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第三話 そこにある意思
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ブリーフィングを終えると、すぐに部屋を出る。
イブベイズまではまともに歩けば二日かかる。ヨシュアたちは近道を使い、それをなんとか一日で澄ませようとしていた。
なにせゆっくりとしていれば、それだけ転生者による被害が発生する可能性が生じる。
日が昇ったばかりの早朝。教会を後にしようとするヨシュアを、ドルヴォイが呼び止めた。
「少しいいかね、ヨシュア君?」
「司教? なんでしょう」
「そうかしこまらなくてもいい、任務とは関係のない話だ。いやなに、この任務が終われば休暇を……ということだったが、思えばキミにしては珍しい申し出だ。なにか用事でも?」
アイラはまだ準備中らしい。おそらくそう長引きはしないだろう。
「はい。墓参りに」
「……ああ、そうか。ちょうど六年だったな。すまない、気が付かなかった」
「いえ。もう、あそこに残っているものもありませんから」
ヨシュアの故郷はラニアと言った。
もうこの世には存在しない村の名だ。
「六年前の責任の一端は間違いなく私にもある。私も出向き、せめて墓前で頭を下げることこそ筋なのだろうが……少し、入用が多くてな」
「構いません、司教ともなれば多忙なのは当然でしょう。それに——」
「それに?」
「俺は、感謝しています。あの日ドルヴォイ司教に救っていただいたこと」
あの時はまだ、ドルヴォイは司教ではなかった。ヨシュアもまた、エクソシストではなく単なる村の子どもだった。
ヨシュアの村は凶悪な転生者の手によって、一夜にして滅ぼされた。
当時十歳だったヨシュアもまた、両親や同じ村の人々と同じように命を奪われかけ、そこを偶然他の任務の帰りに通りがかった、当時は隻腕でなく烙印払いとして活動していたドルヴォイに間一髪助けられたのだ。
「……ふ、そうか。私も嬉しく思うよ、あの日なにもかもを失ってしまったキミが……どうあれ今、立派に生きている」
「司教……」
「コミュニケーションに少々の難を感じる日もあるが」
「司教?」
「キミは絶望や失意の中でも、意思を持って前へ進める人間だ。それは素晴らしいことだとも。あらゆる希望とは、前へ進もうとする意思より生じるものなのだから」
意思——
ヨシュアは三年前から、自身を機械たれと律し、転生者を狩り続けている。
しかし無思考に生きてきたわけではない。機械には機械なりの意思決定プロセスがある。
ヨシュアは自ら悩み、考え、選び取ったのだ。家族も、それを殺した者も既にいない世界で、それでも転生者を狩り続ける道を。
そうすることで、自分と同じような転生者の被害に遭う人間をひとりでも減らすために。
「すみませんっ、お待たせしました!」
そこへ、ぱたぱたと足音を立て、荷物を背負ったアイラがやってくる。
その手にはなにか黒い布に包まれたものを抱えていた。バカに大きいお弁当かなにかかとヨシュアは一瞬思ったが、その四角い形状からピクシスだと気付く。
まだ移植眼球《ピスティス》の第二視野に慣れていないから、移動する時は布で包んで視えないようにしているのだろう。
「おお来たかアイラ君。……そうだ、この任務が終わればヨシュア君は休暇を取る。ならいっそ、イブベイズの転生者を狩り終えたらそのまま休みに入ってもらっていい。帰還はアイラ君に任せよう」
「いいんですか? しかし、アイラ君ひとりでは」
「なに、必要なのは右腕の運搬と報告だけだ。むしろいい経験になるだろう」
「ヨシュア先輩、わたしを軽んじすぎですっ。烙印の右腕を教会に持ち帰るくらい、ピクシスが使えなくたってできますよ!」
「……む」
真っ向から後輩に叱られ、ヨシュアはたじろぐ。今回ばかりはあながち間違いでもないと思えたからだ。
「そうだな、すまない。お言葉に甘えて、状況次第だが、つつがなく右腕を回収できた暁にはアイラ君に任せよう」
「えっ? は、はい……ありがとうございます」
「……。なんだ、その意外そうな顔は」
「えっと……先輩って謝れたんですね。なんか、絶対に自分が正しいとしか考えない、素直さを成長過程で完全に喪失した人間だと思ってました」
「俺をなんだと思ってるんだ、きみは」
「ガハハ、ヨシュア君はこう見えてけっこう素直だぞ。ただ根暗で会話が難しいだけだ」
「ドルヴォイ司教?」
散々な物言いをされながらも、ヨシュアはアイラとともにラダムフォスト支部教会を出立する。
ラダムフォストからイブベイズへは街道がつながっている。が、それは、二つの町の間に広がる森林を避けて迂回する遠回りの道だった。
ヨシュアが選ぶのはそのような遅々とした道程ではなく、あくまで最短。
途中までは街道を使い、そこから森を突っ切る直線の経路だ。
当然その分過酷な道になる。ヨシュアとしてはアイラを連れていけるか心配だったが、それとなく懸念を伝えたところ——
「そういうところが軽んじてるって言ってるんです!」
——とお叱りを受けてしまった。
どうにも後輩とのコミュニケーションはうまくいかなかった。
(……嫌われてしまっただろうか)
ふたりに、全能を持つものの加護があらんことを——そんな言葉とともにドルヴォイ司教に見送られ、ラダムフォストを出て約二時間。
ラダムフォストの支部教会は町はずれの坂の上にある。そこからある種の牧歌的穏やかさが漂う朝の田舎町を抜け——昨晩エクソシストによる殺人があったなどと誰も思うまい——街道に沿って歩きそれだけ経った。
その間交わした会話は、ほぼ皆無と言っていい。
「……」
歩きつつ、ヨシュアはだいたい人間ひとりと半分くらいのスペースを空けて並ぶ、気難しい後輩を盗み見る。
(思えば俺には……年下の知り合いが……いない)
そもそもヨシュアとてまだ十六歳。十三歳から烙印払いをやっている稀有な少年だ。
率直に言って、年下の後輩相手になにを話せばいいのか、さっぱりわからなかった。転生者の捜索・発見から人目のつかない場所まで誘導し速やかに殺害と右腕を切断、事後処理をして帰還までの効率的なプロセスならわかるのに。
「そういえば先輩、さっき」
「なんだ!?」
「うわっ、そっちこそなんですかその反応」
話題を探していたところにいきなり話しかけられ、妙な返答をしてしまった。
「休暇、取るって言ってましたよね。先輩って見るからに真面目でシゴトニンゲンーって感じじゃないですか」
「ないですか、って言われてもな」
「お休みの日、なにやって過ごすんですか?」
それはもしかすると、アイラも彼女なりに話題を探しての結果だったのかもしれない。休日の予定というのはごくありふれた、差し障りのないトピックだ。
「まあ、里帰りだ」
「里帰り。へー、いいですね」
「アイラ君はラダムフォストが地元だと言ってたな。そういう意味ではさっきまで里帰りだったわけだ。目的地のイブベイズにも詳しいのか?」
「ええ、もちろんです! 今も昔もラダムフォストは田舎ですからねー、まだ都会的なイブベイズには大人から子どもまで、町のみんなが憧れたものですよ」
アイラはわずかに目を細め、追憶に浸る。
転生者に家族を殺されたと言っていた。ならあのラダムフォストの穏やかな町の中で、その事件は起きたのだろう。
まだ転生者に壊される前の、家族がいる幸福な時間を思い出しているのだと、似た境遇のヨシュアにはすぐにわかった。ただヨシュアには、幼い時分にはショックが大きすぎたのか、家族の思い出などというものはほとんど忘却の淵に落としてしまったのだが。
——箱の中身、なんだと思う?
もはやその顔さえ朧げになってしまった母の、しかし声に乗せられたヨシュアを想うたくさんの優しさだけは覚えている、その言葉を思い出す。
今となっては確かめようもないことだった。
「なるほどな。でも、気を抜くなよ。俺たちは街へ遊びに行くわけじゃない」
「もう、わかってますよー。そーいうところがシゴトニンゲンだって言ってるんです」
「む……」
またしてもお叱りを受けてしまい、ヨシュアは二の句を継げなくなる。けれどアイラの横顔は、心なしかさっきよりは緩んでいるようでもあった。
*
昼過ぎに街道を外れ、日が暮れる頃にはイブベイズ近郊まで広がる森の入り口までたどり着く。今夜はそこで野営だった。
布一枚の簡単な天幕が二つ。アイラの不慣れな設営をヨシュアも手伝った。
エクソシストの任務には常に迅速さが求められる。明日も日の昇りきらぬ早朝から森を突っ切る強行軍に挑まねばならず、そのため一度足を止めたのなら、せめて夜は速やかに身を休めるべき——
なのだが、妙に外でごそごそなにかやっているらしい新米の後輩が気になって、ヨシュアももぞりとテントを出た。
「……アイラ君、なにをしている。睡眠も任務の内だぞ」
「あ……先輩。わかってます、けど。ちょっとだけ」
まばらな木立の下。頭上で広がる枝葉のカーテンの隙間を縫うようにして注がれる、青白い月光に照らされながらアイラは佇んでいた。
か細い月明かりだけで、ヨシュアは十全に周囲を見渡すことができた。
アイラの手には、夜闇よりも黒い箱。
彼女の右眼球が埋め込まれたピクシスだ。昼間……街道を歩いていた時、その箱は厚い布に包まれていた。それが今は露わになり、ピクシスの正面では黄金色の移植眼球が輝いている。
「夜中の……特訓か」
意図は明確だった。
アイラはまだ、ピクシスを使いこなせていない。聖寵は扱えず、移植眼球の第二視野にも慣れていない。
エクソシストたちは左右でまったく異なる視界を持つ。その差異に脳が混乱し、酔ってしまうのだ。無論ヨシュアはとうに慣れているので、そんなことはないが。
アイラもまた、移動を終えた夜の時間に、第二の視野をモノにしようと訓練していたのだろう。
イブベイズまではまともに歩けば二日かかる。ヨシュアたちは近道を使い、それをなんとか一日で澄ませようとしていた。
なにせゆっくりとしていれば、それだけ転生者による被害が発生する可能性が生じる。
日が昇ったばかりの早朝。教会を後にしようとするヨシュアを、ドルヴォイが呼び止めた。
「少しいいかね、ヨシュア君?」
「司教? なんでしょう」
「そうかしこまらなくてもいい、任務とは関係のない話だ。いやなに、この任務が終われば休暇を……ということだったが、思えばキミにしては珍しい申し出だ。なにか用事でも?」
アイラはまだ準備中らしい。おそらくそう長引きはしないだろう。
「はい。墓参りに」
「……ああ、そうか。ちょうど六年だったな。すまない、気が付かなかった」
「いえ。もう、あそこに残っているものもありませんから」
ヨシュアの故郷はラニアと言った。
もうこの世には存在しない村の名だ。
「六年前の責任の一端は間違いなく私にもある。私も出向き、せめて墓前で頭を下げることこそ筋なのだろうが……少し、入用が多くてな」
「構いません、司教ともなれば多忙なのは当然でしょう。それに——」
「それに?」
「俺は、感謝しています。あの日ドルヴォイ司教に救っていただいたこと」
あの時はまだ、ドルヴォイは司教ではなかった。ヨシュアもまた、エクソシストではなく単なる村の子どもだった。
ヨシュアの村は凶悪な転生者の手によって、一夜にして滅ぼされた。
当時十歳だったヨシュアもまた、両親や同じ村の人々と同じように命を奪われかけ、そこを偶然他の任務の帰りに通りがかった、当時は隻腕でなく烙印払いとして活動していたドルヴォイに間一髪助けられたのだ。
「……ふ、そうか。私も嬉しく思うよ、あの日なにもかもを失ってしまったキミが……どうあれ今、立派に生きている」
「司教……」
「コミュニケーションに少々の難を感じる日もあるが」
「司教?」
「キミは絶望や失意の中でも、意思を持って前へ進める人間だ。それは素晴らしいことだとも。あらゆる希望とは、前へ進もうとする意思より生じるものなのだから」
意思——
ヨシュアは三年前から、自身を機械たれと律し、転生者を狩り続けている。
しかし無思考に生きてきたわけではない。機械には機械なりの意思決定プロセスがある。
ヨシュアは自ら悩み、考え、選び取ったのだ。家族も、それを殺した者も既にいない世界で、それでも転生者を狩り続ける道を。
そうすることで、自分と同じような転生者の被害に遭う人間をひとりでも減らすために。
「すみませんっ、お待たせしました!」
そこへ、ぱたぱたと足音を立て、荷物を背負ったアイラがやってくる。
その手にはなにか黒い布に包まれたものを抱えていた。バカに大きいお弁当かなにかかとヨシュアは一瞬思ったが、その四角い形状からピクシスだと気付く。
まだ移植眼球《ピスティス》の第二視野に慣れていないから、移動する時は布で包んで視えないようにしているのだろう。
「おお来たかアイラ君。……そうだ、この任務が終わればヨシュア君は休暇を取る。ならいっそ、イブベイズの転生者を狩り終えたらそのまま休みに入ってもらっていい。帰還はアイラ君に任せよう」
「いいんですか? しかし、アイラ君ひとりでは」
「なに、必要なのは右腕の運搬と報告だけだ。むしろいい経験になるだろう」
「ヨシュア先輩、わたしを軽んじすぎですっ。烙印の右腕を教会に持ち帰るくらい、ピクシスが使えなくたってできますよ!」
「……む」
真っ向から後輩に叱られ、ヨシュアはたじろぐ。今回ばかりはあながち間違いでもないと思えたからだ。
「そうだな、すまない。お言葉に甘えて、状況次第だが、つつがなく右腕を回収できた暁にはアイラ君に任せよう」
「えっ? は、はい……ありがとうございます」
「……。なんだ、その意外そうな顔は」
「えっと……先輩って謝れたんですね。なんか、絶対に自分が正しいとしか考えない、素直さを成長過程で完全に喪失した人間だと思ってました」
「俺をなんだと思ってるんだ、きみは」
「ガハハ、ヨシュア君はこう見えてけっこう素直だぞ。ただ根暗で会話が難しいだけだ」
「ドルヴォイ司教?」
散々な物言いをされながらも、ヨシュアはアイラとともにラダムフォスト支部教会を出立する。
ラダムフォストからイブベイズへは街道がつながっている。が、それは、二つの町の間に広がる森林を避けて迂回する遠回りの道だった。
ヨシュアが選ぶのはそのような遅々とした道程ではなく、あくまで最短。
途中までは街道を使い、そこから森を突っ切る直線の経路だ。
当然その分過酷な道になる。ヨシュアとしてはアイラを連れていけるか心配だったが、それとなく懸念を伝えたところ——
「そういうところが軽んじてるって言ってるんです!」
——とお叱りを受けてしまった。
どうにも後輩とのコミュニケーションはうまくいかなかった。
(……嫌われてしまっただろうか)
ふたりに、全能を持つものの加護があらんことを——そんな言葉とともにドルヴォイ司教に見送られ、ラダムフォストを出て約二時間。
ラダムフォストの支部教会は町はずれの坂の上にある。そこからある種の牧歌的穏やかさが漂う朝の田舎町を抜け——昨晩エクソシストによる殺人があったなどと誰も思うまい——街道に沿って歩きそれだけ経った。
その間交わした会話は、ほぼ皆無と言っていい。
「……」
歩きつつ、ヨシュアはだいたい人間ひとりと半分くらいのスペースを空けて並ぶ、気難しい後輩を盗み見る。
(思えば俺には……年下の知り合いが……いない)
そもそもヨシュアとてまだ十六歳。十三歳から烙印払いをやっている稀有な少年だ。
率直に言って、年下の後輩相手になにを話せばいいのか、さっぱりわからなかった。転生者の捜索・発見から人目のつかない場所まで誘導し速やかに殺害と右腕を切断、事後処理をして帰還までの効率的なプロセスならわかるのに。
「そういえば先輩、さっき」
「なんだ!?」
「うわっ、そっちこそなんですかその反応」
話題を探していたところにいきなり話しかけられ、妙な返答をしてしまった。
「休暇、取るって言ってましたよね。先輩って見るからに真面目でシゴトニンゲンーって感じじゃないですか」
「ないですか、って言われてもな」
「お休みの日、なにやって過ごすんですか?」
それはもしかすると、アイラも彼女なりに話題を探しての結果だったのかもしれない。休日の予定というのはごくありふれた、差し障りのないトピックだ。
「まあ、里帰りだ」
「里帰り。へー、いいですね」
「アイラ君はラダムフォストが地元だと言ってたな。そういう意味ではさっきまで里帰りだったわけだ。目的地のイブベイズにも詳しいのか?」
「ええ、もちろんです! 今も昔もラダムフォストは田舎ですからねー、まだ都会的なイブベイズには大人から子どもまで、町のみんなが憧れたものですよ」
アイラはわずかに目を細め、追憶に浸る。
転生者に家族を殺されたと言っていた。ならあのラダムフォストの穏やかな町の中で、その事件は起きたのだろう。
まだ転生者に壊される前の、家族がいる幸福な時間を思い出しているのだと、似た境遇のヨシュアにはすぐにわかった。ただヨシュアには、幼い時分にはショックが大きすぎたのか、家族の思い出などというものはほとんど忘却の淵に落としてしまったのだが。
——箱の中身、なんだと思う?
もはやその顔さえ朧げになってしまった母の、しかし声に乗せられたヨシュアを想うたくさんの優しさだけは覚えている、その言葉を思い出す。
今となっては確かめようもないことだった。
「なるほどな。でも、気を抜くなよ。俺たちは街へ遊びに行くわけじゃない」
「もう、わかってますよー。そーいうところがシゴトニンゲンだって言ってるんです」
「む……」
またしてもお叱りを受けてしまい、ヨシュアは二の句を継げなくなる。けれどアイラの横顔は、心なしかさっきよりは緩んでいるようでもあった。
*
昼過ぎに街道を外れ、日が暮れる頃にはイブベイズ近郊まで広がる森の入り口までたどり着く。今夜はそこで野営だった。
布一枚の簡単な天幕が二つ。アイラの不慣れな設営をヨシュアも手伝った。
エクソシストの任務には常に迅速さが求められる。明日も日の昇りきらぬ早朝から森を突っ切る強行軍に挑まねばならず、そのため一度足を止めたのなら、せめて夜は速やかに身を休めるべき——
なのだが、妙に外でごそごそなにかやっているらしい新米の後輩が気になって、ヨシュアももぞりとテントを出た。
「……アイラ君、なにをしている。睡眠も任務の内だぞ」
「あ……先輩。わかってます、けど。ちょっとだけ」
まばらな木立の下。頭上で広がる枝葉のカーテンの隙間を縫うようにして注がれる、青白い月光に照らされながらアイラは佇んでいた。
か細い月明かりだけで、ヨシュアは十全に周囲を見渡すことができた。
アイラの手には、夜闇よりも黒い箱。
彼女の右眼球が埋め込まれたピクシスだ。昼間……街道を歩いていた時、その箱は厚い布に包まれていた。それが今は露わになり、ピクシスの正面では黄金色の移植眼球が輝いている。
「夜中の……特訓か」
意図は明確だった。
アイラはまだ、ピクシスを使いこなせていない。聖寵は扱えず、移植眼球の第二視野にも慣れていない。
エクソシストたちは左右でまったく異なる視界を持つ。その差異に脳が混乱し、酔ってしまうのだ。無論ヨシュアはとうに慣れているので、そんなことはないが。
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