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第16話:真相の一切れ
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「えー…………下校時は必ず四人以上で帰るようにと決まった。必ず家が近い集まりで帰ること、以上だ」
朝のホームルーム、教師からのお知らせで教室内がざわめき立つ。
昨日、再び犠牲者が発見された、中学生の二人組だ。
もちろん学校の言いつけ通り、二人一組で帰ったのに。
なぁなぁの防犯対策など、"本物"の前では無意味だとあざ笑っているようだった。
ホームルームが終わった後、男子達が集まってこそこそ話をする。
「最初は高校生で、次は中学生……ってことは、次は……」
「おいおい、滅多なこと言うなよ。縁起悪い」
「縁起で犯罪が起きるかよ」
「つうか、次に小学生が狙われるとしてどうすんだよ。おれらが小学校に行っても、それはそれで通報されっだろ。なぁ、コモノ?」
「…………んぁ!?」
神小があだ名で呼ばれてハッとして顔を向けると、怪訝な視線を向けられていた。
「おめー、変なこと考えてねぇよな?」「マジで通り魔なんとかしようとかすんなよ」「そーそー。前のだってマグレだろ?」「返り討ちになるだけだから止めとけって」
「昨日も言われてたけどしないっての!」
だが、神小にはどうしても気になっていることがある。
最初の犯行はまだしも、二回目はそれなりに警察や他の人も注意している中での犯行であった。
しかも、目撃情報なども一切なく、警察の捜査も難航しているとニュースで話していた。
けれども、神小には不可能とさえ思える犯行を、必ず成功させられる悪魔的な力に心当たりがあった。
≪催眠アプリ≫である。
もしも犯人が≪催眠アプリ≫を使っているならば、対抗できるとしたら自分だけだろうと考えていた。
自分だけが皆を助けられる時、何もしないでいるということは……ひどく、その心を苛むものである。
家に帰ってから、神小は≪催眠アプリ≫を起動して開発者の男と連絡する。
「いま話題になってる事件……やっぱ≪催眠アプリ≫の仕業だったりする?」
『いいや、それはない。確かにお前以外にも持っている奴はいたが、そいつはとうに牢屋に送られ、アプリも削除済みだ』
以前、野亥の父親の遺品を運ぶ際、実験的に≪催眠アプリ≫を別の男に使わせた時のことである。
「ん~……信じたい気持ちはあるんだけどさ、やっぱおかしいんだよ。だって一件の目撃情報がない。被害者からもないなんておかしくない?」
『私の他にこれを開発した奴がいるのではないかと思っているのか? 残念だが不可能だ。これを作り干渉できるのは私以外、絶対に存在しない』
「じゃあハッキングされて流出したとか――――」
『くどいぞ。そんな可能性は1Biteすら存在しない』
開発者はピシャリと言い切り、それ以上の追及を遮断する。
しかし、それでも神小は納得がいかない様子だった。
『フゥ……ならば、本当に≪催眠アプリ≫が関係していないか調査すればよかろう』
「調査って……夜の街に出て犯人でも捜すってこと!? その前に警察に捕まるって!」
『馬鹿者。被害者からの証言はなかったという話だったな。ならば無理やりにでも喋らせればいい……≪催眠アプリ≫でな』
そうして町の喧騒も静まり寝息すら聞こえてきそうな頃……神小は被害者が入院しているとされている病院に忍び込んでいた。
テレビ局やブンヤと呼ばれる者達が張り込んでいる中、関係者に≪催眠アプリ≫を使い、中まで入ることができていた。
『……小僧、不用意に使えばバレると言っていたが、もういいのか?』
「いやぁ、自分の為だったら使わないよ。けど今は違うし……これでバレちゃったら、それはそれでもう仕方がないって諦めるよ」
『ハァ………本当にしょうがない奴だな、お前は』
呆れたような、諦めたような……それでいて満足している声色だった。
被害者となった中学生の病室に入った神小。
そこには、ベッドで仰向けになりながら、天井を見つめ続けている子がいた。
「こ……こんばんは~……突撃、隣の――――」
起きているならばと声をかけてみるが、一切の動きがないことに気付いた。
それもそのはず……彼女の手足は拘束されており、寝返りすらうてない状態だった。
そして患者衣から覗き見える身体の節々には、まるで自分で掻きむしったような傷跡がいたるところに見受けられた。
「えぇ……これ、どういうことなの……?」
『よし、小僧。こいつに≪催眠アプリ≫を使え』
「なんかすっごい罪悪感……まぁやるけどさぁ……」
言われるがままに≪催眠アプリ≫を被害者に使うと、開発者がやはりといった感じで喋る。
『うむ、やはり≪催眠アプリ≫は関係ないな。既に催眠されていた状態ならば、防衛反応でお前の顔面に拳が突き刺さっていたところだ』
「なんちゅう方法で確かめようとしてんじゃい!」
小声で抗議しつつ、一つ咳払いをして神小が尋ねる。
「えーっと……結局、何があったのか教えてもらっていいかな?」
「先生、薬のせいだって、よくないもの、いっぱい………」
そうして、とつとつと被害者の子が言葉を紡ぎだす。
「いっしょにかえってた、だけだった、うしろから、きゅうにきた、見えなかった、分からなかった」
「なにか刺されて、いたかったのが、すぐ、へんなかんじ、なった、まいちゃんも、おんなじ、なった」
「いたい、うれしい、かなしい、うれしい、たのしい、うれしい、おかしい、こわい、こわい、いや、いや、いやっていった、やめなかった」
「やだやだやだ、もうやだやだやだやだやだ! もういれないで! ちがうものいれないでぇ!」
「まっず!!」
まるで昔のホラー映画のようにベッドが跳ね上がり、拘束具が引きちぎれんばかりの音を悲鳴を奏でていた。
神小はそれを上から無理やり抑えつけ、落ち着かせようとする。
「もういいから! 思い出さなくていいから! もう大丈夫だから!」
「やだやだやだぁ! なにもしてない! わたしなにもしてない! ちがう! ちがううぅ……ちが………うぅ……」
被害者の子は呼吸と共に落ち着きを取り戻していき、また死体のように静かな状態になってしまった
『どうやら薬物が原因のようだな。麻薬のようなものをオーバードーズを引き起こすほどに接種させられた……といったところか』
つまり≪催眠アプリ≫など関係なく…………ニュースで報道され、いつしか忘れ去られる一束いくらかの悲劇でしかなかった。
『さて、これで満足したな? この一件にお前や≪催眠アプリ≫は関係してない。あとは警察が捕まえるなりして終わりだ、帰るぞ』
しかし、神小は動けなかった。
虚ろな目で天井を見上げるその子の顔を、涙が浮かぶ眼を見て、そのまま背を向けることができなかった。
「……ねぇ、これ≪催眠アプリ≫で事件の記憶を消したりってできたりする?」
『可能だ。トラウマになっていようと完全に抹消できる。そして、証言も一緒に消え、警察が手に入れるはずの証言もなくなるな』
「じゃあ…………苦しいのとか、辛いのとかを軽くしたりとかは?」
『効果が不安定でもいいなら可能だ。感情の数値化は不可能だ。例えば半分だけを消そうとしても、その半分でコイツがどうなるかは実際にやらねば観測できんだろう』
神小が息を飲み込み、尋ねる。
「つまり……実験するまでどんな影響が出るか分からないってこと?」
『ついでに言うならば、一度消したモノは元に戻せん。もしかしたら、一生味わう悲しみが半分になるかもしれんな。まぁその時はもう一度催眠して、新たに感情を増幅させる手もあるが』
「そんな……っ!!」
失敗しても、まるで壊れた道具のように継ぎ接ぎすればいいなんてことは、到底認められるものではなかったが――――。
『それができるのが、お前が持ってる≪催眠アプリ≫だ。理解していただろう?』
そう……ここに潜入できたことも、被害者の子の口を無理やり割らせたのも、≪催眠アプリ≫の力によるものだった。
『……あぁ、別にキサマを責めてるわけではないぞ? ≪催眠アプリ≫は道具でしかなく、何をするかはお前の選択というだけだ。好きにしろ』
彼の中には被害者を救いたいという気持ちがある。
だが、実験体のように扱うことには大きな抵抗があった。
それでも……これから先、被害者の将来を思うならばやるべきだという考えもある。
しかしそれは、この子を実験体にするということであり……実験結果によっては、取り返しのつかないものになるだろうと理解していた。
正解が分からない、正しいものが分からない。
そもそも、そんなものが存在しているかも定かではないのだから。
「……ごめん、ちょっと待ってて………」
人が持つ選択というものの重さは、彼を動けさせなくするのに十分なものであった。
どれだけ考えても堂々巡り。
どっちを選んでも、被害者の子が不幸になる未来しか思い浮かばなかった。
「はぁー…………情けない奴で、ごめんねー……」
「ぁー……ぅー………」
神小は重苦しくため息をはき、呻く被害者の子の顔を見る。
まばたきをせず、必死に瞼を開けているようであった。
「あぁ……そうだよね、怖いよね。眠ったら、また怖いのを見ちゃうかもしれないんだし」
「………ぅー………ぁー……」
優しく頭を撫で、語り掛ける。
安らかにと願う彼の気持ちは届かず、その子は苦しそうに呻くだけであった。
「うん……決めた、使うよ≪催眠アプリ≫」
『ほぉ、そうか。それで、催眠内容は決まったのか』
静かに頷き、彼は≪催眠アプリ≫を使って優しく命令した。
「どうか……どうかこれ以上、悪夢を見ずに眠れますように――――」
せめてもの安らぎを、ひと時の安息を願った。
その言葉が効いたのか、被害者の子はゆっくりと目をつぶって小さな寝息を立てた。
『……そんなものでいいのか?』
「そんなものでいいのっ。俺は神様じゃないし、馬鹿なんだ。きっと、これくらいが丁度いいんだよ」
『ま、納得しているならいいがな。ではさっさと帰れ』
「いや、帰らないよ。被害者は三人いるんだから、あと二人にも使ってあげないと」
あっけらかんと、なんでもないかのように言う神小を見て開発者は心底うんざりした声で言う。
『お前は…………ほんと~~~~~ッに、どうしようもない馬鹿だなァ』
「知ってらぁ!」
悪態をつきながらも、神小の顔はスッキリとしていた。
「ぅ……ん……ちが………ちがぅ………よぉ……まいちゃん……」
被害者の子が、友達の名前を寝言で呟く。
部外者は邪魔をしないよう、ゆっくりと病室から出ようとした。
「おまぇじゃ……ないって…………じゃあ……だれと、まちがえたんだろうね………?」
その言葉は神小の足を止め、凄まじいる勢いで振り返らせるのに十分なものであった。
「お前じゃ……ない……っ!?」
つまり………これは無差別で無計画な犯行ではなく―――――。
『計画犯……つまり、特定の誰かを狙っているということか』
そしてそれを警察が知るには、被害者の子の心が治り証言を待つしかなく…………その時がくるまでは、神小しか知り得ない情報となってしまった。
朝のホームルーム、教師からのお知らせで教室内がざわめき立つ。
昨日、再び犠牲者が発見された、中学生の二人組だ。
もちろん学校の言いつけ通り、二人一組で帰ったのに。
なぁなぁの防犯対策など、"本物"の前では無意味だとあざ笑っているようだった。
ホームルームが終わった後、男子達が集まってこそこそ話をする。
「最初は高校生で、次は中学生……ってことは、次は……」
「おいおい、滅多なこと言うなよ。縁起悪い」
「縁起で犯罪が起きるかよ」
「つうか、次に小学生が狙われるとしてどうすんだよ。おれらが小学校に行っても、それはそれで通報されっだろ。なぁ、コモノ?」
「…………んぁ!?」
神小があだ名で呼ばれてハッとして顔を向けると、怪訝な視線を向けられていた。
「おめー、変なこと考えてねぇよな?」「マジで通り魔なんとかしようとかすんなよ」「そーそー。前のだってマグレだろ?」「返り討ちになるだけだから止めとけって」
「昨日も言われてたけどしないっての!」
だが、神小にはどうしても気になっていることがある。
最初の犯行はまだしも、二回目はそれなりに警察や他の人も注意している中での犯行であった。
しかも、目撃情報なども一切なく、警察の捜査も難航しているとニュースで話していた。
けれども、神小には不可能とさえ思える犯行を、必ず成功させられる悪魔的な力に心当たりがあった。
≪催眠アプリ≫である。
もしも犯人が≪催眠アプリ≫を使っているならば、対抗できるとしたら自分だけだろうと考えていた。
自分だけが皆を助けられる時、何もしないでいるということは……ひどく、その心を苛むものである。
家に帰ってから、神小は≪催眠アプリ≫を起動して開発者の男と連絡する。
「いま話題になってる事件……やっぱ≪催眠アプリ≫の仕業だったりする?」
『いいや、それはない。確かにお前以外にも持っている奴はいたが、そいつはとうに牢屋に送られ、アプリも削除済みだ』
以前、野亥の父親の遺品を運ぶ際、実験的に≪催眠アプリ≫を別の男に使わせた時のことである。
「ん~……信じたい気持ちはあるんだけどさ、やっぱおかしいんだよ。だって一件の目撃情報がない。被害者からもないなんておかしくない?」
『私の他にこれを開発した奴がいるのではないかと思っているのか? 残念だが不可能だ。これを作り干渉できるのは私以外、絶対に存在しない』
「じゃあハッキングされて流出したとか――――」
『くどいぞ。そんな可能性は1Biteすら存在しない』
開発者はピシャリと言い切り、それ以上の追及を遮断する。
しかし、それでも神小は納得がいかない様子だった。
『フゥ……ならば、本当に≪催眠アプリ≫が関係していないか調査すればよかろう』
「調査って……夜の街に出て犯人でも捜すってこと!? その前に警察に捕まるって!」
『馬鹿者。被害者からの証言はなかったという話だったな。ならば無理やりにでも喋らせればいい……≪催眠アプリ≫でな』
そうして町の喧騒も静まり寝息すら聞こえてきそうな頃……神小は被害者が入院しているとされている病院に忍び込んでいた。
テレビ局やブンヤと呼ばれる者達が張り込んでいる中、関係者に≪催眠アプリ≫を使い、中まで入ることができていた。
『……小僧、不用意に使えばバレると言っていたが、もういいのか?』
「いやぁ、自分の為だったら使わないよ。けど今は違うし……これでバレちゃったら、それはそれでもう仕方がないって諦めるよ」
『ハァ………本当にしょうがない奴だな、お前は』
呆れたような、諦めたような……それでいて満足している声色だった。
被害者となった中学生の病室に入った神小。
そこには、ベッドで仰向けになりながら、天井を見つめ続けている子がいた。
「こ……こんばんは~……突撃、隣の――――」
起きているならばと声をかけてみるが、一切の動きがないことに気付いた。
それもそのはず……彼女の手足は拘束されており、寝返りすらうてない状態だった。
そして患者衣から覗き見える身体の節々には、まるで自分で掻きむしったような傷跡がいたるところに見受けられた。
「えぇ……これ、どういうことなの……?」
『よし、小僧。こいつに≪催眠アプリ≫を使え』
「なんかすっごい罪悪感……まぁやるけどさぁ……」
言われるがままに≪催眠アプリ≫を被害者に使うと、開発者がやはりといった感じで喋る。
『うむ、やはり≪催眠アプリ≫は関係ないな。既に催眠されていた状態ならば、防衛反応でお前の顔面に拳が突き刺さっていたところだ』
「なんちゅう方法で確かめようとしてんじゃい!」
小声で抗議しつつ、一つ咳払いをして神小が尋ねる。
「えーっと……結局、何があったのか教えてもらっていいかな?」
「先生、薬のせいだって、よくないもの、いっぱい………」
そうして、とつとつと被害者の子が言葉を紡ぎだす。
「いっしょにかえってた、だけだった、うしろから、きゅうにきた、見えなかった、分からなかった」
「なにか刺されて、いたかったのが、すぐ、へんなかんじ、なった、まいちゃんも、おんなじ、なった」
「いたい、うれしい、かなしい、うれしい、たのしい、うれしい、おかしい、こわい、こわい、いや、いや、いやっていった、やめなかった」
「やだやだやだ、もうやだやだやだやだやだ! もういれないで! ちがうものいれないでぇ!」
「まっず!!」
まるで昔のホラー映画のようにベッドが跳ね上がり、拘束具が引きちぎれんばかりの音を悲鳴を奏でていた。
神小はそれを上から無理やり抑えつけ、落ち着かせようとする。
「もういいから! 思い出さなくていいから! もう大丈夫だから!」
「やだやだやだぁ! なにもしてない! わたしなにもしてない! ちがう! ちがううぅ……ちが………うぅ……」
被害者の子は呼吸と共に落ち着きを取り戻していき、また死体のように静かな状態になってしまった
『どうやら薬物が原因のようだな。麻薬のようなものをオーバードーズを引き起こすほどに接種させられた……といったところか』
つまり≪催眠アプリ≫など関係なく…………ニュースで報道され、いつしか忘れ去られる一束いくらかの悲劇でしかなかった。
『さて、これで満足したな? この一件にお前や≪催眠アプリ≫は関係してない。あとは警察が捕まえるなりして終わりだ、帰るぞ』
しかし、神小は動けなかった。
虚ろな目で天井を見上げるその子の顔を、涙が浮かぶ眼を見て、そのまま背を向けることができなかった。
「……ねぇ、これ≪催眠アプリ≫で事件の記憶を消したりってできたりする?」
『可能だ。トラウマになっていようと完全に抹消できる。そして、証言も一緒に消え、警察が手に入れるはずの証言もなくなるな』
「じゃあ…………苦しいのとか、辛いのとかを軽くしたりとかは?」
『効果が不安定でもいいなら可能だ。感情の数値化は不可能だ。例えば半分だけを消そうとしても、その半分でコイツがどうなるかは実際にやらねば観測できんだろう』
神小が息を飲み込み、尋ねる。
「つまり……実験するまでどんな影響が出るか分からないってこと?」
『ついでに言うならば、一度消したモノは元に戻せん。もしかしたら、一生味わう悲しみが半分になるかもしれんな。まぁその時はもう一度催眠して、新たに感情を増幅させる手もあるが』
「そんな……っ!!」
失敗しても、まるで壊れた道具のように継ぎ接ぎすればいいなんてことは、到底認められるものではなかったが――――。
『それができるのが、お前が持ってる≪催眠アプリ≫だ。理解していただろう?』
そう……ここに潜入できたことも、被害者の子の口を無理やり割らせたのも、≪催眠アプリ≫の力によるものだった。
『……あぁ、別にキサマを責めてるわけではないぞ? ≪催眠アプリ≫は道具でしかなく、何をするかはお前の選択というだけだ。好きにしろ』
彼の中には被害者を救いたいという気持ちがある。
だが、実験体のように扱うことには大きな抵抗があった。
それでも……これから先、被害者の将来を思うならばやるべきだという考えもある。
しかしそれは、この子を実験体にするということであり……実験結果によっては、取り返しのつかないものになるだろうと理解していた。
正解が分からない、正しいものが分からない。
そもそも、そんなものが存在しているかも定かではないのだから。
「……ごめん、ちょっと待ってて………」
人が持つ選択というものの重さは、彼を動けさせなくするのに十分なものであった。
どれだけ考えても堂々巡り。
どっちを選んでも、被害者の子が不幸になる未来しか思い浮かばなかった。
「はぁー…………情けない奴で、ごめんねー……」
「ぁー……ぅー………」
神小は重苦しくため息をはき、呻く被害者の子の顔を見る。
まばたきをせず、必死に瞼を開けているようであった。
「あぁ……そうだよね、怖いよね。眠ったら、また怖いのを見ちゃうかもしれないんだし」
「………ぅー………ぁー……」
優しく頭を撫で、語り掛ける。
安らかにと願う彼の気持ちは届かず、その子は苦しそうに呻くだけであった。
「うん……決めた、使うよ≪催眠アプリ≫」
『ほぉ、そうか。それで、催眠内容は決まったのか』
静かに頷き、彼は≪催眠アプリ≫を使って優しく命令した。
「どうか……どうかこれ以上、悪夢を見ずに眠れますように――――」
せめてもの安らぎを、ひと時の安息を願った。
その言葉が効いたのか、被害者の子はゆっくりと目をつぶって小さな寝息を立てた。
『……そんなものでいいのか?』
「そんなものでいいのっ。俺は神様じゃないし、馬鹿なんだ。きっと、これくらいが丁度いいんだよ」
『ま、納得しているならいいがな。ではさっさと帰れ』
「いや、帰らないよ。被害者は三人いるんだから、あと二人にも使ってあげないと」
あっけらかんと、なんでもないかのように言う神小を見て開発者は心底うんざりした声で言う。
『お前は…………ほんと~~~~~ッに、どうしようもない馬鹿だなァ』
「知ってらぁ!」
悪態をつきながらも、神小の顔はスッキリとしていた。
「ぅ……ん……ちが………ちがぅ………よぉ……まいちゃん……」
被害者の子が、友達の名前を寝言で呟く。
部外者は邪魔をしないよう、ゆっくりと病室から出ようとした。
「おまぇじゃ……ないって…………じゃあ……だれと、まちがえたんだろうね………?」
その言葉は神小の足を止め、凄まじいる勢いで振り返らせるのに十分なものであった。
「お前じゃ……ない……っ!?」
つまり………これは無差別で無計画な犯行ではなく―――――。
『計画犯……つまり、特定の誰かを狙っているということか』
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