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第一章:ローズ街工場地区の事件録
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しおりを挟む4人は、翌日の夕方に工場地帯へと向かった。
寄り合いの辻馬車に乗り、ガタガタと揺れるそれに身体を預けると、ジェイクがセラフィエルの肩に腕を回す。
壁によりかかっていたセラフィエルはジェイクに寄りかかり、体の負担が軽減された。
「ありがとうございます」
「ああ」
それは自然で、そのまま寄りかかって点字の書類を読むセラフィエルをニールは見ていた。
「セラさんってなんか不思議っすよね。守ってあげたくなる優しい気配というか」
「そうですか?」
「はいっす。今回の現場初めて一緒だからちょっと楽しみだったんすよ!」
ハツラツと笑いながら言うニールに、穏やかな笑い返すセラフィエルを、辻馬車の窓枠に腕を乗せて外を見ているジェイクがポツリとこぼす。
「…………守ってあげたくなる……ね」
「何か言いました? ジェイク」
「いいや、別に」
確実に聞こえているだろうセラフィエルは、わざと聞き返した。
それに軽く手を振って答えたジェイクに、意外と攻撃的なセラフィエルは頭をゴンと押し当てる。
だが、そんな攻撃など微塵もダメージがないジェイクは、鼻で笑ってセラフィエルの頭に手を置いた。
「……仲良いっすよね」
「こらニール」
ふたりの距離感が近い。 バディと言っても近すぎる。
目が見えていないセラフィエルのサポートの為に常に側にいるから余計だが、ふたりの掛け合いは周りから見たらイチャイチャしているようにも見える。
思わずというように言ったニールにセラフィエルは首を傾げた。
「そう……ですか?」
「はい!」
男相手に体を気遣い自分に寄りかからせるジェイクだが、確かにセラフィエル意外にはしないな。と隣にある深い青髪を見た。
「……こいつ、ほっといたら行き倒れそうだしな」
「失礼な! そんな事にはなりません!」
「どうだか」
「ちょっ……やめなさい! まったく!」
頭をぐしゃぐしゃにされて抗議するセラフィエルに、ジェイクは楽しそうに口の端を上げた。
──────
ガタン! と辻馬車が揺れて止まる。
目的地についたようで、ジェイクはセラフィエルの手を掴んで立ち上がった。
白杖を持って、カツカツと床を鳴らしながら辻馬車の中を歩くセラフィエルを一般客が物珍しそうに見送った。
辻馬車を先に降りるジェイクが振り返り、セラフィエルの手を掴む。
「3段だ」
「はい、ありがとうございます」
白杖で場所と高さを確認しながら、ゆっくりと足を出す。
それをニールも物珍しそうに見ていて、「俺もやってみたい!」と手を上げた。
「は?」
ジェイクの声がワントーン下がる。
ヴィクターが、すぐに「おい!」と止めに入るが、ジェイクの不機嫌は解消されないようだ。
怒りのオーラが立ち上がっているのにセラフィエルは、おや? と首を傾げる。
「すいません。僕は行き着くだけでも時間が掛かりますので、慣れない方だと周りがわずらわしくなってしまうのですよ」
そんな事ないです! と言おうとしたニールだったが、ヴィクターに止められた。
謝るヴィクターを見て、何か気に障ることを言ったのか……としょぼんとしたニールも謝る。
「いえ、いいのですよ。僕を思って言ってくれたのでしょう?」
それにハッとして目を見開いたニールは俯き失敗したっ!! と顔を歪めていた。
セラフィエルの為じゃない。 完全に好奇心だったからだ。
セラフィエルはジェイクの腕を数回、軽く叩いた。
「行きましょうか」
「……そうだな」
チラッとニールを見てから歩き出すジェイクの半歩後ろを、今日も笑いながらセラフィエルは歩き出した。
まだ不機嫌なのだろう。 パンツから取りだした煙草を唇にはさみ、リボルバーの形の変わったライターで火をつける。
ふぅー……と息を吐き出すジェイクを見上げて、セラフィエルは眉を寄せた。
「………………ジェイク、歩き煙草はやめてください」
「灰皿持ってるぞ」
「そういう事ではありません! 公道ですよ!」
「みんな吸ってるだろ」
「ジェイクはいけません」
「なんでだよ」
そう言うが、すぐに携帯灰皿で火を消したジェイクは片付けてセラフィエルの頭を優しく叩く。
「いいか?」
「……………………煙草臭いです」
「それくらいは許せよ」
穏やかな会話はいつもと同じで、ジェイクを杖代わりに捕まり歩く。 そこに心配や不安は欠片もなかった。
─────
広い工場地帯は、入口が厳重に閉ざされていた。
危険物も扱うため、関係者以外立ち入り禁止となっていて、そこに部外者が入るには簡易身分証が必要になる。
その簡易身分証を準備して貰うため、夕方からの仕事開始なのだ。
入り口につき、警備員に4人分の簡易身分証をニールが渡す。
「 祓霊庁から来ました、祓い師っす!」
確認して、4人の顔を見る警備員はセラフィエルで止まる。
ジェイクに掴まり、白杖を持つ姿は視覚障害者であると分かりやすい。
大丈夫か……と眉を顰める様子にセラフィエルは笑った。
「入っても?」
「あ……あぁ」
身分証を返され、門が開くとジェイクはすぐに声を発する。
「……小さな段差」
「はい」
いつもよりも少しだけ高く足を上げて入る姿はなんの不安も無い。
そんなふたりの後ろを着いて歩くニールは門番を見た。
「大丈夫っす! すぐにでも悪魔ぶっ飛ばしますからね!」
工場地帯は、沢山の建物を抱き抱える巨大な敷地となっている。
様々な工場が立ち並び、煙を吐き出し、夜にはまるでテーマパークのように色鮮やかな光を放つ。
煙が光に縁取られ、靄がかった色合いが闇夜に浮かぶ。
下から放たれる様々な光が空へと伸びて、街中にあるその場所は昼より夜の方が賑やかだ。
そんな日が落ちてきた場所に、セラフィエルはジェイクに導かれるまま歩き続けた。
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