東京ナイトピーチ

狗嵜ネムリ

文字の大きさ
10 / 23
ひとりの秘密、ふたりの事情

しおりを挟む
 パソコン、ヘッドフォン、ティッシュケース、準備完了。
 これだけで今から俺が何をするか丸分かりだろうけど、一応カモフラージュのために面白動画投稿サイトも別ブラウザで開いておく。
「……よし、落ち着け俺。行くぞ」
 ダミーにダミーを重ねて隠したフォルダを開き、一昨日ダウンロードした動画ファイルをダブルクリックする。
 数秒の読み込みが終わって画面に映し出されたのは、今よりだいぶ若くて幼い顔立ちの雀夜だ。
「はあぁぁ……可愛い」
 その仏頂面だけで五杯は飯が食える。画面の中の雀夜は撮影部屋のソファに座り、どこか面倒臭そうに頭をかいたり咳払いをしていた。
〈それじゃあ、軽く自己紹介からお願いします〉
〈雀夜。……十八歳〉
〈お、終わり?〉
 終わりかよ! 思わず撮影者と同じことを思ってしまったが、それもまた雀夜らしくて思わずにんまりしてしまう。
「東京ブレイン・コミュニケーションズ」のサイトからはとっくの昔に削除されてしまった、雀夜のデビュー動画。一昨日の夜に偶然エロ動画アップロードのサイトで見つけたそれは、誰かの手によって違法アップされた動画だ。
 だけど他に入手する術がないなら、違法動画でも構わない。何なら雀夜と事務所に金を払っても良いと思えるくらい、俺はこの動画を探していたんだ。
 一昨日見つけてすぐにダウンロードして、雀夜が仕事で出て行った、今。見るなら今しかない。
〈それじゃあ、立って脱いでくれるかな〉
 無言で立ち上がった雀夜がシャツを脱ぎ、ベルトを外し、ズボンを脱ぐ。潔い脱ぎっぷりと、十八歳でも鍛えられたその肉体に思わず惚れ惚れしてしまう。
 ……ていうか、十八歳。今から七年前の動画だ。今の俺と変わらない年齢の雀夜は、その歳にしては落ち着いていて大人っぽかった。
「ああ、編集仕事しすぎ……!」
 最近の動画よりずっとモザイクが強くて、せっかくの大事な所がよく見えない。目を凝らしても変わらないと分かっているけど、俺は画面に顔を寄せて何とかモザイクの向こう側を見ようとした。
〈形、綺麗だね。オナニーは週どれくらい?〉
〈……あんまり〉
〈セックスの経験は?〉
〈多少〉
 雀夜は素っ気なく答えるだけで、それ以上の情報を見る側に提示してくれない。全くデビュー動画がこんなので、よく人気が出たモンだ。
 画面が切り替わり、雀夜が自分のそれを扱いているシーンになった。誰でも初めはオナニー動画からだ。俺もそうだった。
〈……ん、……ぅ〉
 緊張した様子もなくペニスを扱いている雀夜は流石といったところだ。何のオカズもないのにちゃんと勃起させているし、表情も険しく、演技ではない感じ方をしている……ように見える。
 ああ、それにしても何だか不思議な気分。
 今ではバリタチナンバーワンモデルの雀夜にも、こんな初々しい時代があったなんて。いつもは獣の如く相手を組み敷き喰らっている雀夜が、こんな素直にオナニーして顔を赤らめているなんて。
「めっちゃ可愛い……」
 ぼんやり見ていたらヨダレが垂れそうになる。この頃の雀夜を思い切り組み敷いて逆レイプしたい──今の俺とデビュー当時の雀夜なら、僅かかもしれないけど俺の方がテクニック面で勝っているはずだ。
〈……っ、イきそ……〉
 カメラが雀夜のペニスに寄り、若干だけどモザイクが薄くなった。もちろん、それを見ている俺も自分のそれを扱いている。
「雀夜、雀夜っ……可愛い、超可愛い、雀夜っ……!」
 制服姿の雀夜に抱かれる制服姿の自分を頭の中で想像する。こんないい男、俺が通っていた学校には一人もいなかった。
「あぁぁ、やばっ……!」
 精子を飛ばした画面の中の雀夜と同様に、俺も射精寸前だ──った、のに。
「てめえ何やってんだ?」
「うわあぁぁッ!」
 突然背後からヘッドフォンが外され、危うく心臓が止まりかけた。瞬間的に汗が噴き出し、反り返らせた背筋と腰に痛みが走る。
「さ、雀夜……なんでっ?」
 動画より七歳分大きくなった今現在の雀夜が、何故か俺の後ろにいた。仕事に行ったはずなのに。確かに送り出したのに。
 疑問よりも焦りが募るのは、雀夜が眉間に皺を寄せて、俺ではなくパソコンの画面を見ているからだ。
「ち、違う……たまたま見つけて、偶然見ただけで……」
 違法アップロードされた自分の動画を俺が見るなんて絶対に雀夜は許してくれない。──ましてや、隠れてコソコソ見ながらオナニーしていたなんて。
「………」
 雀夜が俺の顔を一瞥し、続いて、射精寸前だったのにすっかり萎えてしまった俺の股間に視線を落とした。
「休憩で飯でも誘おうと戻って来てやったってのに、てめえは呑気にセンズリこいてんのか」
「ご、ごめ……雀夜、だって俺、……」
「しかもその動画」
「さ、雀夜っ!」
 怒られるよりは呆れさせてしまおうと、俺は立ち上がって雀夜の目を覗き込みながら早口でまくし立てた。
「若い時の雀夜、超可愛かったよ! って、今も充分若いんだけど……今とは違う初々しい感じとかさ。もちろん今の雀夜も大人の男って感じでめちゃくちゃセクシーだし」
「………」
「何て言うか俺、雀夜の全部が知りたくて……。大好きすぎて、デビュー当時の雀夜を知ってる人達に、負けたくなくて……」
 雀夜の手がゆっくりと伸びてきて、俺の頬に触れた。
「雀夜──うああぁッ!」
「しおらしさで誤魔化そうとしても無駄だ」
「痛いっ! 痛い、痛てぇってばぁ!」
 容赦のないアイアンクローに絶叫する俺。
 言い訳無用なのは分かってたけれど!
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

処理中です...