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しおりを挟む「一体、どうなってるんだ」
座り込んだカナトを見た女性は、階段を見る。
そしてまた、カナトの手を握った。
「まずは上に行きましょ。座る場所くらいはあるでしょ」
「…………あぁ」
カツカツと音を鳴らしてビルの階段を上がる。大きな窓からは外の様子が見えて、必死に逃げる人や追いかける人がいるのだが、不思議な事に毛むくじゃらの手足で四足歩行をする人や、大きな黒い翼をはためかせて空を飛ぶ人もいる。
こんなの、仮装でできる代物じゃない。
足が止まって外を見るカナトに気付いた女性は、地獄のようよね。と話した。
「………………なんで、あんな」
「人間じゃないからよ」
「…………は?」
「吸血鬼と狼男かしらね」
まるで当然のように言った女性に目を向ける。
無表情で、嘘をついているようには見えなくて、言われた意味を噛み砕いて理解するには情報が少なすぎると、カナトはかえって混乱した。
「…………だから、説明するってば。ほら、行こう」
女性に促されて歩きだしたカナトは、チラリともう一度だけ外を見る。
同じ様に首の鈴を掴んで走る紫の服を着た男性が、必死の形相で走っていった。
階段を上がり、フロアに出ると電気が付いていて明るい雰囲気が包んでいる。
女性はぐるりと周りを見て、迷いなくある一室に向かう。
「見て、必ず紫の電球があるの。これがある部屋は休憩スペースとして作られているから入って構わないわ」
そう言って扉を押し開いた先には、3人のハロウィン参加者が座っていた。
「…………危なかったわ、もう3人いたのね」
ホッ……と息を吐き出した女性に、中にいる男性はヒラヒラと手を振った。
「マリカか」
「あら、タクロウじゃない」
ほら、入って。そう促されて入室したカナトは、優雅に足を組むタクロウと呼ばれた男性と、震える女性2人を見る。
手を引いて走ってくれた女性は、どうやらマリカと言うらしい。
「マリカ、向こうに茶があるぞ」
「あぁ、あなたも飲む?」
「……あ、あぁ」
「じゃあ、座ってて」
髪をふわりとなびかせて離れていったマリカは、冷蔵庫を開けて中を見ている。
そんな後ろ姿を見ていると、タクロウが椅子を叩いた。
「ほら、座れって」
「………………あ、はい」
戸惑いながら座ると、すぐにマリカが帰ってきてお茶を差し出してきた。
「緑茶でいい?」
「はい、ありがとうございます」
「いいえ」
隣に座ったマリカは、ペットボトルを開けて一気に半分飲み干した。
そして、はぁぁぁぁ……と息を吐き出す。
「イラつくわね、わかってても毎年毎年」
「まぁなぁ。お前何回目だよ」
「8回目よ!!」
「俺ぁ12回目」
「………………よく生きてるわよね、私たち」
「まったくだなぁ」
勝手知ったるといったふうの二人を見て、首を傾げたカナトは二人に聞いた。
「……あの、これなんなんですか?」
「……あぁ、追加者かぁ」
「そう。呆然としてたから引っ張った」
「優しいなぁ、お前」
「目の前で連れて行かれたら胸糞悪いじゃない」
「口悪ぃ」
嫌いじゃねぇけどなぁ、とカラカラ笑うタクロウに、フンと鼻を鳴らすマリカ。
そして、我に返ったようにカナトを見る。
「…………あぁ、ごめん。説明するわ。まず、私はマリカね。あなたは?」
「あぁ、俺はカナト……ん?」
「大丈夫よ、名前の違和感は仕方ないの。上手く言えないけど、漢字じゃなくてカタカナ表記されてる、みたいな。気にしなくていいわ」
「…………あ、あぁ」
よく分からない、と思いながらとりあえず頷いた。
「あなた達は?追加者?」
「…………私は、2回目」
「そっちの嬢ちゃんは追加者だ」
「なるほど」
2回目とか、絶望感凄いわよね……としみじみ言ってから、カナトを見た。
「じゃあ、説明するわ。これは現実で、嘘じゃない。信じられなくても飲み込むのよ」
「………………」
真剣な顔で話すマリカは、信じられない話を始めた。
「まず、ここは私たちの世界じゃないわ。ここは二つの世界の中間の広間。私達がいる世界と隣り合わせに、よく物語とかで聞く吸血鬼とか、グール、ゾンビ……そんなファンタジーな生き物が住む世界が横並びにあるのよ」
「………………え?」
なんて? と言い返したいが、この場にいる追加者と呼ばれるカナトともう一人の女性以外驚く人はいなかった。
「でね。その二つの世界が年に一回交じり合うの。ほんの少し、ちょっとだけ。そこは異空間となって、このハロウィン会場を作り出す。そう、それが、今日10月31日なの。0時が過ぎた時点で、世界は交わり私たちはこちらに引き込まれるのよ」
「…………は」
あまりにも突拍子のない話。
意味がわからないとゆっくり首を傾げたカナトを見てから、マリカは外にある巨大な時計を見た。18時25分を示していて、小さく息を吐いた。
「時間がないから、しっかり聞いて。ここはね、彼らの狩場なの。餌は私たち、呼び出されるのはランダムではあるんだけど、1度呼ばれた人は次回呼び出される頻度が高いわ。あなた、朝から変な感じしなかった?」
「……見られてる、感じはした、かな」
「! そう、もう目を付けている怪異がいるのね」
「え?」
「怪異は参加者、私たちは食彩と呼ばれるわ。食彩である私たちは、ある共通点がある。それは参加者が用意しているこの紫の配色がある衣服を身につけ、首に鈴を付けること。この衣装、違和感なかった? なのに疑問もなく着たでしょ? すでに0時がすぎて世界は交わり、私たちに違和感を気付かせないように意識を溶かしてるの。18時から始まるパーティまで、穏やかに過ごさせるために。だって、気付いて自殺なんかしたら食彩が減るでしょ? それを防ぐために」
「……意味が、よく……」
「わかるわ。はぁ? ってなるわよね。でも聞いて。ちゃんと11月1日に帰れるように」
その言葉が、なによりも不穏だった。
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