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化け物退治の依頼(解決編)
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「すまねえが、熊吉、おめえに頼みがある。」
岡っ引き時代からの子分の熊吉は犬です。何だか熊のように思えるというわけの分からない理由で、熊吉という名前が付けられてしまいました。
「へえ、なんでがしょ。」
二人がいるのは、化け物が出たという場所です。角太郎と弥三郎は、もう帰ってしまっています。
「この辺りに棲んでいる、カワウソを見つけてほしい。ちょっと泳ぎがおかしくなっているカワウソだ。ひょっとしたら、怪我をしているかもしれん。」
「へえー、カワウソ。そいつが何か事件に関係あるんですかい。」
そこでワン七は、化け物騒ぎの事件について、聞いたこと、調べたことを熊吉に説明しました。
「よっくわかりやした。あいつらはそこらへんに巣くってやすから、猫や雀に聞いたら案外早く見つかるかもしれません。」
「頼むよ。俺は念のために、でかい網を買ってくる。」
こうしてワン七は、荒物屋で大きい網を買ってきました。
事件現場あたりに戻ってくると、少し先の土手の上で、熊吉が手を振っています。
ワン七が駆け寄ってよく見ると、川のふちにはカワウソの巣がありまして、一匹のカワウソがぐったりとしておりました。
土手を下りて、ワン七と熊吉は、網でカワウソを救い上げてやりました。
「こいつが重くてうまく泳げなくて、おいら何も食べてないんだ。」
と、弱弱しくカワウソが言いました。
熊吉が尻端折りをして川の浅瀬に入り、腕を伸ばして、川の中ほどから網で小魚を何匹かすくい取りました。
その間にワン七は、カワウソの首に巻き付いている紐を外してやりました。
その紐の先には袋がついており、袋の中にはたくさんの金貨が入っておりました。
「ああ、生き返った。」
小魚をむさぼりながら、カワウソは安心した表情を見せました。
「おまえも、悪戯をたいがいにするんだな。」
とワン七がカワウソを諭しました。
「それにしてもあの爺、酷いことをしやがる。おいらの首に重しを巻きつけやがって。」
カワウソは、弥三郎に対してすごく怒っておりました。
「それはおまえが、あの爺さんをひっかいたからだろう。」
「おいら、ああいう人間を見つけたら、どうしても悪戯をしたくなるんだ。なんでかな。」
「これに懲りて、悪戯をしないことだ。」
「うん、わかったよ。なるべくそうする。」
「あ、だけど今夜はこの巣にいちゃあだめだ。あの爺さんが、おまえを捕まえに来るからな。おまえはあの爺さんに、絶対に捕まらないようにしておくんだ。」
「え、今夜また来るのかい。あの爺。」
「ああ、俺があの爺さんをとっちめてやるんだ。」
「そいつはおもしろい。おいらも見に行くよ。」
「そうか、じゃあ来てくれ。だけど絶対に捕まるなよ。相手も網をもってるからな。」
「わかった。じゃあ、助けてくれてありがとう。」
お礼を言って、カワウソはうれしそうに泳いでいきました。
さて、その日の夜。提灯を持った人影が、川の土手をうろついておりました。肩には大きな網を担いでおります。
「おかしいなあ、あいつの巣はこの辺だと思ったのだが。」
その人影は、弥三郎でした。
「番頭さん、探しているのは、カワウソですかい、それとも金貨ですかい。」
と呼びかけられて、弥三郎はぎくっとしました。
提灯で相手を照らして、それがワン七だと知りました。
「おや、ワン七さんですか。脅かさないでくださいよ。こんなところで何をしてるんです?」
「こっちは探偵なんでね。夜中でも仕事をしてるんですよ。番頭さんこそ、こんな夜中に網を抱えて、何をしてるんですかい。」
「こ、これは、魚を捕ろうとしてるんですよ。」
「ところで、化け物の正体が分かりましたんでね、角太郎さんにお教えしようと思ってるんですよ。」
「化け物の正体が分かった?で、金貨はどうした?」
「金貨は化け物が持ってましたよ。取り返しましたがね。」
「何だと、じゃあお前が俺の金貨を盗んだんだな。返せ、あれは俺の金貨だ。」
「番頭さんの金貨じゃないよ。お店で稼いだ金貨だ。」
「俺がどれだけこの店に尽くしたと思ってるんだ。あの店を大きくしたのは、先代と俺だ。」
「だからって、お店の代金がまるまる番頭さんのものになるというのは、おかしな話だ。角太郎さんだって、店の他の人たちだって、みんなの力であのお店を大きくしたんじゃないのかい。」
「あの若主人じゃあ、この店は大きくできない。馬鹿正直すぎるからな。」
その時、もう一つの提灯の明かりがゆっくり現れました。
提灯の持ち主は、角太郎でした。
それを見てひどく狼狽した弥三郎は、
「あ、こいつです。ワン七が金貨を盗んだのです。」
と、滅茶苦茶なことを喚きました。
「何を言ってるんです。金貨は私の懐にありますよ。」
と角太郎は、懐から金貨の入った袋を取り出しました。
弥三郎は、もうおしまいだとうなだれて、膝をついてしまいました。
「おーい、こっちへ来てくれ。」
とワン七が、川の方に向かって叫びました。
すると、川の向こう側から、何か生き物がすいすいとこちらに泳いできました。
その生き物が川から上がると、それはカワウソでした。
ワン七がカワウソを指して、
「これが化け物の正体です。」
と言うと、角太郎は目を丸くしました。
「でも、弥三郎を逆さにして振った八尺の大きな化け物だと…」
「それは、番頭さんが金貨をなくしたことにするために、とっさに付いた嘘です。こんな下手な嘘を付いたら、探偵からみれば、『私が盗みました』と白状しているようなものです。あの現場には大きな足跡はありませんでしたが、小さな足跡がいくつか残っていたのです。」
「そうですか。勉強不足で申し訳がない。」
ところでカワウソは、弥三郎をもっとひっかいてやりたいと思っているのですが、ワン七に諭されているので我慢しました。
「番所に突き出しますか。」
とワン七が角太郎に聞きました。
角太郎は弥三郎に歩み寄って、優しい口調で言いました。
「番頭さん、おまえをもうこの店に置いておくことはできない。これは今まで働いてくれたお礼だ。このお金で正直に何か別の商売をしておくれ。」
そうして、弥三郎の手に金貨五枚を渡しました。
弥三郎は泣き崩れました。
他の皆がその場から立ち去っても、いつまでも泣き続けていました。
帰り道で、角太郎が済まなさそうに言いました。
「私もお恥ずかしい。騒ぎを荒立ててしまって。勉強不足でした。では、お礼を十分させていただきます。」
「そうですね。私と熊吉の探偵料と、網の代金をいただきましょうか。」
ここで角太郎は、ワン七の言う『相当の出費』とは、番頭をクビにすることだということに気付きました。
こうしてこの事件は、すっかり幕を閉じたのです。
この時代はあちこちの川に、二ホンカワウソが棲みついていました。
ところが、乱獲などで二ホンカワウソは激減し、現在では絶滅したとされています。
何とも言えません。
岡っ引き時代からの子分の熊吉は犬です。何だか熊のように思えるというわけの分からない理由で、熊吉という名前が付けられてしまいました。
「へえ、なんでがしょ。」
二人がいるのは、化け物が出たという場所です。角太郎と弥三郎は、もう帰ってしまっています。
「この辺りに棲んでいる、カワウソを見つけてほしい。ちょっと泳ぎがおかしくなっているカワウソだ。ひょっとしたら、怪我をしているかもしれん。」
「へえー、カワウソ。そいつが何か事件に関係あるんですかい。」
そこでワン七は、化け物騒ぎの事件について、聞いたこと、調べたことを熊吉に説明しました。
「よっくわかりやした。あいつらはそこらへんに巣くってやすから、猫や雀に聞いたら案外早く見つかるかもしれません。」
「頼むよ。俺は念のために、でかい網を買ってくる。」
こうしてワン七は、荒物屋で大きい網を買ってきました。
事件現場あたりに戻ってくると、少し先の土手の上で、熊吉が手を振っています。
ワン七が駆け寄ってよく見ると、川のふちにはカワウソの巣がありまして、一匹のカワウソがぐったりとしておりました。
土手を下りて、ワン七と熊吉は、網でカワウソを救い上げてやりました。
「こいつが重くてうまく泳げなくて、おいら何も食べてないんだ。」
と、弱弱しくカワウソが言いました。
熊吉が尻端折りをして川の浅瀬に入り、腕を伸ばして、川の中ほどから網で小魚を何匹かすくい取りました。
その間にワン七は、カワウソの首に巻き付いている紐を外してやりました。
その紐の先には袋がついており、袋の中にはたくさんの金貨が入っておりました。
「ああ、生き返った。」
小魚をむさぼりながら、カワウソは安心した表情を見せました。
「おまえも、悪戯をたいがいにするんだな。」
とワン七がカワウソを諭しました。
「それにしてもあの爺、酷いことをしやがる。おいらの首に重しを巻きつけやがって。」
カワウソは、弥三郎に対してすごく怒っておりました。
「それはおまえが、あの爺さんをひっかいたからだろう。」
「おいら、ああいう人間を見つけたら、どうしても悪戯をしたくなるんだ。なんでかな。」
「これに懲りて、悪戯をしないことだ。」
「うん、わかったよ。なるべくそうする。」
「あ、だけど今夜はこの巣にいちゃあだめだ。あの爺さんが、おまえを捕まえに来るからな。おまえはあの爺さんに、絶対に捕まらないようにしておくんだ。」
「え、今夜また来るのかい。あの爺。」
「ああ、俺があの爺さんをとっちめてやるんだ。」
「そいつはおもしろい。おいらも見に行くよ。」
「そうか、じゃあ来てくれ。だけど絶対に捕まるなよ。相手も網をもってるからな。」
「わかった。じゃあ、助けてくれてありがとう。」
お礼を言って、カワウソはうれしそうに泳いでいきました。
さて、その日の夜。提灯を持った人影が、川の土手をうろついておりました。肩には大きな網を担いでおります。
「おかしいなあ、あいつの巣はこの辺だと思ったのだが。」
その人影は、弥三郎でした。
「番頭さん、探しているのは、カワウソですかい、それとも金貨ですかい。」
と呼びかけられて、弥三郎はぎくっとしました。
提灯で相手を照らして、それがワン七だと知りました。
「おや、ワン七さんですか。脅かさないでくださいよ。こんなところで何をしてるんです?」
「こっちは探偵なんでね。夜中でも仕事をしてるんですよ。番頭さんこそ、こんな夜中に網を抱えて、何をしてるんですかい。」
「こ、これは、魚を捕ろうとしてるんですよ。」
「ところで、化け物の正体が分かりましたんでね、角太郎さんにお教えしようと思ってるんですよ。」
「化け物の正体が分かった?で、金貨はどうした?」
「金貨は化け物が持ってましたよ。取り返しましたがね。」
「何だと、じゃあお前が俺の金貨を盗んだんだな。返せ、あれは俺の金貨だ。」
「番頭さんの金貨じゃないよ。お店で稼いだ金貨だ。」
「俺がどれだけこの店に尽くしたと思ってるんだ。あの店を大きくしたのは、先代と俺だ。」
「だからって、お店の代金がまるまる番頭さんのものになるというのは、おかしな話だ。角太郎さんだって、店の他の人たちだって、みんなの力であのお店を大きくしたんじゃないのかい。」
「あの若主人じゃあ、この店は大きくできない。馬鹿正直すぎるからな。」
その時、もう一つの提灯の明かりがゆっくり現れました。
提灯の持ち主は、角太郎でした。
それを見てひどく狼狽した弥三郎は、
「あ、こいつです。ワン七が金貨を盗んだのです。」
と、滅茶苦茶なことを喚きました。
「何を言ってるんです。金貨は私の懐にありますよ。」
と角太郎は、懐から金貨の入った袋を取り出しました。
弥三郎は、もうおしまいだとうなだれて、膝をついてしまいました。
「おーい、こっちへ来てくれ。」
とワン七が、川の方に向かって叫びました。
すると、川の向こう側から、何か生き物がすいすいとこちらに泳いできました。
その生き物が川から上がると、それはカワウソでした。
ワン七がカワウソを指して、
「これが化け物の正体です。」
と言うと、角太郎は目を丸くしました。
「でも、弥三郎を逆さにして振った八尺の大きな化け物だと…」
「それは、番頭さんが金貨をなくしたことにするために、とっさに付いた嘘です。こんな下手な嘘を付いたら、探偵からみれば、『私が盗みました』と白状しているようなものです。あの現場には大きな足跡はありませんでしたが、小さな足跡がいくつか残っていたのです。」
「そうですか。勉強不足で申し訳がない。」
ところでカワウソは、弥三郎をもっとひっかいてやりたいと思っているのですが、ワン七に諭されているので我慢しました。
「番所に突き出しますか。」
とワン七が角太郎に聞きました。
角太郎は弥三郎に歩み寄って、優しい口調で言いました。
「番頭さん、おまえをもうこの店に置いておくことはできない。これは今まで働いてくれたお礼だ。このお金で正直に何か別の商売をしておくれ。」
そうして、弥三郎の手に金貨五枚を渡しました。
弥三郎は泣き崩れました。
他の皆がその場から立ち去っても、いつまでも泣き続けていました。
帰り道で、角太郎が済まなさそうに言いました。
「私もお恥ずかしい。騒ぎを荒立ててしまって。勉強不足でした。では、お礼を十分させていただきます。」
「そうですね。私と熊吉の探偵料と、網の代金をいただきましょうか。」
ここで角太郎は、ワン七の言う『相当の出費』とは、番頭をクビにすることだということに気付きました。
こうしてこの事件は、すっかり幕を閉じたのです。
この時代はあちこちの川に、二ホンカワウソが棲みついていました。
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何とも言えません。
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