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第五話 第三眼球たち
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「はぁ~~~~~~~っ」
「……」
不規則に乱立する木々の合間の、道とは呼べぬ土の地面を歩く。
「は~ぁぁあぁぁぁ~~~~~……」
頭上には日差しを受け取るべく、いっぱいに両手を広げた枝葉が広がる。そのさらに向こうでは、爽やかさに満ちた青空が天上に広がっているのだろう。
鬱蒼とした森の中でも、その爽やかな青を心に思い浮かべると、ヨシュアはどこか気分が清涼になる気持ちがした。
「はぁーぁ~あああ~ぁぁあああぁ~~~~……」
すぐ隣で酸欠になるんじゃないかってくらい深いため息が何度も繰り返されるせいで、そんな清涼さは二秒と経たず吹き飛んでしまうのだが。
「大した肺活量だ。昨日から俺のペースについてこられていることといい、体力はエクソシストとしての基準を十分に満たしている。オラクルできちんと訓練課程をこなしてきた証拠だな」
ヨシュアはため息を無理やり褒めてみた。
「でもわたし聖寵使えませんしぃ~…第二視野も無理に慣れようとするとゲロ吐いちゃいますしぃ~……」
「ああもういじけるな! あとゲロとか言うな……! 投げやりに褒めてみたがやっぱり無駄だったかっ」
任務二日目。アイラは朝からずっとこの調子だった。
ネガティブの塊みたいになってしまった後輩と森を抜けるのは、ヨシュアに普段慣れない余計な心労を募らせる。
こうなってしまったのは、昨夜聖寵を見せたことが原因だった。
『視差転移』。ヨシュアがその移植眼球に宿す能力。教会曰く、神の所有する全能のひとかけら。
それを目の当たりにしたアイラは、エクソシストになったにもかかわらず聖寵がまったく使えない自分と、より一層の壁を感じてしまったのだった。
(寝て起きれば戻ると思ってたのに……! 案外引きずるタイプだぞこいつ)
むしろため息をつきたいのはこちらの方だった。
いじけた後輩を面倒に思いつつも、ヨシュアは辺りに気を配る。森は静かで、野生動物の気配なんかも、少なくとも近くにはなかった。
ただの村民ならいざ知らず、現役のエクソシストにとってこの程度の森林を抜けることは造作もない。それは過酷な訓練課程を終えたアイラも同様だ。
森を出て、その森をぐるりと迂回してきた街道を一日ぶりに踏みしめた頃、アイラの機嫌もようやく戻った。
「あそこが、イブベイズの町です。あー、遠目からでも懐かしい……」
視界が開け、目的地の町の姿が視界に入る。任務対象である転生者の居場所に近づき、気を引き締め直したのはいい。褒めようかとヨシュアは思ったが、またいじけられると嫌なのでやめておいた。
「外から見て建物の倒壊や黒煙はなし。同様に、風下だが騒乱の音が届くこともなし……か。中に入らなければ確定はできないが、街は無事みたいだな。一安心と言うべきか」
「これも神の御加護ですねっ」
「は。かもな」
「……この先輩ぜんぜん信仰心ないなぁ……いちおうエクソシストも教会の一員なんですけどぉ……」
異世界転生者が村ひとつ、町ひとつ壊滅させる——というのは、ままあることではない。
しかし、まったくないわけでもなかった。
ありえることだ。ヨシュアの故郷もそうやって消えてしまったのだから。
別の町に派遣される時、到着する前に手遅れになってしまわないか。それだけが、本部にいた頃からヨシュアがついつい抱いてしまう懸念であり、払拭できない恐れでもあった。
「でも、対象はあくまでワンクォーター級の異世界転生者なんですよね? 警戒するに越したことがないっていうのはわかりますけど、そこまで怯えることもないんじゃ」
「烙印等級をあてにするな。あんなものは『聖都爆破』のあとに急遽作られた区分だ。烙印総量の多い転生者の異能が強力なのは間違いないが、逆に少ない転生者が取るに足らないということはない」
「むー……」
アイラは納得がいかなさそうに頬を膨らませる。丸きり子どもっぽい仕草だとヨシュアは思ったが、口には出さないでおいた。
炯眼使いの発見した転生者の烙印総量がワンクォーター級相当であることは、ブリーフィングの時点でドルヴォイから報告を受けている。
ワンクォーター級とはつまり、右腕に刻まれた螺旋模様の烙印が、だいたい腕全体の四分の一程度の表面積をしているということだ。ほとんどの転生者はこれに該当する。
しかし稀に、ツークォーター級……腕の半分程度が烙印に侵されている者もおり、烙印が腕を占める面積が大きいほど、その異能は強くなるとされる。
また、一年半ほど前に起きた事件——聖都爆破を引き起こした転生者は、腕の四分の三ほどが烙印のスリークォーター級だったという。
概念上は四分の四、つまり腕の表面すべてに烙印の浮かぶフォークォーター級もあるが、実際に該当する転生者は確認されていない。スリークォーター級さえ聖都爆破を行った男ただひとりしか確認されておらず、ほかに存在するかは不明。
しかし経験上、ヨシュアはワンクォーター級が必ずしもツークォーター級の異世界転生者より危険性が低いものではないと知っている。どうあれ警戒を欠かすわけにはいかないのだ。自分の、そして周囲の人命がかかっている以上は。
*
イブベイズの町は、地理的にそう離れていないからか、どこかラダムフォストの街並みとも造りが似ていた。だが違うのはその密度で、より人口の多いイブベイズでは昼間というのもあり強い活気に満ち溢れている。
支部教会は町の中心にあった。これも、町はずれの坂の上にあるラダムフォストとは違う点だ。
「失礼。ラダムフォストより派遣されたエクソシストですが」
まずヨシュアたちは、真っすぐに教会の門を叩きに向かった。
対象を発見したシスターからより詳しい情報を訊くためだ。
「はっ、はい……! お待ちしておりました、ウォッチシスターのパトゥと申しますっ」
ヨシュアたちを待っていたのは、薄緑の髪色をした小柄のシスターだった。
どうやら今回の異世界転生者を目視したのも彼女のようで、ヨシュアたちは教会の応接室へと案内される。イブベイズの支部教会は外からの見た目こそラダムフォストと大差なかったが、内側は華美で整理が行き届いていた。
(町はずれの辺鄙な支部教会とは違う、か)
壁にヒビもなければ、埃のひとつも積もっていない。来訪者が多いため、そのぶん手入れがされているのだろう。
どうせならラダムフォストの支部教会も、あんな不便な坂の上から移設してしまえばいいのに。
そうは思いつつも、同時にそんな財政的余裕はないのだろうな、とヨシュアは結論し、任務と関係のない余計な思考を打ち切った。
本題の前に、軽い自己紹介を交わす。パトゥの名は聞いたので、今度はヨシュアとアイラが名乗る番だった。
「烙印祓いの方がおふたりも……それもたったの一日で来てくださるなんて。ありがとうございますっ」
「いえ。シスターズの方々あってこその我々エクソシストですから」
パトゥはその髪と似た色をした両の瞳を見開き、緊張が解けたように息を吐いて破顔した。
非戦闘員である炯眼使いはピクシスに眼球を移植しない。しかし、ピクシス自体は有している。
烙印祓いとは違う、白色のピクシスだ。そしてその前面には、移植眼球ではなく炯眼と呼ばれる人工眼球が埋め込まれる。
炯眼も、ピスティスと同様に視神経と見えない経路で接続される。
炯眼とは要は、生来の眼球を移植しなくていい代わりに、機能面で劣化したピスティスだ。聖寵はもちろん、暗視や異能解析の力はない。
だが、唯一烙印透視だけはできる。だから炯眼使いは各地の支部教会に身を置き、布教の傍らその地域を見て回る。
そして異世界転生者を発見すると、その烙印総量などを見て取り所属する支部教会へ伝え、情報はさらに魔術通話機を通して本部教会に送られ、今度は本部から指令が下ってくる……基本的にそういった具合だ。
ヨシュアたち烙印祓いが任務に赴けるのも、各地でこうして働くシスターたちのおかげなのだった。
「えへ、エクソシスト……エクソシストに見えますよねわたし、実際そうですもんね」
「そのとろけきった顔を止めるんだ、アイラ君」
隣ででれでれする後輩に釘を刺し、ヨシュアは本題に入った。
名も知らぬ異世界転生者。その特徴を訪ねる。
さわりはブリーフィングで聞いているため、より詳しい情報と、確認のためだ。
「発見したのは昨日の朝、です。ちょうど街を見回るために教会を出てすぐ、通りの向こうからこっちを見ている男のひとがいて……」
テーブルを挟み、時折つっかえながらも、パトゥはなんとか詳細にその出来事を伝えようと真剣な眼差しでヨシュアたちに語る。
「教会を出てすぐに? ……まるで待ち伏せされていたように聞こえます」
「ええっ。大丈夫だったんですか、パトゥさん?」
「は、はい。特になにかされたわけでもなくて、その男性はこちらを一瞥するとすぐに去っていったので……」
「接触はしておらず、視認したのも一瞬だったということですか——」
転生者の目的が不明だ。見られたことでまずいと思ってその場をすぐ離れたのか。しかし待ち伏せていたのなら、それはむしろ、見られることを目的としていたようにも捉えられる。
「——一応確認しますが、人相とともに烙印をその時に確認できたと」
「あ、はいっ、その通りです。見回りのため、ピクシスを持っていましたので。炯眼で、彼の右腕にワンクォーター級の烙印があることを確認済みです」
パトゥは膝の上に置いた、手のひらより少し大きいくらいの真っ白い箱に触れる。
そこに埋め込まれる人工眼球は、黒い色をしている。起動する際は赤く光るのだが、その時視神経と接続した方の目を閉じなければならなかった。
そうしなければ、神経上で生来の眼球と炯眼の視覚情報がコリジョンを起こしてしまうのだ。
視野を三つ同時に持つのは、叶わないということだった。
「確か、高身長かつ痩せ型、それから頬から顎に傷がある、でしたか」
ブリーフィングで聞いた内容を反芻する。間違いはないようで、パトゥはこくりと頷いた。
「遠目ではありましたが、顔の形も視認できました。たぶん、三十代くらいで……手足が長くって、鋭い目つきをしていました」
「——」
パトゥの言葉よりも、隣でなにかに気づいたように身じろぎをするアイラのことが、ヨシュアは気がかりだった。
「……」
不規則に乱立する木々の合間の、道とは呼べぬ土の地面を歩く。
「は~ぁぁあぁぁぁ~~~~~……」
頭上には日差しを受け取るべく、いっぱいに両手を広げた枝葉が広がる。そのさらに向こうでは、爽やかさに満ちた青空が天上に広がっているのだろう。
鬱蒼とした森の中でも、その爽やかな青を心に思い浮かべると、ヨシュアはどこか気分が清涼になる気持ちがした。
「はぁーぁ~あああ~ぁぁあああぁ~~~~……」
すぐ隣で酸欠になるんじゃないかってくらい深いため息が何度も繰り返されるせいで、そんな清涼さは二秒と経たず吹き飛んでしまうのだが。
「大した肺活量だ。昨日から俺のペースについてこられていることといい、体力はエクソシストとしての基準を十分に満たしている。オラクルできちんと訓練課程をこなしてきた証拠だな」
ヨシュアはため息を無理やり褒めてみた。
「でもわたし聖寵使えませんしぃ~…第二視野も無理に慣れようとするとゲロ吐いちゃいますしぃ~……」
「ああもういじけるな! あとゲロとか言うな……! 投げやりに褒めてみたがやっぱり無駄だったかっ」
任務二日目。アイラは朝からずっとこの調子だった。
ネガティブの塊みたいになってしまった後輩と森を抜けるのは、ヨシュアに普段慣れない余計な心労を募らせる。
こうなってしまったのは、昨夜聖寵を見せたことが原因だった。
『視差転移』。ヨシュアがその移植眼球に宿す能力。教会曰く、神の所有する全能のひとかけら。
それを目の当たりにしたアイラは、エクソシストになったにもかかわらず聖寵がまったく使えない自分と、より一層の壁を感じてしまったのだった。
(寝て起きれば戻ると思ってたのに……! 案外引きずるタイプだぞこいつ)
むしろため息をつきたいのはこちらの方だった。
いじけた後輩を面倒に思いつつも、ヨシュアは辺りに気を配る。森は静かで、野生動物の気配なんかも、少なくとも近くにはなかった。
ただの村民ならいざ知らず、現役のエクソシストにとってこの程度の森林を抜けることは造作もない。それは過酷な訓練課程を終えたアイラも同様だ。
森を出て、その森をぐるりと迂回してきた街道を一日ぶりに踏みしめた頃、アイラの機嫌もようやく戻った。
「あそこが、イブベイズの町です。あー、遠目からでも懐かしい……」
視界が開け、目的地の町の姿が視界に入る。任務対象である転生者の居場所に近づき、気を引き締め直したのはいい。褒めようかとヨシュアは思ったが、またいじけられると嫌なのでやめておいた。
「外から見て建物の倒壊や黒煙はなし。同様に、風下だが騒乱の音が届くこともなし……か。中に入らなければ確定はできないが、街は無事みたいだな。一安心と言うべきか」
「これも神の御加護ですねっ」
「は。かもな」
「……この先輩ぜんぜん信仰心ないなぁ……いちおうエクソシストも教会の一員なんですけどぉ……」
異世界転生者が村ひとつ、町ひとつ壊滅させる——というのは、ままあることではない。
しかし、まったくないわけでもなかった。
ありえることだ。ヨシュアの故郷もそうやって消えてしまったのだから。
別の町に派遣される時、到着する前に手遅れになってしまわないか。それだけが、本部にいた頃からヨシュアがついつい抱いてしまう懸念であり、払拭できない恐れでもあった。
「でも、対象はあくまでワンクォーター級の異世界転生者なんですよね? 警戒するに越したことがないっていうのはわかりますけど、そこまで怯えることもないんじゃ」
「烙印等級をあてにするな。あんなものは『聖都爆破』のあとに急遽作られた区分だ。烙印総量の多い転生者の異能が強力なのは間違いないが、逆に少ない転生者が取るに足らないということはない」
「むー……」
アイラは納得がいかなさそうに頬を膨らませる。丸きり子どもっぽい仕草だとヨシュアは思ったが、口には出さないでおいた。
炯眼使いの発見した転生者の烙印総量がワンクォーター級相当であることは、ブリーフィングの時点でドルヴォイから報告を受けている。
ワンクォーター級とはつまり、右腕に刻まれた螺旋模様の烙印が、だいたい腕全体の四分の一程度の表面積をしているということだ。ほとんどの転生者はこれに該当する。
しかし稀に、ツークォーター級……腕の半分程度が烙印に侵されている者もおり、烙印が腕を占める面積が大きいほど、その異能は強くなるとされる。
また、一年半ほど前に起きた事件——聖都爆破を引き起こした転生者は、腕の四分の三ほどが烙印のスリークォーター級だったという。
概念上は四分の四、つまり腕の表面すべてに烙印の浮かぶフォークォーター級もあるが、実際に該当する転生者は確認されていない。スリークォーター級さえ聖都爆破を行った男ただひとりしか確認されておらず、ほかに存在するかは不明。
しかし経験上、ヨシュアはワンクォーター級が必ずしもツークォーター級の異世界転生者より危険性が低いものではないと知っている。どうあれ警戒を欠かすわけにはいかないのだ。自分の、そして周囲の人命がかかっている以上は。
*
イブベイズの町は、地理的にそう離れていないからか、どこかラダムフォストの街並みとも造りが似ていた。だが違うのはその密度で、より人口の多いイブベイズでは昼間というのもあり強い活気に満ち溢れている。
支部教会は町の中心にあった。これも、町はずれの坂の上にあるラダムフォストとは違う点だ。
「失礼。ラダムフォストより派遣されたエクソシストですが」
まずヨシュアたちは、真っすぐに教会の門を叩きに向かった。
対象を発見したシスターからより詳しい情報を訊くためだ。
「はっ、はい……! お待ちしておりました、ウォッチシスターのパトゥと申しますっ」
ヨシュアたちを待っていたのは、薄緑の髪色をした小柄のシスターだった。
どうやら今回の異世界転生者を目視したのも彼女のようで、ヨシュアたちは教会の応接室へと案内される。イブベイズの支部教会は外からの見た目こそラダムフォストと大差なかったが、内側は華美で整理が行き届いていた。
(町はずれの辺鄙な支部教会とは違う、か)
壁にヒビもなければ、埃のひとつも積もっていない。来訪者が多いため、そのぶん手入れがされているのだろう。
どうせならラダムフォストの支部教会も、あんな不便な坂の上から移設してしまえばいいのに。
そうは思いつつも、同時にそんな財政的余裕はないのだろうな、とヨシュアは結論し、任務と関係のない余計な思考を打ち切った。
本題の前に、軽い自己紹介を交わす。パトゥの名は聞いたので、今度はヨシュアとアイラが名乗る番だった。
「烙印祓いの方がおふたりも……それもたったの一日で来てくださるなんて。ありがとうございますっ」
「いえ。シスターズの方々あってこその我々エクソシストですから」
パトゥはその髪と似た色をした両の瞳を見開き、緊張が解けたように息を吐いて破顔した。
非戦闘員である炯眼使いはピクシスに眼球を移植しない。しかし、ピクシス自体は有している。
烙印祓いとは違う、白色のピクシスだ。そしてその前面には、移植眼球ではなく炯眼と呼ばれる人工眼球が埋め込まれる。
炯眼も、ピスティスと同様に視神経と見えない経路で接続される。
炯眼とは要は、生来の眼球を移植しなくていい代わりに、機能面で劣化したピスティスだ。聖寵はもちろん、暗視や異能解析の力はない。
だが、唯一烙印透視だけはできる。だから炯眼使いは各地の支部教会に身を置き、布教の傍らその地域を見て回る。
そして異世界転生者を発見すると、その烙印総量などを見て取り所属する支部教会へ伝え、情報はさらに魔術通話機を通して本部教会に送られ、今度は本部から指令が下ってくる……基本的にそういった具合だ。
ヨシュアたち烙印祓いが任務に赴けるのも、各地でこうして働くシスターたちのおかげなのだった。
「えへ、エクソシスト……エクソシストに見えますよねわたし、実際そうですもんね」
「そのとろけきった顔を止めるんだ、アイラ君」
隣ででれでれする後輩に釘を刺し、ヨシュアは本題に入った。
名も知らぬ異世界転生者。その特徴を訪ねる。
さわりはブリーフィングで聞いているため、より詳しい情報と、確認のためだ。
「発見したのは昨日の朝、です。ちょうど街を見回るために教会を出てすぐ、通りの向こうからこっちを見ている男のひとがいて……」
テーブルを挟み、時折つっかえながらも、パトゥはなんとか詳細にその出来事を伝えようと真剣な眼差しでヨシュアたちに語る。
「教会を出てすぐに? ……まるで待ち伏せされていたように聞こえます」
「ええっ。大丈夫だったんですか、パトゥさん?」
「は、はい。特になにかされたわけでもなくて、その男性はこちらを一瞥するとすぐに去っていったので……」
「接触はしておらず、視認したのも一瞬だったということですか——」
転生者の目的が不明だ。見られたことでまずいと思ってその場をすぐ離れたのか。しかし待ち伏せていたのなら、それはむしろ、見られることを目的としていたようにも捉えられる。
「——一応確認しますが、人相とともに烙印をその時に確認できたと」
「あ、はいっ、その通りです。見回りのため、ピクシスを持っていましたので。炯眼で、彼の右腕にワンクォーター級の烙印があることを確認済みです」
パトゥは膝の上に置いた、手のひらより少し大きいくらいの真っ白い箱に触れる。
そこに埋め込まれる人工眼球は、黒い色をしている。起動する際は赤く光るのだが、その時視神経と接続した方の目を閉じなければならなかった。
そうしなければ、神経上で生来の眼球と炯眼の視覚情報がコリジョンを起こしてしまうのだ。
視野を三つ同時に持つのは、叶わないということだった。
「確か、高身長かつ痩せ型、それから頬から顎に傷がある、でしたか」
ブリーフィングで聞いた内容を反芻する。間違いはないようで、パトゥはこくりと頷いた。
「遠目ではありましたが、顔の形も視認できました。たぶん、三十代くらいで……手足が長くって、鋭い目つきをしていました」
「——」
パトゥの言葉よりも、隣でなにかに気づいたように身じろぎをするアイラのことが、ヨシュアは気がかりだった。
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