The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第一章:ローズ街工場地区の事件録

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 渡された書類は2種類。
 いつから始まったのか、場所や悪魔出現時に起きる異常現象、どんな事が起きているのか。
 
 それにより導き出せる悪魔の種類予測等々──

 セラフィエルは紙を持ったまま、依頼人のジェシカへ視線を向けた。
 目には映らないその姿をまるで観察するように。
 
 それを見たジェイクはそっとセラフィエルの手を握り、手のひらに当てながら指を動かす。
 それは簡単なハンドサインで、目が見えないセラフィエルとジェイクだけの密やかな会話。
 人が居ても出来るため重宝するが、周りから見たら随分と危うい関係にも見える距離感。


 (なにかあるか?)

 (まだ確定ではありませんが、たぶん、悪魔付きです)

 (気配があるか?)

 (祈りがまだですから。でも、たぶん……)


 セラフィエルが思うに、薄くだがジェシカの周りに悪魔の気配を感じるらしい。
 祓い師は、生まれ持った様々な特技があるのだが、セラフィエルは色弱で視力が著しく悪かった幼少期を経て五感や悪魔の気配を知ることに長けている。

 

 (彼女は、悪魔に憑かれている)



 悪魔が憑くというのは、体を乗っ取る事は勿論、意識下に潜り込み支配下にする場合もある。
 悪魔の手足となり、無意識に協力させるのだ。
 セラフィエルは、気配の薄さから支配しているのではないかと目を伏せた。

  

 悪魔は簡単に境界を超えてやってくる。
 その目的は様々だが、今回のケースに当てはまるのは2つ。

 
 人間社会を混乱・破壊する
 特定の場所を汚染・侵食する


 範囲の広い場所を狙う目的は、この2つが当てはまる可能性が高い。
 必ずではない為、頭から決めてかからず調査が必要であるが。 

 セラフィエルは椅子の背もたれに寄りかかり、足を組む。
 サラリと落ちてきた髪を耳にかけて、また紙の上に指を滑らせた。


 (…………失踪者、25人)



 25。
 数字に眉を寄せた。
 25は祓い師たちにとって気を付けなくてはいけない数字だし、悪魔にしたら力をつける前段階だったり様々な症例が現れる数字でもある。

 悩みながらも紙をめくると、肩に体重が乗った。

「…………ん?」

 寄りかかったのはジェイクだ。
 首を傾げて見上げるが、身動きをした様子もないし、話してもいない。
 無意識の行動なのか、ジェイクは書類を眺めているばかり。
 ふむ……と、小さく頷いてから、また紙を指で撫でた。


「この工場はえーっと、例えば、壊れたりとかしたらマズいっすよね?」

 ニールが顔を上げてジェシカに聞くと、頷き返される。

「はい、今は不具合の為に使用不可になっていますけど、問題なく動くようになったら稼働しますから」

「………………そうっすよねー」

 頭をガリガリとかくニールに、ヴィクターは小さくため息を吐き出した。

 悪魔祓いの時、確実に戦闘になる。
 その場合、周りへの被害が少なからず出るため、悪魔を安全な場所に呼び込み、囲いこんで結界を張る必要がある。
 ニールは、それがとても苦手なのだ。
  
 仕事場の何処かを必ず壊している。
 今回、ニールにとっては特に大事な悪魔祓いの現場な為、「嫌だなぁ……」と心の声が口からもれた。

 それを聞いたセラフィエルは、すぐ近くにあるジェイクの手を探して、指先を動かした。


 (結界の手伝いをします?)

 (しない……とは言っても、指示次第だな……)


 逆に結界を得意とするジェイクの答えに小さく頷いた。
 今回はニール主導で動くから、ジェイクが手を貸すのは最低限。
 それは、依頼人にはわからない記号化された情報によって示されていた。


 ふぅ……と息を吐き出した時だった。
 体に訪れる異変にセラフィエルは強く反応を示す。


 
 ──────────っ!



 流れてくる体が焼けるような熱風に、鼻につく焦げた肉の臭い。
 皮膚の下を切り裂くような鋭い痛みが腕に走り、セラフィエルは小さく声をこぼした。
 
 ビクッ! と体をふるわせて、腕を抑えながら顔を上げるが依頼について話をしているだけで、室内に変わった雰囲気は無い。
 だが、なんとも言い難い不快感に体が小さく震えると、肩に乗っていた腕が抱きしめるように伸ばされた。

 セラフィエルの肩を優しく抱き、体が近付くのを感覚で理解する。
 体を斜めに動かしたジェイクは上手に依頼人達の視界からセラフィエルを隠した。

「…………どうした」

「ジェイク……熱風を感じます」

「熱風?」

 ここは室内。  窓は閉まっている為風は入ってこないし、熱風などが吹き込むナニカがある訳でもない。

 なのに、明白に感じた肌を焼く感覚。
 そっと袖を上にあげると、左腕が火傷で腫れ上がり熱を持っていた。

「セラ!」

「…………ジェイク、大丈夫です」
 
 そういう割に、セラフィエルの顔は痛みで歪んでいる。
 ズクズクと内側から感じる痛みに心臓が激しく鼓動を叩き、セラフィエルは下唇を噛むと、ジェイクの指が優しく口を開けさせた。
 唇に触れるジェイクの指にカシっと歯を軽く立てて痛みに耐えているセラフィエルをジェイクは殺人鬼みたいな凶悪な顔をして見ていた。

 急に大声を出したジェイクに全員の視線が集まった。
 どうした? と首を傾げる同僚と、不安に瞳を揺らす依頼人。
 その空気感は分かりやすくセラフィエルはジェイクの指を離すと、ジェイクの手のひらで口を塞がれた。
 上目遣いで見ると、小さく首を横に振るのが腕から伝わる振動で分かった。

 セラフィエルの姿はジェイクによって隠されている。
 だから、余計に緊張感が余計に高まったのだろう、ジェシカの喉を鳴らす音が静かに響いた。
 
 ジェイクのつり上がった目は、セラフィエルの腕を睨むように見ている。
 ジェイクが何かを言おうと唇が開いた時、腕にあった火傷ゆっくり消えていき、痛みが緩和されていく、
 セラフィエルの体に入った緊張が溶けていくのに比例して、皮膚はいつもと変わらない滑らかさがそこにあった。

「……何でもありません、お話を中断させてしまい申し訳ありません」

 ジェイクの影に隠れているセラフィエルが、ジェイクの距離を確認する様に腕などに軽く触れてから顔を出して謝った。
 ビックリした……と呟く依頼人二人の声を聞きながらにこやかに笑う。
 その影では、皮膚の状態が正常である事を確認したジェイクが、分かりやすく苛立ちのままに舌打ちをする。
 そんなジェイクの腕を、困ったように笑いながらセラは優しく撫でた。
 セラフィエルの腕を掴むジェイクの指先が少しだけ緩むが、彼の不機嫌が治ることはない。

 
 

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