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■血に汚れた人形編
【17】
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片目しかない人形の頷きを見て、ゼンスはミモザのほうに顔を向けた。
「だってよ、どうする?」
「……どうするって、あなたは簡単に言いますね」
ミモザは廊下の向こうにいる人形たちに目を向ける。
まだ動きはないが、苦しむような動作はおさまっている。このまま動かないと思うのは、さすがに楽観的すぎるだろう。
「あの人形たちがこちらを視認する前に離れましょう」
「わかった、じゃあな、ちびっこ人形。元気にやれよ」
ゼンスの言葉に、人形は両手を挙げて驚いたような仕草をとる。
「違います。敵意は感じられませんし、こちらの言葉を理解しているように見えます。接触してきた以上、もう連れていくしかないでしょう」
「へー、なるほど。で、お前はどうする?」
ゼンスは腕を伸ばした。ほっとしたように人形は胸に手を当てると、伸びてきた手のひらの上にぴょんと乗った。
「とりあえず肩にでも乗ってろ。落ちんなよ」
肩に座った人形は、柱にしがみつくようにゼンスの首に手を回した。
「人形さんを乗せても動きに問題はありませんね?」
「誰に言ってやがる。俺はいつもティアを背負ってんだぞ」
「ですね。では──」
ミモザは言葉を止めて、ゼンスと共に振り向いた。
廊下の向こうにいる人形たちが歩きだした。
人形の動きそのものに変化はないが、少し雰囲気が変わったように感じる。抽象的ではあるが、嫌な感じが強くなったとでもいうべきか。
「行きましょう」
ミモザを先頭に、ゼンスがあとを追う。
「人形の感じが変わったのを、あなたはどう見ます?」
「ああ……なんとなく、ちょっとレベルが上がったような感じか? ホントになんとなくだけどな」
嫌な感じぐらいにしかまだわからないミモザは、それを言語化して答えてくれたゼンスに感心する。
「なるほど、すっきりしました。より注意が必要ですね」
そう答えながら、ミモザは考える。
レベルが上がる。
強さを示す表現としてよく使われる言葉だが、呪いとはそこまで変えてしまうものなのか。
呪導具“マリン”。美国が正式に危険呪導具と認定した国宝。
危険呪導具の破壊、可能なら保護。これが今回ロゼンパーティーにされた依頼内容になる。
(もちろん破壊は建前、他の人形たちの保護を依頼内容に含まなかったのは私たちへの配慮でしょう。目的は保護、無力化させることですが……)
レベルが上がる。つまるところ難易度が上がったということだ。
おそらくマリンがこの人形館を通じて、なにかしら人形たちに変化を与えているのだろうが、人形が動くどころかレベルまで上がりだすなら、依頼内容の達成はどんどん困難になる。
「──おい、ミモザ」
名前を呼ばれたため、走っていたミモザは思考を中断し、足を止めた。
「なんですか?」
「知るか。こいつが俺を叩いてくるから仕方ねえだろ」
ゼンスは、頬っぺたを叩いてくる片目のない小さな人形にため息をつく。声を発しないが、何かを伝えようとしていることは明白だった。
廊下を見渡したが、近くに人形の姿はない。ミモザは、ゼンスの肩に乗った人形が指さす方向に目を向けた。
そこには広い展示室があった。
警戒しながらも中に入っていくと、そこには床にしみ込んだ赤と、粉々に砕けたガラスの破片が散らばっていた。
「だってよ、どうする?」
「……どうするって、あなたは簡単に言いますね」
ミモザは廊下の向こうにいる人形たちに目を向ける。
まだ動きはないが、苦しむような動作はおさまっている。このまま動かないと思うのは、さすがに楽観的すぎるだろう。
「あの人形たちがこちらを視認する前に離れましょう」
「わかった、じゃあな、ちびっこ人形。元気にやれよ」
ゼンスの言葉に、人形は両手を挙げて驚いたような仕草をとる。
「違います。敵意は感じられませんし、こちらの言葉を理解しているように見えます。接触してきた以上、もう連れていくしかないでしょう」
「へー、なるほど。で、お前はどうする?」
ゼンスは腕を伸ばした。ほっとしたように人形は胸に手を当てると、伸びてきた手のひらの上にぴょんと乗った。
「とりあえず肩にでも乗ってろ。落ちんなよ」
肩に座った人形は、柱にしがみつくようにゼンスの首に手を回した。
「人形さんを乗せても動きに問題はありませんね?」
「誰に言ってやがる。俺はいつもティアを背負ってんだぞ」
「ですね。では──」
ミモザは言葉を止めて、ゼンスと共に振り向いた。
廊下の向こうにいる人形たちが歩きだした。
人形の動きそのものに変化はないが、少し雰囲気が変わったように感じる。抽象的ではあるが、嫌な感じが強くなったとでもいうべきか。
「行きましょう」
ミモザを先頭に、ゼンスがあとを追う。
「人形の感じが変わったのを、あなたはどう見ます?」
「ああ……なんとなく、ちょっとレベルが上がったような感じか? ホントになんとなくだけどな」
嫌な感じぐらいにしかまだわからないミモザは、それを言語化して答えてくれたゼンスに感心する。
「なるほど、すっきりしました。より注意が必要ですね」
そう答えながら、ミモザは考える。
レベルが上がる。
強さを示す表現としてよく使われる言葉だが、呪いとはそこまで変えてしまうものなのか。
呪導具“マリン”。美国が正式に危険呪導具と認定した国宝。
危険呪導具の破壊、可能なら保護。これが今回ロゼンパーティーにされた依頼内容になる。
(もちろん破壊は建前、他の人形たちの保護を依頼内容に含まなかったのは私たちへの配慮でしょう。目的は保護、無力化させることですが……)
レベルが上がる。つまるところ難易度が上がったということだ。
おそらくマリンがこの人形館を通じて、なにかしら人形たちに変化を与えているのだろうが、人形が動くどころかレベルまで上がりだすなら、依頼内容の達成はどんどん困難になる。
「──おい、ミモザ」
名前を呼ばれたため、走っていたミモザは思考を中断し、足を止めた。
「なんですか?」
「知るか。こいつが俺を叩いてくるから仕方ねえだろ」
ゼンスは、頬っぺたを叩いてくる片目のない小さな人形にため息をつく。声を発しないが、何かを伝えようとしていることは明白だった。
廊下を見渡したが、近くに人形の姿はない。ミモザは、ゼンスの肩に乗った人形が指さす方向に目を向けた。
そこには広い展示室があった。
警戒しながらも中に入っていくと、そこには床にしみ込んだ赤と、粉々に砕けたガラスの破片が散らばっていた。
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