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29話:英雄的行動と力の代償
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恐ろしい何かを見た気がする。
因果というものはそう簡単に切り離すことはできないし、たとえ逃げたとしてもソレがじっとしてくれているかも定かじゃあない。
だからといって、過去に葬り去ったはずのモノがイキナリ目の前に出てきたら、意識を失うのも無理ないと思う。
……どうしよう、目を開けたくないのに意識が現実に引き戻されていくのを感じる。
このまま意識の底にある暗闇の中でまどろんでいたい。
そういえば本物のレックスの魂があったよね、僕の身体いる?
―――返事がない、多分渡されても困るよね。
分かるよ……僕だってこんな状況で身体を渡されても困るもん。
「ヘッヘッヘッ、最悪なタイミングで目を覚ましちまったなぁ!」
瞼を開けると、眼前にはインパクト抜群であるモヒカンAさんの顔があった。
良い人だってのは分かってるけど、それはそれとしてちょっと見た目のせいでドキドキが止まらない。
ちなみに間違っても恋が始まったりはしない。
そんな事を考えつつ身体を起こすと、そこはアマゾネスの集落にある大広間の部屋だった。
外では何やら宴会のような賑やかな声が響いており、恐らくは勝利の美酒を味わっているんだろう。
ときおり男性の叫び声が聞こえるのはきっと気のせいだ、うん、僕は何も聞いてない。
辺りを見回すとモヒカンさん達が僕の隣に、部屋の隅ではクレオが寝ており、エイブラハムさんはやっぱり入り口の近くで腕を組むムーブをしている。
あの人の何があそこまで後方腕組み分かってるよおじさんに駆り立てるのだろうか。
そこで僕はようやく誰かに手を握られている感触に気付いき、そちらに視線を移すと―――。
「おはようございます♪」
「ヒェッ」
そこには海の果てに向かったはずの原作ヒロインの一人、メレトがいた。
夢であってほしかった、悪夢ならまだよかった……。
「身体は大丈夫ですか? どこか痛んだりしませんか?」
「いえっ! 全ッ然大丈夫ですから!」
彼女が僕の身体をまさぐってきたので急いで後ずさったのだが、それでも彼女の素早さには敵わず、ベッタリと側から離れなかった。
「……あれ、本当に痛くない?」
無理な魔法の行使と竜言語の使用というかなり負荷の掛かる無茶をやったというのに、特に痛みや違和感はなく、快調そのものだった。
「そっちのお嬢ちゃんが不思議な力を使ったからな」
不思議に思っているとモヒカンさんがクレオの方を見てそう言った。
つまり、反動があるって分かってるのに僕を治す為に竜言語で治癒してくれたということだ。
「ん……?」
モヒカンさんと話したりメレトとドッタンバッタンとしていたせいか、クレオの目が開いてしまった。
それならそれで好都合なので、僕はクレオに感謝の言葉を伝える事にする。
「ありがとう、クレオ! おかげでボロボロだった身体も全快だよ!」
「ン…ア"…ッ!」
「……クレオ?」
いつもだったら「よぅ相棒!」とか言うはずなのに、目の前のクレオは喋ろうとしても上手く喋れてないようだった。
心なしか、少し目に涙が浮かんできているかのようにも見える。
「ふむ…俺が見てみよう。お嬢ちゃん、お口の中を見せてみな」
そう言って先ほどまで黙っていたエイブラハムさんがやって来た。
大きく開けられたクレオの口の中をまじまじと見ているけど、この人ってそういう経験でもあるのだろうか。
「スゥークンクン………良し!」
「なにも良くないよ!」
あろうことか、クレオの口の中の匂いを堪能しただけだった!
ほんとヒドイなこの人!?
そして流石にヤバイと思ったのか、モヒカンさん達がエイブラハムさんを引き離した。
「離せ! 俺は専門家だぞ!!」
「変態の専門家だろぉ!?」
「ケッケッ、こいつイカレてやがるぜ!」
モヒカンさん達を以ってしてもイカレていると言われているこの人はほんと何者なんだろうか。
僕らと同じただの転生人とは思えないんだけど…。
「まぁざっと見たところ、竜言語による負荷で喉が焼けながらも、治癒の効果が残っているせいでずっと治っては焼けてを繰り返してるようだな」
この人、こういう時だけほんと有能だから困る。
いやいや…それよりも今はクレオの容態の方が大事だ!
喉が焼けながら治っている…つまり、今もずっとその痛みがあるという事だ。
「ヘッヘッ、おいお嬢ちゃん。この痛み止めの飴を舐めときな!」
クレオは笑顔でモヒカンさんが取り出した飴玉を口に含み、ガリゴリと噛み砕く。
「ねぇいま飴をすぐに噛み砕かなかった!?」
つい突っ込んでしまったが、クレオは手で口を隠してブンブンと首を横に振った。
あれだけ音を鳴らしておいて誤魔化そうと思えるその自信は何なの…?
「フッ…痛み止めか、あまり意味がないな。なにせ竜言語が今もなお継続されているようなものだ。その存在階位では、いずれ自我崩壊を招くぞ?」
そうだ、竜言語というものは僕らみたいな人によっては過剰な力である。
エイブラハムさんの言うとおり、そんなものの影響がずっと残っていたら死んでもおかしくない。
「あの、ポーションとかじゃ治らないんですか?」
「そいつはとっくに試してみたんだが、今も治ってないってことはダメみてぇだな」
怪我を治すアイテムであるポーションはそれなりの即効性があったと思うのだが、それでもダメとなるとどうしようもない。
「じゃあ、やっぱり僕はもう一度竜言語を使って―――」
「ンンッ!」
クレオが突然、僕の口を手で塞いできた。
いったいどうしたのかを思ってクレオを見ると、首を横に振っている。
多分、僕が使う事に反対しているんだと思う。
「でも、僕のせいでそんなことになっちゃったんだよ? それなら僕が治すべきだと思うんだけど」
「ン"ン"ン"!!」
先ほどよりも力強い否定が返って来た。
無理に力を使ってもいいのだが、そしたらきっとクレオがもう一度使っていたちごっこにしかならない。
さて、どうしたものか……。
「おいおい、何を悩んでいるんだ? この世界は宝島…なら、治す為のアイテムだって探せばあるはずだ」
モヒカンさんに押さえ込まれて情けない格好をしているエイブラハムさんから思わぬ言葉が出てきた。
そうだ、ここがあの『メメント・ユートピア』の世界ならば、治療するアイテムやアーティファクトが存在していてもおかしくない!
だからクレオを治すことだって不可能じゃないはずだ。
だけど、ひとつだけ大きな問題がある。
「レイシアさん、どうやって説得しよう…?」
僕らは部屋で作戦を立ててから外に出る。
このまま逃げても多分見つかって連れ戻されるので、なんとかしてレイシアさんの同意を得なければならない。
その為にもまずはレイシアさんを探さなければならないのだけど、その居場所はスグに分かった。
というよりも、見たくなかったものがオールスターで揃っていた。
集落の外れに大きな巨体と、不自然な冷気……そう、二つの超常存在がそこにいた。
「お…お久しぶりです、竜のオグマ・ドグマ様……どうしてここに?」
取り敢えずどんな用件で来たのか尋ねる事にする。
竜言語を使った罰を与えにきたとかであれば、とっくに何かしているはずなので、怖い用件ではないはずだ。
というかそう信じたい、この世界の神様にだって祈るくらいに。
「余の力を使ったな、小さき者よ。ならばその力を渡した余は、汝らの成した価値を見定めねばならん」
どうやら力をどう使ったかが気になって来たようだ。
そしてその近くにいたレイシアさんとキリークの人達が挨拶するように手を上げる。
「久しぶりだな、グリムの子フィルよ。ワシの見込んだ通り、おぬしは立派な男になって帰ってきたのぅ」
「お久しぶりです、レイシアさん。不本意な所も多々ありましたけど、流されてたらこんなことになってました」
「ハハハッ! その結果、定期的に男を浚える事になったのだ。おぬしには感謝しておるぞ」
なんという蛮族思考、男は奪うものという価値観が凝り固まりすぎてどうしようもない。
そして隣にいたキリークの人が手を差し出してきたので、僕もそれに応じて握手する。
「フィル殿、我らの為にその身を捧げるかのように戦って頂き、誠にありがとうございました。おかげで我らキリークの命運も繋がりました」
「ハッハッ! 今日はキリークとアマゾネスの同盟祝いだ。そんな固いこと言わずに飲もうじゃないか」
そう言ってレイシアさんが木のコップをキリークの人に渡す。
キリークの人もそういったノリが嫌いじゃない様子で、快くその中のお酒を飲み干した。
「それで……アズラエル様は、どうしてここに?」
あんまり仲良くない竜と一緒にいるというだけで、もう僕の胃が痛くてたまらない。
モヒカンさん達が持ってる痛み止めの飴を貰っておけばよかったと後悔してる。
「カカカカ! おぬしがようやく我輩の舌に魂を届けたのだからな、その寸評よ」
「えっと、ご満足頂けたのでしょうか…?」
恐る恐る聞いてみるのだが、アズラエルは歯を鳴らして僕の不安を煽ってくる。
「まぁ戦士の魂だ、我慢してやってもいいと言っておこう」
「ど…どうも、アズラエル様。ご堪能頂けたのであれば幸いでございます……」
どうやら「マズイ! 死ね!」という事にはならなかったようだ。
あの場面ではアズラエルの肋骨を使う以外の選択肢がなかったとはいえ、心臓に悪い賭けである。
「それにしてもおぬしはどうもよくモノを落とす。我輩でなければ今ごろその首を落とされていても文句はいえまいて」
「は…はは……確かに、首を落とされては文句も言えませんね」
あ…そういえば、またアズラエルの肋骨落としてた……。
もしかしてそれの懲罰目的だったりしますか!?
「そんな不出来な従者を助くのも主人の務めよ。これからは我輩の肋骨を落としても、ちゃあんとおぬしの元に戻るようにしておいた」
「ありがたき幸せにございます…」
つまり捨てても戻ってくるってことじゃないですか!
何がなんでも逃がさないという鋼のように硬い骨の意志を感じる…。
というか、先ほどから笑うように歯を鳴らしているけれど、どうしてこの人はこんなにも上機嫌なのだろうか。
「カカッ、まさか偶々拾った従者が英雄としての素質を供えておったとはな。いやはや、面白い拾い物をしたものだ!」
「あの…その英雄ってまさか……」
「おぬし以外に誰がいる? 敵の軍勢を一人で抑え、半数を返り討ちにし、そして生きている。おぬしの魂もそれに相応しい輝きを放っておるぞぉ」
そう言ってアズラエルの骨先と、そして言葉が僕の胸に刺さる。
「僕は、別に…英雄になんてなろうとは……」
「愚かな振る舞いだ。一時の栄華に目が眩み、力に手を出すとはな」
英雄という言葉に反応したのか、竜が言葉を挟んできた。
「その結果がその小さき者だ。汝らはいつも目先のものにばかり囚われる」
その言葉を聞き、喉が詰まるような思いがあった。
これが僕だけについて言っているのであれば甘んじて受け止めていた事だろう。
「確かにその通りです。ですが、僕らはまた同じ状況になったとしても、同じ選択肢をとった事でしょう」
「ほぉ?」
たった一言だというのに、その言葉の重圧が僕の全身に圧しかかる。
それに負けじと背筋を伸ばして僕は言う。
「僕は英雄になる為に力を使ったわけじゃありません。友達を、かけがえのない人を守る為に使いました。そして、それはクレオも同じです!」
僕の後ろにいたはずのクレオも、僕の隣に立ち、自信に溢れた顔をしながら竜と真っ向と対峙する。
「互いに互いを助け合うという事は、愚かなのでしょうか? ならば僕らは愚かであろうとも、気高く生きていく事を選びます」
竜を怒らせない、そして僕らの判断が間違っていないという主張を頑張ってまとめた言葉である。
これで見切りをつけられるか、それとも呆れられるか、どちらであっても構わない。
というかもう僕らに関わらないでくれませんか!
「カッカッ! すまんなぁ従者よ。この竜は孤独しか知らん、だから友というモノの価値を知らん哀れな竜なのだ。許してやるがよい」
今の一言で空気が揺れた気がした。
いや、風も吹いていないのに焚き火の炎が大きく揺れたから勘違いじゃない!
これ下手したら超常存在バトルの第二ラウンドが始まっちゃう!?
「……余にも友がいた。だが、余が思う価値と汝らの価値が同じかどうかは別である」
「ほぉほぉ、お前にも友と呼べるものがいたのか。ならば紹介してもらえんかのぉ?」
止めてアズラエルおじいちゃん!
過去形で話してたって事は多分それ聞いちゃダメなやつだから!!
そして竜は大きな鼻息をひとつし、再び重い口を開けた。
「汝らの価値を量る為にも、今は見る事にしよう。忘れるでないぞ、余は汝らの成す価値を見定めているという事を」
そう言って竜は大きく羽ばたき、空の彼方へと飛んでいった。
監視している宣言を残して。
もういいよ…無価値でいいから見ないでください……。
「ふむ、からかう相手もいなくなった。ならば我輩も去るとしよう。舌鼓を打たせる魂の献上を待っているぞ、我が舌よ」
そしてアズラエルの方も宙に浮き、そのまま風のように消えていった。
あぁ…結局、僕はあの人らから逃げられないんだな……。
因果というものはそう簡単に切り離すことはできないし、たとえ逃げたとしてもソレがじっとしてくれているかも定かじゃあない。
だからといって、過去に葬り去ったはずのモノがイキナリ目の前に出てきたら、意識を失うのも無理ないと思う。
……どうしよう、目を開けたくないのに意識が現実に引き戻されていくのを感じる。
このまま意識の底にある暗闇の中でまどろんでいたい。
そういえば本物のレックスの魂があったよね、僕の身体いる?
―――返事がない、多分渡されても困るよね。
分かるよ……僕だってこんな状況で身体を渡されても困るもん。
「ヘッヘッヘッ、最悪なタイミングで目を覚ましちまったなぁ!」
瞼を開けると、眼前にはインパクト抜群であるモヒカンAさんの顔があった。
良い人だってのは分かってるけど、それはそれとしてちょっと見た目のせいでドキドキが止まらない。
ちなみに間違っても恋が始まったりはしない。
そんな事を考えつつ身体を起こすと、そこはアマゾネスの集落にある大広間の部屋だった。
外では何やら宴会のような賑やかな声が響いており、恐らくは勝利の美酒を味わっているんだろう。
ときおり男性の叫び声が聞こえるのはきっと気のせいだ、うん、僕は何も聞いてない。
辺りを見回すとモヒカンさん達が僕の隣に、部屋の隅ではクレオが寝ており、エイブラハムさんはやっぱり入り口の近くで腕を組むムーブをしている。
あの人の何があそこまで後方腕組み分かってるよおじさんに駆り立てるのだろうか。
そこで僕はようやく誰かに手を握られている感触に気付いき、そちらに視線を移すと―――。
「おはようございます♪」
「ヒェッ」
そこには海の果てに向かったはずの原作ヒロインの一人、メレトがいた。
夢であってほしかった、悪夢ならまだよかった……。
「身体は大丈夫ですか? どこか痛んだりしませんか?」
「いえっ! 全ッ然大丈夫ですから!」
彼女が僕の身体をまさぐってきたので急いで後ずさったのだが、それでも彼女の素早さには敵わず、ベッタリと側から離れなかった。
「……あれ、本当に痛くない?」
無理な魔法の行使と竜言語の使用というかなり負荷の掛かる無茶をやったというのに、特に痛みや違和感はなく、快調そのものだった。
「そっちのお嬢ちゃんが不思議な力を使ったからな」
不思議に思っているとモヒカンさんがクレオの方を見てそう言った。
つまり、反動があるって分かってるのに僕を治す為に竜言語で治癒してくれたということだ。
「ん……?」
モヒカンさんと話したりメレトとドッタンバッタンとしていたせいか、クレオの目が開いてしまった。
それならそれで好都合なので、僕はクレオに感謝の言葉を伝える事にする。
「ありがとう、クレオ! おかげでボロボロだった身体も全快だよ!」
「ン…ア"…ッ!」
「……クレオ?」
いつもだったら「よぅ相棒!」とか言うはずなのに、目の前のクレオは喋ろうとしても上手く喋れてないようだった。
心なしか、少し目に涙が浮かんできているかのようにも見える。
「ふむ…俺が見てみよう。お嬢ちゃん、お口の中を見せてみな」
そう言って先ほどまで黙っていたエイブラハムさんがやって来た。
大きく開けられたクレオの口の中をまじまじと見ているけど、この人ってそういう経験でもあるのだろうか。
「スゥークンクン………良し!」
「なにも良くないよ!」
あろうことか、クレオの口の中の匂いを堪能しただけだった!
ほんとヒドイなこの人!?
そして流石にヤバイと思ったのか、モヒカンさん達がエイブラハムさんを引き離した。
「離せ! 俺は専門家だぞ!!」
「変態の専門家だろぉ!?」
「ケッケッ、こいつイカレてやがるぜ!」
モヒカンさん達を以ってしてもイカレていると言われているこの人はほんと何者なんだろうか。
僕らと同じただの転生人とは思えないんだけど…。
「まぁざっと見たところ、竜言語による負荷で喉が焼けながらも、治癒の効果が残っているせいでずっと治っては焼けてを繰り返してるようだな」
この人、こういう時だけほんと有能だから困る。
いやいや…それよりも今はクレオの容態の方が大事だ!
喉が焼けながら治っている…つまり、今もずっとその痛みがあるという事だ。
「ヘッヘッ、おいお嬢ちゃん。この痛み止めの飴を舐めときな!」
クレオは笑顔でモヒカンさんが取り出した飴玉を口に含み、ガリゴリと噛み砕く。
「ねぇいま飴をすぐに噛み砕かなかった!?」
つい突っ込んでしまったが、クレオは手で口を隠してブンブンと首を横に振った。
あれだけ音を鳴らしておいて誤魔化そうと思えるその自信は何なの…?
「フッ…痛み止めか、あまり意味がないな。なにせ竜言語が今もなお継続されているようなものだ。その存在階位では、いずれ自我崩壊を招くぞ?」
そうだ、竜言語というものは僕らみたいな人によっては過剰な力である。
エイブラハムさんの言うとおり、そんなものの影響がずっと残っていたら死んでもおかしくない。
「あの、ポーションとかじゃ治らないんですか?」
「そいつはとっくに試してみたんだが、今も治ってないってことはダメみてぇだな」
怪我を治すアイテムであるポーションはそれなりの即効性があったと思うのだが、それでもダメとなるとどうしようもない。
「じゃあ、やっぱり僕はもう一度竜言語を使って―――」
「ンンッ!」
クレオが突然、僕の口を手で塞いできた。
いったいどうしたのかを思ってクレオを見ると、首を横に振っている。
多分、僕が使う事に反対しているんだと思う。
「でも、僕のせいでそんなことになっちゃったんだよ? それなら僕が治すべきだと思うんだけど」
「ン"ン"ン"!!」
先ほどよりも力強い否定が返って来た。
無理に力を使ってもいいのだが、そしたらきっとクレオがもう一度使っていたちごっこにしかならない。
さて、どうしたものか……。
「おいおい、何を悩んでいるんだ? この世界は宝島…なら、治す為のアイテムだって探せばあるはずだ」
モヒカンさんに押さえ込まれて情けない格好をしているエイブラハムさんから思わぬ言葉が出てきた。
そうだ、ここがあの『メメント・ユートピア』の世界ならば、治療するアイテムやアーティファクトが存在していてもおかしくない!
だからクレオを治すことだって不可能じゃないはずだ。
だけど、ひとつだけ大きな問題がある。
「レイシアさん、どうやって説得しよう…?」
僕らは部屋で作戦を立ててから外に出る。
このまま逃げても多分見つかって連れ戻されるので、なんとかしてレイシアさんの同意を得なければならない。
その為にもまずはレイシアさんを探さなければならないのだけど、その居場所はスグに分かった。
というよりも、見たくなかったものがオールスターで揃っていた。
集落の外れに大きな巨体と、不自然な冷気……そう、二つの超常存在がそこにいた。
「お…お久しぶりです、竜のオグマ・ドグマ様……どうしてここに?」
取り敢えずどんな用件で来たのか尋ねる事にする。
竜言語を使った罰を与えにきたとかであれば、とっくに何かしているはずなので、怖い用件ではないはずだ。
というかそう信じたい、この世界の神様にだって祈るくらいに。
「余の力を使ったな、小さき者よ。ならばその力を渡した余は、汝らの成した価値を見定めねばならん」
どうやら力をどう使ったかが気になって来たようだ。
そしてその近くにいたレイシアさんとキリークの人達が挨拶するように手を上げる。
「久しぶりだな、グリムの子フィルよ。ワシの見込んだ通り、おぬしは立派な男になって帰ってきたのぅ」
「お久しぶりです、レイシアさん。不本意な所も多々ありましたけど、流されてたらこんなことになってました」
「ハハハッ! その結果、定期的に男を浚える事になったのだ。おぬしには感謝しておるぞ」
なんという蛮族思考、男は奪うものという価値観が凝り固まりすぎてどうしようもない。
そして隣にいたキリークの人が手を差し出してきたので、僕もそれに応じて握手する。
「フィル殿、我らの為にその身を捧げるかのように戦って頂き、誠にありがとうございました。おかげで我らキリークの命運も繋がりました」
「ハッハッ! 今日はキリークとアマゾネスの同盟祝いだ。そんな固いこと言わずに飲もうじゃないか」
そう言ってレイシアさんが木のコップをキリークの人に渡す。
キリークの人もそういったノリが嫌いじゃない様子で、快くその中のお酒を飲み干した。
「それで……アズラエル様は、どうしてここに?」
あんまり仲良くない竜と一緒にいるというだけで、もう僕の胃が痛くてたまらない。
モヒカンさん達が持ってる痛み止めの飴を貰っておけばよかったと後悔してる。
「カカカカ! おぬしがようやく我輩の舌に魂を届けたのだからな、その寸評よ」
「えっと、ご満足頂けたのでしょうか…?」
恐る恐る聞いてみるのだが、アズラエルは歯を鳴らして僕の不安を煽ってくる。
「まぁ戦士の魂だ、我慢してやってもいいと言っておこう」
「ど…どうも、アズラエル様。ご堪能頂けたのであれば幸いでございます……」
どうやら「マズイ! 死ね!」という事にはならなかったようだ。
あの場面ではアズラエルの肋骨を使う以外の選択肢がなかったとはいえ、心臓に悪い賭けである。
「それにしてもおぬしはどうもよくモノを落とす。我輩でなければ今ごろその首を落とされていても文句はいえまいて」
「は…はは……確かに、首を落とされては文句も言えませんね」
あ…そういえば、またアズラエルの肋骨落としてた……。
もしかしてそれの懲罰目的だったりしますか!?
「そんな不出来な従者を助くのも主人の務めよ。これからは我輩の肋骨を落としても、ちゃあんとおぬしの元に戻るようにしておいた」
「ありがたき幸せにございます…」
つまり捨てても戻ってくるってことじゃないですか!
何がなんでも逃がさないという鋼のように硬い骨の意志を感じる…。
というか、先ほどから笑うように歯を鳴らしているけれど、どうしてこの人はこんなにも上機嫌なのだろうか。
「カカッ、まさか偶々拾った従者が英雄としての素質を供えておったとはな。いやはや、面白い拾い物をしたものだ!」
「あの…その英雄ってまさか……」
「おぬし以外に誰がいる? 敵の軍勢を一人で抑え、半数を返り討ちにし、そして生きている。おぬしの魂もそれに相応しい輝きを放っておるぞぉ」
そう言ってアズラエルの骨先と、そして言葉が僕の胸に刺さる。
「僕は、別に…英雄になんてなろうとは……」
「愚かな振る舞いだ。一時の栄華に目が眩み、力に手を出すとはな」
英雄という言葉に反応したのか、竜が言葉を挟んできた。
「その結果がその小さき者だ。汝らはいつも目先のものにばかり囚われる」
その言葉を聞き、喉が詰まるような思いがあった。
これが僕だけについて言っているのであれば甘んじて受け止めていた事だろう。
「確かにその通りです。ですが、僕らはまた同じ状況になったとしても、同じ選択肢をとった事でしょう」
「ほぉ?」
たった一言だというのに、その言葉の重圧が僕の全身に圧しかかる。
それに負けじと背筋を伸ばして僕は言う。
「僕は英雄になる為に力を使ったわけじゃありません。友達を、かけがえのない人を守る為に使いました。そして、それはクレオも同じです!」
僕の後ろにいたはずのクレオも、僕の隣に立ち、自信に溢れた顔をしながら竜と真っ向と対峙する。
「互いに互いを助け合うという事は、愚かなのでしょうか? ならば僕らは愚かであろうとも、気高く生きていく事を選びます」
竜を怒らせない、そして僕らの判断が間違っていないという主張を頑張ってまとめた言葉である。
これで見切りをつけられるか、それとも呆れられるか、どちらであっても構わない。
というかもう僕らに関わらないでくれませんか!
「カッカッ! すまんなぁ従者よ。この竜は孤独しか知らん、だから友というモノの価値を知らん哀れな竜なのだ。許してやるがよい」
今の一言で空気が揺れた気がした。
いや、風も吹いていないのに焚き火の炎が大きく揺れたから勘違いじゃない!
これ下手したら超常存在バトルの第二ラウンドが始まっちゃう!?
「……余にも友がいた。だが、余が思う価値と汝らの価値が同じかどうかは別である」
「ほぉほぉ、お前にも友と呼べるものがいたのか。ならば紹介してもらえんかのぉ?」
止めてアズラエルおじいちゃん!
過去形で話してたって事は多分それ聞いちゃダメなやつだから!!
そして竜は大きな鼻息をひとつし、再び重い口を開けた。
「汝らの価値を量る為にも、今は見る事にしよう。忘れるでないぞ、余は汝らの成す価値を見定めているという事を」
そう言って竜は大きく羽ばたき、空の彼方へと飛んでいった。
監視している宣言を残して。
もういいよ…無価値でいいから見ないでください……。
「ふむ、からかう相手もいなくなった。ならば我輩も去るとしよう。舌鼓を打たせる魂の献上を待っているぞ、我が舌よ」
そしてアズラエルの方も宙に浮き、そのまま風のように消えていった。
あぁ…結局、僕はあの人らから逃げられないんだな……。
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良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
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とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
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#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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