異世界転生を果たした、おば、コホン、お姉さまは、お嬢様生活のために悪役回避、頑張ります!

渡 幸美

文字の大きさ
79 / 84
第四章 聖女と勇者と精霊と

挿入話 テンダー=セラータ 2

しおりを挟む
「…99!100!っ、はあっ、はあっ」

100回の剣の素振り。
いつもの鍛練。
集中しないと意味がないのに、最近はなかなか無心になれない。

思い出すのは、学園祭の日の、あの時だ。



「リリー!」

マリーの悲鳴のような声に振り返ると、魔獣に飛ばされたのかリリーが宙に舞っていて。

一瞬、身体が硬直した。
こんなことは初めてだった。

俺が飛び出すより早く「リリー!」と、叫びながらフィスが彼女の元へ飛んで行く。

そしてしっかりと抱き留めて、大切な宝の様に抱き抱えた。

……フィスの想いは知っている。どれだけ深いかも。想いが通じるようにも、祈っている。だから、俺が悔しく思うのはおかしい。
おかしいのに、少しだけどこかがチクッとして。

『ぐああっ!』と、魔獣の唸り声に、はっと意識が戻る。ヤバい、リリーのことで呆然としているマリーに魔獣が!やるべきことをやらなくては。戦場では一瞬の隙が命取りになる。今は、余計なことを考えるな。

考えるな、考えるなって、思って、いて……



『考えておるのぅ』
「わっ、サラ!急に現れて何だよ?!」

つい悪態をついてしまった。

『いやなに、いつもより剣に覇気がなかったからの』
「うっ」

ストレートに言われ、言葉に詰まる。火の精霊の気質なのか、サラはいつでも真っ直ぐだ。読心もしていない…と思う。けどすぐに、いろいろバレる。

「俺だって、時々は考え事くらいするよ」
『ほーう。普段あれだけ拘っとる鍛練中にか?』
「……」

そう、ダメなことだ。頭では分かってる。けど……。だって、こんなことは初めてで、自分で自分の気持ちをどこに持っていけばいいかすら分からなくて。

無意識に俯くと、サラにペシッと軽く頭を叩かれた。

「たっ、」
『俯くでないわ。自覚したのなら、認めろ。その気持ちに優劣はないし、先も後もない』
「ーーーっ!!なんで」

顔を上げて、反射的に睨むように言ってしまうと、サラは腹が立つほどにやれやれ感丸出しの顔をしていた。

『お主が始めからリリーを意識していたのは気づいておったしのぅ。フィスを気にして無意識に気持ちを抑えていることもな』
「……読心したのか?」
『舐めるなよ、小童こわっぱが。お主くらいなど、そんなことをせずともお見通しだわ』

スッと目を細くして言われた。
笑顔を浮かべているが、余計に怖い。

「……すみませんでした……」
『分かればよい。それで?どうしたいのだ?』
「そんなことを言われても。分からないから悩んでんだろ」
『悩め悩めと言いたい所だが。そうさな、もうひとつだけ。お主のは、自己保身じゃよ』
「は?!」
『平たく言えば、お主が振られる分には、お主以外は傷つかないということさな~』
「はあっ?!」
『じゃあの~。悩めや青少年~』

言いたいことだけ言って、ヒラヒラと消えていく。

「なんだよ、自己保身って」

……………………………………………………。

いや、確かに。
もし、リリーに気持ちをぶつけて、振られたとして。リリーがフリーなことに変わりはなく、フィスも変わらずリリーにアタックができる訳だ。

でも、もし、リリーが応えてくれたら?

「っ!」

そこまで考えて、自己嫌悪に陥る。

「…ほんと、情けないな、俺」

どこかで祈ってる、夢見ている。リリーの隣にいられることを。そして、フィスとも変わらずに友人でいたいんだ。

認めろ、というサラの言葉がぐるぐる回る。

自己保身、そうだ。自分勝手だ。それもそうだ。

でも、黙っているのも違うだろ。

完璧に自分を騙せるくらいの人間になれるなら、きっとこのまま見守っていられるのだろうな。でも、俺には無理だ。

「……言おう、フィスにも。リリーにも」

『テンダー強くてびっくりしちゃった!カッコ良かったよ~!』
エレナ嬢の処遇を決める時に、『すごい、すごい』と王城で会ったリリーが興奮しながら言ってくれたのを思い出す。
緩みそうになる口を抑えながら、覚悟を決める。

やるべきことが見えてくると、落ち着いてきた。

「集中して、鍛練し直そう」

『そうだ、忘れておったわ~』

清々しい気持ちで剣を再度握ったところで、またサラが現れた。

「なんだよ、人がせっかく」
『フィスから伝言だ。先ほどはそのために来たのだったわ。一週間後にみなでサバンズ家の長男を見に行こうと。まったく、忙しいのは分かるが、妖精と精霊を手紙代わりにしおって』
「……そうか、わかった。楽しみだな。伝言ありがとう、サラ」
『おや。ずいぶんとスッキリした顔になったの』
「まあね。ちゃんとしようと決めたよ。……サラ、ありがとう」

最後の方は何だか照れ臭くて、横を見ながらぼやくように言ってしまったけれど、サラは嬉しそうに頭をぐしゃぐしゃに撫でてきた。それがまたこそばゆいけど、嫌じゃない。

「一週間後か。…その前にフィスに会えるかな」
『仕方がないのぅ。また伝言係になってやるわ』
「いいのか?」
『かわいい愛し子のためだからの~。む?これではルシーのようか?』
「あー!そうだ、ルシーもいたー!」
『ふふ、競い甲斐があるのぅ』
「他人事だと思って……」

だんだんと、無謀に思えてきた。だって王子と四大精霊だ。でも。

「頑張るよ。俺だってサラの大事な愛し子だし!」
『その意気じゃ!』

逃げないって決めた。

自分の為にも。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

クゥクーの娘

章槻雅希
ファンタジー
コシュマール侯爵家3男のブリュイアンは夜会にて高らかに宣言した。 愛しいメプリを愛人の子と蔑み醜い嫉妬で苛め抜く、傲慢なフィエリテへの婚約破棄を。 しかし、彼も彼の腕にしがみつくメプリも気づいていない。周りの冷たい視線に。 フィエリテのクゥクー公爵家がどんな家なのか、彼は何も知らなかった。貴族の常識であるのに。 そして、この夜会が一体何の夜会なのかを。 何も知らない愚かな恋人とその母は、その報いを受けることになる。知らないことは罪なのだ。 本編全24話、予約投稿済み。 『小説家になろう』『pixiv』にも投稿。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

処理中です...