鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ

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年末の夜

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 智樹ともきは一晩悩んだすえに、今年は帰省しないことにした。
 朝食の支度したくを済ませた後、リビングのソファに座って妹の香澄かすみに電話をかけ、その旨を伝える。

「仕事でトラブルが起きちゃって……休み返上で対処することになったから、今回の正月休みは実家に行けないと思う」

 香澄は智樹の嘘を信じてくれたようで、心配そうな声を出した。

「そうなの? 年末年始まで仕事だなんて……あんまり頑張り過ぎないでね。無理しちゃダメだよ」

 いたわりの言葉をかけられた智樹の胸が、罪悪感でチクリと痛む。

「ありがとう、大丈夫だよ。落ち着いたらまた顔見せに帰るから、父さんと母さんにもよろしく言っといて」

「うん、分かった。それじゃまたね」

 通話を終え、智樹は小さく息をつく。
 するとそこへ
「トラブル発生で帰省できないなんて、大変だね」
 と彩葉の声がした。

 驚いてそちらへ目をやると、開け放たれたリビングのドアの向こうから彩葉が顔を出す。
 彩葉はソファのところまでやって来ると、智樹の隣に腰を下ろした。

「なんで嘘つくの? 帰省すればいいじゃん」

「いや、ほら……彩葉と迎える初めての正月だから、一緒に過ごしたいなと思って……」

「じゃあ、二人で一緒に智樹の実家の方まで行こうよ」

「え? さすがにそれは……まだ早くない?」

 智樹が狼狽うろたえると、彩葉は笑い出した。

「別に、家まで挨拶しに行くわけじゃないよ。智樹の生まれ育った町を見てみたいなって思っただけ。智樹が家族と過ごしてる間は一人で観光してるし、夜も適当にどこか探して泊まるからさ」

「そんなの、全然一緒に過ごしてる感じがしないから嫌だよ」

「行き帰りは一緒なんだから、十分じゅうぶんでしょ」

「ちっとも十分じゃない。大体、新幹線も宿も今からじゃ予約取れないだろうし」

「それなら、年末年始のピークが終わってから行こうか。俺も智樹も平日に動けるんだから、そっちの方がいいかも」

「平日に行くのはちょっと……会社が潰れて失業中だってことを、家族にはまだ話してないから……」

「そんなの『正月休みを返上して仕事したから代休がもらえた』とか適当に誤魔化せばいいじゃん」

「……なんでそんなに帰省させたがるの?」

「逆に、どうしてそんなに嫌がるの? 家族と仲が悪いの?」

「いや、仲は良い方だと思うけど……」

 智樹は少し迷ってから、事情を説明することにした。

「うちの妹、出戻りなんだよ。子供を産んでからすぐに離婚して、今は両親と一緒に実家で暮らしてる。田舎町だから、噂がすぐに広まってさ……ただでさえ肩身の狭い思いをしている家族に、これ以上負担をかけたくないんだ」

「負担って?」

「今の僕の状況を知ったら、きっと心配するだろ? きちんと再就職して生活の基盤を整えて……その上で彩葉を家族に紹介したいんだ」

「俺と付き合ってることは隠しておけばいいし、家政夫として働いてるんだから、無理に再就職先を探さなくたっていいと思うんだけど」

「家政夫って言っても、居候いそうろうをさせてもらってるお礼に家事をしているだけで、彩葉に養ってもらってるようなものだし……。それに、彩葉とはこの先もずっと一緒にいたいから、家族にはちゃんと話しておきたいんだ」

 それを聞いた彩葉は、嬉しそうな顔で智樹に抱きついてきた。

「じゃあ、やっぱり一緒に帰省しよう」

「……さっきの話、聞いてた? 今すぐ家族に打ち明けるのは無理だよ」

「わかってる。俺も、付き合ってることはまだ言わない方がいいと思う。ただ、再就職先が決まった後だとしても、いきなり俺が『智樹さんとお付き合いしてます』って挨拶しに行ったら、反対されるだけだと思うんだよね」

「反対されても、彩葉と別れるつもりはないよ」

「俺も別れるつもりはないけどさ、出来れば反対されない方向へ持っていきたいと思わない?」

「それはそうだけど……。でも、どうやって?」

「まずは、俺のことを友達として家族に紹介してよ。それから、この先ゴールデンウィークとかお盆とか、智樹が帰省するたびに俺のことも一緒に実家へ連れて行って欲しいんだ。そうやって会う回数を増やして、俺のことを知ってもらって、ちょっとずつ距離を縮めていけたらいいなぁと思うんだけど……どうかな?」

 彩葉の申し出は嬉しかったが、帰省のたびに男友達を連れて帰る息子というのは、少々不自然ではないだろうか。

「気持ちは嬉しいんだけど、毎回彩葉を連れて行ったら、さすがに怪しまれると思う」

 智樹が言うと、彩葉はニッコリ笑った。

「それでいいんだよ。『あれ? もしかして……』って徐々に気付かせていく方が、突然カミングアウトするよりもショックがやわらぎそうじゃない?」

 言われてみれば、そうかもしれない。

 智樹の気持ちが、彩葉を連れて帰省する方向へとかたむき始める。

 そのことを感じ取ったのか、彩葉はスマホを取り出すと宿泊施設の予約アプリを開いた。

「年が明けて帰省ラッシュが落ち着いた頃、一緒に智樹の実家へ行こう。初回から泊まらせてもらうのは無理だろうから、俺の分だけ宿を探して予約しとくね。最寄駅を教えてくれる?」

 彩葉の勢いに押されて、その日のうちに実家へ行く日を決定し、家族に連絡を入れて了承を得た後、宿と新幹線の予約まで済ませてしまった。

 もう、あとには引けない。

 智樹は緊張と不安を抱えたまま、年末の夜を過ごした。
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