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第四章 聖女と勇者と精霊と
挿入話 テンダー=セラータ 2
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「…99!100!っ、はあっ、はあっ」
100回の剣の素振り。
いつもの鍛練。
集中しないと意味がないのに、最近はなかなか無心になれない。
思い出すのは、学園祭の日の、あの時だ。
◇
「リリー!」
マリーの悲鳴のような声に振り返ると、魔獣に飛ばされたのかリリーが宙に舞っていて。
一瞬、身体が硬直した。
こんなことは初めてだった。
俺が飛び出すより早く「リリー!」と、叫びながらフィスが彼女の元へ飛んで行く。
そしてしっかりと抱き留めて、大切な宝の様に抱き抱えた。
……フィスの想いは知っている。どれだけ深いかも。想いが通じるようにも、祈っている。だから、俺が悔しく思うのはおかしい。
おかしいのに、少しだけどこかがチクッとして。
『ぐああっ!』と、魔獣の唸り声に、はっと意識が戻る。ヤバい、リリーのことで呆然としているマリーに魔獣が!やるべきことをやらなくては。戦場では一瞬の隙が命取りになる。今は、余計なことを考えるな。
考えるな、考えるなって、思って、いて……
◇
『考えておるのぅ』
「わっ、サラ!急に現れて何だよ?!」
つい悪態をついてしまった。
『いやなに、いつもより剣に覇気がなかったからの』
「うっ」
ストレートに言われ、言葉に詰まる。火の精霊の気質なのか、サラはいつでも真っ直ぐだ。読心もしていない…と思う。けどすぐに、いろいろバレる。
「俺だって、時々は考え事くらいするよ」
『ほーう。普段あれだけ拘っとる鍛練中にか?』
「……」
そう、ダメなことだ。頭では分かってる。けど……。だって、こんなことは初めてで、自分で自分の気持ちをどこに持っていけばいいかすら分からなくて。
無意識に俯くと、サラにペシッと軽く頭を叩かれた。
「たっ、」
『俯くでないわ。自覚したのなら、認めろ。その気持ちに優劣はないし、先も後もない』
「ーーーっ!!なんで」
顔を上げて、反射的に睨むように言ってしまうと、サラは腹が立つほどにやれやれ感丸出しの顔をしていた。
『お主が始めからリリーを意識していたのは気づいておったしのぅ。フィスを気にして無意識に気持ちを抑えていることもな』
「……読心したのか?」
『舐めるなよ、小童が。お主くらいなど、そんなことをせずともお見通しだわ』
スッと目を細くして言われた。
笑顔を浮かべているが、余計に怖い。
「……すみませんでした……」
『分かればよい。それで?どうしたいのだ?』
「そんなことを言われても。分からないから悩んでんだろ」
『悩め悩めと言いたい所だが。そうさな、もうひとつだけ。お主のそれは、自己保身じゃよ』
「は?!」
『平たく言えば、お主が振られる分には、お主以外は傷つかないということさな~』
「はあっ?!」
『じゃあの~。悩めや青少年~』
言いたいことだけ言って、ヒラヒラと消えていく。
「なんだよ、自己保身って」
……………………………………………………。
いや、確かに。
もし、リリーに気持ちをぶつけて、振られたとして。リリーがフリーなことに変わりはなく、フィスも変わらずリリーにアタックができる訳だ。
でも、もし、リリーが応えてくれたら?
「っ!」
そこまで考えて、自己嫌悪に陥る。
「…ほんと、情けないな、俺」
どこかで祈ってる、夢見ている。リリーの隣にいられることを。そして、フィスとも変わらずに友人でいたいんだ。
認めろ、というサラの言葉がぐるぐる回る。
自己保身、そうだ。自分勝手だ。それもそうだ。
でも、黙っているのも違うだろ。
完璧に自分を騙せるくらいの人間になれるなら、きっとこのまま見守っていられるのだろうな。でも、俺には無理だ。
「……言おう、フィスにも。リリーにも」
『テンダー強くてびっくりしちゃった!カッコ良かったよ~!』
エレナ嬢の処遇を決める時に、『すごい、すごい』と王城で会ったリリーが興奮しながら言ってくれたのを思い出す。
緩みそうになる口を抑えながら、覚悟を決める。
やるべきことが見えてくると、落ち着いてきた。
「集中して、鍛練し直そう」
『そうだ、忘れておったわ~』
清々しい気持ちで剣を再度握ったところで、またサラが現れた。
「なんだよ、人がせっかく」
『フィスから伝言だ。先ほどはそのために来たのだったわ。一週間後にみなでサバンズ家の長男を見に行こうと。まったく、忙しいのは分かるが、妖精と精霊を手紙代わりにしおって』
「……そうか、わかった。楽しみだな。伝言ありがとう、サラ」
『おや。ずいぶんとスッキリした顔になったの』
「まあね。ちゃんとしようと決めたよ。……サラ、ありがとう」
最後の方は何だか照れ臭くて、横を見ながらぼやくように言ってしまったけれど、サラは嬉しそうに頭をぐしゃぐしゃに撫でてきた。それがまたこそばゆいけど、嫌じゃない。
「一週間後か。…その前にフィスに会えるかな」
『仕方がないのぅ。また伝言係になってやるわ』
「いいのか?」
『かわいい愛し子のためだからの~。む?これではルシーのようか?』
「あー!そうだ、ルシーもいたー!」
『ふふ、競い甲斐があるのぅ』
「他人事だと思って……」
だんだんと、無謀に思えてきた。だって王子と四大精霊だ。でも。
「頑張るよ。俺だってサラの大事な愛し子だし!」
『その意気じゃ!』
逃げないって決めた。
自分の為にも。
100回の剣の素振り。
いつもの鍛練。
集中しないと意味がないのに、最近はなかなか無心になれない。
思い出すのは、学園祭の日の、あの時だ。
◇
「リリー!」
マリーの悲鳴のような声に振り返ると、魔獣に飛ばされたのかリリーが宙に舞っていて。
一瞬、身体が硬直した。
こんなことは初めてだった。
俺が飛び出すより早く「リリー!」と、叫びながらフィスが彼女の元へ飛んで行く。
そしてしっかりと抱き留めて、大切な宝の様に抱き抱えた。
……フィスの想いは知っている。どれだけ深いかも。想いが通じるようにも、祈っている。だから、俺が悔しく思うのはおかしい。
おかしいのに、少しだけどこかがチクッとして。
『ぐああっ!』と、魔獣の唸り声に、はっと意識が戻る。ヤバい、リリーのことで呆然としているマリーに魔獣が!やるべきことをやらなくては。戦場では一瞬の隙が命取りになる。今は、余計なことを考えるな。
考えるな、考えるなって、思って、いて……
◇
『考えておるのぅ』
「わっ、サラ!急に現れて何だよ?!」
つい悪態をついてしまった。
『いやなに、いつもより剣に覇気がなかったからの』
「うっ」
ストレートに言われ、言葉に詰まる。火の精霊の気質なのか、サラはいつでも真っ直ぐだ。読心もしていない…と思う。けどすぐに、いろいろバレる。
「俺だって、時々は考え事くらいするよ」
『ほーう。普段あれだけ拘っとる鍛練中にか?』
「……」
そう、ダメなことだ。頭では分かってる。けど……。だって、こんなことは初めてで、自分で自分の気持ちをどこに持っていけばいいかすら分からなくて。
無意識に俯くと、サラにペシッと軽く頭を叩かれた。
「たっ、」
『俯くでないわ。自覚したのなら、認めろ。その気持ちに優劣はないし、先も後もない』
「ーーーっ!!なんで」
顔を上げて、反射的に睨むように言ってしまうと、サラは腹が立つほどにやれやれ感丸出しの顔をしていた。
『お主が始めからリリーを意識していたのは気づいておったしのぅ。フィスを気にして無意識に気持ちを抑えていることもな』
「……読心したのか?」
『舐めるなよ、小童が。お主くらいなど、そんなことをせずともお見通しだわ』
スッと目を細くして言われた。
笑顔を浮かべているが、余計に怖い。
「……すみませんでした……」
『分かればよい。それで?どうしたいのだ?』
「そんなことを言われても。分からないから悩んでんだろ」
『悩め悩めと言いたい所だが。そうさな、もうひとつだけ。お主のそれは、自己保身じゃよ』
「は?!」
『平たく言えば、お主が振られる分には、お主以外は傷つかないということさな~』
「はあっ?!」
『じゃあの~。悩めや青少年~』
言いたいことだけ言って、ヒラヒラと消えていく。
「なんだよ、自己保身って」
……………………………………………………。
いや、確かに。
もし、リリーに気持ちをぶつけて、振られたとして。リリーがフリーなことに変わりはなく、フィスも変わらずリリーにアタックができる訳だ。
でも、もし、リリーが応えてくれたら?
「っ!」
そこまで考えて、自己嫌悪に陥る。
「…ほんと、情けないな、俺」
どこかで祈ってる、夢見ている。リリーの隣にいられることを。そして、フィスとも変わらずに友人でいたいんだ。
認めろ、というサラの言葉がぐるぐる回る。
自己保身、そうだ。自分勝手だ。それもそうだ。
でも、黙っているのも違うだろ。
完璧に自分を騙せるくらいの人間になれるなら、きっとこのまま見守っていられるのだろうな。でも、俺には無理だ。
「……言おう、フィスにも。リリーにも」
『テンダー強くてびっくりしちゃった!カッコ良かったよ~!』
エレナ嬢の処遇を決める時に、『すごい、すごい』と王城で会ったリリーが興奮しながら言ってくれたのを思い出す。
緩みそうになる口を抑えながら、覚悟を決める。
やるべきことが見えてくると、落ち着いてきた。
「集中して、鍛練し直そう」
『そうだ、忘れておったわ~』
清々しい気持ちで剣を再度握ったところで、またサラが現れた。
「なんだよ、人がせっかく」
『フィスから伝言だ。先ほどはそのために来たのだったわ。一週間後にみなでサバンズ家の長男を見に行こうと。まったく、忙しいのは分かるが、妖精と精霊を手紙代わりにしおって』
「……そうか、わかった。楽しみだな。伝言ありがとう、サラ」
『おや。ずいぶんとスッキリした顔になったの』
「まあね。ちゃんとしようと決めたよ。……サラ、ありがとう」
最後の方は何だか照れ臭くて、横を見ながらぼやくように言ってしまったけれど、サラは嬉しそうに頭をぐしゃぐしゃに撫でてきた。それがまたこそばゆいけど、嫌じゃない。
「一週間後か。…その前にフィスに会えるかな」
『仕方がないのぅ。また伝言係になってやるわ』
「いいのか?」
『かわいい愛し子のためだからの~。む?これではルシーのようか?』
「あー!そうだ、ルシーもいたー!」
『ふふ、競い甲斐があるのぅ』
「他人事だと思って……」
だんだんと、無謀に思えてきた。だって王子と四大精霊だ。でも。
「頑張るよ。俺だってサラの大事な愛し子だし!」
『その意気じゃ!』
逃げないって決めた。
自分の為にも。
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