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第323話 クロウ救出

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デゼルに協力すると決めたのはいいが、まずやる事はクロウ達の救出だ。彼等が人質に取られたりどさくさ紛れに殺されたりしたら後々面倒な事になる。首尾よくデゼルが王位についたとしても、ネムルがクロウ達を害せばそれはミレーニアがグリトニルに敵意ありと見られてしまうからだ。そうなったら今後交渉どころではなくなってしまう。

デゼルと共に王城に向かった俺は彼女に同調する兵士の一団に紛れながら廊下を進み、クロウ達が捕らえられている部屋に向かった。今この城では誰が敵で誰が味方かハッキリとせず、心から信用できるもの以外は疑ってかかる状況だった。ネムルに付き従って甘い汁を吸っている連中からすれば、デゼルの様に国を正そうとする人間は邪魔者以外何者でもないのだから。

「…あそこです。あの部屋にクロウ殿達が監禁されています」

さっきまでフードを被ってデゼルの横に居た護衛の一人が、素顔を晒した状態で今俺の横に居る。彼は小声でささやくと、ある一つの部屋を指さした。至って普通の部屋の入口だと言うのに、廊下には小隊規模の兵士達が見張りについている。なるほど、ネムルはクロウ達を逃がす気は無いようだ。

手はずとしてはクロウ達を救出した後全員を連れてさっきの教会まで戻り、それを合図にデゼル派の兵士達が王城の要所やネムル派の貴族邸を襲撃する事になっている。完全な不意打ちだから成功する確率は高いが、何が起こるかなんて誰にも解らない。ここは気を引き締めて行こう。

護衛の一人に頷いて俺はふらりと見張り達に歩いて行く。クロウ達の救出は俺の仕事だ。デゼルの護衛達を協力させると言う申し出もあったが、かえって邪魔になるので遠慮してもらった。魔法の巻き添えにする訳にはいかないからだ。

「何者だ!そこで止まれ!」

俺の姿を認めた兵士が警告の声を上げ、周りの兵士達が一斉に武器を構える。だが俺はそれを無視して距離を詰め、密かに準備していた電撃魔法を兵士達に放った。威力を弱めていたとは言え人の意識を刈り取るぐらいは訳も無い威力の魔法だ。なす術も無く直撃した兵士達は声も上げずにその場に次々と倒れ込んだ。

「お見事。流石です」

いつの間にか近寄っていた護衛が称賛の声を上げる。褒めてくれるのは嬉しいが急に現れるなんて心臓に悪い奴だ。俺は無言で剣を抜き放ち、いつも通り魔力を流すと扉に向けて一閃した。それなりの強度を誇っていたであろう扉はグラン・ソラスの一撃でバラバラに斬り裂かれ、出来の悪いジグソーパズルのように廊下に転がった。

「エスト殿か!?ありがたい!助けに来てくれたのだな!」

部屋の中からクロウが顔を出したかと思うと、俺の姿を見て破顔する。特に怪我などしていないようだが軟禁された事が精神的にきつかったのか、少しやつれた印象だ。

「逃げますよ。俺に掴まって下さい」

取り残されてはたまらないとばかりに、クロウ達使節団の面々は焦りを浮かべて俺の体にしがみついてくる。おっさん達にしがみつかれて少々げんなりするが、ここは我慢だ。ここに残る予定の護衛に一つ頷いて、俺達はさっきの教会に転移した。

教会にはさっきまでと同じくデゼルの他彼女の護衛達が居て、それに知らない人物が何人か増えていた。こんなところまで来ると言う事は、彼女が頼みとする存在なのだろう。恐らく有力貴族か何かか…どちらにせよ敵ではないはずだ。

「エ、エスト殿…ここは?それにデゼル殿下ではありませんか!これは一体どう言う…?」

クロウ達が戸惑うのも当然か。彼にとってはミレーニアと言う国が自分達を閉じ込めたのであって、そこに国王や王女の違いは無いはずだ。敵対したとばかりに思っていた国の連中から助け出され、脱出した先にその国の王女が居れば、混乱するのも仕方が無い。

「クロウ殿、この度は父が大変なご迷惑をおかけしました。国を代表して謝罪させていただきます」

丁寧に頭を下げるデゼルに、クロウ達は戸惑うばかりだ。そんな彼等を安心させるように、デゼルは花の様な笑顔を浮かべる。

「クロウ殿達には、こうなった経緯を説明させてください。お恥ずかしい話なのですが…」

デゼルが俺に話した内容と同じ話をクロウ達に話していく。当初は困惑していたクロウもそこは国の代表を務める人物だけあって、すぐに事態を把握できたようだ。小さく頷きながらデゼルの話を聞き終えたクロウは、少しの間も置かずに口を開いた。

「状況は理解出来ました。我が国としてもデゼル様の様な聡明な方に王位についていただいた方が助かります。本国に帰ってからでないと正式な発表は出来ませんが、きっと我が国の王もデゼル様を支持なさるでしょう」
「ありがとうございます。クロウ殿のお言葉で百万の味方を得た気分です」

簡単なやり取りに見えるが、実は今のは結構重要な意味を持つ。暴力で王位を奪取するデゼルは国内はともかくとして、対外的には孤立無援の状態だ。そんな彼女にグリトニルが正式に支持を表明するのは、彼女の行動に正当性を与える事になる。もちろん全ての国が支持するとは限らないが、何処も声を上げないよりはマシだろう。

「これで次の段階へ進めますね。ではエスト殿、参りましょうか。クロウ殿達はここでお待ちください。この場は安全ですし、この教会の周りは変装した味方が守りを固めています。万が一の場合は無事に逃げられるでしょう」

素早く身支度を整えたデゼルが教会の奥へと足を向ける。行き止まりかと思っていたが、隠し通路の一つでもあるのだろう。デゼルの後に続く俺に、心配顔のクロウが声をかける。

「承知しました。ご武運をお祈りしています。エスト殿、頼みましたよ」
「解ってますよ。いざとなったら敵も味方も全滅させます」
「解ってない!全然解ってない!」

ちょっとした冗談だと言うのに、クロウは頭を抱えて悲痛な声を上げてしまった。悪いとは思うが、このオッサンは冗談を真に受ける事があるからついからかってしまうのだ。護衛達は俺の冗談に不審な目を向けていたが、デゼルは苦笑していただけだ。

さあ、適度な冗談で緊張もほぐれたし、役目を果たすとしますか。
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