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第一章 美丈夫には気をつけろ
最悪の目覚め
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Side ロウ
「ぅ……」
重い。
身体が泥のなかにいるかのようだ。
手足にいたっては石にでもなっているかのように微動だにしない。
もう一度意識を沈めたがる本能を追いやり、少しだけ瞼を持ち上げる。
その瞬間、眩しい光が飛び込んできて、反射的に眉根を寄せてしまう。
ぼやける視界の中、眼球に刺激を与えるものを突き止めるべく視線を動かすと、光源用の小さい窓から陽の光が射し込んでいるのがわかった。
眩しさの原因はこれかと再度目を閉じながら薄く息を吐き、意を決して身体に力を込めた。
だいぶ時間はかかったが、一応、無事に身体を起こすことができた。
「うぇ……」
胃からなにかがせり上がってきそうなくらい、体調はすこぶる悪いが、どうやら骨も折れておらず、身体は正常に動くようだ。
まぁ、体調がすこぶる悪いことに変わりはないのだが。
無事に起き上がったおれは、床に手をつき、不調を訴える身体を支えた。
視界に入った腕にはそれなりに鍛えた甲斐があり、しなやかな筋肉がついている。
ただ、その男らしいといえる腕も、生来の白さが際立ち、微妙なアンバランスさを醸し出していた。
ついた手のひらから伝わる冷たさに視線をやると、寝転がっていた場所が剥き出しの土であることに気がつく。
ようやく合点がいった。
……どうりであちこち身体が痛いはずだよ。
頭にも土がついているのだろうか。若干の違和感のような気持ち悪さを感じる。
まぁ、地面と似たような髪色だから目立ちはしないか。
どうでもいいことを考えながら、冷え切った身体をさすり、周囲を見渡す。
どこかの納屋のなかのようで、脇にはこれでもかと藁わらが積まれ、クワなどの農耕具も置かれている。
漂う古い木材の匂いと錆び切ったそれらを見るに、どうやらこの納屋は放置されてから大分時が経っているようであった。
それなのに、ログハウスのようにしっかりと丸太で組まれた壁は頑丈そうにも見え、ちぐはぐな印象を受ける。
趣きがあるというのはこういうことなのだろうか。
チラリ、と眩しさの原因を見遣る。
射し込む光の具合から、まだ陽が高い時間であることを認識した。
「どこだ、ここ」
そうして、ようやく当然の疑問に辿り着いたおれはぼそりと呟く。
しかし、喉も掠れているのか、吐き出した声はか細く、吐息とともに周囲に霧散していった。
なにかが張り付いたように声がうまくでないようで、今度は喉をさする。
そして遅れてやってきた鋭い 痛みに、思わず頭を押さえた。
顔を顰めながら、ズキンズキンと脈打つように暴れる痛みに悪態が口から飛び出してしまう。
起き上がりながら動作確認をした関節などはビキビキと音を立てていたから、もしかしたら動いてるだけで本当は折れているのではないかと考えてしまう。
今ほど鳴らしすぎたのか、寝てる時に寝違えたのかもわからないが、追い打ちをかけるように痛みを訴えだした首をさする。
しばらくそのままぼうっと部屋の中を見つめていたが、ふと思い出したように頭が回転を始める。
そういえば、なにか夢を見ていた気がする。
なんの夢であったか、今となっては全く思い出せないのだけど。
「んー……」
夢といえば悪夢ばかりを見るおれは、忘れているならそれでいいか、と疑問をぽいっと投げ捨てた。
それよりも、どうして自分はこんなところにいるのだろうか。
逡巡して、その訳に思い至る。
「そうだ、確か……」
そう呟きながら、だんだんと晴れてくる思考のなかにとある人物を思い浮かべた。
食糧を求めて寄った宿場町で出会った、人物を。
「ぅ……」
重い。
身体が泥のなかにいるかのようだ。
手足にいたっては石にでもなっているかのように微動だにしない。
もう一度意識を沈めたがる本能を追いやり、少しだけ瞼を持ち上げる。
その瞬間、眩しい光が飛び込んできて、反射的に眉根を寄せてしまう。
ぼやける視界の中、眼球に刺激を与えるものを突き止めるべく視線を動かすと、光源用の小さい窓から陽の光が射し込んでいるのがわかった。
眩しさの原因はこれかと再度目を閉じながら薄く息を吐き、意を決して身体に力を込めた。
だいぶ時間はかかったが、一応、無事に身体を起こすことができた。
「うぇ……」
胃からなにかがせり上がってきそうなくらい、体調はすこぶる悪いが、どうやら骨も折れておらず、身体は正常に動くようだ。
まぁ、体調がすこぶる悪いことに変わりはないのだが。
無事に起き上がったおれは、床に手をつき、不調を訴える身体を支えた。
視界に入った腕にはそれなりに鍛えた甲斐があり、しなやかな筋肉がついている。
ただ、その男らしいといえる腕も、生来の白さが際立ち、微妙なアンバランスさを醸し出していた。
ついた手のひらから伝わる冷たさに視線をやると、寝転がっていた場所が剥き出しの土であることに気がつく。
ようやく合点がいった。
……どうりであちこち身体が痛いはずだよ。
頭にも土がついているのだろうか。若干の違和感のような気持ち悪さを感じる。
まぁ、地面と似たような髪色だから目立ちはしないか。
どうでもいいことを考えながら、冷え切った身体をさすり、周囲を見渡す。
どこかの納屋のなかのようで、脇にはこれでもかと藁わらが積まれ、クワなどの農耕具も置かれている。
漂う古い木材の匂いと錆び切ったそれらを見るに、どうやらこの納屋は放置されてから大分時が経っているようであった。
それなのに、ログハウスのようにしっかりと丸太で組まれた壁は頑丈そうにも見え、ちぐはぐな印象を受ける。
趣きがあるというのはこういうことなのだろうか。
チラリ、と眩しさの原因を見遣る。
射し込む光の具合から、まだ陽が高い時間であることを認識した。
「どこだ、ここ」
そうして、ようやく当然の疑問に辿り着いたおれはぼそりと呟く。
しかし、喉も掠れているのか、吐き出した声はか細く、吐息とともに周囲に霧散していった。
なにかが張り付いたように声がうまくでないようで、今度は喉をさする。
そして遅れてやってきた鋭い 痛みに、思わず頭を押さえた。
顔を顰めながら、ズキンズキンと脈打つように暴れる痛みに悪態が口から飛び出してしまう。
起き上がりながら動作確認をした関節などはビキビキと音を立てていたから、もしかしたら動いてるだけで本当は折れているのではないかと考えてしまう。
今ほど鳴らしすぎたのか、寝てる時に寝違えたのかもわからないが、追い打ちをかけるように痛みを訴えだした首をさする。
しばらくそのままぼうっと部屋の中を見つめていたが、ふと思い出したように頭が回転を始める。
そういえば、なにか夢を見ていた気がする。
なんの夢であったか、今となっては全く思い出せないのだけど。
「んー……」
夢といえば悪夢ばかりを見るおれは、忘れているならそれでいいか、と疑問をぽいっと投げ捨てた。
それよりも、どうして自分はこんなところにいるのだろうか。
逡巡して、その訳に思い至る。
「そうだ、確か……」
そう呟きながら、だんだんと晴れてくる思考のなかにとある人物を思い浮かべた。
食糧を求めて寄った宿場町で出会った、人物を。
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