鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ

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アルバイト

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 帰省から戻ると、日々は慌ただしく過ぎていった。

 和葉かずは梨花りかは、勤め先のホテルが閑散期に入る一月下旬に結婚式を挙げた。

 新居へ引っ越す二人の荷造りを手伝ったり、家事をこなしながら求職活動にいそしんだりしているうちに次の月を迎え、なかなか新しい仕事を見つけられずにいた智樹ともきは、日ごとにあせりをつのらせていく。

そんな時、梨花がアルバイト先を紹介してくれた。

「家事代行サービスのアルバイトですか?」

 聞き返す智樹に、梨花は笑顔で答える。

「そう。私の友達が勤めているところなんだけど、“人手が足りないから、誰か良い人がいたら紹介してほしい”って頼まれたの。短期間でも構わないって言ってたから、就職先が見つかるまでのアルバイトとして、どうかなと思って。もし良かったら、やってみない?」

 失業保険給付金の受給期間が終わり、求職活動と並行してアルバイトもしなければと考えていたところだったので、智樹はありがたく梨花の話を受けることにした。

「ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします。ただ、それって男の僕が応募しても大丈夫なんですか? なんとなく、家事代行サービスって女性のスタッフが中心なのかなっていうイメージがあって……」

「そこは確認したから大丈夫。粗大ゴミの片付けとか大型犬の散歩とか、力仕事の依頼も結構あるみたいだから、男性スタッフがいてくれると助かるって言ってたよ」

 それを聞いて安心した智樹は、早速さっそく教えてもらった連絡先に電話をかけ、指定された面接会場へとおもむいた。

 面接は驚くほどスムーズに終わり、その場で採用を言い渡される。
 あまりにもトントン拍子びょうしに話が進むので驚いていると、面接担当の女性が種明たねあかしをしてくれた。

「梨花は、私の友人なんです。彼女から、“凄く頑張っているのに、なかなか仕事に恵まれない人がいるの。家事スキルは高いし、人柄も問題無いから、あなたのところで働かせてもらえない?”って相談されたんです。でも、友人に頼まれたからといって、誰彼だれかれかまわず採用するわけじゃありませんよ。実際にお会いして経歴や仕事に対する意欲などを伺い、適性があると判断した上で採用としました。ですから、何もい目に感じることなく職務に邁進まいしんして下さい。当社は契約社員や正社員への登用制度もありますので、頑張り次第しだいではその後の道もひらけます。あなたの今後に、期待していますよ」

 そう言って微笑む面接担当の女性の姿が、目に溜まった涙のせいで、ぼやけてにじむ。

「期待を裏切らないように、頑張ります」

 智樹は涙をこぼすまいと必死にこらえながら、頭を下げた。




 家に戻り、“家事代行サービスのスタッフとしてアルバイトをすることになった”と彩葉に報告すると、あからさまに不機嫌な表情でなじられた。

「家事代行のアルバイト? なんで? 智樹は俺の専属家政夫なんじゃないの? 他の誰かのために働くとか、意味わかんないんだけど」

「……え? 何その反応……それこそ意味分かんないんだけど。仕事を見つけてきたことが、そんなに不満? なんで?」

「だって、別に外で働く必要なんてないじゃん。今まで通りに家の中で家政婦として働けば良くない?」

「今はもう家政夫じゃなくて恋人なんだから、僕が外で仕事したっていいだろ」

「じゃあ、この家の家事は誰がやるの? 俺だって仕事してるし、家事はだいの苦手だから、押し付けられても困るんだけど」

「押し付けるつもりなんか無いよ。ただ外に働きに出る分、少しは協力してもらいたいなと思っただけで……」

「それなら、外で働くのをやめればいいじゃん。今まで通り、この家の中で家政夫として働いてよ。給料が欲しいなら、ちゃんと払うからさ」

「なんだよそれ! 恋人になった今でも、僕のことを家政夫扱いして見下みくだすつもりか? 最低だな」

「はあ? “家政夫扱いして見下す”ってなんだよ。そんな言い方するなんて、家政夫を見下してるのは智樹の方じゃないか。そっちこそ最低だよ! 言っておくけど、俺は家政夫だって立派な仕事だと思ってるぞ。掃除も洗濯も料理も苦手な俺にとって、きちんと家事をこなせる人間は、それだけで尊敬にあたいするし、智樹には俺だけの家政夫でいて欲しいと思ってる」

「……彼氏としてじゃなく、家政夫としての僕が必要ってこと?」

「違うよ。彼氏けん、俺専属の家政夫でいてくれってこと」

「そんなの……世間からは絶対に理解されないだろうし、うちの家族にも受け入れてもらえるはずがない」

「そんなこと言ったら、俺達みたいに男同士で付き合ってることだって、“世間には理解されないし家族にも受け入れてもらえないだろうだから、やめとこう”ってことになっちゃうじゃん」

「それとこれとは、話が別だろ」

「本質的には同じことだよ。とりあえず、世間と家族のことは横に置いといて、智樹自身がどう思っているのかを教えてよ。智樹は、家政夫として働くのは嫌?」

「嫌ではないよ。掃除も洗濯も苦じゃないし、料理は割と好きな方だし」

「それなら、俺の専属家政夫のままでいてよ。さっきも言ったけど、ちゃんと給料だって払うから」

「それは……正直言って、少し抵抗がある。専属家政夫になるってこと自体は……まぁ、そこまで嫌ってわけでもないんだけど、彼氏から給料をもらうっていうのが……なんかちょっと受け入れがたいっていうか……」

「引っかかるの、そこ? ……智樹って、意外とプライド高いんだね」

「そうなのかな」

「じゃあ、無給で専属家政夫やってよ」

「……それは嫌だ」

「ワガママだなぁ」

「そうかな……いや、そんなことないだろ」

 話は平行線のまま終わり、智樹はそれからしばらくの間、家でもアルバイト先でも家事に追われるという、目まぐるしい日々を送ることになる。
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