パパと一緒

kudamonokozou

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決死の脱出

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「元の世界って、どういうことなんだ?」
パパは合点がいかぬ顔つきで尋ねました。

「この国には、別の世界と通じる出入り口があるんだ。そして時々別世界の住人が迷い込んでくる。ところが、あのニチリ将軍とアレド隊長が、自分達の権力を守るために、捕まえては処刑してしまうのだ。あいつらは自分たちの権力を維持するために、多くの人を無実の罪で処刑したり、実験の道具として使っているのだ。俺はそんな将軍の不正や蛮行を正そうとしている者の一人だ。さあ、今すぐここから逃げるんだ。」
エリちゃんの話を聞いていたので、パパはユーリーの言葉を信じました。三人は屋敷を脱出しました。

三人は夜道を懸命に走りました。幸い、月や星が夜道を照らしてくれていました。道中、ユーリーはこう説明しました。
「あんたたちが降り立ったところは、この国への入り口だ。出口は隣の山にあるのだが、奴らはその正確な場所までは知らない。何とか奴らに見つからずに、出口までたどり着くようにしなくては。」
その時忽然こつぜんと、前方にいくつもの小さな明かりがぼうっと浮かび上がりました。

「しまった、もう手が回ったか!」
いつの間にか後ろからも、小さな明かりが迫ってきていました。
「二手に別れよう。あんたはこの子を肩車して、この川を渡るんだ。奴らは泳げないからすぐには追って来れない。奴らを振り切ったら、元来た山の中腹に隠れていろ。その方が、警戒が解けているので安全だ。俺も必ず行くから。」

そして落ち合う場所を告げてから、ユーリーは、
「うおー!」
と凄まじい声を上げながら、前方の明かりの群れに突進して行きました。

パパは言われた通りに川まで走って行き、エリちゃんを肩車して、水の中にざぶんと入りました。そして、流されないように踏んばりながら、川底を歩きました。
何とか向こう岸にたどりついて、元いた方の岸を見やると、追っ手が騒いでいますが、誰も川を渡ろうとしません。パパとエリちゃんはどんどん進んでいき、追っ手から見えなくなりました。

二人は山に登りました。夜の山はなんだか恐ろしかったのですが、命が助かるために懸命に登りました。
やっと待ち合わせ場所にたどり着いて、大きな木の根元に腰を下ろしました。
パパは疲れてぐったりしていましたが、エリちゃんはなんだか興奮した様子で、突然こんなことを言い出しました。
「ね、パパ、遊ぼう。」
「えっ、でも、遊び道具なんて何もないよ。」
「いいの、おちゃらかしよう。」
「おちゃらか?どうやるんだい。」
「こうよ。おちゃらか、おちゃらか、おちゃらかほい、おちゃらか勝ったよ、おちゃらかほい。」
「これでいいのかい。おちゃらか、おちゃらか、おちゃらかほい。」
パパは、一生懸命エリちゃんのまねをしました。
「おちゃらか、おちゃらか、おちゃらかほい・・・」
エリちゃんは楽しくて楽しくて、パパの手をとりながら、ぴょんぴょんとびはねて、おちゃらかをしました。
『こんな簡単な遊びで、エリはよろこんでくれるんだ。どうして今までこれ位のことをしてやれなかったのだろう。』
パパの目から、ぽろぽろ涙がこぼれ落ちました。
「パパ、なんで泣いてるの。」
エリちゃんが心配そうに聞きました。
「ううん、何でもないよ。」
パパは涙がこぼれないように上を向きました。エリちゃんも空を見上げました。

「うわー、とってもきれい!」
夜空には星が溢れんばかりに輝いています。エリちゃんは、こんな夜空を見るのは始めてです。
「お星様、本当はあんなにたくさんいるのね。」
そう言って星空を見上げるエリちゃんの目も、きらきら輝いていました。
パパはエリちゃんの顔を見つめながら、
『元の世界に戻ったら、こんな奇麗な夜空が見られるようなところへ、何回も何回もエリを連れて行ってあげよう。』
と思いました。

しばらくして、エリちゃんは眠くなりました。無理もありません、小さな子供なのですから。エリちゃんはその夜、パパの腕に抱かれて眠りました。きっとすてきな夢を見たことでしょう。
やがて夜が明けました。

「小林、小林。」
誰かに呼ばれてふと目を覚ますと、ユーリーが目の前に立っていました。パパもつい、うとうとしてしまったようです。

「これから尾根づたいに隣の山へ移動する。途中に見張りがいるが、大した人数ではないから強行突破する。あんたの武器だ。」
そう言ってユーリーは一本の堅い木の棒をパパに渡しました。それは木刀くらいの長さがありました。
「強行突破って、この棒で戦うのか。」
パパの問いに対して、ユーリーは黙ってうなずきました。パパはやや戸惑っているようでしたが、すぐに腹を決めた顔つきになりました。

三人は尾根を渡って、隣の山へと向いました。パパとユーリーに遅れまいと、一生懸命歩いていたエリちゃんでしたが、急にしゃがみ込んでしまいました。
「どうした、エリ。もう疲れたのか。」
「ううん、足、痛いの。」
エリちゃんは、家を出る時、急いでパパの車に潜り込んだので、靴下を履くひまが無かったのです。そして長い山歩きの末、エリちゃんの足の皮は痛々しく破れてしまっていたのでした。
「エリ、気がつかなかったパパが悪かった。さあ、パパにおんぶしなさい。」
パパはしゃがんで、エリちゃんに背中を向けました。
「それならこの紐を使うといい。」
ユーリーがたすきのような長い紐をくれました。
パパはエリちゃんを背負い、その紐でしっかりと自分の体に結び付けました。
「エリ、きつくないかい。」
「ううん、パパにおんぶしてもらってうれしい。パパの背中、気持ちいい。」

途中、見張りがいましたが、パパとユーリーで簡単にやっつけてしまいました。獣道けものみちを通って長いうっそうとした茂みを抜けると、小さな広場に出ました。

「・・・奴らの気配は無い。大丈夫だ。」
そこには大きな洞穴がありました。
「これがその出口か。」
パパは中をのぞき込みました。
「いや、それはごまかしだ。出口じゃない。ちょっと、そこの草をどけてみてくれ。」
そう言ってユーリーは、もう一つ隣の岩壁を指差しました。パパが草をかき分けてみると、大人の胸の高さ位のところから、幅も高さも八十センチ位の小さな洞穴が現れました。
「随分小さいんだな。」
パパはそう言って中を覗き込みましたが、はっとして、「これを見てごらん。」と、背中にいるエリちゃんにも穴の中を覗かせました。
「あっ、ママが見える・・・泣いてる。」
不思議なことに、穴の向こうにはママの姿が映っていたのです。
「エリとパパがいなくなったんで、悲しんでいるんだよ。さ、早く戻ってママを安心させてあげよう。」
まずユーリーが穴に飛びついて、中に入りました。パパはエリちゃんをおんぶひもからはずし、抱っこして穴の中に入れました。
「こんな小さな穴では、パパは厄介だな。」

そう言いながら、パパが洞穴の口に手をかけたまさにその時です。
「見つけたぞー!こっちだ、こっちだ!」
追っ手の兵隊の叫ぶ声がしました。大変です。とうとう見つかってしまいました。兵隊たちがこちらに迫ってきます。パパは洞穴を背にして振り向き、棒を構えました。

「早く追え!」
アレド隊長の命令に従って、兵隊たちが次々に穴に飛びつこうとしました。パパはそれを棒で、ばしっ、ばしっと叩き落としました。穴の中からその光景を見ていたエリちゃんは、
「パパー!パパー!」
と叫びながら戻ろうとしました。それをユーリーが懸命に引き止めました。その時、パパが洞穴の中へ向かって叫びました。
「エリ!パパは大丈夫だ!早くママのところへ行きなさい!」
ユーリーも、
「エリちゃん、パパは大丈夫だ。だから先に行って待ってるんだ!」
と言って、力ずくでエリちゃんを穴の奥へと引きずって行きました。

「パパー!パパー!」
エリちゃんは泣きじゃくりながら、ずっと叫び続けました。
一方、洞穴の外では、パパがものすごい形相で、戦い続けていました。心の中で強くこう叫びながら。
『エリは絶対に俺が守る!』
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