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91話 大地を支配するディメンティールの継承者(挿絵あり)
しおりを挟むあれから、芽依の意識がある時間は削られあっという間にお披露目の日となった。
嬉しそうに笑う浅黒い男は何度も芽依に名前を言っていたのだが、全く覚えていない。
光の無い瞳は何も写していなく、意識が濁って今何をしているのかも曖昧だった。
ただ、なにか良くないことが起きているのは分かるのに頭が働かない。
連れられるままに、芽依は広い場所に連れてこられた。
そこにはアデラーシュがいて、優しく笑っている。
煌びやかな宝石が縫い付けられたドレスを着る芽依のベールを軽く上げて顔を見られた。
頷くアデラーシュは、安心させるように笑っている。
(挿絵はイメージです)
「今はまだ意識があまり無いでしょう、みんなそうなの。だけど心配しないでね。このお披露目が終わってサフラティの力を体に馴染ませたら祈り子に変わるわ。貴方の血肉を食べ続けたサフラティは貴方と繋がり1番良い状態を保っているの。これでサフラティが死ぬこともないし、体が伴侶を得た状態になって更に片翼の状態になるわ」
つまり、芽依の豊穣の力を浅黒い男サフラティに移し死なないように力を蓄え、サフラティの力を譲渡されて祈り子に作り替える。
このお披露目も、それに必要な魔術で祈り子としての意識を植え付ける役割がある。
それを知らない芽依は、混濁する意識の中で嫌だと抵抗する心がある事に気付いた。
このお披露目をして魔術を受けるともう戻れない。
本能がそう叫んでいる。
だが、それに抗える術は今の芽依には無くて、また静かに涙が流れた。
「あら、泣かなくてもいいのよ。今は怖いかもしれないけれど、このお披露目が終われば不安はすべて掻き消えるわ」
そう言われて手を引かれた。
片方にはアデラーシュ、もう片方にはサフラティがいる。
サフラティは、世間一般には伴侶ではなく傍付きとなる。
その称号を頂き、常に芽依と同じ時間を過ごすのだ。
ベールに隠れた顔は、とめどなく涙が流れている。
芽依の中にあるディメンティールの力が今すぐ解放しろと暴れだした。
それ程に、今の状態は良くないと芽依に訴えている。
強制的に祈り子となり、強制的に力を入れられサフラティの花嫁にされる。
それを強調するように、真っ白なドレスを着せられている芽依は花嫁のようだ。
「……………………ぃゃ」
小さく呟いた芽依の声は誰にも拾われなかった。
2人に連れられ芽依は建物から外に出された。
沢山の人がいる中、両手を取られて身動きが出来ない。
そんな芽依は、最前列にいるアリステアとセルジオ、シャルドネを見つけて心臓が強く鳴った。
たすけて……そう言いたいのに口が動かない。
3人は何か確信が欲しいのか芽依をじっと見ているが透け感の無いベールは芽依の顔を完全に隠していた。
「この度は新たな祈り子の誕生を皆さんと祝いたくお披露目の場を用意しました。新たにリードという名を与えて生まれ変わる祈り子の姿を皆さんでお祝い致しましょう」
手を広げて言ったアデラーシュの声は張り上げている訳ではないのに、外に響いた。
芽依は無意識にスカートを広げてみせると、ほぅ……と吐息が聞こえる。
(挿絵はイメージです。ベールが上がってしまいました)
すると、地面に巨大な魔術陣が浮かび上がり芽依に何かが集まるように作られていて中心に立たされる。
そして、後ろから抱きしめるようにサフラティが腕を回して腹部を撫でた。
「……祈り子様の意識を定着させながら、俺の力も流し込む。これで貴方の中の半分が作り替えられるよ。残りは2人きりで……ゆっくりと……ね」
ゾクゾクと嫌な気持ちが広がる。
そして魔術陣から這い上がってくる意識。
祈り子。それは移民の民の中でも特別な存在。
食い物にする人外者に貴方の人生を捧げる必要はありません。
むしろ、あなたは頭を下げられ敬われる立場にあります。
なんの憂いもありません。
あなたはあなたの為に、世界の為に日々祈り世界の平和を願う特別な神子。
幸せしかありません。長く続く生を豊かな気持ちで幸せに生き、尊い貴方様の幸せの一欠片を祈りによって捧げるのです。
全てあなたの為に。移民の民の為に。
頭に流れるのは移民の民至上主義の考え。
宗教が崇める神のように、全ては移民の民の為にと流れ続ける精神汚染。
芽依は顔を歪ませて逃げようとするが、それを押さえつけ力を植え付けるサフラティ。
「……な……して」
「ん? なんだい?……意識があるのかな?」
ゆっくりじんわり体に染み込んでくる他人の精神と力に芽依の震える体から力を無くす。
ペタリと座り込み、荒い息を吐き出す芽依は震える手をどうにか上げてベールを掴んで声を上げた。
(挿絵はイメージです)
「ち……がう……こんなの……こんなのは……私の、幸せじゃない!!」
ブチブチブチ……と音を鳴らしてベールを引きちぎり、宝石が飛び散る。
しゃがみこみ泣き叫ぶ芽依の姿を祈り子誕生の瞬間を見に来ていたドラムストの住民達は驚愕に目を見開いた。
叫ぶくらい、まだ力があったのかとサフラティは大きく口を開けて芽依の肩に噛み付こうとした瞬間、地面から沢山の草花が溢れて魔術陣を擦り消していく。
その草花は芽依を掴むサフラティを吹き飛ばして芽依から離した。
どさりと床に倒れる芽依に走りよるアデラーシュ。
だが、その前に芽依の体は持ち上げられてギュッ……と抱き締められた。
「…………め……でぃ……さ……」
「……………………」
「……ごめ……わた……し……すぐ……はなれ……」
顔を見せるなと言われたのに……と震える体に力を入れて離れようとメディトークの腕を力無く押す。
だが、まったく動かないで芽依の肩に頭を押し付けた。
すると、痛みにうめく。出血は止まったが毎日喰われ続けて痛みが止まらないのだ。
ふわりと香る血の匂いにメディトークが目を見開き芽依の服を引きちぎると首から肩にかけて肉がえぐれているのがわかる。
強い痛みに意識が遠のきそうになった時、別の誰かの腕が触れた。
「…………僕が」
いつも優しい声だったのに、冷たく研ぎ澄まされた声が手が芽依を抱き寄せる。
一言も声を発しないメディトークはそのままフェンネルに芽依を預けてから魔術陣を破壊してサフラティに視線を移す。
「…………よくもメイを喰いやがったな」
「っ……いくら幻獣の王とはいえ……俺の伴侶の……名を呼ばないで頂きたい!」
「何が伴侶だ! あいつは俺の……俺たちのだ! たとえ拒絶されようが、殺そうとしようが! これだけは変わらねぇ! アイツに手を出すんじゃねーよ!!」
「っ……それは……無理ですよ……もうあの方の体に……私を流し込んでいるんです……それはもう……止まらない……」
「…………あぁ?」
ピクッと眉をあげるメディトークが振り返り芽依を見る。
シュミットがドレスの袖を捲り腕に這うように伸びる魔術に気付いて舌打ちすると、沢山の人外者が集まりだした。
「…………まさか、祈り子様とは無理やり作られていたのか」
「メイ……苦しかったわね……」
「これは……酷い苦痛を与えられていただろうねぇ」
今も支配されつつある芽依の苦痛は酷く冷や汗を流し、その額をハストゥーレが苦しそうに拭った。
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