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第264話 狂竜バリエ

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ドラゴン相手に火炎魔法や氷結魔法は効果が薄い。バリエを倒すのには爆発魔法や土魔法で体勢を崩してから、グラン・ソラスで首を刎ねるのが一番手っ取り早い方法だと思う。

「オオオオオッ!」

バリエは咆哮を上げながら、その巨大な体で俺を押し潰そうと迫って来た。歩くごとに地響きを立てるその様は、まるで重機か戦車にでも襲い掛かられたように錯覚してしまう。近寄られるだけでもかなりのプレッシャーだが、俺は冷静に攻撃の機会を窺った。

人体など当たるだけで爆散させそうな大きさと鋭さを持つ鉤爪が、唸りを上げて振るわれる。俺はそれを躱そうとはせず、アイギスの盾に魔力を流して受け止める事にした。まずは力比べだ。今の俺が一般的なドラゴン相手にどこまで対抗できるか、貴重な機会なので試しておきたい。

「ぐおっ!?」

ガツッと言う音と共に盾を装備する左腕に凄まじい衝撃が加えられる。足を踏ん張り歯を食いしばって耐えようとしたが耐えられたのは一瞬だけで、俺の体は軽々と崖の方まで弾き飛ばされてしまった。やはりまともにやり合っては勝ち目が無さそうだ。

空中で体勢を入れ替えて足から崖に着地し、今度は飛ばされた時の倍はある速度でバリエに斬りかかる。バリエはそれを迎撃しようと腕を振るうが、巨体故に素早く動く事は出来ず、攻撃した時には既に腕の下をかいくぐられた後だ。間近に迫ったバリエは腕を振り抜いた状態で無防備に腹を晒している。俺は空中でグラン・ソラスに魔力を流し、そのまま剣を突き出した姿勢でバリエと激突する。剣はやすやすと柄まで鱗を貫き、内臓まで達した。

「ギャアアアッ!」

苦痛の声を上げながら俺を叩き潰そうと腕を振り下ろしてくるバリエ。だが瞬時にそれを察知して、剣を引き抜き奴から離れる。傷口からは鮮血が溢れ出し、剣を握る俺の手も真っ赤に染まっていた。結構な深手に思えたがまだこの程度では何ともないのか、バリエは牙をむきながらこちらを睨み付けている。

すると奴は大きく口を開け、ブレスを吐く予備動作に入った。盾に魔力を籠めれば防ぐ事は出来るだろうが、わざわざ正面から受けるつもりなど毛頭ない。口から光が漏れブレスが吐かれる直前、俺は横っ飛びに回避行動を取る。直後にバリエの口から放出されたのは他のドラゴン達の吐くブレスとは違い、大きな岩の塊が喉の奥から撃ちだされていた。

「げっ!」

凄まじい勢いで迫る岩の塊そのものは回避できたものの、それが激突した衝撃で撒き散らされた岩の破片が辺り一面に飛散した。まさか物理攻撃だと思わなかったので背後に対する警戒を怠っていた俺は、その無数の破片を背中と後頭部に受ける事となってしまった。

「いでででで!」

大部分は鎧で防がれても、剥き出しの頭にはかなりの数の破片が命中する。レベルが上がっている事で石が当たった程度では痛いとしか感じないが、反射的に目を閉じた影響で一瞬視界がゼロになる。そこを見計らったかのようにバリエが再び大岩を吐き出した。巨大な物が空を裂く音が迫ってきて、反射的に転移を使いさっきまでバリエが居た位置の後方に移動する。しかし何度か転移を見せていた事で学習したのか、奴はその巨大な尻尾を俺が消えたと同時に振り回していたのだ。

それを知らない俺は転移で出現した直後、目の前に迫るバリエの尻尾を防ぐ事が出来なかった。咄嗟に頭を庇い体を縮める事で衝撃を緩和しようとしたが一撃の威力は凄まじく、俺の体は地面をバウンドしながら崖まではね飛ばされた。

「ぐっうううっ!」

地面を転がり泥に汚れ何とか体勢を立て直すと、ここぞとばかりにバリエが地響きを上げながら体当たりをしようと突進してくる。こちらを押し潰して完全に勝負を決めるつもりだ。迎え撃とうと剣を持つ腕に力を入れ、激痛に顔をしかめる。良く見れば手首がおかしな曲がり方をしている。これは骨折か脱臼かしているな。

「ガアアアッ!」

こちらが剣を振れないのを知ってか知らずか、バリエは口の端からよだれを撒き散らし、絶叫しながら目前まで迫る。だがそれは俺に対して悪手でしかない。強固な鱗に守られたドラゴンが口を開けたままと言う事は、わざわざ弱点をむき出しにしている事に他ならない。俺は瞬時に出来うる限りの魔力を用い爆発魔法の光球を作りだすと、今まさに俺に牙を突き立てようとしたバリエの口の中に魔法を叩き込んだ。

それと同時に横に飛びバリエの噛みつきを紙一重で躱すと、奴の体内からはズンと言う衝撃音と共に腹が内側から破裂した。突っ込んで来た時の勢いそのままに崖に激突したバリエは、そのまま崩れ落ちてしまった。まともに当たれば堅固な城門すら破壊できる威力なのだ。あんなものを体内に飲み込んで無事で済む筈が無い。

「オオオ……グウウ……!」

バリエにはもはや戦うどころか、自らの力で身を起こす力も無いようだ。もともと彼に対して敵意は無かったのだ。あまり苦しめずに止めを刺してやろう。弱々しくもがくその巨体に無言で近寄り、左手に持ち替えたグラン・ソラスを一閃させると、バリエの首は胴から綺麗に斬り落とされた。すると、一瞬だがバリエの目に理性が灯ったようにこちらを見つめたのだ。まるで苦しみから解き放ってくれた事に感謝するように。いや…違うな。俺がそう思いたいだけで、彼が本当に死にたかったかどうかなんて解るはずが無い。都合のいいように考えるのはよそう。

首を振って本来の目的である魔石の確認作業に移る。さっきの魔法で体内から爆発した影響か、外から見るだけでバリエの体の奥には光り輝く巨大な魔石が確認できる。後はこれを持って帰ればお終いだ。そして単独でドラゴンを倒したのが利いたのか、レベルが一つ上がっていた。

エスト:レベル93 『フロアマスター討伐×2』『不死殺し』『アルゴスの騎士』『巨人殺し』『悪魔殺し』
HP 4660/4660
MP 4190/4190
筋力レベル:6(+8)
知力レベル:6(+9)
幸運レベル:3(+7)
所持スキル
『経験値アップ:レベル3』
『剣術:レベル6』
『同時詠唱:レベル2』 
※隠蔽中のスキルがあります。

『新たなスキルを獲得できます。次の中から選んでください』
『電撃魔法:レベル4』
『火炎魔法:レベル4』
『土魔法:レベル4』
『同時詠唱:レベル3』

今回は今後頻繁に使う事になる土魔法を強化しておこう。要塞線の構築にはレベルの高い土魔法が必要だからな。

狂竜バリエ、彼から奪い取った魔石は世界の平和のために役立たせてもらおう。それが昔ファフニルと共に戦った戦士に対しての慰めになるだろうから。
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