私は仕事がしたいのです!

渡 幸美

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番外編

春、う・ら・ら? その11

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あの、エトルとの飲み会から1週間。


「ミルさん、積み荷の確認お願いします」

「はーい」


ミルは、魔道具輸出第一弾の準備に追われていた。

魔道具と言っても、まずは水の魔石から。優先順位をつけて人々の生活に直接関わる物から始める。いくつかの国に納品予定だが、ミルはもちろんデザルト国へ行く。


出発は更に2週間後。それまでかなり忙しくなる。


「会わずに済むし、ちょうどいいか。フラれたし」


ミルは積み荷を確認しながら、一人言る。


そう、あのミルの勢いづいたような微妙な告白?は、エトルにさらっと流されたのだ。





「私じゃ、って。何を言ってるの」

「言葉通りです。私とお付き合いしませんか?気も紛れると思います!」

「気も紛れるって……気持ちはありがたいけれど、まだ若いミル嬢がそんな滅多なことを言うもんじゃないよ」

「ちが、でも、」

「でもじゃない。同情とか心配でとかで付き合うなんてなしだ。お互い辛くなるよ?そもそも、俺も寂しい訳じゃないし……ああでも、36歳独身は、ミル嬢みたいに若者からだと侘しく映るかあ……」

「!違います!私は、本当に」

「……ミル嬢は優しいね。きっとこんなおっさんの昔話を聞いて、寄り添ってくれたんだろう。でも、それだけで充分だよ。君はまだ、これからだ」

「エトル、さま」

「ありがとう。君の優しさは、本当に嬉しいよ。ありがたく受け取る。ね?」





エトルの有無を言わせぬ優しい笑顔に押しきられて、告白はなかったことにされた。

まあ、大人だ。とっても大人な対応だ。昔のなんて、夢だったんじゃないのってくらい、大人だ。

自分でも分かってる。いろいろと、あれはなかった。

でもだって、ミルだって告白に慣れている訳じゃない。気が紛れるとか、照れ隠しでもおかしいと思うけど、出ちゃったんだもん、口から!だってだって、エトル様が泣きそうな顔をしてるから!仕事中は対等にしてくれていても、他で子ども扱いをされているのがわかるから!つい、逃げるような言葉を選んでしまった。

「自覚と同時に勢いっで、ってゆーのもダメよね……」

でもあのまま、放って置きたくなかった。もういいんじゃないですか、って言ってあげたかった。けれど。

「結局は、私のエゴかな……お二人に敵わないの分かるし、悔しいけど…………私じゃ、無理、だよねぇそりゃあさ……」

ライバルと言うのも烏滸がましい。あの『ルピナスシリーズ』の立役者で、国中の憧れの女性たち。

……エトル様は今日も、昔を思い出してあんな顔をしているのかな。

「……止め止め!忙しいんだから、仕事!準備よ、ミル!」

そうだ、頑張って通した法案だ。やっと故国の役に立てる。少しでも、彼らの生活に光を当てられるように頑張らなくては。私情で失敗なんて出来ない。

ミルは頭を振りながら気持ちを切り替えて、輸出の準備を再開した。







「エトル。これ、魔道具輸出第一便のリスト。向かう国と商会といろいろ載ってるから、お前も一応確認しておいてくれ」

こちらは王城の魔法省長官室。ノックもそこそこに、宰相のトーマスが入ってきた。

「…………」

「エトル?」

トーマスが入って来ても、エトルは窓の外をぼんやりと見ていて、返事がない。トーマスはもう一度声をかける。

「おい、エトル!!」

「うわ、びっくりした!何だ、トーマスか。ノックくらいしてくれ」

「したし、何回も呼んだが」

「あ、そうだったか?すまん、考え事をしてて」

「珍しいな?エトルがそんな考え事って。久しぶりに魔法論文でも書くのか?」

「いや、まあ、そんなところ?」


本当は、論文よりも難しい……と言うか、答えを出せない事を考えていたのだけれど。いや、違う。答えは出てる。出したのだ。間違ってはいないはずだ。


17歳も年下の、自分の娘でもおかしくないほどの女の子。真っ直ぐで、エトルには眩しすぎて。同情だろうからと、自分に言い聞かせて。


「……エトル?」

「は、すまん、何の話だったか」

「……魔道具輸出の第一便のリストだ。念のため、お前も確認して欲しいのだが……大丈夫か?疲れているんじゃないか?ちゃんと寝てるか?」

「トーマス、母上みたいだぞ。大丈夫だ」

「そうか?最近また仕事増えてると聞いたが?セレナも心配してたぞ」

「本当に大丈夫だって。セレナにもそう伝えといて。このリスト預かるよ。確認しておくわ」

「……了解した、頼む。くれぐれも、無理するなよ」

「はいよー」


エトルは書類に目を通しながら、ヒラヒラと手を振る。トーマスはそんなエトルの様子に諦めて、部屋を出ていった。エトルはそれを目の端で見届けてから、椅子に深く腰をかけて大きく息を吐く。


実は最近、あんまり眠れていない。


つい、結論を出したはずのことを考えてしまうのだ。自分でも、何をやっているんだと思う。


「ああ、そういえば、似てる、か?あの二人と。てかまあ、エマの周りはばっかだよな」


思い出すと、少し笑えた。今思い出しても、なんて自分なんかより格好いいことか。


だから、惹かれるのだろう。あの真っ直ぐな眩しさに。……自分とは、正反対の、彼女たちに。


「~~~!成長してねぇなあ、俺!」


ため息と共に一人言る。


どうやらエトルは今日も眠れなさそうだ。

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