ワン七探偵物語

kudamonokozou

文字の大きさ
8 / 12

消えて現れてまた消えた娘(解決編)

しおりを挟む
まず両国の見世物小屋に行って、女軽業師がどこにいるかと聞くと、
「ああ、菊風は今日は休みだよ。本当に迷惑なこった。」
と小屋のおやじは、不機嫌そうにぷいと横を向いてしまったので、いくらかの銭を渡して菊風の家を教えてもらいました。

菊風の家にたどり着くと、まずお松が声をかけました。
「あいすみません。善次郎さんの使いで参ったのですが。」
戸が開き、ひ弱そうな男がぼやっと立っていました。
「善次郎の?」
と声を上げたのは、ひ弱そうな男の奥で、布団に寝ている女です。女は、右足首を濡れた布で冷やしておりました。

「お松さん、ぬかるなよ!」
と掛け声をかけて、ワン七はさっと部屋に上がり込んで、押し入れの戸をガラっとけました。
「何すんだよ!」
と菊風は、押し入れを開けさせまいともがきましたが、足首の痛みがひどく、ろくに動くことができませんでした。
押し入れの中には、両手両足を縛られ、猿轡さるぐつわをかまされたお藤がぐったりしておりました。

ワン七が猿轡さるぐつわを取ってやると、お藤は「ああ。」と声を出しました。
「しめた、まだ大丈夫だ。」

お松は男を土間に押し倒して、片腕を捻じ曲げて動けなくさせていました。男には、抵抗する気は全く失せていました。
ワン七がお藤の縄をほどくと、お藤はやっと体を動かし押し入れからい出しました。
お藤は、粗末な着物に着替えさせられていました。
壁にはお藤が着ていた、桃色の着物がけてありました。

「畜生、足さえ痛めてなければ、おまえなんかに、おまえなんかに!」
菊風はたいそう悔しがって、負け惜しみを言い続けました。

「おまえなんかに?その様子だと菊風ねえさんは、俺のことを知ってるな。そうさ、俺はワン七だ。世の中が変わって、俺はもう十手持ちじゃねえ。だけど聞きたいことがある。おまえさんは若番頭の善次郎と良い仲になっていた。ところがいつもの茶屋で、善次郎が出てくるのを見かけた。あれ、と思って見ていると、しばらく後からお藤さんが出てきた。癇癪かんしゃくを起こしたおまえさんは、お藤さんに『おかみさんが大けがをした』とか何とかうまくだまして、まんまとかごに乗せてここに連れてきて家の中に閉じ込めた。」
「ああ、そうだよ。」
と菊風は、ぶっきらぼうに答えました。

「おまえさんはお藤さんから、店の間取りや、お金が奥の間のたんすにしまってあることや、庭に石灯籠が立っていることなど、色々細かく聞き出した。それでお藤さんに成りすまして、店の金を奪おうとたくらんだ。おかみさんを当身で倒して、自慢の軽業で石灯籠を踏み台にして塀を飛び越えようとしたが、忍び返しにつまづいて塀から下りるときに足を挫いてしまった。用意していた雪駄に履き替えて何とか戻ってきたが、足の腫れがだんだんひどくなっていき、それきり寝っ転がっているというわけだ。」

「だいたいその通りだが、金が欲しかったんじゃない。あの浮気野郎に一泡ふかせたかったんだ。」
「けっ、罪作りな色男だな。本当はひっぱたいてやりたいくらいだ。ところで、その着物と盗んだ金は返してもらうよ。」

菊風はすっかり神妙になって、うつむいておりました。

「ところでな、今回のことを誰にも他言しないことを約束してくれれば、菊風ねえさんをおかみに突き出さなくしてやってもいいんだぜ。」
とワン七が、菊風を横目で見ながら言いました。
「お金かい?あの男にみつんじまったから、金なんてねえよ。」
「いや、そうじゃねえ。店の信用というやつよ。おかみにあれこれ調べられると、暖簾のれんに傷がつくからな。」
「本当かい、本当に牢屋に入らなくてもいいのかい。」
「本当だ。ただし、絶対に他言しないというのが約束だ。もし破ったら、俺はすぐにおまえを牢屋にぶち込む。」
「分かった。約束する。」

こうして事件は収まりました。

ところで、菊風の顔をよく見ると、もう三十歳くらいの年齢だなと、ワン七もお松も思いました。
お藤より、とお以上も年上です。善次郎は二十三歳くらいでしょう。
ひ弱そうな男は、菊風の弟でした。菊風は、弟の面倒も見てやっているのでした。
菊風も、色々苦労してきたのでしょう。

お虎の家では、お藤の帰りを手放しで喜びましたが、
「ずるい男に、二度と騙されるんじゃないよ。」
とお虎は一言、お藤に釘を刺しました。

さて、善次郎は物置から引っ張り出されて、あるじのお嬢さんに手を出したとがで、即刻ひまを出されたわけですが、どういうわけか善次郎の顔は変形するほどひどくれあがり、前歯が欠けておりました。
色男も台無しです。
そしてお虎は、善次郎を無一文にして「二度と顔を見せるんじゃないよ!」とおどして、勝手口から放り出しました。

『恐ろしい人だな。』とワン七は、心底感じました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

イチの道楽

山碕田鶴
児童書・童話
山の奥深くに住む若者イチ。「この世を知りたい」という道楽的好奇心が、人と繋がり世界を広げていく、わらしべ長者的なお話です。

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い…… 「昔話をしてあげるわ――」 フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?  ☆…☆…☆  ※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

ぼくのだいじなヒーラー

もちっぱち
絵本
台所でお母さんと喧嘩した。 遊んでほしくて駄々をこねただけなのに 怖い顔で怒っていたお母さん。 そんな時、不思議な空間に包まれてふわりと気持ちが軽くなった。 癒される謎の生き物に会えたゆうくんは楽しくなった。 お子様向けの作品です ひらがな表記です。 ぜひ読んでみてください。 イラスト:ChatGPT(OpenAI)生成

不幸でしあわせな子どもたち 「しあわせのふうせん」

山口かずなり
絵本
小説 不幸でしあわせな子どもたち スピンオフ作品 ・ ウルが友だちのメロウからもらったのは、 緑色のふうせん だけどウルにとっては、いらないもの いらないものは、誰かにとっては、 ほしいもの。 だけど、気づいて ふうせんの正体に‥。

黒地蔵

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

ゆまちゃんとヤン丸の12ヶ月

万揮/マキちん
絵本
まん丸な子犬のヤン丸とゆまちゃんという女の子の一年間の物語です。

処理中です...