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第4話 ミツバチと知らない人達

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 ぽかぽかと陽射しが暖かい土曜日、ベッドに転がって本を読んでいたらインターホンが鳴った。
 休日に訪ねてくる人といったらクラスメイトの誰かだ。

「誰だろ? ま、またエッチなことするのかなぁ……」

 どういう訳か俺は学校の皆から「そういうこと」をされる機会が多い。多分、お願いされると断れないのが原因だ。
 恥ずかしいけれどみんな無理矢理じゃなくて優しくしてくれるし、気持ち良いのも嫌いじゃない。何より俺を通して皆が良い気分になったり、癒されると言ってくれたり、頭を撫でたりしてくれるのは嬉しかった。
 必要とされている。そう思うと、恥ずかしくても素直になれた。

「はーい……?」
 だけど今部屋を訪ねてきたのは、どうやら生徒でも先生でもないようだ。カメラに映ったのは配達業者のユニフォームを着ている男の人で、真っ白な歯を見せ、爽やかな笑顔を浮かべている。
「お届け物です!」
「はい、はい」

 ドアを開けたその瞬間、配達員の人が玄関の中に「お届け物です!」と入ってきた。しかも三人だ。カメラに映らない場所にあと二人いたらしく、ドドドと俺の許可も得ずに中へ入ってくる。

「ちょ、ちょっと。勝手に入らないでくださいっ……」
「お届け物です!」「お届け物です!」「お届け物です!」
「うわっ! や、ちょっと……!」

 三人がかりで部屋の中へ押し戻されてしまい――さっきまで転がっていたベッドの上へと倒された。
「な、何なんですか! やめてください!」

 三人は何も言わない。
「わっ!」
 何も言わないまま俺のシャツを捲り、左右から乳首に唇が被せられる。
「ひゃ、ちょっとやめて……やあぁっ……!」

 残りの一人が俺のハーフパンツを脱がし、中の下着も一気にずり下ろした。いきなりほぼ全裸だ。どうしたら良いのか分からなくて、心臓だけがバクバク鳴っている。

「――んあぁっ!」
 剥き出しのペニスを根元までずっぽり咥え込まれて、俺は腰を浮かせて体を捩った。
「やっ、だめ……! やめて、……あっ、あん……!」
 訳も分からず体の気持ち良いところを舐められて吸われて、駄目なのに段々頭の中がぼーっとしてくる。

「は、あぁっ……気持ちいい、……あ、あ……」
 舌先で転がされ、いやらしく啄まれる左右の乳首。硬くなってしまったペニスを蹂躙する舌と唾液が絡む音。俺ははしたなく股を開いて腰をくねらせ、知らない人達から一方的に与えられる快感に声を張り上げた。
「ああぁ、イく……! だめ、イくからっ……!」
 せり上がって来た快楽の波に押されるまま、俺は男の口の中で思い切り射精した。

「はぁ、はぁっ……あ、……」
 俺の体から離れた三人が「あざっした!」と声を揃えて俺に頭を下げ、来た時と同じようにドドドと部屋を出て行った。
 ――な、何だったんだ?


 翌日の日曜日も部屋でゲームをしていたら、インターホンが鳴った。まさかと思ったけれど、カメラに映っていたのは……
「お届け物です!」
「ま、また……! 嫌です、帰って下さい!」
「お届け物です!」
「……だ、だから……。うぅ……」
 震える手がドアレバーにかかる。昨日のあの気持ち良いヤツが、今日もまた……と思うと、……

「あぁっ、あんっ、――や、イきそっ、……! イくっ!」
 そうしてまた昨日と全く同じことをされ、俺が射精すると同時に三人は去って行った。


 週明け、月曜日。
 風呂から出てアイスを食べていると、インターホンが鳴った。今日は友人が本を返しにくると言っていたから、何の確認もせずにドアを開けてしまったのだ――けれど。
「お届け物です……」
「わっ、またあんた達……って、……あれ?」

 土曜、日曜と三人いたのに、今日は二人しかいない。
「も、もう一人のお兄さんはどうしたんですか? 今日はお休み?」
「………」
 二人の顔が暗い。どこか寂しそうで、ちょっと悔しそうで、何だか今日は乗り気じゃないみたいだ。

「ケンカでもしたんですか?」
 取り敢えず中へ入れてコーヒーを出しながら聞いてみると、こくりと二人が頷いた。
「あはは。大人でもケンカってするんだ。でもお兄さん達の元気がないところを見ると、仲直りしたいって思ってるんじゃないですか?」
「………」
「ちゃんと話せば分かってくれますよ。素直に謝って、仲直りしてください。ね?」

 すると膝を抱えて座っていた男が顔を上げて俺の目を見つめ、言った。
「……蜜羽くん」
「あれ、俺の名前知ってたんですか。無差別に襲ってるのかと思った……」
「蜜羽くんっ!」
「どぅわっ!」

 二人が突然俺に襲い掛かってきて、やっぱり今日もベッドの上に押し倒された。
 片方の乳首を舌で転がされ、開いた脚の間に頭を突っ込まれてペニスをしゃぶられる。間違いなく気持ち良いしすぐイきそうになってしまうけれど、……
「あっ、……あ……あは、やっぱり二人だと気持ち良いのも減っちゃう気がする……。早く、仲直りしてくださいね……。あっ、んぁっ……」

 それから俺は、二人の頭に手を伸ばして言った。
「何でこんなこと、するか分からないけど……。ふ、あっ……俺以外の人のとこ、行ったら駄目ですよ……。絶対通報されますし、……それに皆、怖がると思うから……」

 俺のペニスを頬張っていた男が顔を上げ、俺の目を見つめる。
「……蜜羽くん。ありがとう」



 翌日、火曜日。
 わくわくしながら風呂上りのアイスを食べていると、インターホンが鳴った。
「はーい!」
「お届け物です!」
「わ、……」
 ピンクと黄色の綺麗な花束が、俺の胸にふわりと咲く。甘い香り……俺は両手で花束を抱え、彼らに向けて満面の笑みを浮かべた。
「あ、ありがとう……!」
 三人が爽やかな笑顔でそれに応える。
「あざっした!」
 そうしてその日以降、彼らが俺の部屋を訪ねてくることはなかった。


 数日後。
 食堂でご飯を食べていると、唐突にテレビで「三人組の変質者が自首した」というニュースが流れ始めた。
「怖えぇなあ、いきなり押しかけて変態的なことしてたんだって」
 一緒に見ていた生徒達が半笑いでテレビを見ている。
〈男達は出頭の理由として、押し入った部屋で出会った天使のような青年に心を打たれたためと供述しており――〉
「なんだそりゃ! 天使って、蜜羽のことだったりして!」
「ち、違うよ!」

 俺は天使じゃないし、多分あの人達のことではないだろうな、と思う。
「ま、すぐ忘れられるニュースだな。蜜羽、家庭科室行こうぜ。早くそれ食っちゃえよ、手伝ってやろうか?」
「駄目、これは全部俺の!」
 確かにすぐ忘れられるニュースだと思う。
 現に今の俺の関心はニュースよりも、目の前にあるハニーソースがけホットケーキにあるのだ。



 第4話・終
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