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番外編
春、う・ら・ら? その11
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あの、エトルとの飲み会から1週間。
「ミルさん、積み荷の確認お願いします」
「はーい」
ミルは、魔道具輸出第一弾の準備に追われていた。
魔道具と言っても、まずは水の魔石から。優先順位をつけて人々の生活に直接関わる物から始める。いくつかの国に納品予定だが、ミルはもちろんデザルト国へ行く。
出発は更に2週間後。それまでかなり忙しくなる。
「会わずに済むし、ちょうどいいか。フラれたし」
ミルは積み荷を確認しながら、一人言る。
そう、あのミルの勢いづいたような微妙な告白?は、エトルにさらっと流されたのだ。
◇
「私じゃ、って。何を言ってるの」
「言葉通りです。私とお付き合いしませんか?気も紛れると思います!」
「気も紛れるって……気持ちはありがたいけれど、まだ若いミル嬢がそんな滅多なことを言うもんじゃないよ」
「ちが、でも、」
「でもじゃない。同情とか心配でとかで付き合うなんてなしだ。お互い辛くなるよ?そもそも、俺も寂しい訳じゃないし……ああでも、36歳独身は、ミル嬢みたいに若者からだと侘しく映るかあ……」
「!違います!私は、本当に」
「……ミル嬢は優しいね。きっとこんなおっさんの昔話を聞いて、寄り添ってくれたんだろう。でも、それだけで充分だよ。君はまだ、これからだ」
「エトル、さま」
「ありがとう。君の優しさは、本当に嬉しいよ。ありがたく受け取る。ね?」
◇
エトルの有無を言わせぬ優しい笑顔に押しきられて、告白はなかったことにされた。
まあ、大人だ。とっても大人な対応だ。昔のやらかしなんて、夢だったんじゃないのってくらい、大人だ。
自分でも分かってる。いろいろと、あれはなかった。
でもだって、ミルだって告白に慣れている訳じゃない。気が紛れるとか、照れ隠しでもおかしいと思うけど、出ちゃったんだもん、口から!だってだって、エトル様が泣きそうな顔をしてるから!仕事中は対等にしてくれていても、他で子ども扱いをされているのがわかるから!つい、逃げるような言葉を選んでしまった。
「自覚と同時に勢いっで、ってゆーのもダメよね……」
でもあのまま、放って置きたくなかった。もういいんじゃないですか、って言ってあげたかった。けれど。
「結局は、私のエゴかな……お二人に敵わないの分かるし、悔しいけど…………私じゃ、無理、だよねぇそりゃあさ……」
ライバルと言うのも烏滸がましい。あの『ルピナスシリーズ』の立役者で、国中の憧れの女性たち。
……エトル様は今日も、昔を思い出してあんな顔をしているのかな。
「……止め止め!忙しいんだから、仕事!準備よ、ミル!」
そうだ、頑張って通した法案だ。やっと故国の役に立てる。少しでも、彼らの生活に光を当てられるように頑張らなくては。私情で失敗なんて出来ない。
ミルは頭を振りながら気持ちを切り替えて、輸出の準備を再開した。
「エトル。これ、魔道具輸出第一便のリスト。向かう国と商会といろいろ載ってるから、お前も一応確認しておいてくれ」
こちらは王城の魔法省長官室。ノックもそこそこに、宰相のトーマスが入ってきた。
「…………」
「エトル?」
トーマスが入って来ても、エトルは窓の外をぼんやりと見ていて、返事がない。トーマスはもう一度声をかける。
「おい、エトル!!」
「うわ、びっくりした!何だ、トーマスか。ノックくらいしてくれ」
「したし、何回も呼んだが」
「あ、そうだったか?すまん、考え事をしてて」
「珍しいな?エトルがそんな考え事って。久しぶりに魔法論文でも書くのか?」
「いや、まあ、そんなところ?」
本当は、論文よりも難しい……と言うか、答えを出せない事を考えていたのだけれど。いや、違う。答えは出てる。出したのだ。間違ってはいないはずだ。
17歳も年下の、自分の娘でもおかしくないほどの女の子。真っ直ぐで、エトルには眩しすぎて。同情だろうからと、自分に言い聞かせて。
「……エトル?」
「は、すまん、何の話だったか」
「……魔道具輸出の第一便のリストだ。念のため、お前も確認して欲しいのだが……大丈夫か?疲れているんじゃないか?ちゃんと寝てるか?」
「トーマス、母上みたいだぞ。大丈夫だ」
「そうか?最近また仕事増えてると聞いたが?セレナも心配してたぞ」
「本当に大丈夫だって。セレナにもそう伝えといて。このリスト預かるよ。確認しておくわ」
「……了解した、頼む。くれぐれも、無理するなよ」
「はいよー」
エトルは書類に目を通しながら、ヒラヒラと手を振る。トーマスはそんなエトルの様子に諦めて、部屋を出ていった。エトルはそれを目の端で見届けてから、椅子に深く腰をかけて大きく息を吐く。
実は最近、あんまり眠れていない。
つい、結論を出したはずのことを考えてしまうのだ。自分でも、何をやっているんだと思う。
「ああ、そういえば、似てる、か?あの二人と。てかまあ、エマの周りはあんなのばっかだよな」
思い出すと、少し笑えた。今思い出しても、なんて自分なんかより格好いいことか。
だから、惹かれるのだろう。あの真っ直ぐな眩しさに。……自分とは、正反対の、彼女たちに。
「~~~!成長してねぇなあ、俺!」
ため息と共に一人言る。
どうやらエトルは今日も眠れなさそうだ。
「ミルさん、積み荷の確認お願いします」
「はーい」
ミルは、魔道具輸出第一弾の準備に追われていた。
魔道具と言っても、まずは水の魔石から。優先順位をつけて人々の生活に直接関わる物から始める。いくつかの国に納品予定だが、ミルはもちろんデザルト国へ行く。
出発は更に2週間後。それまでかなり忙しくなる。
「会わずに済むし、ちょうどいいか。フラれたし」
ミルは積み荷を確認しながら、一人言る。
そう、あのミルの勢いづいたような微妙な告白?は、エトルにさらっと流されたのだ。
◇
「私じゃ、って。何を言ってるの」
「言葉通りです。私とお付き合いしませんか?気も紛れると思います!」
「気も紛れるって……気持ちはありがたいけれど、まだ若いミル嬢がそんな滅多なことを言うもんじゃないよ」
「ちが、でも、」
「でもじゃない。同情とか心配でとかで付き合うなんてなしだ。お互い辛くなるよ?そもそも、俺も寂しい訳じゃないし……ああでも、36歳独身は、ミル嬢みたいに若者からだと侘しく映るかあ……」
「!違います!私は、本当に」
「……ミル嬢は優しいね。きっとこんなおっさんの昔話を聞いて、寄り添ってくれたんだろう。でも、それだけで充分だよ。君はまだ、これからだ」
「エトル、さま」
「ありがとう。君の優しさは、本当に嬉しいよ。ありがたく受け取る。ね?」
◇
エトルの有無を言わせぬ優しい笑顔に押しきられて、告白はなかったことにされた。
まあ、大人だ。とっても大人な対応だ。昔のやらかしなんて、夢だったんじゃないのってくらい、大人だ。
自分でも分かってる。いろいろと、あれはなかった。
でもだって、ミルだって告白に慣れている訳じゃない。気が紛れるとか、照れ隠しでもおかしいと思うけど、出ちゃったんだもん、口から!だってだって、エトル様が泣きそうな顔をしてるから!仕事中は対等にしてくれていても、他で子ども扱いをされているのがわかるから!つい、逃げるような言葉を選んでしまった。
「自覚と同時に勢いっで、ってゆーのもダメよね……」
でもあのまま、放って置きたくなかった。もういいんじゃないですか、って言ってあげたかった。けれど。
「結局は、私のエゴかな……お二人に敵わないの分かるし、悔しいけど…………私じゃ、無理、だよねぇそりゃあさ……」
ライバルと言うのも烏滸がましい。あの『ルピナスシリーズ』の立役者で、国中の憧れの女性たち。
……エトル様は今日も、昔を思い出してあんな顔をしているのかな。
「……止め止め!忙しいんだから、仕事!準備よ、ミル!」
そうだ、頑張って通した法案だ。やっと故国の役に立てる。少しでも、彼らの生活に光を当てられるように頑張らなくては。私情で失敗なんて出来ない。
ミルは頭を振りながら気持ちを切り替えて、輸出の準備を再開した。
「エトル。これ、魔道具輸出第一便のリスト。向かう国と商会といろいろ載ってるから、お前も一応確認しておいてくれ」
こちらは王城の魔法省長官室。ノックもそこそこに、宰相のトーマスが入ってきた。
「…………」
「エトル?」
トーマスが入って来ても、エトルは窓の外をぼんやりと見ていて、返事がない。トーマスはもう一度声をかける。
「おい、エトル!!」
「うわ、びっくりした!何だ、トーマスか。ノックくらいしてくれ」
「したし、何回も呼んだが」
「あ、そうだったか?すまん、考え事をしてて」
「珍しいな?エトルがそんな考え事って。久しぶりに魔法論文でも書くのか?」
「いや、まあ、そんなところ?」
本当は、論文よりも難しい……と言うか、答えを出せない事を考えていたのだけれど。いや、違う。答えは出てる。出したのだ。間違ってはいないはずだ。
17歳も年下の、自分の娘でもおかしくないほどの女の子。真っ直ぐで、エトルには眩しすぎて。同情だろうからと、自分に言い聞かせて。
「……エトル?」
「は、すまん、何の話だったか」
「……魔道具輸出の第一便のリストだ。念のため、お前も確認して欲しいのだが……大丈夫か?疲れているんじゃないか?ちゃんと寝てるか?」
「トーマス、母上みたいだぞ。大丈夫だ」
「そうか?最近また仕事増えてると聞いたが?セレナも心配してたぞ」
「本当に大丈夫だって。セレナにもそう伝えといて。このリスト預かるよ。確認しておくわ」
「……了解した、頼む。くれぐれも、無理するなよ」
「はいよー」
エトルは書類に目を通しながら、ヒラヒラと手を振る。トーマスはそんなエトルの様子に諦めて、部屋を出ていった。エトルはそれを目の端で見届けてから、椅子に深く腰をかけて大きく息を吐く。
実は最近、あんまり眠れていない。
つい、結論を出したはずのことを考えてしまうのだ。自分でも、何をやっているんだと思う。
「ああ、そういえば、似てる、か?あの二人と。てかまあ、エマの周りはあんなのばっかだよな」
思い出すと、少し笑えた。今思い出しても、なんて自分なんかより格好いいことか。
だから、惹かれるのだろう。あの真っ直ぐな眩しさに。……自分とは、正反対の、彼女たちに。
「~~~!成長してねぇなあ、俺!」
ため息と共に一人言る。
どうやらエトルは今日も眠れなさそうだ。
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