4 / 5
第一章 美丈夫には気をつけろ
リラの町
しおりを挟む
時は少し前に遡る。
からりと晴れた空の下、石畳の通りのいたるところから威勢のいい声が飛び交う。
とある人は大きな敷物を敷き、カゴいっぱいの野菜や果物がどれだけ新鮮で美味であるかを叫んでいたり、また別の場所では陽よけの布を張り、自分が仕入れた骨董品がいかにお値打ちであるかをヒゲを撫でるほかの行商人へ、とくとくと語っていたりする。
ここ、リラの町は国の中でも辺境といわれる西部にあり、地域のちょうど中央部に位置している。
西部のなかでは随一の人口数を誇り、西部へ向かう旅人や行商人は必ずといっていいほどこの町を経由していく。
そのなかには行商人に雇われた傭兵だったり、冒険者だったり武装したパーティも見られる。
彼らがこの町を経由するのも、ここを過ぎると農村や小さな集落しかないのであるから当然とも言えるだろう。
だがなぜそんな辺境に旅人たちが来るのか。
それは、やはり西部各地にある珍しい素材が目当てなのだろう。
西部でしか採取のできない植物、生息しない生物、モンスターたち。
その希少性から、一攫千金を狙った人が絶えず訪れるものだから、市が開かれる日には行商人や旅人相手の商売が繁盛するし、逆にほかの地域の品物をこの町へ売り付ける絶好の機会でもある。
そこまで需要があるのなら、西部にもうひとつふたつくらいリラのような大規模な町があってもいいようなものだが、事実、これほどの規模と人口を有しているのは、西部ではリラのみであった。
そんな事情を知ってか知らずか……いや知らないであろうロウは、町の入り口近くまで歩いてきたものの、目の前の光景に足を止め、口を半開きにしながら目を丸くする。
門前で竦んだように立ち止まった彼を、邪魔そうに避けていく人々。
周囲の反応など頭に入ってこないロウは、締まりの悪くなっていた口をきゅ、と結んだ。
この町に近づくにつれ、人の往来が多くなっていたこともあり、「人が多いのはいやだなぁ」などとぼんやり考えていたロウ。
想像を絶する光景を突きつけられ、往来で立ち尽くすしかできない。
たしかに、森を抜けて、山を降りて、平地を東に進めば、この辺りで一番大きな町があるのだと、ずいぶん昔に父親が話していたことをぼんやりとを思い出したが、ただ、目の前の状況はロウの想像の域を軽く上回っていた。
それは、彼が件の西部の果て、聳え立つ山の森深い集落の生まれであるためだ。
ロウは溢れんばかりに人がいるのを見たこともなければ、彼らがなぜそんなに大声を挙げているのかもまったく理解できなかった。
鼓膜に響く怒声とも取れそうなほどの喧騒に、ただただ立ち尽くす。
知らないということは未知との遭遇。
未知というものは好奇心という感情を与える一方で、恐怖を与えるものだ。
田舎者のロウにとって人混みとは未知であり、お家がいちばんなインドア派でもある彼にとって、未知は好奇心ではなく恐怖を植え付けるものであったようだ。
ロウの色を失った頬を、汗が流れ落ちる。
理解できない状況に震えながらも、彼は軽くなった革カバンにそっと触れた。
そんな引きこもりのロウがなぜリラに足を踏み入れんとしているのか。
その理由を知るには、さらに数日前まで戻ることとなる。
からりと晴れた空の下、石畳の通りのいたるところから威勢のいい声が飛び交う。
とある人は大きな敷物を敷き、カゴいっぱいの野菜や果物がどれだけ新鮮で美味であるかを叫んでいたり、また別の場所では陽よけの布を張り、自分が仕入れた骨董品がいかにお値打ちであるかをヒゲを撫でるほかの行商人へ、とくとくと語っていたりする。
ここ、リラの町は国の中でも辺境といわれる西部にあり、地域のちょうど中央部に位置している。
西部のなかでは随一の人口数を誇り、西部へ向かう旅人や行商人は必ずといっていいほどこの町を経由していく。
そのなかには行商人に雇われた傭兵だったり、冒険者だったり武装したパーティも見られる。
彼らがこの町を経由するのも、ここを過ぎると農村や小さな集落しかないのであるから当然とも言えるだろう。
だがなぜそんな辺境に旅人たちが来るのか。
それは、やはり西部各地にある珍しい素材が目当てなのだろう。
西部でしか採取のできない植物、生息しない生物、モンスターたち。
その希少性から、一攫千金を狙った人が絶えず訪れるものだから、市が開かれる日には行商人や旅人相手の商売が繁盛するし、逆にほかの地域の品物をこの町へ売り付ける絶好の機会でもある。
そこまで需要があるのなら、西部にもうひとつふたつくらいリラのような大規模な町があってもいいようなものだが、事実、これほどの規模と人口を有しているのは、西部ではリラのみであった。
そんな事情を知ってか知らずか……いや知らないであろうロウは、町の入り口近くまで歩いてきたものの、目の前の光景に足を止め、口を半開きにしながら目を丸くする。
門前で竦んだように立ち止まった彼を、邪魔そうに避けていく人々。
周囲の反応など頭に入ってこないロウは、締まりの悪くなっていた口をきゅ、と結んだ。
この町に近づくにつれ、人の往来が多くなっていたこともあり、「人が多いのはいやだなぁ」などとぼんやり考えていたロウ。
想像を絶する光景を突きつけられ、往来で立ち尽くすしかできない。
たしかに、森を抜けて、山を降りて、平地を東に進めば、この辺りで一番大きな町があるのだと、ずいぶん昔に父親が話していたことをぼんやりとを思い出したが、ただ、目の前の状況はロウの想像の域を軽く上回っていた。
それは、彼が件の西部の果て、聳え立つ山の森深い集落の生まれであるためだ。
ロウは溢れんばかりに人がいるのを見たこともなければ、彼らがなぜそんなに大声を挙げているのかもまったく理解できなかった。
鼓膜に響く怒声とも取れそうなほどの喧騒に、ただただ立ち尽くす。
知らないということは未知との遭遇。
未知というものは好奇心という感情を与える一方で、恐怖を与えるものだ。
田舎者のロウにとって人混みとは未知であり、お家がいちばんなインドア派でもある彼にとって、未知は好奇心ではなく恐怖を植え付けるものであったようだ。
ロウの色を失った頬を、汗が流れ落ちる。
理解できない状況に震えながらも、彼は軽くなった革カバンにそっと触れた。
そんな引きこもりのロウがなぜリラに足を踏み入れんとしているのか。
その理由を知るには、さらに数日前まで戻ることとなる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる