続・美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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92話 決別(挿絵あり)

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 辺りは騒然としていた。
 こんなお披露目は見た事ない。
 泣き叫び抵抗する祈り子様も、押さえつける教会関係者も。
 なにより芽依を知る人達が多い中、自ら祈り子様になる性格では無いとわかっているのでこれはおかしい、これは無理やりなのではないか? とざわつき出した。
 実際に、芽依の体から魔術を剥がす為に複数人の人外者が手を貸している。
 とにかく、祈り子にする為の魔術だけでも早く剥がさなくてはと動いているのだ。

 
 そうしている間に、アリステア達はアデラーシュと対面していた。

「……まさか、今いる祈り子は全て無理やり変えていたのか」

「まさか……違いますよ。メイさんも含めて全員、自ら祈り子になっています」

「それを強要していたんだな」

 チャキ……と音がなりアデラーシュの首元に剣を向けるオルフェーヴル。
 出会った頃から唯一の伴侶として選んだはずなのに、いつの間にか道が離れた大切な人。
 だが、完全に精神が支配されて彼女の意思は存在しない。

「………………オルフェーヴル。私を切るの?」

 記憶はしっかりとある。   
 かつて自分を守りそばに居た伴侶。
 だけど、その伴侶より幼い頃から植え付けられた宗教に傾倒してしまい、自ら祈り子アデラーシュと変わった。
 全てを捨てて、自分の為だけにオルフェーヴルを捨てたのだ。

「……それを君が言うのかい? 先に捨てたのは君じゃないか。伴侶に去られた俺の辛さなんて……考えもしなかったんだろうな」

「……私はね、祈り子として世界をよくして……ううん。移民の民のより良い生活を確保するために祈り子に変わったの。自分を大切にする気持ちを忘れないように……何が駄目だったの? 移民の民は崇高な立場でなくてはならないのに搾取されるばかり……」

「…………精神汚染されているアデラーシュがそう思っているとでも言うのか? 最初はそうかもしれないが今は違うだろう」

「…………うふふ、やっぱり騙されてはくれないのね。私は貴方の大切な伴侶なのに」

 首筋に突きつけられる剣先を指先で触れてからギュッと握った。
 手のひらが深く切れて血が滴るが、オルフェーヴルは眉ひとつ動かさなかった。

「……既に中を喰いつくされて別人になっているんだろ? もう……俺の伴侶はそこにはいないんだよな……あの時、カテリーデンで会った君はまだ……俺のヤヨイだった。やはり無理にでも連れ去るべきだった……」

「………………だからなにかしら。私は祈り子アデラーシュよ。私こそが至高なの。私に平伏して頭を下げなさい!!」

「…………さよなら、ヤヨイ」

 そう叫んだ瞬間、オルフェーヴルは剣を掴む手ごと斬り伏せアデラーシュの首を落とした。

 [まぁ、なんて素敵な羽なの。貴方は天使様なのね、オルフェーヴル]

 そう笑ってオルフェーヴルを見ていたかつての伴侶は消えて醜く歪む笑みを浮かべる器だけになったアデラーシュをオルフェーヴルは力無く見つめた。
    悲しみが強い。涙が溢れる。
    求め続けた最愛、既に器だけになってもその記憶は消える訳じゃなくて、ポッカリと穴が空いたような気持ちだった。
    もう、腕の中に戻ることはないとわかっていて、この日が訪れる事も覚悟してたのに、オルフェーヴルはやはりやりきれなかった。


(挿絵はイメージです)

「オルフェーヴル!」

「…………すみません。でも、これは俺たちの問題だ。もう俺の大切な伴侶は精神汚染と……新しい伴侶に食い破られて欠片さえ残っていなかった。そんな器だけのこの子を……そのまま残すことは俺には出来ない」

「…………オルフェーヴル」

「説得してこちらに連れ帰れるだけの主人格が残っていれば……良かったんだけどな。もう……祈り子になってから月日が流れすぎた」

 血塗れで力無く倒れるアデラーシュの首は体に付いていない。
 そんな姿を立ったまま見ていたオルフェーヴルは、アデラーシュに手を向けて炎が舞い上がり体を焼ききった。

「……教会と揉めるかなぁ」

「いや……これだけ目撃者がいて、しかもそのやり方が強制的だとバレてしまった今、教会は強く言う事は出来ないだろう。しかも祈り子を殺したのは呼び寄せた伴侶だからなおのこと」

「……そうか」

 はぁ……と息を吐き出し頭に片手を当てるオルフェーヴル。
 たとえ以前愛した人がとっくに居なくなっていたとしても、伴侶との決別はつらい。

「…………少し休め。もうここはいいから」

 既に騎士が集まり、領民の騒がしさは抑えられていた。 
 一体何が起きているのか、アデラーシュ様が死んでないか?! と騒がしいが、手際よく移動を支持され気にしながらも歩き出している。
 アリステアはそんなドラムスト領民を眺めてから息を吐き出した。

 まだ、終わりでは無いのだ。

 メディトークによって攻撃されたサフラティは、血を吐き出しながらも笑ってメディトークを見る。
 貴方のように、手を挙げるような伴侶に俺はならないと薄く笑う。
 芽依の様子をとこからか見ていたのだろう。

「……貴方達のように、全員であの方を共有なんかしない。俺ひとりで可愛がる、優しく包むように一生守りぬく。だから、拒絶されたあなた達は早くあの方の手を離してくださいよ」

 じわじわと体に侵食してるのがわかる。
 もう俺のだ。
  
 そう言うサフラティにカッ! と怒りで熱くなる。
 たしかにメディトークは芽依に手を上げた。
 怒りに任せて殴り飛ばし、人間と同じ脆い体に衝撃を与えた。
 それはわかってる。
 でも、あれだけ拒絶される魔術を使われても怒りや悲しみ、混乱で支配されても家族達は芽依を求め続けた。

 そしてそれは芽依もで、うっすらと目を開ける芽依は痛みや苦しさ、不快感を与え続けた相手に攻撃するメディトークに歪んだ笑みを浮かべた。

「………………メディ……さん」
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