The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第一章:ローズ街工場地区の事件録

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 依頼人と現場に行く前に、祓い師は悪魔祓いに必要な道具等を前準備として荷物にまとめるのだけど、それに必要なものは貸し出しもされている。
 長時間、いや、長期間に渡り悪魔祓いを行う事も多々あるのだ。
 それに丸腰で向かう人はいない。
 この職業は、いつ命を喪ってもおかしくないので、新人ほど十分すぎるくらいに準備を整えている。

 この祓霊庁第七支部の地下の一室には、悪魔祓いに必要な道具を選別して販売、貸出場所がある。
 広々とした打ちっぱなしの壁にも、机にも、ずらりと沢山の備品が並んでいた。

 その場所に行くために、薄暗い階段を降りるのだが、ニールが興奮気味に先頭を行くので、またヴィクターが腹部を抑えていた。 
 数歩分後ろから、セラフィエルはジェイクに捕まり、ゆっくりと歩いて降りる。
 そんなセラフィエルは随分と不機嫌な顔をして鼻先を撫でていた。 先程の突如として襲いかかった焼ける肉の臭いがこびり付いているのだ。
 不快そうに鼻を触っても臭いが取れることなく、諦めたように小さく祈りを紡いだ。それによって、不快な臭いが消える。

 ふぅ……と息を吐き出し落ち着きました……と微笑むセラフィエルを、まだ機嫌が悪そうなジェイクがチラッと見ていた。


─────

 
 
「セラ、聖水は必要か?」

 ジェイクが隣で軽く腰を折りながら、並んでいる聖水を手に取る。
 机には大きさや形が違う聖水が机に並んでいて、その半数以上はよく知るものだった。 指先で瓶を触って確認する。
  
  低価格で様々な貸し出しをするこの場所は、とても重要視される。
 イニシエイトであるセラフィエルはある程度自分で準備しているが、聖水などの消耗品はこちらで受け取っていた。

 悪魔も力で種類分けされているのと同様に、祓い師も階級分けをされている。
 それによって発生する給料はやはり違う為、等級が低ければ低いほど、この場での道具使用率は高い。

 祓い師の等級は、細かく別れている。
 
レギオン級 (Legion) Archon(アーコン)<br>Overseer(オーバーシア)<br>Commander(コマンダー) 組織の最高層。最高指揮官や統率者。

 センチネル級 (Sentinel) Vanguard(ヴァンガード)<br>Sentinel(センチネル)<br>Elite(エリート) 精鋭部隊。特殊任務や強敵対応担当。

 ヴァンガード級 (Vanguard) Lieutenant(ルーテナント)<br>Senior(シニア)<br>Veteran(ベテラン) 中間指揮官。小隊長や副隊長レベル。

 イニシエイト級 (Initiate) Operative(オペラティブ)<br>Exorcist(エクソシスト)<br>Initiate(イニシエイト) 一般隊員。通常の祓い任務担当。

 アプレンティス級 (Apprentice) Novice(ノービス)<br>Trainee(トレイニー)<br>Apprentice(アプレンティス) 見習い、訓練中。

 セラフィエルは、このイニシエイト級 (Initiate) Operative(オペラティブ)に分類される。 所謂、1番多い一般祓い師。そのカテゴリーで強い分類。
 そしてジェイクは、センチネル級 (Sentinel) Vanguard(ヴァンガード)。
 現場に出る祓い師の中で、最高峰の等級を受ける祓い師だった。

 能力や等級を鑑みて、上司によりバディをくまされるのだが、これを破ると悪魔祓いをする上で、かなり不利になる。 危険な場面も多く、命すら落とす現場もある。
 二人で一つとして見なされ、危機を乗り越えるのだ。

 そして今回の仕事は、アプレンティス級 (Apprentice) Novice(ノービス)であるニールの昇進試験でもある。
 彼が全面的に関わり、指示決定をする。それにより安全に悪魔祓いが出来るかどうかの試験なのだ。
 だから、ニールはいつも以上に鼻息荒く燃え上がっている。

「すまんなジェイク、セラ。迷惑をかける……」

「いや……いつも大変だなヴィクター」

「……あぁ」

 はぁ……と疲れたようにため息を吐くヴィクターは、いつも振り回されているのかもしれない。
 苦労が滲んでいて、ジェイクが思わず苦笑すると、ヴィクターがチラリとセラフィエルを見る。

 別の意味で大変なセラフィエルのバディも苦労するだろうな……と視線が物語っているが、ジェイクはそれに目を細めるだけ。
 セラフィエルは迷いなく手を伸ばして、3つの聖水を掴んだ。

「それだけでいいのか?」

「あとみっつ、ジェイク持ってくれますか?」

「分かった」

 顔を上げてジェイクを見る。 
 その少し濁った琥珀色の瞳にジェイクは映らないが、それでも。 会話をする時はなるべく顔を向けるようにしているセラフィエルの腕を優しくジェイクが掴んだ。
 腕に手を絡めて、白杖がないセラフィエルは半歩後ろを歩く。
 その姿をヴィクターが見ていると、ニールがヴィクター先輩っ!! と騒がしく走りよって来ていた。

 
「…………ジェイク」

「なんだ」

「僕は……貴方に大変な思いをさせていますか?」

 あのヴィクターの一瞬の視線を、空気で、雰囲気で感じ取ったセラフィエルにジェイクは小さく舌打ちした。

「してない。そんな心配はするな」

「…………そう、ですか? 僕が出社するようになって大変な事も多いでしょう?」

「俺以外にお前を完全にサポート出来るやつがいるとは思えないが?」

「それは……そう、ですが」

 ピタリとジェイクの足が止まり、セラフィエルも止まる。
 カウンターにジェイクが聖水を置く音を聞いて、セラフィエルも手で場所を確認しながら置いた。
 貸出台帳にはジェイクがサラサラと書いていく。
 セラフィエルの名前に、聖水6つ。
 消耗品の為、返却不可。

「…………いいぞ」

「ありがとうございます」

 ふわりと笑ってジェイクを見るセラフィエルを引っ張り、壁側による。
 貸出や購入にかかる金額は引き落としされる為、この場での現金支払いはない。
 ジェイクも、今回は購入するものは無いらしく、壁際にセラフィエルを誘導して寄りかかった。

 少し離れた場所では、本当に全部使うのか? と不思議に思うほどのアイテムを抱えるニールはカウンターで手続きをしている様子があって、それをジェイクはなんの気なしに見ていた。
 先程の雰囲気で会話の内容を理解していたセラフィエルは、少し落ち込む。
 好きでジェイクに迷惑を掛けているのでは無いのだ。
 そんなことを考えていたセラフィエルの目の前に人が居る気配を遅ればせながら気付いた。

「何を考えてる?」

 手を上げるとすぐにジェイクの胸元に触れて、至近距離にいるを確認したセラフィエル。
 壁とジェイクに挟まれた状態で首を傾げた。

「…………ジェイク? 何も……」

「いや、さっきのヴィクターと話してから落ち込んでるだろう」

 ピク……と反応してから、顔を背ける。

「そんな事ありません」
 
「あるわ、わかりやすい。お前は少し卑屈すぎやしないか。確かに目は見えないが、その鋭すぎる感覚はその欠点すら凌駕すると思うが?」

 大きなジェイクの手がセラフィエルの柔らかな頬を撫る。
 そのまま髪をかきあげ、セラフィエルの髪をサラサラと遊ぶジェイクの手を握った。
 
「…………でも、ジェイクに迷惑がかかるのは事実ではないですか」

「それがどうした。お前の迷惑なんて、俺にとっては片手間みたいなものだ」

「…………相変わらず、優しいですね。ジェイクは」

「お前が考えすぎなだけだろう」

 離れた気配。 だが、頭に乗る腕の感触がすぐに来て体重が乗った。

「……重いですよ」

「良い肘置きだな。高さが丁度いい」

「小さいとでも?」

「言ってないだろう」

 ニヤリと笑っているのは、見えないセラフィエルにも分かって、弱々しい一撃をジェイクの脇腹に叩き込んだ。
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