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第346話 地下の城

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下の階層へと降りる階段はすぐに見つかり、次の地下十六階へは簡単に辿り着けた…が、そこからが単調だった。地下十六階以降は上の草原や荒野、苦しめられたばかりの雪原とは違い、至って普通の作りのダンジョンだったのだ。だがそれはいい。環境で苦しめられるよりジメジメした穴倉の中の方がいくらかマシだったからだ。しかしそれが延々続くなら話は別で、地下二十階に到達しても一向に変化が訪れない状況に俺達は辟易していた。

「流石に飽きてきたな…」
「そうですね…」
「シャリーつかれた」
「兄様もう帰ろうよ~」
「フロアマスターの姿どころか、魔物ですら滅多に姿を現さないとはな…」

雪原でフェンリルを撃退してから、半日とは言わないまでも何時間か歩きっぱなしなのは間違いない。そのために俺は勿論彼女達のテンションはガタ落ちしていた。疲れも溜まっているし、流石に今日は帰ろうかと思ったその時、俺は足元の地面が細かく揺れている事に気がついた。ダンジョンの中で地震があるのかと思いかがんで地面を見てみると、そこには細かなヒビが無数に走っていた。真っ暗闇の中、頭上に浮かぶ魔法の光だけでは足元の異変にまで気がつかなかったのだ。

「なんだ?」
「何か振動が…ご主人様!あれ!」

クレアの指さす方向を見ると、ほんの十数メートル地面に穴が開いているのが見えた。しかもその穴は一つだけでなく、見ている間にどんどん広がっていく。

「これって危なくない?」
「みんな、今来た方に逃げ…!」

レヴィアの言葉に一時後退を告げようとしたその時、俺達の足元にある地面が崩落を開始した。突然の浮遊感に襲われたながら、ここで唐突に前世の事を思い出す。昔見たアニメなんかでは高い所から落ちる時大概絶叫していた物だが、実際に自分が体験するとそんな余裕は皆無だと解った。なにせ暗いダンジョンの中いきなり地面が無くなり自由落下を始めるのだ。どっちが上か下か解らない状況で無数の瓦礫が体を打ちのめし、声を上げる暇も無い。訳が解らない内に体に強い衝撃を受け激しい痛みに呼吸できないでいると、自分が地面に叩きつけられたのだとようやく理解する事できた。

「う…ぐ…みんなは…?」

慌てて周囲を見渡せば、みんなは痛みに顔をしかめながらも自らの足で立ちあがっている。よかった、命に係わる怪我はしていないようだ。

「しかし、これは…」

ホッとしながら今自分達が落ちてきた天井部分を見上げてみれば、ゆうに百メートルはあろうかと言う位置に大穴が空いている。あれだけの高さから落ちて痛いだけで済んでいるのだから、レベルの恩恵をこれほど実感出来た事は無い。並の冒険者なら今の衝撃だけで死んでいただろう。

全員の傷を回復魔法で癒しながら改めて周囲を観察してみると、そこは寂れた城門の前だと解った。門には蔦や苔がびっしりと張り付き所々崩れている。門の奥に視線をやると、こちらも門同様寂れた石畳の先に、朽ち果てた城が姿を現していた。その禍々しい雰囲気はまるでゲームの中に出て来る魔王の城だ。流石にこんなところに本物の魔王が居るはずも無いが、それに類する力の持ち主がこの城に住んでいるだろう事は予想できる。

「なんかやばい雰囲気だな。疲れもあるし、ここは一旦引くか」
「その方が良さそうだ。慎重に行こう」
「シャリーちゃん達も集まって。ご主人様に掴まって」

疲れたまま無理して探索を続けるより、一旦体勢を立て直してから改めてここに訪れた方が良い。幸い魔族の侵攻はまだまだ先の事だし時間には余裕がある。今焦る理由は何も無かった。全員が掴まったのを確認した俺はいつものように魔力を腕輪に流し、一気に城まで転移しようと腕輪の能力を発動させた…と思ったら、次に現れたのは今居た場所だった。

「あれ?失敗した?」
「珍しいわね。兄様が失敗なんて」

まあたまにはこんな事もあるかと気にすることなく再度転移してみたが、出て来たのは再び同じ場所だった。むきになって何度か連続で試してみたものの、現れるのはすべて同じ場所。それだけ繰り返せば流石にこれが異常事態だと言う事に気がついていた。

「絶対おかしい。これだけ失敗するのは何か理由があるはずだ」
「見た所腕輪が壊れていたりはしていない…と言う事は、何らかの外的要因で転移が阻害されていると見るのが妥当だろうな」

俺の腕輪を観察したディアベルが結論づけるようにそう言う。他の理由は考えられないし、確かに彼女の説が正しいように思える。しかし困った。転移が封じられると言う事は、戦闘で不便になるのは勿論、食料が手に入らない事を意味している。いくらレベルが上がろうが腹が減るのは万人に共通している事なので、事態は結構深刻だ。

「持って来た分の食料は食べつくしたしな…仕方ない。あの城の中を探してみるか。何かあるかも知れないし」
「そうですね。このままここに居ても事態は変わりませんし」

他に選択肢の無い俺達は、目の前の城を探索する事に決め寂れた石畳の上を歩き始めた。鬼が出るか蛇が出るか、こればっかりは実際に入って見ないと解らない。しかし俺達なら大抵の事はどうとでもなるはずだ。

「出来ればお宝の山とかがあった方が良いんだけど、そんなのがある訳ないか…」

ぼやきながらも周囲への警戒は忘れず俺達は城へと進んで行く。一体どんな奴が主なのかは解らないけど、こんな所に住んでる奴だ、絶対一筋縄ではいかないだろう。今まで以上に注意して進むとしよう。
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