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踊りの師匠とアオダイショウ(始まり編)
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「親分、てーへんだー!てーへんだー!」
朝っぱらから騒々しく叫んで飛び込んできたのは、岡っ引きの時からワン七の子分をしている熊吉です。
熊吉は犬なのに、なんとなく熊っぽいからというわけのわからない理由で、熊吉と名付けられました。
「おい、その親分はもうやめてくれ。御一新の世の中だ。」
「へい、すみません。踊りの師匠が絞め殺されました。」
「何、で仏は誰だ、いつ殺されたのだ。」
「歌女房という年増女なんですが、旦那衆にはなかなか人気があったらしいです。昨夜遅く殺されたようですね。」
「昨夜遅くということは、もう役人は来てるのか。」
「へい、来てます。斎藤さんが現場の指揮官です。」
「斎藤さん?あの斎藤さんかい。」
斎藤さんというのは名を斎藤新八といって、戊辰戦争の時に活躍した剣豪の元お侍です。腕を買われて明治政府で警察官に取り立てられました。
この時はまだ明治新政府の警察制度もしっかりと固まっておらず、警察を府兵と呼んでいる時期もありました。
でもこの作品では、人々がなじみのある「警察」で進めます。
熊吉の話に戻ります。
「ええ、そうです。犯人を見つけるのにどうしてもワン七親分…じゃなかった、ワン七探偵の力を借りたいって。で、警察は犯人の目星を既に付けているんです。下手人はアオダイショウだと言ってました。仏の首に蛇の跡が付いてましたし、早朝、仏さんが発見されたとき、現場からアオダイショウが逃げていくのを目撃されているんです。」
「アオダイショウ?そいつは妙だな。アオダイショウは人を絞め殺したりしないものだ。でも何で役人が自分で見つけないんだ。」
「庭のどこかに隠れているはずなんだが、どうしても見つけられないって。それでワン七探偵の鼻で嗅ぎだしてくれないかって。」
「熊吉、おめえだって鼻が付いてるだろう。なんでおめえが探さないんだ。」
「それがどうしてもワン七を呼んでくれって、斎藤さんが言うもんで。」
「斎藤さんにしちゃあ、ちと抜けてるな。ふーむ、そうか分かった。斎藤さんに借りを作りに行くとするか。」
と言って、ワン七は熊吉とともに事件現場に駆け付けました。
歌女房の家は、踊りの稽古場と自宅を兼ね備えたなかなか立派な構えで、庭には何本かの背の高い木が植わっておりました。
事件現場の真ん中には、なぜかしら斎藤新八の上官がふんぞり返っていて、ワン七に向かって「そんなに広い庭じゃない。さっさとアオダイショウを見つけてくれ。」と命令してきました。
『事件をひっかき回しているのは、こいつか。』とワン七は、上官のまぬけ面に一瞥をくれました。
ワン七は探偵の習性で、まずは現場の部屋に入って、被害者の様子を観察しました。
一通り観察をしてから、『さっさと見つけろ』と上官がうるさいので、アオダイショウを探すまね事でもしようかと思いましたが、ふいに誰かに肩をポンとたたかれました。
振り返るとそれは斎藤新八でした。
「済まねえな。あのバカ上官がさっさとアオダイショウの仕業だと決めつけたんだが、ワン七、おめえはどう見る。」
「確かに仏の首には、蛇のうろこで押し付けた跡のようなものがありますが、その内側にもっと細い紐の跡が食い込んでいます。そちらが本当の死因でしょう。」
「流石はワン七だ。これは内緒の話なんだが、あの歌女房は上官といい仲だったんだよ。それでこんな現場にまで出張ってきやがった。内緒と言ったが、実際は皆感づいていてバレバレだ。本当に節穴の目を持ったお偉いさんだよ。」
と斎藤新八は、思わずワン七に愚痴を言ってしまいました。
そんなことは意に介さず、ワン七は事件の話を続けました。
「部屋が全く荒らされていないので、物取りの仕業じゃないですね。恨みでしょう。細い紐で絞め殺しておいて、それからわざわざ蛇に絞殺されたように細工をするとは、念が入っています。ほとんど抵抗していませんから、顔見知りの犯行か、よほど手慣れた奴の仕業かと。」
上官は犯人はアオダイショウだと決めつけていますが、斎藤新八も真犯人は別にいると踏んでいるのでした。
それでワン七に来てもらったのです。
「それじゃあ、もう一度女中を呼ぼう。おい、お年さん。こっちへ来てくれ。」
と斎藤新八が女中を呼ぶと、ふんぞり返っている上官が、
「おいおい、アオダイショウを見つけてくれればいいんだよ。」
と邪魔をしましたので、斎藤新八はぎろっと上官の顔を睨みつけました。
すると上官は、しまったという顔をして下を向いてしまいました。
ついこの間まで、戦場で生死をかけて戦ってきた剣豪に睨まれると、この上官のような実戦経験のない管理職は怯えてしまって、相手の顔を見ることさえできなくなるのです。
朝っぱらから騒々しく叫んで飛び込んできたのは、岡っ引きの時からワン七の子分をしている熊吉です。
熊吉は犬なのに、なんとなく熊っぽいからというわけのわからない理由で、熊吉と名付けられました。
「おい、その親分はもうやめてくれ。御一新の世の中だ。」
「へい、すみません。踊りの師匠が絞め殺されました。」
「何、で仏は誰だ、いつ殺されたのだ。」
「歌女房という年増女なんですが、旦那衆にはなかなか人気があったらしいです。昨夜遅く殺されたようですね。」
「昨夜遅くということは、もう役人は来てるのか。」
「へい、来てます。斎藤さんが現場の指揮官です。」
「斎藤さん?あの斎藤さんかい。」
斎藤さんというのは名を斎藤新八といって、戊辰戦争の時に活躍した剣豪の元お侍です。腕を買われて明治政府で警察官に取り立てられました。
この時はまだ明治新政府の警察制度もしっかりと固まっておらず、警察を府兵と呼んでいる時期もありました。
でもこの作品では、人々がなじみのある「警察」で進めます。
熊吉の話に戻ります。
「ええ、そうです。犯人を見つけるのにどうしてもワン七親分…じゃなかった、ワン七探偵の力を借りたいって。で、警察は犯人の目星を既に付けているんです。下手人はアオダイショウだと言ってました。仏の首に蛇の跡が付いてましたし、早朝、仏さんが発見されたとき、現場からアオダイショウが逃げていくのを目撃されているんです。」
「アオダイショウ?そいつは妙だな。アオダイショウは人を絞め殺したりしないものだ。でも何で役人が自分で見つけないんだ。」
「庭のどこかに隠れているはずなんだが、どうしても見つけられないって。それでワン七探偵の鼻で嗅ぎだしてくれないかって。」
「熊吉、おめえだって鼻が付いてるだろう。なんでおめえが探さないんだ。」
「それがどうしてもワン七を呼んでくれって、斎藤さんが言うもんで。」
「斎藤さんにしちゃあ、ちと抜けてるな。ふーむ、そうか分かった。斎藤さんに借りを作りに行くとするか。」
と言って、ワン七は熊吉とともに事件現場に駆け付けました。
歌女房の家は、踊りの稽古場と自宅を兼ね備えたなかなか立派な構えで、庭には何本かの背の高い木が植わっておりました。
事件現場の真ん中には、なぜかしら斎藤新八の上官がふんぞり返っていて、ワン七に向かって「そんなに広い庭じゃない。さっさとアオダイショウを見つけてくれ。」と命令してきました。
『事件をひっかき回しているのは、こいつか。』とワン七は、上官のまぬけ面に一瞥をくれました。
ワン七は探偵の習性で、まずは現場の部屋に入って、被害者の様子を観察しました。
一通り観察をしてから、『さっさと見つけろ』と上官がうるさいので、アオダイショウを探すまね事でもしようかと思いましたが、ふいに誰かに肩をポンとたたかれました。
振り返るとそれは斎藤新八でした。
「済まねえな。あのバカ上官がさっさとアオダイショウの仕業だと決めつけたんだが、ワン七、おめえはどう見る。」
「確かに仏の首には、蛇のうろこで押し付けた跡のようなものがありますが、その内側にもっと細い紐の跡が食い込んでいます。そちらが本当の死因でしょう。」
「流石はワン七だ。これは内緒の話なんだが、あの歌女房は上官といい仲だったんだよ。それでこんな現場にまで出張ってきやがった。内緒と言ったが、実際は皆感づいていてバレバレだ。本当に節穴の目を持ったお偉いさんだよ。」
と斎藤新八は、思わずワン七に愚痴を言ってしまいました。
そんなことは意に介さず、ワン七は事件の話を続けました。
「部屋が全く荒らされていないので、物取りの仕業じゃないですね。恨みでしょう。細い紐で絞め殺しておいて、それからわざわざ蛇に絞殺されたように細工をするとは、念が入っています。ほとんど抵抗していませんから、顔見知りの犯行か、よほど手慣れた奴の仕業かと。」
上官は犯人はアオダイショウだと決めつけていますが、斎藤新八も真犯人は別にいると踏んでいるのでした。
それでワン七に来てもらったのです。
「それじゃあ、もう一度女中を呼ぼう。おい、お年さん。こっちへ来てくれ。」
と斎藤新八が女中を呼ぶと、ふんぞり返っている上官が、
「おいおい、アオダイショウを見つけてくれればいいんだよ。」
と邪魔をしましたので、斎藤新八はぎろっと上官の顔を睨みつけました。
すると上官は、しまったという顔をして下を向いてしまいました。
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