ワン七探偵物語

kudamonokozou

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化け物退治の依頼(問題編)

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時は明治の初めの頃。
男の人はまだちょんまげを結っていました。
廃藩置県はいはんちけんも、まだ行われていない頃でした。

幕末の頃に岡っ引きとして活躍したワン七は、探偵になりました。
岡っ引き時代からの評判もあって、なかなか人気のある探偵です。

その日、道具屋の番頭弥三郎は、とある大藩の屋敷から代金を回収して、帰路を急いでいました。あいにくの雨がしとしとと降っており、辺りもすっかり暗くなるし周りにも人はおらず、提灯の明かりだけが頼りでした。

すると突然、傘がずしりと重くなって、弥三郎は押しつぶされそうになりました。
『危ない!』と思って、身をかわすと、大きな獣の爪のようなものが弥三郎を襲ってきました。
弥三郎は身を守ろうとして、死に物狂いで滅茶苦茶に傘を振り回しました。
傘の防御が功を奏したのか、弥三郎は多少の傷を受けましたが、致命傷をもらわずに、まだなんとか立っていることができました。

ところが次の瞬間、化け物は弥三郎の足を持ち上げ、弥三郎の身体を逆さまにして、上下に激しく振ったのです。
弥三郎は生きた心地がせず、『もうだめだ!』と観念しました。

化け物に逆さに持ち上げられ、激しく振られる恐怖と、激しい振動の衝撃によって、弥三郎は気を失ってしまいました。

それから、どれくらいの時間が流れたでしょうか。
弥三郎は意識が戻りました。雨は上がっており、おまけに月が出ていましたので明るくなり、弥三郎は慌てたように辺りを見回しました。
提灯の火は消えていました。

弥三郎は、手で自分の顔を触ると、かなりの血が出ていることに気づきました。また、腕にも血が流れていました。

そしてふと思い出したように、懐中を探りました。
どんなに探しても、大藩の屋敷から回収した金貨が見つかりません。

『大変だ!』
弥三郎は脱げていた足駄あしだを履いて、走って店までたどり着き、戸を激しく叩きました。

店はもうとっくに閉まっておりましたが、まだ残っていた者が戸を開けてくれました。
その時の弥三郎の顔は血まみれで、腕にも血が滴り落ちておりました。

奥にいた道具屋の主人が出てきて驚いて、弥三郎の手当てをするように言いつけました。

手当てを受けながらも、弥三郎は懸命に主人に、今まで起こったことを伝えました。

「若主人、申し訳ございません。化け物に代金を取られてしまいました。」
「化け物に?それでその化け物は、まだいるのかい。」
「いえ、もうどこかへ行ってしまいました。金貨を奪い取って、満足したのでしょう。」
「そしたら、私が行って金貨が落ちてないか、探してくるよ。」
と道具屋の主人は、勇敢にも夜中に化け物の出たところを探しに行くと言い出したのです。

「化け物は、身の丈八尺もある怪力の持ち主です。危ないです。今出ていくと、また獲物が来たと思って、襲いに来るかもしれません。」
と弥三郎が言ったので、店の者は皆、「今はやめた方が良いでしょう。」と主人を止めました。

ところで、この主人は角太郎と言って、先代が急死したために、突然店を継ぐことになったのでした。
弥三郎は先代との付き合いが長く、先代から厚い信頼を受けていました。
それで弥三郎は、いまだに角太郎のことを、「若主人」と呼ぶのです。

翌朝早速、角太郎は化け物に襲われて、代金を取られたことを番所に訴えに行きました。
その番所には、役人が詰めておりました。

「化け物に代金を取られた!?あのね、番所では化け物は取り扱わないことになっておるのだ。帰れ帰れ。」
角太郎が「化け物を退治してください」と真剣に訴えれば訴えるほど、役人は取り合ってくれませんでした。

仕方なく角太郎は番所への訴えをあきらめ、化け物が出たというところを調べてみることにしました。

そこは人気ひとけの少ないところで、地面にはまだ弥三郎の足駄あしだの跡がはっきりと残っておりましたが、それ以外の足跡は見えませんでした。
『ううむ、化け物は足跡さえ残さないのか。化け物が弥三郎を持ち上げたのなら、化け物の大きな足跡が残っていると思ったのだが。』
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