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#2 男子高校生のフラグ
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「男って、不便な生き物だな……」
呟いたその時、廊下の角を折れてこちらにやって来る三年生の姿が目に入った。彰良先輩だ。朝から爽やかで柔らかな笑顔を周囲にふりまき、その周りだけ花びらが舞っているようにすら見える。
「あ、炎樽くん。おはよう」
「お、おお、おはようございます……!」
またもや先輩の方から声をかけてくれた。しかも俺の名前、知っててくれてる。
たったそれだけの会話だけれど、まるで宝くじに当たったような気分だ。
別の意味でふわふわの良い匂いをさせながら俺の横を通り過ぎようとした彰良先輩が、「そうだ」と言ってこちらに顔を向けた。
「炎樽くん。君の家、いまお母さんが仕事で海外に行ってるんだってね。一人で不便なことがあったら先生に相談するんだよ。もちろん、俺に出来ることなら言ってくれてもいいし」
「あ、ありがとうございますっ」
勢い良く頭を下げたものだから、そこに乗っていたマカロが「ぎゃっ」と悲鳴をあげて床に落ちてしまった。
「大丈夫? 今、何か落っこちたけど……」
「だ、大丈夫です。何だろう、あ、キーホルダーだ」
慌ててマカロを拾い、制服のポケットに入れる。
「面白いね。頭にキーホルダーを乗せてたの?」
くすくすと笑う彰良先輩はやっぱり綺麗でカッコ良くて、思わずほれぼれしてしまう。この人の「匂い」にあてられたら、流石に俺も我慢できなくなるかもしれない。
「出せ、炎樽! って、強く握るなっ! 出せー!」
ポケットに入れた手の中でマカロが大暴れしている。かろうじて彰良先輩に声は届いていないが、手のひらに噛み付かれたりパンチされたりと地味に痛い。
「大丈夫? 炎樽くん、汗かいてるけど」
「出せ! 痛てえってば、炎樽! 放せっ」
「だだ大丈夫です、すみません。俺じゃあそろそろ教室に……」
「うん、俺もそうするよ。それじゃあまた──」
「くそ、こうなったら……!」
手の中でマカロが一瞬大人しくなった。それに気を取られた瞬間、……
「わっ……」
歩き出そうとした彰良先輩が突然バランスを崩し、俺の方へと体ごと倒れてきた。慌てて支えようと手を伸ばしたが咄嗟のことに対応しきれず、俺も先輩の体重を受けて思い切り背中から倒れてしまう。結局二人して床に倒れる羽目になり、俺は涙目になって身を起こしながら先輩に言った。
「だ、大丈夫ですか? いてて……ケツも打った」
「ご、ごめん炎樽くん。何か急に……」
「………」
彰良先輩の顔が、俺の股間に思い切り埋められている。
「っ、……、……!」
それを視覚で認識した瞬間、俺の首から上が沸騰した。
「ごめん、急に転んで……大丈夫、炎樽くん……」
「あ、あ、彰良先輩っ……」
「え? ……あっ、ご、ごめん!」
気付いた先輩が慌てて上体を起こし、顔を真っ赤にさせて身を引いた。いつもの優しい表情も今は崩れている。相当衝撃的だったのだろう。
俺だって突然のハプニングに心臓がバクバクだ。先輩の動揺した顔にも凄くドキドキする。優等生で皆に優しい彰良先輩が、顔を赤くさせただけでこんなにも色っぽくなるなんて。
「………」
「あ、……」
見開かれた先輩の目に俺の顔が映っている。何だか二人の鼓動がシンクロし合って、時が止まったみたいだ。まるでセッティングされたかのように、朝の廊下には誰もいない。ほんの少しだけ顔を前に出せば、先輩の唇に触れてしまいそうで……
「炎樽ウウゥゥ──アァァ!」
「うわぁっ!」
その時突然廊下に地獄の鬼のような怒号が響き、俺も彰良先輩もあたふたしつつ互いから離れた。
「誰だっ! ……あ、え? た、天和っ?」
巻き舌で俺の名前を呼んだのは、下足室から廊下へ繋がるドアから顔を出した天和だった。
現れた天和は肩で息をし、目も歯も剥いて俺を睨んでいる。髪の毛は怒りのためか静電気に嬲られたように逆立っているし、まさに鬼の形相だ。
「てめぇ、俺には散々言っといて浮気してんじゃねえぞッ!」
「う、浮気って何だよっ? 俺は何も……!」
「鬼堂……」
彰良先輩が制服についたホコリを払いながら立ち上がり、体ごと天和の方へ向いて頭を下げた。
「済まない。炎樽くんとは君を怒らせるようなことをしていた訳じゃないんだ。ただ俺が転んでしまって、彼を巻き込んでしまった。本当に済まない」
「うるっせぇ! てめぇには言ってねんだ、すっこんでろクソガキ!」
彰良先輩の真摯な言葉も耳に入っていない様子で、天和が鬼の咆哮をあげる。あくまでも俺に対して怒っているらしい。
未だ尻もちをついたままの俺のポケットからマカロが這い出てきて、囁いた。
「ご、ご、ごめんほたる。……俺があの人転ばせたから、たかともが怒っちゃった」
「ええっ、マカが先輩を転ばせたのか?」
「だってほたる、俺のことぎゅってするからぁ……」
天和の尋常でない怒り方を見て、マカロは早くも子供の姿になってしまっている。無理もないけど……ビビる度に子供になっていて夢魔なんて務まるんだろうか。
「ど、どうしようほたる。たかとも怒ってるよ……」
「……大丈夫だって、そんな怯えなくても」
腕まくりをしてこちらにズカズカやってくる天和。彰良先輩も動揺しているしマカロは目がぐるぐるだし、この場で天和の怒りを治められるのは俺しかいない。
仕方なく俺も立ち上がって、自ら天和の方へと歩いて行った。
呟いたその時、廊下の角を折れてこちらにやって来る三年生の姿が目に入った。彰良先輩だ。朝から爽やかで柔らかな笑顔を周囲にふりまき、その周りだけ花びらが舞っているようにすら見える。
「あ、炎樽くん。おはよう」
「お、おお、おはようございます……!」
またもや先輩の方から声をかけてくれた。しかも俺の名前、知っててくれてる。
たったそれだけの会話だけれど、まるで宝くじに当たったような気分だ。
別の意味でふわふわの良い匂いをさせながら俺の横を通り過ぎようとした彰良先輩が、「そうだ」と言ってこちらに顔を向けた。
「炎樽くん。君の家、いまお母さんが仕事で海外に行ってるんだってね。一人で不便なことがあったら先生に相談するんだよ。もちろん、俺に出来ることなら言ってくれてもいいし」
「あ、ありがとうございますっ」
勢い良く頭を下げたものだから、そこに乗っていたマカロが「ぎゃっ」と悲鳴をあげて床に落ちてしまった。
「大丈夫? 今、何か落っこちたけど……」
「だ、大丈夫です。何だろう、あ、キーホルダーだ」
慌ててマカロを拾い、制服のポケットに入れる。
「面白いね。頭にキーホルダーを乗せてたの?」
くすくすと笑う彰良先輩はやっぱり綺麗でカッコ良くて、思わずほれぼれしてしまう。この人の「匂い」にあてられたら、流石に俺も我慢できなくなるかもしれない。
「出せ、炎樽! って、強く握るなっ! 出せー!」
ポケットに入れた手の中でマカロが大暴れしている。かろうじて彰良先輩に声は届いていないが、手のひらに噛み付かれたりパンチされたりと地味に痛い。
「大丈夫? 炎樽くん、汗かいてるけど」
「出せ! 痛てえってば、炎樽! 放せっ」
「だだ大丈夫です、すみません。俺じゃあそろそろ教室に……」
「うん、俺もそうするよ。それじゃあまた──」
「くそ、こうなったら……!」
手の中でマカロが一瞬大人しくなった。それに気を取られた瞬間、……
「わっ……」
歩き出そうとした彰良先輩が突然バランスを崩し、俺の方へと体ごと倒れてきた。慌てて支えようと手を伸ばしたが咄嗟のことに対応しきれず、俺も先輩の体重を受けて思い切り背中から倒れてしまう。結局二人して床に倒れる羽目になり、俺は涙目になって身を起こしながら先輩に言った。
「だ、大丈夫ですか? いてて……ケツも打った」
「ご、ごめん炎樽くん。何か急に……」
「………」
彰良先輩の顔が、俺の股間に思い切り埋められている。
「っ、……、……!」
それを視覚で認識した瞬間、俺の首から上が沸騰した。
「ごめん、急に転んで……大丈夫、炎樽くん……」
「あ、あ、彰良先輩っ……」
「え? ……あっ、ご、ごめん!」
気付いた先輩が慌てて上体を起こし、顔を真っ赤にさせて身を引いた。いつもの優しい表情も今は崩れている。相当衝撃的だったのだろう。
俺だって突然のハプニングに心臓がバクバクだ。先輩の動揺した顔にも凄くドキドキする。優等生で皆に優しい彰良先輩が、顔を赤くさせただけでこんなにも色っぽくなるなんて。
「………」
「あ、……」
見開かれた先輩の目に俺の顔が映っている。何だか二人の鼓動がシンクロし合って、時が止まったみたいだ。まるでセッティングされたかのように、朝の廊下には誰もいない。ほんの少しだけ顔を前に出せば、先輩の唇に触れてしまいそうで……
「炎樽ウウゥゥ──アァァ!」
「うわぁっ!」
その時突然廊下に地獄の鬼のような怒号が響き、俺も彰良先輩もあたふたしつつ互いから離れた。
「誰だっ! ……あ、え? た、天和っ?」
巻き舌で俺の名前を呼んだのは、下足室から廊下へ繋がるドアから顔を出した天和だった。
現れた天和は肩で息をし、目も歯も剥いて俺を睨んでいる。髪の毛は怒りのためか静電気に嬲られたように逆立っているし、まさに鬼の形相だ。
「てめぇ、俺には散々言っといて浮気してんじゃねえぞッ!」
「う、浮気って何だよっ? 俺は何も……!」
「鬼堂……」
彰良先輩が制服についたホコリを払いながら立ち上がり、体ごと天和の方へ向いて頭を下げた。
「済まない。炎樽くんとは君を怒らせるようなことをしていた訳じゃないんだ。ただ俺が転んでしまって、彼を巻き込んでしまった。本当に済まない」
「うるっせぇ! てめぇには言ってねんだ、すっこんでろクソガキ!」
彰良先輩の真摯な言葉も耳に入っていない様子で、天和が鬼の咆哮をあげる。あくまでも俺に対して怒っているらしい。
未だ尻もちをついたままの俺のポケットからマカロが這い出てきて、囁いた。
「ご、ご、ごめんほたる。……俺があの人転ばせたから、たかともが怒っちゃった」
「ええっ、マカが先輩を転ばせたのか?」
「だってほたる、俺のことぎゅってするからぁ……」
天和の尋常でない怒り方を見て、マカロは早くも子供の姿になってしまっている。無理もないけど……ビビる度に子供になっていて夢魔なんて務まるんだろうか。
「ど、どうしようほたる。たかとも怒ってるよ……」
「……大丈夫だって、そんな怯えなくても」
腕まくりをしてこちらにズカズカやってくる天和。彰良先輩も動揺しているしマカロは目がぐるぐるだし、この場で天和の怒りを治められるのは俺しかいない。
仕方なく俺も立ち上がって、自ら天和の方へと歩いて行った。
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