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第3章 スタンピードと気持ちの連鎖
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「ご主人様」
「……………ベル」
スタンピード討伐の為に出発する。
広場に集まったジーヴス達は顔を引き攣らせる、 強ばらせる者や、 震え泣くジーヴスもいる。
しかし、 ほとんどのジーヴスは腹を括り前を真っ直ぐに見ていた。
戦闘参加者は18歳以上のジーヴス。
出発の時間を黙って待っていた。
そして、カーマインとベルライナは少し離れた場所で向かい立っていた。
「ベル、 必ず生きて帰ってくるんだ」
「はい、 ベルは必ず生きて帰ります。」
「………ああ」
「ご主人様」
「なに?」
「ベルが安心して、戦えるようにご主人様は笑って待っていてくださいね」
ベルライナの言葉に、 カーマインはまた泣きそうな顔をする。
「……ベルは難しい願いばかり言うね……約束、 俺は笑って待ってるよ。だから、 ベルライナ、 君も笑って帰って来てくれるね?」
「……………はい」
抱きしめ額を合わせて微笑み合う。
きっと帰ってくる、 ここで終わりなんかじゃない。
全てが終わったら、 元通り平穏な暮らしに戻るんだ。
2人は気持ちをひとつにする。
出発の時間はもうすぐだ。
「いーやーだぁぁ!!君を行かせたりしないからなぁぁぁ!!」
「ちょっ…ご主人、 俺だけ行かないとか無理でしょ」
「無理なんかじゃない!無理なんかじゃなーーい!!君がいなかったら誰が僕を守るっていうのさぁ!!ねぇ、 行かないでくれよー!」
長身の白髪の青年の腰にしがみつく可愛い女性。
見た目は幼いが、 サクリファイスをしてジーヴスを連れている、 成人しているようだ。
ジーヴスは主人である女性を引きずりながらジーヴスが集まる場所へと向かっている。
「ちょっと……離してよ、 ご主人をジーヴスの群れに連れて行きたくないんだから」
「嫌だね!!離したら行っちゃうじゃないか!!ぜぇーーったい離したりしない!別にサテラ1人居なくたって大丈夫だよ、 バレたりしないってぇ」
「こんだけ目立っておいて良くそんな事を言えるな、 ご主人!」
女性の顔を片手で押さえつけ、 離そうと押すが、女性は腕どころか足も絡みつかせる。
「うわっ!蛇かあんたは!」
「離してやるもんかぁぁぁ、 君は僕と一緒にいるんだよぉぉぉ……」
既にいるリアルドとジーヴスの視線を集める2人はまだもみ合っていた。
行かせたくないリアルドに、 行かないといけないジーヴス。
ジーヴスは主人であるリアルドに何度も待ってろと言ったが、 なかなか聞き入れない。
「サテラを連れていかせたりぃぃ………いったぁ!!」
「まったく、 何をしてるのさ」
「カーマイン!!ベルちゃんも!」
ジーヴスにしがみつくリアルドの頭をグーで軽く殴ったカーマイン。
女性は驚きジーヴスを離して振り向いた。
「カーマイン!これが黙っていられるかい!なんでうちのサテラが行かないといけないのさ、 あんなモンスターの群れに!」
「それは俺だって同感だけどさ。 好きでベルを戦いに出したくないよ」
「そうだろ?君ならわかってくれるだろ!?」
「わかるけど、 しなきゃ皆死ぬ」
「………それは」
「クーフェンだってわかってるだろ?」
「わかるけど、 だけど!サテラと離れたくないんだもん!……そうだ、 僕も行くよ!それなら……」
「ご主人!」
必死に話すクーフェンに、 クーフェンのジーヴスが声を荒らげた。
今までにない真剣な表情、 口調にクーフェンはビクリと口を閉ざす。
「いい子だから待っててくれよ…あんたがいる場所を守るために行くんだから、 あんたが来たら意味がないだろ」
「………君がいないじゃないか…」
「いるよ、 あんたの隣に。いつも居ただろ?」
「……………………」
「あんたがいる場所を守るんだ。……あんたを守りたいんだよ」
俯きスカートを握りしめるクーフェンに、 ジーヴスはやっと優しい顔つきに戻った。
「クーフェン様」
「なに?ベルちゃん」
「ベルも行きます。サテライトと一緒にです。お互い補い戦います、 そうしたらより安全になります」
「あん……ぜん」
顔を真っ赤にして泣くクーフェンはベルライナを見た。
任せてください、 2人で無事に帰りますから。
そう言うベルライナに、 クーフェンはサテライトを見てから頷いた。
「……………サテライト…僕は君を待ってる、 ずっとずっと。だから、 ベルちゃんと帰ってきて。絶対だからね!」
腕輪と首輪がひかる。
サテライトの服を掴みボタボタと涙を流すクーフェンにサテライトは、 はんっ!と鼻で笑った。
「ご主人に言われなくたって、 無事に帰ってくるよ。 」
「はっ鼻で笑ったな!!可愛くないぞサテラ!」
「大の男捕まえて可愛いはないでしょ」
「なにおーー!!」
キー!と怒りながらサテライトの胸をポカポカ殴るクーフェンに、 カーマインはベルライナと顔を合わせて笑った。
まったく、 素直じゃないね。
でも、 これでクーフェン様が落ち着かれました
そう目で会話をしながら。
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