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29.女神様の昔話
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「ようこそ私の神殿へ!」
有無を言わさずに連れて来られたそこは、子どもの頃に絵本で見たような、雲の上に建つ神殿だった。
全てが白磁のようなもので作られている。まあ、作ったかどうかは分からない所ではあるけれど。神様のだし。
「ようやく二人が揃って、本当に嬉しい!さあ、座って座って。少しお話したいのよ」
ちょっとテンション高めの女神様に勧められ、私達は雲ソファーに腰を下ろす。
「わっ、ふかふかだ!」
「本当!神殿も白色が美しくて、秀麗よね」
「ね~!」
私達のやり取りを、目を細めて幸せそうに見つめてくれる女神様。
「あ、申し訳ございません。つい、はしゃいでしまって」
視線に気付き、ローズが言う。私は横でペコリと頭を下げる。
「気にしなくていいわ。私も楽しいのよ」
優しい…………!あ!
「あのっ、女神様!先程のお祈りでも申しましたがと言いますか、何と言いますか、その、御神託ってその……嘘を……申し訳ありません」
私は勢いよく深々と頭を下げる。
「で、でも女神様!それは私の為に、」
ローズが慌てて庇おうとしてくれたのを、女神様が手で制する。
「聞こえて来ていたわ。でも、いいのよ。御神託…ある意味本当の事だから」
「「……?」」
「分からないわよね、ごめんね。……さて、何から話そうかしらね…」
少し考えて、女神様は口を開く。
「……そうねぇ、まず、エマもローズも『二人の聖女』は知ってるわよね?」
私達は頷く。
「グリーク国王も期せずして言っていたけれど、今代で言ったらそう、貴女達二人が正にそれよ」
ローズと私は顔を見合わせる。
「いわゆる二人の生まれ変わり!みたいな?」
みたいな、って女神様……。
「でも女神様、ローズも私も前世の記憶があります。生まれ変わりと言ったら、むしろ……」
そちらでは?と思うのだけれど。
「そうねぇ、生まれ変わりって、神様的には説明が難しいのだけれど。…うーんと、輪廻転生って聞いたことはある?」
二人で頷く。
「うん、何度も繰り返すので…1つの魂だけで、というのではなくて、前の一部、前の一部、って残る?感じ?今まで含めて、全部エマ!っていう……何となく解る?」
「何となく……?つまり、二人の聖女の聖女も私の一部、前世の私も私達の一部って事ですよね?」
「そうそう!もちろん、今までの前世とは別人よ?二人は記憶があっても、今生を頑張ってくれてるから良かったわ、安心した」
「あの、女神様。私達が畏れ多くも『二人の聖女』だったとして。日本人としての記憶を持っているのは…?」
ローズが控え目に質問する。確かに気になる。
「ええ、気になるわよね。ごめんね、ほとんど私のワガママなの。…グリーク王国は私が守護する国だから、もちろん皆かわいい大事な子ども達。だけど、『二人の聖女』の貴女達は人間で言うと、本当の子ども達。グリーク王国を救う為に、魂を分けた娘達なの」
◇◇◇◇◇◇◇
絵本にもあるように、昔々は小さな集落がたくさん集まって、それでもお互い助け合う人達の多い、平和で豊かなグリーク大陸だった。まだ名前は違ったけれど。女神様は魔法を与え、皆慎ましく暮らしていた。
そして、それぞれの集落が発展し、文化も技術も栄えてくると、やはりと言うべきか諍いが絶えなくなる。女神信仰も薄れて行く。そんな愛する子ども達の暴挙を見ていられなくなり、女神様は断腸の思いで守護を消した。守護が無くなると、魔法も使えなくなるらしい。
後は絵本にある通り。
人々の信仰は、女神様の活力源と言うか、守護の強さにも繋がるそうだ。二人の聖女は、女神様の陰陽の魂を分け与えた、人の子として造られた。月の子が優しく穏やかに、太陽の子が明るく朗らかに守護してくれるように。人々を守るのはもちろん、信仰の対象としての役割も果たしていたのだ。
そんな二人もやがて恋をする。二人とも、優しくて真面目で頑張り屋さんの、素敵な相手を見つけたらしい。結婚し、子どもも生まれ、お互いに幸せに暮らしていた。
しかし、ある日悲劇が襲う。月の聖女に長年懸想していた(ストーカーのようだったらしい)青年が、月の聖女の旦那様を殺してしまう。2家族でピクニックをしていた時に突然現れ、……旦那様はナイフで胸をひと突きされ…即死だったそうだ。いかな二人の聖女でも、亡くなった人は戻せない。
そして月の聖女は力を暴走させてしまう。暗闇の鎖で、その青年を絞め殺してしまいそうなほどに。幸いというべきか、太陽の聖女が居合わせた為に暴走は抑えられ、青年は気を失ったくらいで済んだ。
当然、その青年は連行されて行った。一生幽閉だ。そして月の聖女の暴走は情状酌量され、罪には問われなかった。だが、ピクニックしていた広場には、たくさんの家族連れや恋人たちがいた。じわじわと、噂は広まっていく。もちろん同情が多い。だが、月の聖女の魔力の暴走が闇魔法として広まっていく。畏怖と共に。
そしてそれは、月の聖女にしてもそうだった。自分の力の恐ろしさを感じ、家に引きこもるようになってしまう。太陽の聖女は、そんな月の聖女を心配して、足しげく顔を見に行っていた。女神も様子を見に地上に降りてきた。たが、月の聖女が自信を取り戻すことはなかった。それどころか、自分よりは少ない魔力量ではあるものの、同じ月の力を持った一人息子を心配し、共に儚くなろうかとまで追い詰められていた。
女神は月の聖女を神界に回帰させることにした。残された一人息子は、太陽の聖女が育てることになった。
◇◇◇◇◇◇◇
「神殿も太陽の聖女も、力を尽くしてくれたけど、月の魔力は闇魔法で定着しちゃってね」
女神様が悲しそうに話す。
「一側面としたら、間違いでもないし。何でも使い方なのは、エマの言う通りなのにね。でも人間の弱さも解るのよ。そこもいい所でもあるし、愛おしいの」
優しい、優しい慈愛の女神様だ。私達を慈しんで下さっている。
「月の聖女の魂は、暫く休ませることにしたの。でも、信仰対象としてもそうだけど、国の節目には聖女が必要で。この何百年かは、太陽の聖女しか生まれてないわ。ちなみに、初代とされているエミールは、太陽の聖女の3代先の娘?孫娘?よ」
「エミール様が初代というのは……」
「うん、正式にグリーク王国になった時ね。月の聖女のこともそっとしておいて欲しかったし。そこからスタートのようにしたのよ。でも、二人の頑張りが無かったかのようになるのが悔しくて、神話みたいに残したの」
職権乱用ね、と美しい女神ひとは笑う。
「そう、でしたか…」
ローズがいろいろな感情の混ざったような声で呟く。
「そうなの。それでね、私が貴女達をこの世界ここに呼んだ理由なんだけど」
……そうでした。気になります。
有無を言わさずに連れて来られたそこは、子どもの頃に絵本で見たような、雲の上に建つ神殿だった。
全てが白磁のようなもので作られている。まあ、作ったかどうかは分からない所ではあるけれど。神様のだし。
「ようやく二人が揃って、本当に嬉しい!さあ、座って座って。少しお話したいのよ」
ちょっとテンション高めの女神様に勧められ、私達は雲ソファーに腰を下ろす。
「わっ、ふかふかだ!」
「本当!神殿も白色が美しくて、秀麗よね」
「ね~!」
私達のやり取りを、目を細めて幸せそうに見つめてくれる女神様。
「あ、申し訳ございません。つい、はしゃいでしまって」
視線に気付き、ローズが言う。私は横でペコリと頭を下げる。
「気にしなくていいわ。私も楽しいのよ」
優しい…………!あ!
「あのっ、女神様!先程のお祈りでも申しましたがと言いますか、何と言いますか、その、御神託ってその……嘘を……申し訳ありません」
私は勢いよく深々と頭を下げる。
「で、でも女神様!それは私の為に、」
ローズが慌てて庇おうとしてくれたのを、女神様が手で制する。
「聞こえて来ていたわ。でも、いいのよ。御神託…ある意味本当の事だから」
「「……?」」
「分からないわよね、ごめんね。……さて、何から話そうかしらね…」
少し考えて、女神様は口を開く。
「……そうねぇ、まず、エマもローズも『二人の聖女』は知ってるわよね?」
私達は頷く。
「グリーク国王も期せずして言っていたけれど、今代で言ったらそう、貴女達二人が正にそれよ」
ローズと私は顔を見合わせる。
「いわゆる二人の生まれ変わり!みたいな?」
みたいな、って女神様……。
「でも女神様、ローズも私も前世の記憶があります。生まれ変わりと言ったら、むしろ……」
そちらでは?と思うのだけれど。
「そうねぇ、生まれ変わりって、神様的には説明が難しいのだけれど。…うーんと、輪廻転生って聞いたことはある?」
二人で頷く。
「うん、何度も繰り返すので…1つの魂だけで、というのではなくて、前の一部、前の一部、って残る?感じ?今まで含めて、全部エマ!っていう……何となく解る?」
「何となく……?つまり、二人の聖女の聖女も私の一部、前世の私も私達の一部って事ですよね?」
「そうそう!もちろん、今までの前世とは別人よ?二人は記憶があっても、今生を頑張ってくれてるから良かったわ、安心した」
「あの、女神様。私達が畏れ多くも『二人の聖女』だったとして。日本人としての記憶を持っているのは…?」
ローズが控え目に質問する。確かに気になる。
「ええ、気になるわよね。ごめんね、ほとんど私のワガママなの。…グリーク王国は私が守護する国だから、もちろん皆かわいい大事な子ども達。だけど、『二人の聖女』の貴女達は人間で言うと、本当の子ども達。グリーク王国を救う為に、魂を分けた娘達なの」
◇◇◇◇◇◇◇
絵本にもあるように、昔々は小さな集落がたくさん集まって、それでもお互い助け合う人達の多い、平和で豊かなグリーク大陸だった。まだ名前は違ったけれど。女神様は魔法を与え、皆慎ましく暮らしていた。
そして、それぞれの集落が発展し、文化も技術も栄えてくると、やはりと言うべきか諍いが絶えなくなる。女神信仰も薄れて行く。そんな愛する子ども達の暴挙を見ていられなくなり、女神様は断腸の思いで守護を消した。守護が無くなると、魔法も使えなくなるらしい。
後は絵本にある通り。
人々の信仰は、女神様の活力源と言うか、守護の強さにも繋がるそうだ。二人の聖女は、女神様の陰陽の魂を分け与えた、人の子として造られた。月の子が優しく穏やかに、太陽の子が明るく朗らかに守護してくれるように。人々を守るのはもちろん、信仰の対象としての役割も果たしていたのだ。
そんな二人もやがて恋をする。二人とも、優しくて真面目で頑張り屋さんの、素敵な相手を見つけたらしい。結婚し、子どもも生まれ、お互いに幸せに暮らしていた。
しかし、ある日悲劇が襲う。月の聖女に長年懸想していた(ストーカーのようだったらしい)青年が、月の聖女の旦那様を殺してしまう。2家族でピクニックをしていた時に突然現れ、……旦那様はナイフで胸をひと突きされ…即死だったそうだ。いかな二人の聖女でも、亡くなった人は戻せない。
そして月の聖女は力を暴走させてしまう。暗闇の鎖で、その青年を絞め殺してしまいそうなほどに。幸いというべきか、太陽の聖女が居合わせた為に暴走は抑えられ、青年は気を失ったくらいで済んだ。
当然、その青年は連行されて行った。一生幽閉だ。そして月の聖女の暴走は情状酌量され、罪には問われなかった。だが、ピクニックしていた広場には、たくさんの家族連れや恋人たちがいた。じわじわと、噂は広まっていく。もちろん同情が多い。だが、月の聖女の魔力の暴走が闇魔法として広まっていく。畏怖と共に。
そしてそれは、月の聖女にしてもそうだった。自分の力の恐ろしさを感じ、家に引きこもるようになってしまう。太陽の聖女は、そんな月の聖女を心配して、足しげく顔を見に行っていた。女神も様子を見に地上に降りてきた。たが、月の聖女が自信を取り戻すことはなかった。それどころか、自分よりは少ない魔力量ではあるものの、同じ月の力を持った一人息子を心配し、共に儚くなろうかとまで追い詰められていた。
女神は月の聖女を神界に回帰させることにした。残された一人息子は、太陽の聖女が育てることになった。
◇◇◇◇◇◇◇
「神殿も太陽の聖女も、力を尽くしてくれたけど、月の魔力は闇魔法で定着しちゃってね」
女神様が悲しそうに話す。
「一側面としたら、間違いでもないし。何でも使い方なのは、エマの言う通りなのにね。でも人間の弱さも解るのよ。そこもいい所でもあるし、愛おしいの」
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「エミール様が初代というのは……」
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