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#7 体育祭バーニング
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「さっき体育館が揺れてたのって、何だったんだ?」
「速報見たけど、全然そんなニュースやってないよ」
そんな声がちらほら聞こえていたが、午後のプログラムが始まればまた皆の意識は体育祭へと戻って行った。
俺も気合を入れ直した。さっきの三年のことも忘れた。今日は年に一度の体育祭。天和にとっては高校最後の体育祭なのだ。
だったらもう、思い切り楽しまないと。
二年生全員参加の綱引きでは力を込め過ぎて手が真っ赤になり、一年生の障害物競走では短パンが脱げるハプニングが起きて三年生が歓喜に沸き、一・二年合同の仮装レースでは、
「炎樽、期待してるぞ!」
「もうやめろってば……」
クラス全員の変な期待を受けて、俺は案の定最低最悪の「ウサギ耳セーラー服」の札を引き当てることとなった。
皆に笑われたけどそれは馬鹿にするようなものではなく、純粋にこのイベントを楽しんでいる笑顔だった。だから俺もそれに釣られて笑うことができた。
「炎樽、お前……」
セーラー服で全力疾走する俺の動画を幸之助がスマホで撮ったらしく、こっそり見せられた画面にとんでもないものが映っていたと知ったのは、既に競技が終わり着替えを済ませた後だった。
「っ……!」
ひらひらと揺れる短いスカートから、クマのプリントが付いたパンツが覗いていたのだ。
「こういう趣味か?」
「ち、違う。違う違う、これも仮装の一つだったんだって。スカートと一緒に置いてあったんだって。もうマジで勘弁しろって感じで……」
苦しい言い訳を幸之助が信じてくれたかは分からないが、笑って誤魔化すしかない。
それから白熱の応援合戦を挟んで、いよいよ三年生の騎馬戦が始まろうとしていた。
「………」
観客席の一番前まで行き、少しだけ手すりから身を乗り出してアリーナを見下ろす。右に赤組、左に青組と分かれた生徒達は皆、代表として選ばれた選手なだけあって体格も良く、しっかりと裸足で立つその姿はまだ騎馬を組んでいないのに迫力があった。
一年生は早くも大興奮で各々推しの先輩の名前を叫んでいるが、耳に届くのは圧倒的に天和と彰良先輩の名前が多い。そんな中、俺は無言で手すりを掴み「怪我だけはありませんように」と祈っていた。
実行委員の笛の合図で、大将以外の騎馬が組まれる。一回戦・二回戦と兵隊達の戦いが続き、大将戦はその後に二組だけの一騎打ちで行なわれるのだ。
青組の天和は腕組みをして黙っていた。騎馬となる生徒が何かを言って、それに対して天和が何かを返す。会話の内容は聞こえないけど、顔は真剣そのものだった。
戦陣の合図である法螺貝の音がアリーナに響き渡り、体育館中が歓声に包まれた。赤と青のハチマキをした両組の男達がぶつかり合い、早くもアリーナが熱を帯びた戦場と化す。体育着を掴まれ半裸になっている者。騎馬が崩れるのも気にせず相手に突っ込んで行く者。一瞬の隙をついて素早く相手のハチマキを奪う者。不良が多い青組だが、赤組もかなり奮闘している。
天和も彰良先輩も、無言で勝負の行方を見守っていた。
一回戦は青組の勝利。二回戦目は僅差で赤組の勝利。両組とも生徒達は完全燃焼している様子だが、誰も床に倒れたり座り込んだりしていない。これから戦う自分達の大将に全てを託し、声をあげて陣の士気を高めている。
アリーナの右端と左端で、大将の騎馬が組まれた。
「………」
上に乗った天和と彰良先輩の頭には、大将の証である兜が被せられている。勿論本物でもレプリカでもない軽い素材で、この日のために造られた美術部の力作だ。
和太鼓の「ドン」という音で、大将を乗せた騎馬が立ち上がる。次の「ドン」で陣地からゆっくりと出陣し、最後の「ドドドド」が鳴る中を両者がアリーナの中央へと移動する。
緊張した空気。あの一年生でさえ息を飲んでいる。
「赤組大将、三年C組 渋谷彰良!」
実行委員がマイク越しに叫び、彰良先輩が兜を脱いだ。それを床に投げるのが伝統となっていて、彰良先輩が兜を投げるとようやく黄色い声が拍手と共に響き渡った。
「青組大将、三年E組 鬼堂天和!」
天和が兜を取り、床に叩き付ける。耳をつんざくほどの歓声。手すりから身を乗り出し過ぎた一年生を、見張っていた教師が慌てて引き戻す。
ドン、と太鼓が鳴る。天和も彰良先輩も互いの目を見て、――笑っていた。
法螺貝の音。ぶつかり合う騎馬と騎馬。彰良先輩が体育着ごと天和の肩を掴み、天和が彰良先輩の腕を掴む。お互い、取るべきハチマキには指一本触れさせない。
観客席から嵐のように放たれる歓声をどこか遠くで聞きながら、俺は茫然と二人を見ていた。
真剣な顔。飛び散る汗。鬼気迫る目付きと、歯を食いしばった口元。始めは天和の勝ちだと余裕の笑みを浮かべていた青組の三年生も、彰良先輩の迫力と力強さに口をぽかんと開けている。
「天和!」「頑張れ、天和!」
「彰良先輩!」「行け、彰良!」
男同士の、力と力の戦い。これがあの優しい彰良先輩なのか。これが俺に悪戯ばかりしていた天和なのか。
「………!」
心臓の高鳴りが止まらなくて、俺は熱くなった胸に手をあてた――。
激闘の末、騎馬戦は青組の勝利となった。一度は天和のハチマキを掴んだ彰良先輩だが、それを奪うよりも早く天和の手が彰良先輩のハチマキを取ったのだ。身を乗り出した天和の騎馬が崩れ、彰良先輩たちがそれに押される形で騎馬ごと後ろに倒れる。体育教師が彰良先輩の体を後ろから支え、別の教師が両者の間に割り込む形で天和を止めた。
ほんの一瞬差での決着だった。天和は騎馬に担がれたままアリーナから拳をあげ、彰良先輩は悔しそうに額の汗を拭っている。
俺は込み上げてくる感情を必死に抑え、二人に心からの拍手を送った。
「速報見たけど、全然そんなニュースやってないよ」
そんな声がちらほら聞こえていたが、午後のプログラムが始まればまた皆の意識は体育祭へと戻って行った。
俺も気合を入れ直した。さっきの三年のことも忘れた。今日は年に一度の体育祭。天和にとっては高校最後の体育祭なのだ。
だったらもう、思い切り楽しまないと。
二年生全員参加の綱引きでは力を込め過ぎて手が真っ赤になり、一年生の障害物競走では短パンが脱げるハプニングが起きて三年生が歓喜に沸き、一・二年合同の仮装レースでは、
「炎樽、期待してるぞ!」
「もうやめろってば……」
クラス全員の変な期待を受けて、俺は案の定最低最悪の「ウサギ耳セーラー服」の札を引き当てることとなった。
皆に笑われたけどそれは馬鹿にするようなものではなく、純粋にこのイベントを楽しんでいる笑顔だった。だから俺もそれに釣られて笑うことができた。
「炎樽、お前……」
セーラー服で全力疾走する俺の動画を幸之助がスマホで撮ったらしく、こっそり見せられた画面にとんでもないものが映っていたと知ったのは、既に競技が終わり着替えを済ませた後だった。
「っ……!」
ひらひらと揺れる短いスカートから、クマのプリントが付いたパンツが覗いていたのだ。
「こういう趣味か?」
「ち、違う。違う違う、これも仮装の一つだったんだって。スカートと一緒に置いてあったんだって。もうマジで勘弁しろって感じで……」
苦しい言い訳を幸之助が信じてくれたかは分からないが、笑って誤魔化すしかない。
それから白熱の応援合戦を挟んで、いよいよ三年生の騎馬戦が始まろうとしていた。
「………」
観客席の一番前まで行き、少しだけ手すりから身を乗り出してアリーナを見下ろす。右に赤組、左に青組と分かれた生徒達は皆、代表として選ばれた選手なだけあって体格も良く、しっかりと裸足で立つその姿はまだ騎馬を組んでいないのに迫力があった。
一年生は早くも大興奮で各々推しの先輩の名前を叫んでいるが、耳に届くのは圧倒的に天和と彰良先輩の名前が多い。そんな中、俺は無言で手すりを掴み「怪我だけはありませんように」と祈っていた。
実行委員の笛の合図で、大将以外の騎馬が組まれる。一回戦・二回戦と兵隊達の戦いが続き、大将戦はその後に二組だけの一騎打ちで行なわれるのだ。
青組の天和は腕組みをして黙っていた。騎馬となる生徒が何かを言って、それに対して天和が何かを返す。会話の内容は聞こえないけど、顔は真剣そのものだった。
戦陣の合図である法螺貝の音がアリーナに響き渡り、体育館中が歓声に包まれた。赤と青のハチマキをした両組の男達がぶつかり合い、早くもアリーナが熱を帯びた戦場と化す。体育着を掴まれ半裸になっている者。騎馬が崩れるのも気にせず相手に突っ込んで行く者。一瞬の隙をついて素早く相手のハチマキを奪う者。不良が多い青組だが、赤組もかなり奮闘している。
天和も彰良先輩も、無言で勝負の行方を見守っていた。
一回戦は青組の勝利。二回戦目は僅差で赤組の勝利。両組とも生徒達は完全燃焼している様子だが、誰も床に倒れたり座り込んだりしていない。これから戦う自分達の大将に全てを託し、声をあげて陣の士気を高めている。
アリーナの右端と左端で、大将の騎馬が組まれた。
「………」
上に乗った天和と彰良先輩の頭には、大将の証である兜が被せられている。勿論本物でもレプリカでもない軽い素材で、この日のために造られた美術部の力作だ。
和太鼓の「ドン」という音で、大将を乗せた騎馬が立ち上がる。次の「ドン」で陣地からゆっくりと出陣し、最後の「ドドドド」が鳴る中を両者がアリーナの中央へと移動する。
緊張した空気。あの一年生でさえ息を飲んでいる。
「赤組大将、三年C組 渋谷彰良!」
実行委員がマイク越しに叫び、彰良先輩が兜を脱いだ。それを床に投げるのが伝統となっていて、彰良先輩が兜を投げるとようやく黄色い声が拍手と共に響き渡った。
「青組大将、三年E組 鬼堂天和!」
天和が兜を取り、床に叩き付ける。耳をつんざくほどの歓声。手すりから身を乗り出し過ぎた一年生を、見張っていた教師が慌てて引き戻す。
ドン、と太鼓が鳴る。天和も彰良先輩も互いの目を見て、――笑っていた。
法螺貝の音。ぶつかり合う騎馬と騎馬。彰良先輩が体育着ごと天和の肩を掴み、天和が彰良先輩の腕を掴む。お互い、取るべきハチマキには指一本触れさせない。
観客席から嵐のように放たれる歓声をどこか遠くで聞きながら、俺は茫然と二人を見ていた。
真剣な顔。飛び散る汗。鬼気迫る目付きと、歯を食いしばった口元。始めは天和の勝ちだと余裕の笑みを浮かべていた青組の三年生も、彰良先輩の迫力と力強さに口をぽかんと開けている。
「天和!」「頑張れ、天和!」
「彰良先輩!」「行け、彰良!」
男同士の、力と力の戦い。これがあの優しい彰良先輩なのか。これが俺に悪戯ばかりしていた天和なのか。
「………!」
心臓の高鳴りが止まらなくて、俺は熱くなった胸に手をあてた――。
激闘の末、騎馬戦は青組の勝利となった。一度は天和のハチマキを掴んだ彰良先輩だが、それを奪うよりも早く天和の手が彰良先輩のハチマキを取ったのだ。身を乗り出した天和の騎馬が崩れ、彰良先輩たちがそれに押される形で騎馬ごと後ろに倒れる。体育教師が彰良先輩の体を後ろから支え、別の教師が両者の間に割り込む形で天和を止めた。
ほんの一瞬差での決着だった。天和は騎馬に担がれたままアリーナから拳をあげ、彰良先輩は悔しそうに額の汗を拭っている。
俺は込み上げてくる感情を必死に抑え、二人に心からの拍手を送った。
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