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四杯目 火竜討伐
第1話 ラーメン屋、決起集会を頑張る
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■ヴァルディール 月光広場
以前に夜市で訪れた広場には夕方にもかかわらず、たくさんの屋台がでていた。
冒険者が大半であり、無料での飲み食いを商業ギルドの権限でやっている。
これから、夜にかけて決起集会が行われ英気を養う切っ掛けにしてもらうためだ。
「モミジさんもやってくれるな、アルヴィンもよく集めたもんだ」
俺は賑わう人々を眺めながら、感心する。
「あんた、注文が来てるよ。銀飲みセットが5つだよ」
そんな俺を銀髪の女が注文を持ち込んで料理作りをせかした。
「ザビーネが手伝いに来てくれるとはな、それに手際がいいのには驚きだ」
「まぁ、これでも兄弟がいっぱいいた家の出なもんでね。それに店の若い子の教育係をやってもいたからこれくらい朝飯前さ」
化粧はナチュラルにし、服装も町娘っぽいシャツとスカートにエプロンといった出で立ちである。
ザビーネらしさを残しつつも、親しみやすさが増えていて訪れる冒険者達には好評だった。
「今夜は店も出血大サービスするから、来ておくれよ。あたしは予約済みなんで、他の子で我慢しとくれよ」
「ははぁ~ん、なるほどねぇ~」
「よっ! 色男!」
ザビーネがここに来たのは娼館の宣伝に来たのだが、俺が忙しくしているのを見て着替えて手伝ってくれているのである。
嬉しいが、時折俺の方を見てウィンク飛ばしてくるのは何なんだ?
そんなに交流した覚えはないんだが、何がザビーネをたきつけているのか俺にはわからない。
「ほら、銀飲みセットあがり! ルーミラ、他の注文を確認してくれ」
「はいはーい、銀飲みが、まだ4つあるねー」
「こんなに飲んで、明日大丈夫なのか?」
「むしろ、うめぇさけを飲まねぇで明日を迎えるなんてやってらんねぇよ!」
「ちげぇねぇ!」
俺が訪ねるも、冒険者達はゲラゲラ笑いながら缶ビールを煽っていた。
確かに明日死ぬかもしれないということになったのならば、やりたいことをやるのは当然のことだ。
美味いものを食い、女を抱いたり家族と過ごして備える……そうして生きてきているのがこの世界の人だろう。
「俺もこの世界の人間になじんできたのかな……」
ぼそりとつぶやくと、広場の中央に建てられたヤグラの上にアルヴィンが立った。
声を拡散していく魔法を使って、声の調子を整える。
『集まってくれた諸君。まずは、ありがとう! 緊急に知らされた火竜討伐にこれほどまでの冒険者が集まってくれたことに感謝する。今日は私のおごりだ。好きに飲んで食べてくれ! ああ、食事といっても女は入らないからな、そこは自腹を切ってくれ……乾杯!』
最後に笑いを取ることを忘れないのはできる男のすることだ。
アルヴィンのような領主であれば、俺だって全力で協力したくなる。
街の冒険者達はよりそう思うのだろう。
「さぁ、俺の方もここから提供だ。フレイムホッグで作ったチャーシューのチャーシュー麺だ。スタミナも尽くし、美味いぞ」
「こっちに4つ!」
「俺の方には3つだ!」
俺が新メニューを出すと次々と注文が入り、ルーミラとザビーネが捌いていってくれる。
どんどんと食材が消費されて、〈アイテムボックス〉に入れていたフレイムホッグチャーシューの在庫がなくなった。
「わるい、チャーシューはもう……って、人がいなくなってるな」
「ちょっと前にはけてったよ、家で家族と過ごす奴や、女を抱きに行くやつなど様々さね」
「そうか、ザビーネもありがとうな。助かったよ……ここまで忙しくなるとは予想外だった」
俺は静かになった広場でザビーネと二人きりになり、静かに見つめあった。
さっきまで騒がしくしていたルーミラも妖精界の方へ戻っている。
「あー、今夜はどうするんだ?」
「そうさね、月光楼には帰りたくない……かねぇ」
さすがにここまで言われたら、男として放っておくわけにはいかなかった。
とはいうものの、このまま夜鴉のホームに行くのもバツが悪い。
「ああ、【一角亭】の子から部屋を抑えてあるからどうぞと、伝言貰ったよ」
「いつの間に……弄っていた冒険者から聞いたのか?」
俺は体温が上がっていくのを感じながら、後頭部をかく。
お膳立てしてもらっているならば、断る理由はない。
「じゃあ、いくか」
「はいよ」
ザビーネが俺の腕をつかみ、笑う。
すました笑顔でも、客に向ける妖艶な笑みでもない、自然な笑顔だ。
(この笑顔を守らないとな……)
俺はこの世界で大切なものを手に入れた。
以前に夜市で訪れた広場には夕方にもかかわらず、たくさんの屋台がでていた。
冒険者が大半であり、無料での飲み食いを商業ギルドの権限でやっている。
これから、夜にかけて決起集会が行われ英気を養う切っ掛けにしてもらうためだ。
「モミジさんもやってくれるな、アルヴィンもよく集めたもんだ」
俺は賑わう人々を眺めながら、感心する。
「あんた、注文が来てるよ。銀飲みセットが5つだよ」
そんな俺を銀髪の女が注文を持ち込んで料理作りをせかした。
「ザビーネが手伝いに来てくれるとはな、それに手際がいいのには驚きだ」
「まぁ、これでも兄弟がいっぱいいた家の出なもんでね。それに店の若い子の教育係をやってもいたからこれくらい朝飯前さ」
化粧はナチュラルにし、服装も町娘っぽいシャツとスカートにエプロンといった出で立ちである。
ザビーネらしさを残しつつも、親しみやすさが増えていて訪れる冒険者達には好評だった。
「今夜は店も出血大サービスするから、来ておくれよ。あたしは予約済みなんで、他の子で我慢しとくれよ」
「ははぁ~ん、なるほどねぇ~」
「よっ! 色男!」
ザビーネがここに来たのは娼館の宣伝に来たのだが、俺が忙しくしているのを見て着替えて手伝ってくれているのである。
嬉しいが、時折俺の方を見てウィンク飛ばしてくるのは何なんだ?
そんなに交流した覚えはないんだが、何がザビーネをたきつけているのか俺にはわからない。
「ほら、銀飲みセットあがり! ルーミラ、他の注文を確認してくれ」
「はいはーい、銀飲みが、まだ4つあるねー」
「こんなに飲んで、明日大丈夫なのか?」
「むしろ、うめぇさけを飲まねぇで明日を迎えるなんてやってらんねぇよ!」
「ちげぇねぇ!」
俺が訪ねるも、冒険者達はゲラゲラ笑いながら缶ビールを煽っていた。
確かに明日死ぬかもしれないということになったのならば、やりたいことをやるのは当然のことだ。
美味いものを食い、女を抱いたり家族と過ごして備える……そうして生きてきているのがこの世界の人だろう。
「俺もこの世界の人間になじんできたのかな……」
ぼそりとつぶやくと、広場の中央に建てられたヤグラの上にアルヴィンが立った。
声を拡散していく魔法を使って、声の調子を整える。
『集まってくれた諸君。まずは、ありがとう! 緊急に知らされた火竜討伐にこれほどまでの冒険者が集まってくれたことに感謝する。今日は私のおごりだ。好きに飲んで食べてくれ! ああ、食事といっても女は入らないからな、そこは自腹を切ってくれ……乾杯!』
最後に笑いを取ることを忘れないのはできる男のすることだ。
アルヴィンのような領主であれば、俺だって全力で協力したくなる。
街の冒険者達はよりそう思うのだろう。
「さぁ、俺の方もここから提供だ。フレイムホッグで作ったチャーシューのチャーシュー麺だ。スタミナも尽くし、美味いぞ」
「こっちに4つ!」
「俺の方には3つだ!」
俺が新メニューを出すと次々と注文が入り、ルーミラとザビーネが捌いていってくれる。
どんどんと食材が消費されて、〈アイテムボックス〉に入れていたフレイムホッグチャーシューの在庫がなくなった。
「わるい、チャーシューはもう……って、人がいなくなってるな」
「ちょっと前にはけてったよ、家で家族と過ごす奴や、女を抱きに行くやつなど様々さね」
「そうか、ザビーネもありがとうな。助かったよ……ここまで忙しくなるとは予想外だった」
俺は静かになった広場でザビーネと二人きりになり、静かに見つめあった。
さっきまで騒がしくしていたルーミラも妖精界の方へ戻っている。
「あー、今夜はどうするんだ?」
「そうさね、月光楼には帰りたくない……かねぇ」
さすがにここまで言われたら、男として放っておくわけにはいかなかった。
とはいうものの、このまま夜鴉のホームに行くのもバツが悪い。
「ああ、【一角亭】の子から部屋を抑えてあるからどうぞと、伝言貰ったよ」
「いつの間に……弄っていた冒険者から聞いたのか?」
俺は体温が上がっていくのを感じながら、後頭部をかく。
お膳立てしてもらっているならば、断る理由はない。
「じゃあ、いくか」
「はいよ」
ザビーネが俺の腕をつかみ、笑う。
すました笑顔でも、客に向ける妖艶な笑みでもない、自然な笑顔だ。
(この笑顔を守らないとな……)
俺はこの世界で大切なものを手に入れた。
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