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幽霊屋敷の怪(解決編)
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さてさて、ワン七は金之助の家にやって参りました。
「何卒よろしくお願い致します。」
名探偵が来たということで、金之助は丁寧に挨拶をしました。
金之助の娘は、
「あ、ワンちゃんだ。」
と言って、ワン七の頭を撫でました。
「これこれ、お客様に失礼ですよ。それにこの犬は、じゃなくてこの方は、幽霊を退治しに来てくださったのですよ。」
と金之助の細君は娘を軽く叱ってから、
「それでは何もありませんが、まずは夕食を召し上がってください。」
とワン七と角右衛門を食堂へ招き入れました。
そしてワン七は夕食をご馳走になりました。
ワン七はもちろん酒は飲みません。
ところが角右衛門は、熱燗を毎晩飲むのが習慣ということで、その晩も結構飲んでいました。
「ところで、動く人形というのはどこに置いてありますか。」
とワン七が聞くので、「居間の棚に置いてあります。」と金之助家族は答えました。
居間は、食堂の隣でした。
確かにこの家は日本式家屋と違って、ふすまも障子もなく、各部屋は壁で仕切られているのでした。
『風通しが良くないな。』
とワン七は、声に出さずにつぶやきました。
食事を済ませて、ワン七は人形を調べてみました。
「それはセルロイド製です。」
と、金之助が自慢げに言いました。
「セルロイド?なるほど、日本にはない素材ですね。」
と、ワン七は感心しながら人形を細かく調べました。
「ところで、皆さんのお部屋にも幽霊は出るのですか。」
とワン七が尋ねると、
「いえいえ、幽霊が寝室で出たら、怖くて眠れないではないですか。居間だけですよ。夜中に小便で起きて、居間を通ると妙な音がするので、あわてて用を済ませて寝室へ駆け込むのです。私だけでなく、家内も娘も何度か聞いたことがあります。」
と、金之助は答えました。
その晩、角右衛門は居間の床に布団を敷いて寝ました。
ワン七は、ソファーに寝ました。
すっかり夜も更けて、辺りは静まり返りました。
「カリカリ、カリカリ」
「シャー、シャー」
幽霊の音が聞こえました。
「確かに何かいるな。」
ワン七は音の動く方向に、注意して聞き耳を立てました。
そしてソファーに鼻をくっつけて、くんくん嗅ぎました。
幽霊の音に気が付いて、角右衛門も起きてきました。
「出たな!どうだ、何か分かったか。」
と角右衛門が早速尋ねると、ワン七は、
「たいてい知れました。あっしもここで寝るのは気味が悪いので、床で寝ます。明朝、早速手配してもらいましょう。」
とあっさり答えました。
「何、もう分かったか。それで幽霊の正体は何だ?」
角右衛門は興味津々で尋ねましたが、ワン七の答えはあっけないものでした。
「虫ですね。ソファーの材木の中に虫が潜んでいます。何匹かが数か所にいます。虫の入った材木でソファーを拵えてしまい、そのソファーをはるばる輸入して、居間に虫が居座ってしまったというわけです。虫があちこちで動くので、音も移動するのです。」
それを聞いて角右衛門も、ソファーに耳をくっつけてじっと音を聞いてみました。
「うむ、たしかにこの中で音がする。そう言われてみると虫がいるようだ。」
「こんな虫を日本に入れると厄介です。外に出てこないように、焼却炉でソファーごと燃やしてしまうのがよろしいでしょう。」
角右衛門は何度もうなずきました。
「して、動く人形は何と見る?」
と、角右衛門はこの件についても、真相を知りたがりました。
「湿気でしょう。セルロイドは滑りやすい材質ですね。棚というのは真っすぐなようで、ほんの少し傾いているところがあります。おそらくこの家の壁は、元々は石灰を使ったものでしょう。石灰には湿気を吸う力があります。ところが壁をやり直して石灰の壁がはがされてしまったので、湿気が高くなって人形がすべって少しずれたのだと思います。」
「なるほどなあ。そもそも日本は湿気が高いから、ふすまや障子を使って風通しの良い作りにしていた。洋館は壁で部屋を仕切るから、湿気対策を十分にしないといけなかったということか。」
「そうです。『家の作りやうは、夏をむねとすべし』と昔から言われてますからね。」
これは、徒然草の一節です。角右衛門はすっかり納得しました。
翌朝、角右衛門は、得意げに幽霊の正体を金之助一家に解説しました。
でも、角右衛門が毎晩酔っぱらっていなければ、幽霊だと怯えることはなかったかもしれません。
いい気なものです。
これにて一件落着ですが、これから後、日本にはたくさんの外国の生き物が入ってきて、日本の景色は様変わりすることになるのです。
「何卒よろしくお願い致します。」
名探偵が来たということで、金之助は丁寧に挨拶をしました。
金之助の娘は、
「あ、ワンちゃんだ。」
と言って、ワン七の頭を撫でました。
「これこれ、お客様に失礼ですよ。それにこの犬は、じゃなくてこの方は、幽霊を退治しに来てくださったのですよ。」
と金之助の細君は娘を軽く叱ってから、
「それでは何もありませんが、まずは夕食を召し上がってください。」
とワン七と角右衛門を食堂へ招き入れました。
そしてワン七は夕食をご馳走になりました。
ワン七はもちろん酒は飲みません。
ところが角右衛門は、熱燗を毎晩飲むのが習慣ということで、その晩も結構飲んでいました。
「ところで、動く人形というのはどこに置いてありますか。」
とワン七が聞くので、「居間の棚に置いてあります。」と金之助家族は答えました。
居間は、食堂の隣でした。
確かにこの家は日本式家屋と違って、ふすまも障子もなく、各部屋は壁で仕切られているのでした。
『風通しが良くないな。』
とワン七は、声に出さずにつぶやきました。
食事を済ませて、ワン七は人形を調べてみました。
「それはセルロイド製です。」
と、金之助が自慢げに言いました。
「セルロイド?なるほど、日本にはない素材ですね。」
と、ワン七は感心しながら人形を細かく調べました。
「ところで、皆さんのお部屋にも幽霊は出るのですか。」
とワン七が尋ねると、
「いえいえ、幽霊が寝室で出たら、怖くて眠れないではないですか。居間だけですよ。夜中に小便で起きて、居間を通ると妙な音がするので、あわてて用を済ませて寝室へ駆け込むのです。私だけでなく、家内も娘も何度か聞いたことがあります。」
と、金之助は答えました。
その晩、角右衛門は居間の床に布団を敷いて寝ました。
ワン七は、ソファーに寝ました。
すっかり夜も更けて、辺りは静まり返りました。
「カリカリ、カリカリ」
「シャー、シャー」
幽霊の音が聞こえました。
「確かに何かいるな。」
ワン七は音の動く方向に、注意して聞き耳を立てました。
そしてソファーに鼻をくっつけて、くんくん嗅ぎました。
幽霊の音に気が付いて、角右衛門も起きてきました。
「出たな!どうだ、何か分かったか。」
と角右衛門が早速尋ねると、ワン七は、
「たいてい知れました。あっしもここで寝るのは気味が悪いので、床で寝ます。明朝、早速手配してもらいましょう。」
とあっさり答えました。
「何、もう分かったか。それで幽霊の正体は何だ?」
角右衛門は興味津々で尋ねましたが、ワン七の答えはあっけないものでした。
「虫ですね。ソファーの材木の中に虫が潜んでいます。何匹かが数か所にいます。虫の入った材木でソファーを拵えてしまい、そのソファーをはるばる輸入して、居間に虫が居座ってしまったというわけです。虫があちこちで動くので、音も移動するのです。」
それを聞いて角右衛門も、ソファーに耳をくっつけてじっと音を聞いてみました。
「うむ、たしかにこの中で音がする。そう言われてみると虫がいるようだ。」
「こんな虫を日本に入れると厄介です。外に出てこないように、焼却炉でソファーごと燃やしてしまうのがよろしいでしょう。」
角右衛門は何度もうなずきました。
「して、動く人形は何と見る?」
と、角右衛門はこの件についても、真相を知りたがりました。
「湿気でしょう。セルロイドは滑りやすい材質ですね。棚というのは真っすぐなようで、ほんの少し傾いているところがあります。おそらくこの家の壁は、元々は石灰を使ったものでしょう。石灰には湿気を吸う力があります。ところが壁をやり直して石灰の壁がはがされてしまったので、湿気が高くなって人形がすべって少しずれたのだと思います。」
「なるほどなあ。そもそも日本は湿気が高いから、ふすまや障子を使って風通しの良い作りにしていた。洋館は壁で部屋を仕切るから、湿気対策を十分にしないといけなかったということか。」
「そうです。『家の作りやうは、夏をむねとすべし』と昔から言われてますからね。」
これは、徒然草の一節です。角右衛門はすっかり納得しました。
翌朝、角右衛門は、得意げに幽霊の正体を金之助一家に解説しました。
でも、角右衛門が毎晩酔っぱらっていなければ、幽霊だと怯えることはなかったかもしれません。
いい気なものです。
これにて一件落着ですが、これから後、日本にはたくさんの外国の生き物が入ってきて、日本の景色は様変わりすることになるのです。
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