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消えて現れてまた消えた娘(推理編)
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「ということで、なにとぞ内密ということで、ワン七探偵にぜひ来ていただきたいのです。」
と若番頭の善次郎は、ワン七探偵の事務所に朝っぱらからお願いに来ました。
ワン七は幕末の頃から岡っ引きをやっている犬です。
とても腕が良く、明治になってからは、探偵事務所を開いています。
「むむ、お虎さんとは知らない仲じゃない。じゃあ早速参りましょうか。」
とワン七は快く引き受けて出かけることにしました。
さて、お虎の店の奥の間で、お虎、お松、善次郎がワン七に向かって顔を寄せ合いました。
「うむ、そうすると、お藤さんが奥の間から出ていって、それきりいなくなってしまったということですね。」
とワン七が一通りの話を聞いた後、事件の要点を確認しました。
「そうなんですよ。お藤はそんな大それたことをする娘じゃありません。草履だって、いつもきちんと揃えておくように躾しましたのに。昨日はあの子、帰って来てから妙におかしかったです。」
「ところでお松さん、お嬢さんとは本当に買い物に出かけたのですか。」
と言われて、お松はぎくっとしました。
「あんたの袖の染みは、そりゃあおでんのつゆですね。そのにおいは、倉山のおでん屋のものだ。倉山には茶屋もある。お松さん、何で昨日そんなにたらふくおでんを食べなさったんで。」
とワン七に問いつめられて、お松はまた、「わーん」と泣いてうち伏してしまいました。
ワン七の鼻は、ごまかせません。
お虎は驚いた顔をして、お松の顔を茫然と見つめていました。
「それだけじゃありません。そこの色男の番頭さんの着物にも、同じおでんのにおいがまだまだ残っていやす。善次郎さん、あんたもあのおでん屋にいましたね。」
「あんたたち、出来合ってたのかい。」
とお虎が叫んで、すごい目で二人の顔をにらみつけました。
「そうじゃないでしょう。お松さんは、色気よりまだまだ食い気だ。お松さんは取り持ち役だ。善次郎さんは、お藤さんが茶屋に入るのをおでん屋で待っていたんですよ。」
ワン七のこの言葉を聞いて、お虎はくらくらとめまいがし、後ろにのけ反りそうになりました。
「その話は取りあえず後にして、庭を調べさせてもらえますか。」
とワン七は、お藤と善次郎の話題を打ち切りにして、縁側から庭に降りました。
お藤の行方を探ることが、最も重要な課題です。
庭の隅には、大きな石灯籠が立っていました。
「昨日、この庭に梯子のようなものが置かれてませんでしたか。」
とのワン七の問いに、
「そんなものはありませんでした。」
とお虎が答えました。そして続けて、
「それに梯子を使ったとしても、この高い塀をあの子が飛び越えられるはずがありません。」
ときっぱりした口調で言いますと、善次郎も続けて、
「お嬢様が、そんなはしたない芸当をするはずがありません。」
と断言しました。
しかしワン七は、この庭に足袋の跡が付いているのに気付いていました。その足袋の跡は、石灯籠まで続いておりました。
「勝手口から、庭の外に出られますかい。」
とワン七が聞くと、
「はい、ずっと塀伝いに回ったら外に出られます。」
とお松がまだ半分べそをかきながら答えました。
庭の外に回ってみると、ワン七はそこに雪駄の跡を見つけました。
しかしその跡は、少し片足をひきずっているように見えました。
『足を挫きやがったかな。』
とワン七は推測しました。
そして善次郎が放った、『お嬢様が、そんなはしたない芸当をするはずがありません』という言葉が、やけに引っ掛かりました。
「善次郎さん、お嬢様はそんなはしたない芸当をするはずがないが、他の誰かならそんな芸当ができるのですかい。」
と、ちょっとワン七がかまをかけると、
「いえ、その、私は女軽業師ならできるだろうと思っただけです。」
と善次郎は、目を泳がせながら答えました。
善次郎の様子がおかしいと悟ったワン七は、突然凄みを利かせて、
「おい、善次郎!おまえはお藤さんの居所を知ってるな?それは女軽業師の住処か?女軽業師と言えば両国だな。さっさと白状しやがれ!」
と、どやしつけました。善次郎は震えあがって、
「知りません、知りません。本当です。あの女とはいつも茶屋で会っているので、家までは知りません。」
と申し開きました。
「おかみさん、この色男を逃げられないようにしっかりと縛って、物置に放り込んでおいてください。それから腕の立つ若い者を一人貸しておくんなさい。今からお嬢さんを助けに行きます。」
とワン七が要請すると、
「私も行きます。」
とお松が名乗り出ました。
「じゃあ、あんたでいいや。」
と言って、ワン七はお松とともに走り出しました。
と若番頭の善次郎は、ワン七探偵の事務所に朝っぱらからお願いに来ました。
ワン七は幕末の頃から岡っ引きをやっている犬です。
とても腕が良く、明治になってからは、探偵事務所を開いています。
「むむ、お虎さんとは知らない仲じゃない。じゃあ早速参りましょうか。」
とワン七は快く引き受けて出かけることにしました。
さて、お虎の店の奥の間で、お虎、お松、善次郎がワン七に向かって顔を寄せ合いました。
「うむ、そうすると、お藤さんが奥の間から出ていって、それきりいなくなってしまったということですね。」
とワン七が一通りの話を聞いた後、事件の要点を確認しました。
「そうなんですよ。お藤はそんな大それたことをする娘じゃありません。草履だって、いつもきちんと揃えておくように躾しましたのに。昨日はあの子、帰って来てから妙におかしかったです。」
「ところでお松さん、お嬢さんとは本当に買い物に出かけたのですか。」
と言われて、お松はぎくっとしました。
「あんたの袖の染みは、そりゃあおでんのつゆですね。そのにおいは、倉山のおでん屋のものだ。倉山には茶屋もある。お松さん、何で昨日そんなにたらふくおでんを食べなさったんで。」
とワン七に問いつめられて、お松はまた、「わーん」と泣いてうち伏してしまいました。
ワン七の鼻は、ごまかせません。
お虎は驚いた顔をして、お松の顔を茫然と見つめていました。
「それだけじゃありません。そこの色男の番頭さんの着物にも、同じおでんのにおいがまだまだ残っていやす。善次郎さん、あんたもあのおでん屋にいましたね。」
「あんたたち、出来合ってたのかい。」
とお虎が叫んで、すごい目で二人の顔をにらみつけました。
「そうじゃないでしょう。お松さんは、色気よりまだまだ食い気だ。お松さんは取り持ち役だ。善次郎さんは、お藤さんが茶屋に入るのをおでん屋で待っていたんですよ。」
ワン七のこの言葉を聞いて、お虎はくらくらとめまいがし、後ろにのけ反りそうになりました。
「その話は取りあえず後にして、庭を調べさせてもらえますか。」
とワン七は、お藤と善次郎の話題を打ち切りにして、縁側から庭に降りました。
お藤の行方を探ることが、最も重要な課題です。
庭の隅には、大きな石灯籠が立っていました。
「昨日、この庭に梯子のようなものが置かれてませんでしたか。」
とのワン七の問いに、
「そんなものはありませんでした。」
とお虎が答えました。そして続けて、
「それに梯子を使ったとしても、この高い塀をあの子が飛び越えられるはずがありません。」
ときっぱりした口調で言いますと、善次郎も続けて、
「お嬢様が、そんなはしたない芸当をするはずがありません。」
と断言しました。
しかしワン七は、この庭に足袋の跡が付いているのに気付いていました。その足袋の跡は、石灯籠まで続いておりました。
「勝手口から、庭の外に出られますかい。」
とワン七が聞くと、
「はい、ずっと塀伝いに回ったら外に出られます。」
とお松がまだ半分べそをかきながら答えました。
庭の外に回ってみると、ワン七はそこに雪駄の跡を見つけました。
しかしその跡は、少し片足をひきずっているように見えました。
『足を挫きやがったかな。』
とワン七は推測しました。
そして善次郎が放った、『お嬢様が、そんなはしたない芸当をするはずがありません』という言葉が、やけに引っ掛かりました。
「善次郎さん、お嬢様はそんなはしたない芸当をするはずがないが、他の誰かならそんな芸当ができるのですかい。」
と、ちょっとワン七がかまをかけると、
「いえ、その、私は女軽業師ならできるだろうと思っただけです。」
と善次郎は、目を泳がせながら答えました。
善次郎の様子がおかしいと悟ったワン七は、突然凄みを利かせて、
「おい、善次郎!おまえはお藤さんの居所を知ってるな?それは女軽業師の住処か?女軽業師と言えば両国だな。さっさと白状しやがれ!」
と、どやしつけました。善次郎は震えあがって、
「知りません、知りません。本当です。あの女とはいつも茶屋で会っているので、家までは知りません。」
と申し開きました。
「おかみさん、この色男を逃げられないようにしっかりと縛って、物置に放り込んでおいてください。それから腕の立つ若い者を一人貸しておくんなさい。今からお嬢さんを助けに行きます。」
とワン七が要請すると、
「私も行きます。」
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