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序章 おとぎばなし
遠い記憶
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大丈夫、たとえ世界の全てがキミを拒絶しようとも、ボクだけはずっと味方だから。
***
夢を、見ていた。
父が寝る前にいつも話してくれた、お伽話。
その内容はお伽話というにはちょっと暗く難しいもので、でも幼いおれはその話が大好きだった。
むかし。遥かむかし。
滅びゆく世界に神の使徒が現れ、世界を覆い尽くす闇を払い、生きる者に力を与えた。
草木はすくすくと成長し、動物は進化を遂げた。
やがて世界が豊かになると人類は文明を築き、地上は生物の安寧の地となった。
しかし、豊かになった世界に、またしても崩壊の危機が迫ることになる。
大人しかった動物たちが突然凶暴化し、モンスターとなって人々に襲いかかってきたのだ。
原因は、すぐに判明した。
モンスターを統べるという魔王が姿を現し、世界から人間を排除すると宣言したのだ。
国々は手を取り魔王を討伐しようと試みるが、その絶対的な強さを前に、為す術もなくただ項垂れることしかできなかった。
そして、世界が極限状態に追い込まれた頃、1人の少女が現れた。
少女はいう。
悪しき闇を払う、と。
そして少女は東の果ての小さな島に赴き、たった1人で、本当に魔王を撃ち破った。
魔王の影響下にあったモンスターは沈静化し、姿かたちも凶暴になる前のものに戻った。
果たして、ただの少女にそんなことが可能なのだろうか。
否。
少女は、ただの少女ではなかった。
少女は、天の御使であったのだ。
かつて過酷なこの世界を救った神の使徒が1人。
その天の御使が、再びこの地に救いの手を差し伸べたのだ。
人々は神の救済に感謝し、国同士の争いをやめた。
互いに共生する道を選び、世界は本当の意味で平和になった。
これが、世界を救い、世を平和に導いた聖女メリアの物語。
おしまい、とベッド脇に座る男が本を閉じる。
パタリと閉じられた本の装丁を眺めながら、ベットに身を包まれたおれは興奮していた。
何度聞いたって、このお伽話はおれの心を震わせるんだ。
「ねぇ父さん」
「なんだ我が息子」
ニカッと笑う精悍な顔つきは、おれを安心させる。
「ぼくも、おとぎばなしのセイジョさまみたいな英雄に、なれるかな」
ポカンと口を開け、目をぱちくりさせた父は一瞬でその顔を引っ込めた。
「……なれるさ」
そう言って優しく微笑む。腕が伸びてきて、おれの頭に柔らかな温もりが伝わった。
くしゃりと撫でながら父は静かにいう。
「父さんは、お前を信じるよ」
その言葉に安堵感を覚えつつ、おれは誘われるように瞼を閉じた。
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夢を、見ていた。
父が寝る前にいつも話してくれた、お伽話。
その内容はお伽話というにはちょっと暗く難しいもので、でも幼いおれはその話が大好きだった。
むかし。遥かむかし。
滅びゆく世界に神の使徒が現れ、世界を覆い尽くす闇を払い、生きる者に力を与えた。
草木はすくすくと成長し、動物は進化を遂げた。
やがて世界が豊かになると人類は文明を築き、地上は生物の安寧の地となった。
しかし、豊かになった世界に、またしても崩壊の危機が迫ることになる。
大人しかった動物たちが突然凶暴化し、モンスターとなって人々に襲いかかってきたのだ。
原因は、すぐに判明した。
モンスターを統べるという魔王が姿を現し、世界から人間を排除すると宣言したのだ。
国々は手を取り魔王を討伐しようと試みるが、その絶対的な強さを前に、為す術もなくただ項垂れることしかできなかった。
そして、世界が極限状態に追い込まれた頃、1人の少女が現れた。
少女はいう。
悪しき闇を払う、と。
そして少女は東の果ての小さな島に赴き、たった1人で、本当に魔王を撃ち破った。
魔王の影響下にあったモンスターは沈静化し、姿かたちも凶暴になる前のものに戻った。
果たして、ただの少女にそんなことが可能なのだろうか。
否。
少女は、ただの少女ではなかった。
少女は、天の御使であったのだ。
かつて過酷なこの世界を救った神の使徒が1人。
その天の御使が、再びこの地に救いの手を差し伸べたのだ。
人々は神の救済に感謝し、国同士の争いをやめた。
互いに共生する道を選び、世界は本当の意味で平和になった。
これが、世界を救い、世を平和に導いた聖女メリアの物語。
おしまい、とベッド脇に座る男が本を閉じる。
パタリと閉じられた本の装丁を眺めながら、ベットに身を包まれたおれは興奮していた。
何度聞いたって、このお伽話はおれの心を震わせるんだ。
「ねぇ父さん」
「なんだ我が息子」
ニカッと笑う精悍な顔つきは、おれを安心させる。
「ぼくも、おとぎばなしのセイジョさまみたいな英雄に、なれるかな」
ポカンと口を開け、目をぱちくりさせた父は一瞬でその顔を引っ込めた。
「……なれるさ」
そう言って優しく微笑む。腕が伸びてきて、おれの頭に柔らかな温もりが伝わった。
くしゃりと撫でながら父は静かにいう。
「父さんは、お前を信じるよ」
その言葉に安堵感を覚えつつ、おれは誘われるように瞼を閉じた。
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