主義であり……ある意味、幼稚でもあった。
 それ故に<時間簒奪者>はわずかに誤った選択をとった。

「いいだろう、そこまで言うならアカネちゃんの為に証明してあげるよ。臆病なウラヌスも怖がった、ぼくの力をね」

 <時間簒奪者>が、まるで指揮者のように手を振るう。
 時間の本流と支流が乱れて捻じ曲がり、周囲の空間にまで作用し始める。

 激しいノイズのような見た目とノイズが侵食し始め、まるで世界の終わりが始まるかのように見えた。

 しかし、その現象はすぐさま収まり……大勢の人がその場にいた。
 あの日、犠牲となったはずの人々が……アカネの記憶の中にしかいなかった人々が、戻ってきた。

「う、うそ……ほ、ほんとにこんな……こんなことが……!?」

 アカネと同様に、他の者達も驚愕して言葉を失う。
 時間を操り、死が確定した者達の時間を、こちらの時間にまで引き延ばす。

 まさに神が恐れるだけの力を、<時間簒奪者>は見せつけたのだ。

 アカネが思わず駆け寄ろうとするも、戻された人々は何か声を発する前に全員が一斉に倒れこんでしまった。

「えっ、な……なんで!? どうして!?」
「忘れちゃったの? ここはダンジョンだよ、耐性がない人はこうなっちゃうよ」

 これを分かっていたからこそ、<時間簒奪者>は挑発に乗ったのだ。
 結局のところ……彼らを助ける為には自分に頼るしかないということを確信していたのだから。

「マジックカードオープン! 卒業証書! 対象は――――<ダンジョン耐性>を持たない人!」

 瞬間、倒れていた犠牲者たちが消えてしまった。

 突然の出来事に動揺の声があがるも、ヒビキは気にせず<時間簒奪者>の顔面に再び穴を開ける。
 それに合わせ、教師ノフェルの<鉱術>による数多の刃が<時間簒奪者>の身体をバラバラに引き裂いた。

「ゲーッハッハハ! バカめ、かかったな! <忌み枝>のダンジョンのアイテムには特殊効果がある! あれは……自分以外の誰かをダンジョンから追放するスクロールだった! つまり、今頃全員とっくに外で保護されてるってわけだァ!」

 今までこの切り札を使わなかったのには理由があった。

 最初はアカネが<羽化>する直前だった時。
 わざわざ危険なダンジョンで何とかするよりも、外に連れ出してしまえばいいと考えた。

 しかしダンジョンの外は住宅地……もしも暴れられれば被害が大きくなる可能性があった。
 正気に戻ったとしても、大勢の被害者を出したとなればアカネの心に今度こそトドメを刺す可能性がある。
 だから見送った。

 次にヒビキは<時間簒奪者>に使おうとした。
 ここから追放したならば、ダンジョンでしか存在できないあやふやな奴を抹消できると考えた。

 しかし、存在確率があやふやであるせいで、効果の対象に取ることができなかった。
 "この体育館にいる全て"という範囲で無理やり効果に含ませることも考えたが、失敗の可能性を考えて見送った。

 そして最後に犠牲者が復活したタイミング。
 この時に使っても<時間簒奪者>をどうにかすることはできない。
 だが……完全なハッピーエンドを迎えるのならば、この瞬間しかないと判断し、迷わず使った。

 そうして二度と取り戻せなかった過去を救ってみせた。

 結果は――――――最悪を招き寄せてしまった。

「―――――はは、まいったね。ここまで虚仮にされて、馬鹿にされて……感情が高ぶるなんて、何千年ぶりだろう」

 生きているはずのない状態であったにも関わらず、一瞬で<時間簒奪者>の肉体が復元された。

「全員、撤退! 逃げろ! あんな厄介ストーカーに関わる理由なんてもう何一つねえ!」
「逃がすわけないだろう……出でよ<黒の獣>」

 それは<色術>の中でも失伝されたモノ。
 全ての色を混ぜ合わせ、圧倒的な破壊を実現させた色の黒。

 かつてその術で多くの国が滅んだとされる禁忌の術。
 生きとし生きるもの全てを壊すまで止まらぬ剥き出しの厄災。

 今まで一貫してこちらに危害を加えず、わざわざ肉の獣、骨の獣をけしかけていた。
 だからヒビキの読みでは、<時間簒奪者>はこちらへの攻撃手段を一切もっていないと思っていた。

 しかし違った。
 あれはただの余興であり、戯れにすぎなかった。
 強者の余裕でしかなかったのだ。

 常に本気であり、その全てに意味があると考えていたヒビキの考えが及ばなかった余白の部分であった。
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