悪役王女は死亡フラグを回避したい

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第十一話 第三王子、可愛い弟〜四人目の攻略者〜

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 神さま、あんまりだ。

 子供を救った代わりならもう少し嬉しい第二の人生を用意してくれたって良かったではないか。
 なんなら主人公としての人生を追体験させてくれたっていい。この国のたった一人の奇跡の存在、ネフェルムとして選ばれた少女が王子や騎士、イケメン政務官たちと恋をしながら国を救っていく。最後には女王として立って結婚もして国民からは慕われてめでたしめでたしーーー。それをなんで最後には処刑される女に転生させたんだ。
 まだそうとは決まっていないけれど、夢としてはあまりにリアルな体験の数々に私は半ばその可能性が芽生え始めていた。
 どちらにしろこの体で生活は続くんだ。どうにかいい方向に転がしていくしかない、決意を新たに私は王宮の庭園へと足を踏み入れた。




 先ほどから唸ったり突然頭を抱えたりする私に、やはりまだお体が万全ではないのでは、と心配するエミリを大丈夫だからと付き合わせ私は庭としては大分広すぎるこの場所にいた。
 城の本庭園。部屋からも見える場所で例の噴水があるところだ。城で舞踏会が開かれるときにはこの庭は呼応するようにライトアップされ、それはそれは美しいらしい。
 今は色とりどりの花が咲き誇り、庭師の腕が満遍なく披露されていた。ここで、私たちはよく遊んでいたらしい。

「ほら、あの場所。周りは暖色の花ばかりなのに青いフェリシアがあるでしょう。レア様が庭師にねだって植えさせたのよ」

 そう言って案内してくれるのは、庭の奥まった場所にある小さな木造のテーブルベンチとその周りに生えた綺麗な花々。

「ルドルフの目の色だーって」

 純粋な子供の発言に、少し顔が赤くなった。先ほどからエミリは、敬語を取り払っている。しつこくお願いした私に根負けした形だ。

 もしかすると幼い頃、ここでルドルフに勉強を教えてもらっていたのかもしれない。記憶には全くないけれど、きっとさぞ困らせたのだろうと少し笑いを噛み殺しながらテーブルをぐるっと回ったときに、おや、と気がついた。
 テーブルベンチのさらに奥、ちょうど茂みの影になっているところから足が見える。覗き込むと、背の高い木に体を預け、小さな体が気持ちよさそうに眠っていた。

「…あ」
「パルウス!」

 エミリが小さく漏らした言葉は、私の声にかき消された。大きな声にビクリと体を揺らした男の子がハッと目を見開く。綺麗な緑色の瞳が驚いたようにこちらを見上げた。木にもたれかかって少し癖づいた柔らかな真っ直ぐな黒髪は、襟足で綺麗に揃えられている。
 一方私はこの世界に来て一番興奮していた。やっぱり、パルウスだ。パルウス・アルマナ。この国の第三王子だ。唯一の年下攻略キャラクターで、作中も庇護役をかき立てられる姿がとにかく可愛い。兄たち他の強力な攻略キャラクターと張り合う姿は一生懸命で、主人公へも真っ直ぐな愛を向けてくれた。
 寝姿を見られたことを恥じらうように、立ち上がって服に着いた土を払っている。やっぱり、レアより少し背が小さい。確か三つ下で、今は中等科の三年生だったはずだ。兄たちより低い身長を気にしていたのが本当に可愛くて可愛くてーーー私は気がついたら思いっきり抱きしめていた。
 パルウスは、実際私にも弟がいるからかどうしても放っておけなくて、攻略中ではないのにいつもつい構い倒してしまう存在だった。うっかり上げてしまう好感度のせいで、攻略中のキャラクターと一緒にダンスの誘いに来てしまって泣く泣く断るーーーなんて馬鹿なことをしたのも一度や二度でない。
 本物もやっぱり可愛い。そう思って丸い小さな頭をぎゅうぎゅう抱きしめていると、ドン!と思いっきり突き飛ばされて私は尻餅をついた。
 目の前には顔を真っ赤にしたパルウスがこちらを見下ろしている。

「は!?……なっ……え…」

 数度口をパクパクさせると、ぐっと噛みしめ、そのまま後ろを向いて去っていってしまった。

「大丈夫?」

 エミリが起き上がるのに手を貸してくれる。

「もしかして、私ってパルウスとも仲悪かったりする?」
「さあ…私もパルウス様がお小さい頃しか知らないから…でもあなた今みたいに抱きしめたりしてたわよ」

 なるほど。ということは思春期かもしれないな。
 それは違うと思う。さすがに口に出しては言わないが、エミリの顔はそう語っていた。






 また明日ね。しばらく色々と話したのち、また昔のことを教えてもらう約束をしてエミリを乗せた車は去っていった。
 ようやく気を許せる友人が出来て浮かれていた私は、まだ明るい庭園を歩くことにした。庭師の邪魔にならないようにしながらぐるりと広すぎる庭を一周した後、先ほどパルウスに会ったところへと戻ってきていた。フェリシアに囲まれたベンチテーブルに、今度は静かに腰掛けてパルウスが本をめくっている。

「パルウス」

 私が来ることが分かっていたかのように、パルウスが顔を上げた。

「向かい側、座っていい?」

 静かに目線が外されたのを肯定として、私はパルウスの向かいの席に腰を下ろす。分厚い本はあの図書室から持ってきたものだろうか。

「お体は、もうよろしいのですか?」

 パラ、とページをめくりながら目を上げずに問いかけられる。

「ううん、全然よくない」

 行儀悪く肘をつきながら、パルウスの可愛い顔を眺めているとギョッとしたように顔を上げられた。

「……は。早く、室内に戻られた方がよろしいのでは?」
「ううん、体調はすこぶるいいよ。パルウスはなんて聞いてる?」
「…姉上の、お体の調子がよろしくないと。記憶もところどころ抜けているとか」
「そう!そうなんだよー!」

 伸びをするようにテーブルへと腕を投げ出した私に、パルウスが読んでいた本を引いてどかして場所をあけてくれた。

「だから、パルウスとのことも忘れてるの。…ごめんね」

 上目遣いに覗き込むと、驚きに染まっていた顔が、少し悲しそうに変わっていった。私は、レアは、パルウスとどんな仲だったのだろう。

「私はいいお姉ちゃんでしたか?」

 違うよね。自嘲気味に笑う私に、パルウスがゆっくりと言葉を紡ぐ。

「姉上には、幼い頃から可愛がっていただきました。兄たちとも歳が離れていてあまり構ってもらえなかった僕の遊び相手になってくれて。姉上は、段々と、周囲に厳しくなっていきましたがそれでも僕には優しかったです。ただ…イチカ様が来てからは……とても、怖くて」

 どんどんと小さくなっていく声に合わせるように、顔も俯いてしまった。
 そっか。怖かったか。それは本当に申し訳ないことをした。恐らくイチカがこの世界に現れてからはレアは余裕なんて一切なくなったのだろう。

「そっち行っていい?」

 顔を上げたパルウスが小さく頷く。あまり大きくないベンチの横に腰掛けると、やはり目線はレアより少し下だった。きっと、すぐに追い越される。
 もう一度、小さな丸い頭を抱きしめる。子供みたいな体温はあたたかく、木陰で涼しい体に気持ちよかった。柔らかい髪はレアとは違う綺麗なストレート。母や、フィリップ王子と同じ真っ黒な髪だった。
 弟のことも、よくこうして抱きしめてあげたな。残してきてしまった、パルウスよりもさらに小さな男の子。
 にじんだ涙を隠すように、私は日向の匂いがする髪に顔を埋めた。
 
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